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Drug Atlas · B19 Antidiabetics / 糖尿病薬

リナグリプチン

linagliptin

分類
Antidiabetics / 糖尿病薬
商品名(日本)
トラゼンタ
商品名(EU)
Trajenta
科目
Pharmacology
トピック
B19: Oral antidiabetics
承認適応
2型糖尿病
副作用
関節痛血管性浮腫
影響検査値
リパーゼアミラーゼ
相互作用
リファンピシン
原因となる疾患
急性膵炎自己免疫性水疱症(天疱瘡・水疱性類天疱瘡)

🧠 全体像:はと同じ阻害薬で、にを後押しし低血糖を起こしにくいというクラス共通の性質を持つ。この薬を分ける一点は排泄経路——主にされる他の阻害薬と違い、は大部分が未変化体のまま胆汁・糞便中へ排泄される。この一点が「腎機能を問わず同一用量で使える」という立ち位置を決める。

機序

flowchart TD
    A["食事摂取"] --> B["小腸の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='L cell'>L細胞</span>・K細胞から<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucagon-like peptide-1'>GLP-1</span>・GIP(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='incretin'>インクレチン</span>)分泌"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dipeptidyl peptidase-4'>DPP-4</span>酵素が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucagon-like peptide-1'>GLP-1</span>・GIPを<br>数分で急速に分解"]
    D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='linagliptin'>リナグリプチン</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dipeptidyl peptidase-4'>DPP-4</span>に<br>可逆的に結合し阻害"] -.-> C
    C -.->|"分解が抑えられると"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucagon-like peptide-1'>GLP-1</span>・GIP濃度が持続的に上昇"]
    E --> F["血糖依存性にβ細胞からの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insulin secretion'>インスリン分泌</span>↑"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha cell'>α細胞</span>からのグルカゴン分泌↓"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postprandial blood glucose'>食後血糖</span>の上昇を抑える"]
    G --> H

💡 への結合が強く飽和的なので、の長さ(米国の添付文書は約200時間、のSmPCは100時間超)は「作用が続く長さ」ではなく結合様式を映しているにすぎない。 蓄積に関わる実効半減期は約11〜12時間で、1日1回投与なら3回目の投与までに定常状態に達する1。標的への結合様式がの見かけを決めている典型例である。

シタグリプチンとの違い

項目
主な排泄経路 (未変化体) 胆汁・糞便排泄(未変化体)
腎機能低下時 (減量)が必要 程度を問わず調整不要。透析でも治療上意味のある量は除去されない2
肝機能低下時 特段の禁忌なし 重度(分類C)でも不要。ただしのSmPCは臨床経験が乏しいと付記する2
投与回数 1日1回 1日1回

⚠️ 「腎機能を問わず使える唯一の阻害薬」とは書けない。 日本で使えるテネリグリプチンも、電子添文に患者の項を置かず腎機能別のを課していない3。の中身が剤ごとに違うのが要点で、は日本の電子添文が重度のを禁忌に置く4。

適応

2型糖尿病の(食事・運動療法の補助)。のSmPCはをが不耐、またはのため禁忌の場合に限り、それ以外はインスリンを含む他剤との併用とする。10〜17歳の試験ではの有意な改善を示せず、小児への使用は推奨されない2。実務では腎機能低下例・で選ばれやすい。

用法・用量

成人では通常5 mgを1日1回、食事に関係なくする。腎機能・肝機能のいずれについてもは不要(で透析中の患者、重度でも同一用量)1。

薬物動態

項目 値・特徴
約30%
代謝 消失の主経路ではない。一部がで薬理学的に不活性な代謝物になるにとどまる
排泄 投与の約85%が4日以内に回収され、内訳は腸肝系(糞便)約80%・尿中約5%。吸収された薬物の大部分(約90%)は未変化体のまま排泄される12
半減期 は長いが蓄積には寄与せず、実効半減期は約11〜12時間(上の💡)

