組織病理学

組織病理学 · H2-092A

線維上皮性腫瘍(線維腺腫・葉状腫瘍)

Fibroepithelial tumors

描出疾患
良性乳房疾患

🧠 全体像:とは、いずれも間質(腫瘍性成分)と上皮(間質増殖への反応性成分)からなるの腫瘍で、ホルモン依存性に増大する。ただし好発年齢は同じではなく、が20〜30歳代に多いのに対し、はそれより高い年代に多い。良性が大多数だが、両者の生物学的態度は明確に異なる。

flowchart TD
    A["乳腺の周<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular'>管状</span>間質"] --> B["間質の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoplastic proliferation'>腫瘍性増殖</span>"]
    B --> C["上皮成分の反応性増殖"]
    C --> D["境界明瞭な可動性結節"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fibroadenoma'>線維腺腫</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tubular'>管状</span>構造中心"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phyllodes tumor'>葉状腫瘍</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leaf-like structures'>葉状構造</span>・高い<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stromal cell'>間質細胞</span>密度"]

💡 間質が腫瘍性成分であることの分子的裏づけ。 ・のいずれでもMED12遺伝子の変異が高頻度に検出され(58例中36例=62%、46例中37例=80%)、顕微解剖で調べるとこの変異は間質成分にのみ存在する。上皮は反応性増殖にすぎないというの理解が、でも裏づけられている1。

線維腺腫

乳腺の良性腫瘍の中で最も頻度が高く、エストロゲン刺激の関与が示唆される。境界明瞭で可動性のある(いわゆる「乳房のねずみ」)として触れ、や妊娠で増大し、閉経後には退縮・石灰化する。悪性化はほとんどない。

所見 解釈
疎な線維弾性間質 管周囲を取り囲む良性間質増殖
良性 性を保つ反応性上皮
された腺管(「中国文字」様配列) 増殖する間質にされ・細長い管腔となった

葉状腫瘍

よりまれで、管周囲間質から発生する。より高い年代で、より大きな腫瘤として見つかる(切除確認例で診断時年齢の中央値は23.0歳に対し39.0歳、腫瘍径の中央値は2.0 cmに対し5.0 cm)2。葉状(リーフ状)の構築を示し、密度の増加、細胞異型、の増加、間質の腫瘍性増大に伴い、良性・・悪性の三段階でグレード分けされる。多くはで治癒するが、悪性群の一部は血行性遠隔転移(主に肺)を生じうる。

所見 解釈
葉状構築 間質が上皮をし葉状の裂隙を形成する
上皮の裏打ち 葉状裂隙を裏打ちする良性上皮
細胞性間質 密度・異型・の増加

⚠️ は「良性・一部が悪性で遠隔転移」というではなく、密度・異型・核分裂数・浸潤性辺縁・間質過形成を組み合わせた三段階グレード(良性・・悪性)で評価する。分類は悪性型を、辺縁・著明な密度・著明な異型・10個以上/10 HPF・間質過形成という5所見がすべて揃った場合と定めている3。悪性でもリンパ節転移はまれで、を一律に行わない(ガイドラインはリンパ節評価も系統的乳房切除も推奨していない)4。

💡 「5所見すべて」という悪性の要件は、いま議論の途上にある。 多施設の悪性65例で5所見すべてを満たしたのは13例(20%)にすぎず、遠隔転移を来した20例でも5所見が揃っていたのは7例(35%)だった。で遠隔転移と関連したのは著明な間質異型と密度だけで、「間質過形成+1所見以上」または「著明な密度+1所見以上」という改訂基準が提案されている3。136例の検証コホートでは、基準でとされた94例のうち9.6%が遠隔転移し、遠隔転移例30例の30%は基準ではに入っていた5。試験では従来どおり5所見の組み合わせで答えつつ、「なら転移しない」とは言い切れない点を押さえておく。

