組織病理学

組織病理学 · H2-091B

非浸潤性乳管癌と乳頭Paget病

Microcalcification, DCIS (HE)

描出疾患
乳癌

🧠 全体像:は、基底膜を越えず内に限局する腫瘍性で、片側性に生じ閉経前後いずれの女性にも起こりうる。病変では中心部が壊死し壊死を形成、その壊死物へが生じる。

標本の所見

所見 解釈
内腫瘍細胞 基底膜を越えない、腔を充満する異型上皮細胞
石灰化 壊死物内に沈着した。HEで好塩基性・非に見えるのは(II型)である1
壊死 壊死を構成する物・好酸性物質
圧出すると粥状壊死物が出るパターン
非腫瘍性腺 周囲の正常との対比に用いる

面皰壊死が生じる機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactiferous ducts'>乳管</span>腔内での急速な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoplastic cell proliferation'>腫瘍細胞増殖</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood supply'>血液供給</span>が相対的に不足"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactiferous ducts'>乳管</span>中心部の腫瘍細胞が壊死"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='comedo necrosis'>面皰壊死</span>"]
    D --> E["壊死物への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dystrophic calcification'>異栄養性石灰化</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammography'>マンモグラフィ</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microcalcification'>微小石灰化</span>として検出されうる"]

壊死はに多いが、石灰化の存在自体は良性病変でも生じうるため、だけでと確定しない。石灰化の化学組成そのものは病変の性質を反映しており、への炭酸イオン取り込み量は良性→→浸潤癌と有意に低下する2。

💡 HEに写らないがある。 乳腺の石灰化は(II型)とカルシウム(I型)に分かれる。II型は好塩基性・非でHEにそのまま写り、良性・悪性いずれの病変にも伴う。I型は無色・で、良性嚢胞にのみ見られ癌や上皮過形成には伴わない1。I型はにもalizarin red染色にも染まらないため、HE切片ではしばしば見落とされる3。

⚠️ の石灰化数とHE切片の石灰化数が合わないとき、まず疑うのはカルシウムである。 針局在下生検153例をで見直すと19例に結晶があり、うち3例はHE切片を複数枚作っても典型的石灰化が見えなかった。HEで石灰化が見つからないときはを併用する3。石灰化を理由に採取された検体の23.1%にI型が含まれていたという報告もある1。 石灰化の形態・の詳細はの(HE染色)に整理している。

乳頭Paget病

大径が病変に含まれる場合、乳頭分泌やとして顕在化することがある。

所見 機序
乳頭の湿疹様びらん 粗糙化、発赤、軽度
表皮内への腫瘍細胞浸潤 または浸潤癌の腫瘍細胞が正常を破壊しながら進展する
分泌物の滲出 破壊されたからが表面へ滲出する

は湿疹と誤認されやすいが、90%超で背景にまたは浸潤癌を伴うため、乳頭病変のを保湿・外用薬だけで様子見しない4。

⚠️ 背景病変は乳頭のすぐ下にあるとは限らず、で写るとも限らない。 背景の癌はから2cm以上離れた部位にあることもあり、は最大50%の症例で陰性でありうる。の評価と背景病変の同定にはが有用である4。

との関係は()、組織型分類全般は乳腺の悪性腫瘍を参照する。

まとめ

  • は基底膜を越えない限局性の腫瘍性である。
  • 病変では壊死とを伴いやすい。
  • 大径病変では乳頭分泌やとして顕在化しうる。
  • 乳頭の湿疹様びらんは背景の・浸潤癌(90%超で併存)を必ず検索する。陰性でも否定できない4。

出典

  1. 1.Calcium oxalate crystals in breast biopsies. An overlooked form of microcalcification associated with benign breast disease(Archives of Pathology & Laboratory Medicine・1989)乳腺の微小石灰化には2型ある。よく知られるII型は好塩基性・非複屈折性で主にリン酸カルシウムからなり、I型は無色・複屈折性のシュウ酸カルシウム結晶である。マンモグラフィ誘導生検127例の検討で、疑わしい石灰化を理由に採取した78例のうちI型のみが9例(11.5%)、I型とII型の併存が9例(11.5%)、II型のみが48例(61.5%)、石灰化を同定できなかったものが12例(15.4%)であった。I型の全体頻度は17.3%(22/127)、石灰化を理由に採取した検体では23.1%(18/78)。I型は良性嚢胞にのみ認められ癌や上皮過形成には伴わなかったのに対し、II型は良性・悪性いずれの病変にも伴った。I型は分泌の産物、II型は細胞変性・壊死の結果とする仮説に合致する。II型が同定できない生検では偏光顕微鏡でシュウ酸カルシウム結晶を探す。閲覧 2026-08-24
  2. 2.New relationships between breast microcalcifications and cancer(British Journal of Cancer・2010)110例から得た乳腺石灰化236個(浸潤癌112、上皮内癌64、良性60)をFTIR分光で解析すると、ハイドロキシアパタイト格子への炭酸イオン取り込み量は良性から上皮内癌、浸潤癌へと有意に低下した(P<0.001)。炭酸含量は上皮内癌の異型度サブグレードとも相関した。炭酸含量とタンパク基質/ミネラル比の2指標による判別モデルの感度は良性79%・DCIS 84%・浸潤癌90%、特異度はそれぞれ98%・82%・96%であった。石灰化の化学組成は周囲組織の病理学的状態を反映する。閲覧 2026-08-24
  3. 3.Calcium oxalate crystals in breast biopsies. The missing microcalcifications(The American Journal of Surgical Pathology・1990)針局在下乳腺生検153例を偏光顕微鏡で見直すと19例(良性17・悪性2)に複屈折性結晶があったが、そのうちHE染色で典型的なリン酸カルシウム微小石灰化が見えたのは16例のみで、残る3例は複数切片を作っても典型的石灰化を認めなかった。これらの結晶はvon Kossa染色にもpH 4.2のalizarin red染色にも染まらず、電子回折でシュウ酸カルシウム一水和物と同定された。マンモグラフィや標本X線での石灰化量とHE切片で見える量が食い違う原因になりうるため、HEで典型的石灰化が見えないときは偏光顕微鏡を用いる。閲覧 2026-08-24
  4. 4.Paget disease of the breast: mammographic, US, and MR imaging findings with pathologic correlation(RadioGraphics・2011)乳頭Paget病の90%超に背景の乳癌が併存する。乳頭乳輪複合体の乳管内のDCISを伴うことが多いが、乳頭乳輪複合体から2cm以上離れた部位のDCISや浸潤癌を伴うこともある。それにもかかわらずマンモグラフィは最大50%の症例で陰性でありうるため、乳頭乳輪複合体の評価と背景病変の同定にはMRIが有用である。閲覧 2026-08-24