禁忌・注意

  • 禁忌:本剤の成分への過敏症(アナフィラキシー、、、じん麻疹、気管支過敏など)。米国の添付文書で禁忌に区分されるのはこの過敏症のみ1で、のSmPC 4.3も同じである2
  • ⚠️ 「禁忌は過敏症だけ」は米国・の文書についての事実であって、この薬についての事実ではない。 日本の電子添文の禁忌は3項目で、①本剤成分への過敏症の既往、②・糖尿病性昏睡又は前昏睡・1型糖尿病、③・手術前後・重篤な外傷5。②を避ける理由自体はどの国でも同じで、を介する機序のため、能が失われた病態には無効だからである(は禁忌ではなく4.4の注意として同じ内容を置く2)
  • ⚠️ は・日本・米国のいずれの文書にも載る。 EUのSmPC 4.8では rare(まれ) でじん麻疹と同じ区分(ともに市販後の経験に基づく)2、日本では11.2のその他の副作用(過敏症、頻度不明)に挙がり重大な副作用の側には入らない5。米国5.3は、他の阻害薬でを起こした既往のある患者で本剤も同じ反応を起こしやすいかは不明なので慎重に、とする1(剤ごとの比較は→)
  • ⚠️ では避ける。 国際/カナダ版HAEガイドラインは阻害薬・エストロゲン含有製剤・とともに阻害薬を「既知の薬剤誘因」に挙げ、中止・回避を求める6。上の過敏症としてのとは別で、こちらはの発作の誘発である
  • ⚠️ とはクラス共通の。 CARMELINA試験では群0.3%・プラセボ群0.1%(2例が致死的)1、は0.2%・0%2。原因不明の持続する腹痛では中止して評価し、膵炎が確認されたら再開しない2。水疱・びらんが出たら中止し紹介を検討する(→)
  • ⚠️ のSmPCと米国の添付文書にはイレウス・の記載が無く、日本の電子添文だけが重大な副作用にイレウスと(→)を独立して挙げる(ともに頻度不明)5。高度の便秘・腹部膨満・持続する腹痛・嘔吐、あるいは咳嗽・呼吸困難・発熱で中止して評価する
  • ⚠️ 心不全の注意を置いているのは米国の添付文書(5.6)だけで、根拠もクラスの他の2剤(・)の試験で心不全入院が増えた観察である1。のSmPCと日本の電子添文に対応する項は無い。自身は心不全入院のがCARMELINAで0.90(95%信頼区間 0.74〜1.08)、CAROLINAでに対し1.21(0.92〜1.59)で、いずれも有意差はない2
  • SU薬・インスリンとの併用では低血糖リスクが上がる(クラス共通)。CAROLINA試験(対、投与5.9年)の重症低血糖は群0.3%・群2.2%1
  • 💡 受容体作動薬(など)との併用は推奨されない。 どちらも系を介するため効果が期待できず7、日本の電子添文も「併用した際の成績はなく、有効性及び安全性は確認されていない」とする5
  • ⭐ ADA診療ガイドラインでの位置づけ: 低血糖・体重増加が中立で扱いやすい一方、心血管疾患・の合併例では心腎保護作用を持つ受容体作動薬・阻害薬が優先される7。本剤は心血管の安全性()が確認されているだけでは示されていない
  • 強い・P糖蛋白(リファンピシンなど)との併用で血中濃度が大きく低下し効果不十分になりうる。代替治療が強く推奨される。重度で機能を損なう関節痛のもあり、強い関節痛の原因として本剤をする1

副作用

頻度の書き方は文書ごとに違う。 数字は「どの文書のものか」とセットで持つ。

文書 主な記載
米国(プラセボ対照試験、本剤5 mg 3,625例/2,176例) 7.0%(6.1%)、下痢3.3%(3.0%)、咳2.1%(1.4%)。3×基準値上限を超えるリパーゼ上昇は別のプラセボ対照試験で8.2%(1.7%)、同じ上限を超える上昇は対試験で1.0%(0.5%)——膵炎の徴候を伴わない上昇の臨床的意義は不明1
のSmPC 4.8 +SU併用下の低血糖が very common、リパーゼ上昇が common、・咳・過敏症・発疹・上昇・便秘が uncommon、・じん麻疹・膵炎・が rare2
日本の電子添文 11.2で0.3%以上が・腹部膨満・便秘・・胃腸炎、頻度不明が咳嗽・じん麻疹・・。11.1の重大な副作用は低血糖(2.1%)・イレウス・・類天疱瘡・・5

