組織病理学

組織病理学 · H2-099B

悪性黒色腫の危険因子・分子病理・所見

Malignant melanoma

描出疾患
悪性黒色腫
薬剤
ベムラフェニブ

🧠 全体像:悪性黒色腫(malignant melanoma)は由来の悪性腫瘍で、水平方向の進展(相)を経てから垂直方向に深部へ浸潤する()につれを獲得する。ABCDE・・のはに整理済みのため、本項目では危険因子、、細胞形態、標本所見に焦点を当てる。

危険因子

因子 内容
紫外線曝露 損傷を介した発癌。若年期の間欠的・強い日焼けが特にリスクを高める
既存母斑 多数のやの存在
家族性素因、CDKN2Aなどの

進展様式と転移リスク指標

flowchart TD
    A["異型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='melanocyte'>メラノサイト</span>が表皮内で水平方向へ増殖"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radial growth'>放射状増殖</span>相:転移・血管新生なし"]
    B --> C["垂直方向へ増殖し真皮へ浸潤"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vertical growth phase'>垂直増殖相</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metastatic potential'>転移能</span>を獲得"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='depth of invasion'>深達度</span>が増すほど転移リスクが上昇"]

母斑では成熟に伴い深部の細胞がむしろ増殖を弱めるのに対し、悪性黒色腫ではが増すほど転移リスクが高まる点が対照的である。()以外にも、分裂像の多さ、表面潰瘍、腫瘍管密度がの指標として評価される。

⚠️ 分裂像は生物学的な指標ではあるが、現行ののT分類基準からは外れている。 第8版(2017年)は、腫瘍厚を0.01 mm単位ではなく0.1 mm単位で記録すること、T1aを0.8 mm未満かつ潰瘍なし・T1bを0.8〜1.0 mm(潰瘍の有無を問わない)または0.8 mm未満で潰瘍ありと定義し直すことに加え、をT分類の基準から外した1。潰瘍はT分類のa/bを分ける因子として残っており、この点で分裂像とは扱いが違う。もの軸ではなくなっている。「予後に関係する所見」と「病期の数字に入る所見」を区別して覚える。

分子病理

遺伝子 位置づけ
CDKN2A 家族性黒色腫で高頻度に変異する
BRAF 特にV600E変異が多く、の対象となる
NRAS の活性化に関与
-AKT経路の抑制喪失に関与

BRAF・NRASの変異はを、の機能喪失は-AKT経路を恒常的に活性化する。一方でCDKN2Aは細胞周期(CDK4/6-RB経路)のであり、その変異は主にの喪失を介して発癌に関与する点でBRAF・NRAS・とは経路が異なる。

標本の所見

所見 解釈
予後不良因子であり、にも用いられる
核異型・が目立つ細胞集団
メラニン産生量は多様で、病変もある
腫瘍に対する反応を示す
慢性紫外線曝露を受けた背景の真皮変化
高い増殖活性・悪性度を示唆する

腫瘍細胞は母斑細胞より大型で、核小体が目立つ好酸性核小体(いわゆる「」核小体)を示すことが多く、・多彩な色調・を伴う。

治療

表在性・薄い病変は外科的切除が基本となる。進行例・転移例では、BRAF V600E変異陽性であっても一次治療は抗PD-1を中心とするが優先されることが多い。BRAF V600変異陽性265例を対象としたDREAMseq試験では、+先行群の2年全生存率が71.8%(95%CI 62.5〜79.1)だったのに対し、先行群は51.5%(95%CI 41.7〜60.4)でlog-rank P=.010となり、試験は独立データ安全性監視委員会により早期中止された2。この結果を踏まえ、+(+など)を含むは・状況に応じた選択肢となる。

⚠️ ABCDEの「D」は径6 mm超が手掛かりであり、6 mm未満だから否定できるわけではない。2004年の文献レビューでも、直径基準を6 mm未満へ引き下げる根拠は無いと判定される一方、を加えてABCDEへ拡張することが支持された3。閾値を下げるのではなく、変化を追うことで小径病変を拾う設計になっている。危険因子・臨床像・進展様式・・の詳細は、病型・臨床徴候・予後因子はの病型・臨床徴候・予後因子、・危険因子の層別化は悪性黒色腫のと危険因子を参照する。

