組織病理学

組織病理学 · H2-100B

浸潤性乳癌(非特殊型)の浸潤診断基準

Invasive carcinoma – NST

描出疾患
乳癌

🧠 全体像:(NST)の分類・治療のは()に整理済みのため、本項目では「浸潤」をどう診断するか、すなわち層の消失という基準に焦点を当てる。

筋上皮細胞層で浸潤を判定する

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='in situ'>非浸潤性</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ductal carcinoma in situ'>DCIS</span>):<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactiferous ducts'>乳管</span>周囲に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoepithelial cells'>筋上皮細胞</span>層が残る"] --> B["基底膜を越えない"]
    C["浸潤性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor nest'>腫瘍胞巣</span>の周囲から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myoepithelial cells'>筋上皮細胞</span>層が消失"] --> D["基底膜を越えて間質へ浸潤"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ductal carcinoma in situ'>DCIS</span>として評価"]
    D --> F["浸潤癌として評価"]

では腫瘍性の周囲に層が保たれるのに対し、浸潤癌ではを取り囲む層が消失する。HE染色だけでは判定が難しい境界例では、筋の免疫染色を用いる1。

⚠️ 1つのマーカーが染まらないことは浸潤の証明にならない。 に伴うは正常の筋上皮とは免疫形質が違い、 101例の検討では84.2%でいずれかのマーカー発現が低下していた(低下例の割合はSMM-HC 76.5%、CD10 34.0%、CK5/6 30.2%、カルポニン17.4%、p63 12.6%)。SMM-HCの低下はでより多い(84.8%対61.5%)2。p63でも周囲の筋上皮層が不連続に見えることがあるため1、複数マーカーとHE所見を合わせて判定する。

免疫組織化学マーカー

マーカー 意味
p63 核に陽性。浸潤胞巣周囲では陰性となる。・は染めないが、11%の症例で腫瘍細胞自体が部分的に陽性になる1
質に陽性。ただし76%の症例で間質のも染まる1
() 筋上皮・の両方に陽性のため単独では特異度が低い
CD10 に陽性だが、他の細胞にも陽性となりうる

細胞形態と予後の乖離に注意する

浸潤癌胞巣の細胞は、細胞異型に乏しく一見「おとなしい」形態を示すことがあるが、層を欠いて間質へ浸潤している事実そのものが予後を左右する。細胞異型の乏しさだけで浸潤性を否定しない。による硬い触知所見は、浸潤に対する間質反応を反映する。

分類・グレード評価・全身治療の詳細は()、の・壊死はのを参照する。

まとめ

  • 浸潤のは周囲の層の消失である。
  • HE染色で判定困難な例ではp63・カルポニンなどの筋を用いる。p63はへのが少ない一方、腫瘍細胞を染めることがある1。
  • 周囲の筋上皮はマーカー発現が低下していることが多く、1マーカーの陰性化だけで浸潤と判定しない2。
  • 細胞異型が目立たなくても、筋上皮層の欠如とがあれば浸潤癌として扱う。

出典

  1. 1.Immunohistochemical distinction of invasive from noninvasive breast lesions: a comparative study of p63 versus calponin and smooth muscle myosin heavy chain(The American Journal of Surgical Pathology・2003)乳腺病変85例(硬化性腺症11、DCIS 33〈うち微小浸潤10〉、LCIS 6、浸潤性乳管癌35)でp63・カルポニン・平滑筋ミオシン重鎖(SMM-HC)を比較すると、3者とも大多数の筋上皮細胞を染めた。間質の筋線維芽細胞を染めたのはカルポニン76%・SMM-HC 8%の症例で、p63は筋線維芽細胞・血管平滑筋のいずれも染めなかった。一方でp63は11%の症例で腫瘍細胞自体を部分的に染め、またDCIS周囲で筋上皮層が不連続に見えることがある閲覧 2026-08-24
  2. 2.Phenotypic alterations in ductal carcinoma in situ-associated myoepithelial cells: biologic and diagnostic implications(The American Journal of Surgical Pathology・2009)DCIS 101例で筋上皮マーカー7種を正常乳管小葉周囲の筋上皮と比較すると、85例(84.2%)でいずれかのマーカー発現が低下していた。低下した症例の割合はSMM-HC 76.5%、CD10 34.0%、CK5/6 30.2%、カルポニン17.4%、p63 12.6%、p75 4.2%、平滑筋アクチン1%。SMM-HCの低下は高異型度DCISで非高異型度より多かった(84.8%対61.5%、P=0.01)。DCIS周囲の筋上皮ではマーカーの感度が正常筋上皮より低下しており、マーカー選択時に考慮すべきである閲覧 2026-08-24