まとめ

  • 阻害薬。の機序・低血糖を起こしにくい性質はと共通で、分ける一点は排泄経路。胆汁・糞便排泄が主体なので腎機能・肝機能のいずれでもが要らない(ただし「腎機能を問わない唯一の薬」ではない)。
  • 禁忌は国で書き方が違う。米国・は本剤への過敏症のみだが、日本の電子添文は1型糖尿病・と、・手術前後・重篤な外傷も禁忌に置いて3項目。
  • ・はクラス共通の。イレウスとを重大な副作用に挙げるのは日本の電子添文だけである。
  • 心不全の注意は米国の添付文書にだけあり、根拠は他の2剤(・)の試験。自身のCARMELINA/CAROLINAでは心不全入院に有意差がない。
  • 受容体作動薬との併用は効果に乏しく推奨されない。

出典

  1. 1.TRADJENTA (linagliptin) tablets — Highlights of Prescribing Information(Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals(米国添付文書、DailyMed収載。本文の改訂表示は Revised June 2023)・2023)2026-09-17に引き直した。4 CONTRAINDICATIONS がリナグリプチンまたは添加剤への過敏症で、アナフィラキシー・血管性浮腫・剥脱性皮膚症状・じん麻疹・気管支過敏が起きていると述べること、5.3が他のDPP-4阻害薬で血管性浮腫を起こした既往のある患者で本剤でも起きやすいかは不明なので慎重に投与するとしていること、5.4が重度で機能を損なう関節痛の市販後報告であること、5.6の心不全がDPP-4阻害薬クラスの他の2剤の心血管アウトカム試験の観察に基づく注意であること、6.1の表がプラセボ対照試験(本剤5mg 3,625例・プラセボ2,176例)で鼻咽頭炎7.0%対6.1%・下痢3.3%対3.0%・咳2.1%対1.4%を挙げること、基準値上限の3倍を超えるリパーゼ上昇が8.2%対1.7%・アミラーゼ上昇が1.0%対0.5%であること、8.6と8.7が腎機能障害・肝機能障害のいずれでも用量調整不要とすること、12.3が終末半減期を約200時間・蓄積の半減期を約11時間とし、投与放射能の約85%が4日以内に腸肝系(80%)と尿(5%)へ回収され、吸収された薬物の大部分(約90%)は未変化体のまま排泄されると述べること、CARMELINA試験の急性膵炎が本剤群0.3%・プラセボ群0.1%で2例が致死的であったこと、CAROLINA試験の重症低血糖が本剤群0.3%・グリメピリド群2.2%であり、その記述が「median time on treatment of 5.9 years」=投与期間の中央値であって追跡期間の中央値は6.23年であることを逐語で確認した。閲覧 2026-09-17
  2. 2.Trajenta 5 mg film-coated tablets — Summary of Product Characteristics(Boehringer Ingelheim(EU SmPC、EMA承認)・2026)2026-09-17にEPARの製品情報PDF(英語版、277 KB、EMAの製品ページの表示は Revision 24・Last updated 25/06/2026・Authorised)を取得して確認した。4.1の適応が成人の2型糖尿病で、単剤療法はメトホルミンが不耐または腎機能障害のため禁忌の場合に限られ、それ以外はインスリンを含む他の糖尿病治療薬との併用であること、4.2が腎機能障害では程度を問わず用量調整不要とし、肝機能障害でも調整不要だが臨床経験が乏しいと付記すること、10〜17歳では有効性が確認できず小児への使用は推奨されないこと、4.3の禁忌が有効成分または添加剤への過敏症のみであること、4.4が1型糖尿病と糖尿病性ケトアシドーシスには使用すべきでないとし、急性膵炎が確認されたら再開しないと述べること、CARMELINA試験の水疱性類天疱瘡が0.2%対0%であること、4.8の一覧で低血糖が very common(メトホルミン+スルホニルウレア併用下)、リパーゼ上昇が common、鼻咽頭炎・咳・過敏症・発疹・アミラーゼ上昇・便秘が uncommon、血管性浮腫・じん麻疹・膵炎・水疱性類天疱瘡が rare であること、表2でCARMELINAの心不全入院のハザード比が0.90(95%信頼区間 0.74〜1.08)、表3でCAROLINAの心不全入院が1.21(0.92〜1.59)であること、5.2の消失が糞便80%・尿5%であることを確認した。このSmPCには心不全に関する警告が無い。10項の改訂年月欄は空欄のため、年はEPARの製品情報(英語版)のLast updated(2026-06-25)で判定した。閲覧 2026-09-17