全般は乳腺でも扱う乳腺の・良性腫瘍を参照する。

まとめ

  • ・はいずれも間質と上皮からなるの腫瘍だが、はより高年齢・大型で見つかる。
  • は乳腺良性腫瘍の代表で、悪性化はほとんどない。
  • は良性・・悪性の三段階グレードで評価し、悪性群でもリンパ節転移はまれである。

出典

  1. 1.Frequent MED12 mutations in phyllodes tumours of the breast(British Journal of Cancer・2015)乳腺の葉状腫瘍46例中37例(80%)、線維腺腫58例中36例(62%)にMED12遺伝子変異を認め、葉状腫瘍では良性83%・境界悪性80%・悪性77%とグレードによらず同程度の頻度であった。線維腺腫では管内型75%・複合型67%に対し管周型は40%と有意に低かった。顕微解剖による解析では、葉状腫瘍・線維腺腫のいずれでもMED12変異は間質成分に限局しており、二相性の線維上皮性腫瘍の腫瘍性成分が間質側であることを支持する閲覧 2026-08-24
  2. 2.Fibroadenoma versus phyllodes tumor: a vexing problem revisited!(BMC Cancer・2020)術後病理で確定した線維上皮性病変の連続症例(線維腺腫46例・葉状腫瘍24例)で、診断時年齢の中央値は線維腺腫23.0歳・葉状腫瘍39.0歳、腫瘍径の中央値は線維腺腫2.0 cm・葉状腫瘍5.0 cmであり、葉状腫瘍は線維腺腫より高齢かつ大型で発見される。細胞診で葉状腫瘍を示唆する所見は、大きく開いた折り重なる上皮シート、辺縁がほつれて不整な間質断片、紡錘形の間質細胞核、背景の紡錘形細胞と細胞異型である閲覧 2026-08-24
  3. 3.Comprehensive Clinical-Pathologic Assessment of Malignant Phyllodes Tumors: Proposing Refined Diagnostic Criteria(The American Journal of Surgical Pathology・2023)最新のWHO乳腺腫瘍分類は、悪性葉状腫瘍を「浸潤性(permeative)辺縁・著明な間質細胞密度・著明な間質細胞異型・核分裂像10個以上/10 HPF・間質過形成」の5所見がすべて揃う場合と定義している。多施設後ろ向き研究の悪性葉状腫瘍65例では5所見すべてを満たしたのは13例(20%)にとどまり、遠隔転移を来した20例(31%)のうち5所見が揃っていたのは7例(35%)だけだった。単変量解析で遠隔転移までの期間短縮と関連したのは著明な間質異型(P=0.004)と間質細胞密度(P=0.017)のみで、著者らは「間質過形成+1所見以上」または「間質過形成がなければ著明な細胞密度+1所見以上」という改訂基準を提案している閲覧 2026-08-24
  4. 4.Common benign breast tumors including fibroadenoma, phyllodes tumors, and papillary lesions: Guidelines(Collège National des Gynécologues et Obstétriciens Français・2015)葉状腫瘍はWHO分類で良性(grade 1)・境界悪性(grade 2)・悪性(grade 3)に分ける。grade 1では断端に病変が接すると局所再発が増えるが、陰性断端が得られればマージン幅と再発率に相関はない。grade 2は10mm未満のマージンで局所再発が増えるため10mmマージンを推奨する。リンパ節評価も系統的乳房切除も推奨されない閲覧 2026-08-24
  5. 5.Validation Study of the Newly Proposed Refined Diagnostic Criteria for Malignant Phyllodes Tumor With 136 Borderline and Malignant Phyllodes Tumor Cases(The American Journal of Surgical Pathology・2024)境界悪性・悪性葉状腫瘍136例の検証コホートで、WHO基準(5所見すべて)を用いると境界悪性とされた94例のうち9.6%が遠隔転移を来し、遠隔転移を来した30例の30.0%(9例)がWHO基準では境界悪性に分類されていた。改訂基準を用いると境界悪性61例からは1例も遠隔転移が出ず、悪性75例の40.0%が遠隔転移した。局所再発は改訂基準で境界悪性11.5%・悪性25.3%であった閲覧 2026-08-24