まとめ

  • 相からへの移行とともにが高まる。
  • 以外にも分裂像、潰瘍、リンパ管密度が転移リスクの指標となるが、第8版でははT分類の基準から外れ、T1a/T1bの境目は0.8 mmである。
  • CDKN2A・BRAF・NRAS・などの変異がRAS-MAPK・-AKT経路を活性化する。
  • BRAF V600E陽性の進行例でも一次治療はが優先されることが多く(DREAMseq試験の2年全生存率71.8%対51.5%)、+は状況に応じた選択肢となる。

出典

  1. 1.Melanoma staging: Evidence-based changes in the American Joint Committee on Cancer eighth edition cancer staging manual(CA A Cancer Journal for Clinicians(Gershenwald JE, Scolyer RA, Hess KR, et al., AJCC Melanoma Expert Panel)・2017)1998年以降に診断された10施設46,000例超のI〜III期黒色腫データベースに基づくAJCC第8版の主な変更点として、腫瘍厚を0.01 mm単位ではなく0.1 mm単位で記録すること、T1aを0.8 mm未満かつ潰瘍なし・T1bを0.8〜1.0 mm(潰瘍の有無を問わない)または0.8 mm未満で潰瘍ありと定義し直し有糸分裂率をT分類の基準から外したこと、病理病期IAがT1b N0 M0を含むよう改められたこと、N分類の「microscopic/macroscopic」が「clinically occult/clinically apparent」へ置き換えられたこと、III期の予後群がN分類とT分類(腫瘍厚と潰瘍)に基づき3群から4群(IIIA〜IIID)へ増えたこと、微小衛星病巣・衛星病巣・in-transit転移がN1c/N2c/N3cへ分類されること、LDH高値だけではM1cへ上げないこと、中枢神経系転移にM1dが新設されたことを確認した。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Combination Dabrafenib and Trametinib Versus Combination Nivolumab and Ipilimumab for Patients With Advanced BRAF-Mutant Melanoma: The DREAMseq Trial-ECOG-ACRIN EA6134(Journal of Clinical Oncology(Atkins MB, Lee SJ, Chmielowski B, et al.)・2023)未治療のBRAF V600変異陽性転移性黒色腫265例を、一次治療としてニボルマブ+イピリムマブ(A群)またはダブラフェニブ+トラメチニブ(B群)へ無作為化し、進行時に他方へ移行させた第III相試験。2年全生存率はA群71.8%(95%CI 62.5〜79.1)、B群51.5%(95%CI 41.7〜60.4)でlog-rank P=.010であり、臨床的に意義のあるエンドポイント達成により独立データ安全性監視委員会が試験を早期中止した。奏効率はA群46.0%、B群43.0%、二次治療のC群(BRAF/MEK阻害薬)47.8%、D群(免疫チェックポイント阻害薬)29.6%。奏効期間中央値はA群で未到達、B群12.7か月。大多数の患者ではニボルマブ+イピリムマブを先行させ、必要に応じてBRAF・MEK阻害薬へ移る順序が望ましいと結論された。閲覧 2026-08-24
  3. 3.Early diagnosis of cutaneous melanoma: revisiting the ABCD criteria(JAMA(Abbasi NR, Shaw HM, Rigel DS, et al.)・2004)1985年に考案されたABCD(Asymmetry・Border irregularity・Color variegation・Diameter 6 mm超)を1980〜2004年の文献に基づき再検討し、直径基準を6 mm未満へ引き下げることを支持する根拠は無いと判定されたこと。一方で色素性病変の経時的変化(Evolving)の重要性を強調するためABCDEへ拡張することが支持され、大きさ・形・症状(かゆみ・圧痛)・表面(特に出血)・色調の変化に注意すべきとされたこと閲覧 2026-08-24