  3. 3.テネリアOD錠20mg/テネリアOD錠40mg 電子添文(田辺ファーマ(日本の電子添文、2025年12月改訂 第6版)・2025)2026-09-17に取得し、6. 用法及び用量が20mgを1日1回(効果不十分なら40mgへ増量)で腎機能に応じた調整を置いていないこと、9. 特定の背景を有する患者に関する注意に腎機能障害患者の項が無いこと(9.3は高度の肝機能障害で臨床試験未実施とする)、薬物動態の項が末期腎不全患者のAUCを健康成人の約1.16倍とし血液透析で投与量の15.6%が除去されたと述べることを確認した。リナグリプチンを「腎機能を問わず使える唯一のDPP-4阻害薬」と書けないことの根拠として引いている。閲覧 2026-09-17
  4. 4.エクア錠50mg 電子添文(ノバルティスファーマ(日本の電子添文、2026年1月改訂 第6版)・2026)2026-09-17に取得し、2. 禁忌の2.3が「重度の肝機能障害のある患者」であることを逐語で確認した(比較のために引いている。リナグリプチンの日本の電子添文の禁忌3項目に肝機能障害は入らない)。閲覧 2026-09-17
  5. 5.トラゼンタ錠5mg 電子添文(日本ベーリンガーインゲルハイム(日本の電子添文、2025年10月改訂 第3版)・2025)2026-09-17に第3版(2025年10月改訂)を引き直した。日本の禁忌が3項目で、2.1が本剤成分への過敏症の既往、2.2が糖尿病性ケトアシドーシス・糖尿病性昏睡又は前昏睡・1型糖尿病、2.3が重症感染症・手術前後・重篤な外傷であること(米国の添付文書と違い1型糖尿病が禁忌欄に入り、肝機能障害は禁忌に入らない)、11.1の重大な副作用が低血糖(2.1%)・イレウス・肝機能障害・類天疱瘡・間質性肺炎・急性膵炎であり、低血糖以外はいずれも頻度不明で血管性浮腫は含まれないこと、11.2のその他の副作用は過敏症の頻度不明欄にじん麻疹・血管性浮腫・気管支収縮が、0.3%以上の欄に鼻咽頭炎・腹部膨満・便秘・鼓腸・胃腸炎が並ぶこと、8.5がGLP-1受容体作動薬との併用について臨床試験成績がなく有効性及び安全性は確認されていないと述べること、薬物動態の項が投与放射能の約80%は糞中・約5%は尿中に排泄され糞中放射能の91%が未変化体であるとすることを確認した。心不全に関する注意の項は置かれていない。閲覧 2026-09-17
  6. 6.The International/Canadian hereditary angioedema guideline(Canadian Hereditary Angioedema Network (CHAEN/RCAOH)・2026)Europe PMC(PMC13123228)で全文を取得して確認した。C1インヒビター欠損型でも正常C1インヒビター型でも、エストロゲン含有の経口避妊薬・補充療法/ACE阻害薬/DPP-4阻害薬/ネプリライシン阻害薬という既知の薬剤誘因は中止・回避すべきであること、これらの薬剤による血管性浮腫はHAEの診断を否定せずむしろ潜在例を顕在化させうることを逐語で確認した。閲覧 2026-09-14
  7. 7.9. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬(デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬を含む)の併用は推奨されないこと、心血管・腎保護が必要な患者ではGLP-1RA・SGLT2阻害薬が優先される治療アルゴリズム上の位置づけを確認閲覧 2026-08-03