組織病理学

組織病理学 · H2-100A

基底細胞癌の臨床像・危険因子・標本所見

Basocellular carcinoma

描出疾患
基底細胞癌

🧠 全体像:(basal cell carcinoma:BCC)は白人集団で最も頻度の高い悪性腫瘍で1、緩徐に増殖し転移はまれだが2、放置すれば局所へ深く浸潤する。組織所見と発生機序のは(HE染色)に整理済みのため、本項目では臨床像・危険因子・標本所見の対応に焦点を当てる。

危険因子

因子 内容
慢性紫外線曝露 主要な発癌因子。損傷を介し異常につながる3
色白の皮膚 光線障害を受けやすい
免疫抑制状態 臓器移植後の使用などで発生頻度が上昇する
flowchart TD
    A["慢性紫外線曝露"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>損傷・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hedgehog pathway'>Hedgehog経路</span>異常"]
    C["免疫抑制状態(移植後など)"] --> D["腫瘍細胞に対する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune surveillance'>免疫監視</span>が低下"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal cells'>基底細胞</span>様腫瘍の発生・増殖"]
    D --> E
    E --> F["緩徐な局所増大"]
    F --> G["放置例では骨・副鼻腔などへ浸潤"]

臨床像

BCCはを伴う光沢のある丘疹として現れることが多く、一部の腫瘍はを含み、母斑や悪性黒色腫と紛らわしい色調を呈することがある。進行例ではし、放置すると骨や顔面副鼻腔へ浸潤しうる。治療の基本はであり、低リスク原発病変では4mmのが標準とされる4。

標本の所見

所見 解釈
淡い薄い細胞質と類円形核をもつ小型細胞
表皮由来の腫瘍細胞が真皮内に島状に増殖する
胞巣辺縁で細長い核が境界に垂直に並ぶ配列
表面潰瘍 表皮欠損を伴うを示す
一部の亜型でみられるを含む構造
を取り囲む性間質
炎症細胞 間質に浸潤する慢性炎症細胞
正常表皮 病変周囲との対比に用いる

💡 で再発リスクが変わる。 標本では胞巣の輪郭も見る。・は低リスク亜型、()・は高リスク亜型として扱われ、高リスク亜型では臨床的に見えない範囲への進展・・局所再発の確率が高い5。ただし臨床挙動と完全に対応づく決定版の分類はまだ確立していない、というのがこの分類の位置づけである5。

⚠️ 「転移がまれ」であることは良性を意味しない。転移はデンマークの全国レジストリでBCC既往者126,627人を14年追跡して病理確認できた転移例が5例のみ(14年0.0039%)という水準であり2、頻度としてはできるほど低い。それでもは残る。BCCは臨床的に母斑や悪性黒色腫と紛らわしいため、と・間質間の裂隙という組織学的特徴で鑑別する。詳しい発生機序・生物学的挙動・扁平上皮癌との比較は(HE染色)、臨床病型とはを参照する。

まとめ

  • BCCは白人集団で最も頻度の高い悪性腫瘍で、慢性紫外線曝露と免疫抑制状態が主な危険因子である。
  • は母斑・悪性黒色腫と臨床的に紛らわしく、組織学的鑑別が必要である。
  • 、胞巣・間質間の裂隙、などが診断の手がかりとなる。
  • 転移はまれ(既往者の14年0.0039%)だが2、放置すれば骨・副鼻腔浸潤へ進みうる。

出典

  1. 1.European consensus-based interdisciplinary guideline for diagnosis and treatment of basal cell carcinoma-update 2023(European Journal of Cancer・2023)抄録(Europe PMC)の冒頭で、基底細胞癌が白人集団で最も多い悪性腫瘍(the most common malignant tumour in white populations)とされていることを確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.The incidence of metastatic basal cell carcinoma (mBCC) in Denmark, 1997-2010(European Journal of Dermatology・2015)デンマークの全国レジストリで基底細胞癌の既往をもつ126,627人を14年間追跡したところ、転移性基底細胞癌の候補170例のうち病理再検で確認できたのは5例のみ(うち3例は基底扁平上皮癌)で、14年累積発生割合は既往者で0.0039%(95%CI 0.0016〜0.0083)、一般人口で0.0001%であった閲覧 2026-08-24
  3. 3.Genomic analysis identifies new drivers and progression pathways in skin basal cell carcinoma(Nature Genetics・2016)基底細胞癌293例の遺伝子解析で、85%がHedgehog経路遺伝子の変異(PTCH1 73%、SMO 20%、SUFU 8%)をもち、61%がTP53変異を伴った。変異率は65変異/Mbと癌腫の中で最も高く、85%は他の癌関連遺伝子にもdriver変異をもつ閲覧 2026-08-24
  4. 4.Guidelines of care for the management of basal cell carcinoma(American Academy of Dermatology・2018)低リスク原発BCCの標準切除マージンは皮下脂肪層中層までの深さで4mm、リスク層別化は解剖部位をH(顔面中央部・眼瞼・眉毛・眼囲・鼻・口唇・顎・下顎・耳前後部・側頭・耳介・手足・外陰部)・M(頬部・前額・頭皮・頸部・脛骨前面)・L(体幹・四肢。手足・爪部・脛骨前面・足関節を除く)に分け、H領域は大きさを問わず高リスク、M領域は径10mm以上、L領域は径20mm以上で高リスクとする閲覧 2026-08-02
  5. 5.Basal cell carcinoma: a dermatopathological and molecular biological update(British Journal of Dermatology・2003)基底細胞癌について臨床挙動と対応する決定版の分類はまだ確立していないが、現行で最も支持されるのは組織学的増殖パターンに基づく分類で、低リスク/高リスク亜型という概念を支える。高リスク亜型は臨床的に見えない範囲への進展・切除断端陽性・局所侵襲的挙動・局所再発の確率が高いことで特徴づけられる。報告すべき増殖パターンは結節型・表在型・浸潤型/硬化型・微小結節型で、高度異型の扁平上皮分化(基底扁平上皮癌)も併記する閲覧 2026-08-24