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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

乳頭Paget病

Paget disease of the nipple

別名
乳房Paget病乳頭乳輪部Paget病mammary Paget disease
臓器系
腫瘍生殖・産婦人科皮膚
科目
SurgeryObstetrics and Gynecology (Gynecology)
トピック
外科学 B/25:悪性乳腺腫瘍(症状・診断・治療)婦人科 35:乳癌
上位概念
乳癌
関連疾患
乳房外Paget病
症状
皮疹瘙痒皮膚びらん・潰瘍乳頭分泌乳頭陥凹
画像所見
マンモグラフィ石灰化

🧠 全体像:は、乳頭・の片側性のとして現れる、まれだが見逃せない乳癌の一表現型である。全乳癌のわずか1〜3%を占めるにすぎないが、⚠️ 93〜100%の症例で基礎に浸潤癌または()を伴う。臨床の要点は一つ——両側性で局所ステロイドに反応する「ただの湿疹」と、片側性でステロイドに反応しない「Paget病」を区別することであり、この一点を外すと診断が長期間遅れる。

病態:2つの起源理論

Paget病を構成する「」(大型で淡明な細胞質を持つが表皮内に散在する)がどこから来るかについては、2つの理論が競合している1。

理論 要点
(優勢) 基礎の細胞が基底膜に沿ってを通り、乳頭表皮へ遊走する。と基礎の/neu発現がよく一致することが根拠
表皮に存在するが独立にする。基礎の癌を証明できない少数例(7%)や、良性のとの形態的な近さを説明する

💡 良性のとの鑑別が上の落とし穴になる。 は女性の皮膚の約10%に存在する非腫瘍性細胞で、/neu陰性かつがほとんど陰性である点で(/neu強陽性・高値)と区別する1。

臨床像:「治らない片側性の湿疹」

所見 要点
皮疹・ 患者の98%が乳頭部のまたは潰瘍を呈する。数か月〜数年かけて遠心性に拡大する
への反応 反応しないことが最大の診断的手がかり。良性の湿疹は通常ステロイドに反応する
分布 片側性。両側性の対称的な変化は通常のアレルギー性・を示唆し、Paget病は考えにくい
進行例 ・潰瘍、乳頭の・、色素沈着
随伴所見 血性を含む乳頭分泌、な乳房腫瘤(全体では41%が多巣性・34%が多中心性で、な腫瘤を伴う例に限ると100%が多巣性・30%が多中心性とさらに高頻度になる)1

⚠️ 外見上良性の皮膚変化でも、2週間ので改善しなければ、画像検査と生検へ進む。 「湿疹だろう」と経過観察を漫然と続けることが診断遅延の最大の原因になる1。

flowchart TD
    A["乳頭・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='areola'>乳輪</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eczematous change'>湿疹様変化</span>"] --> B{"両側性か片側性か"}
    B -->|"両側性・対称性"| C["通常の皮膚炎として治療"]
    B -->|"片側性"| D["2週間の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='topical corticosteroid'>ステロイド外用</span>を試す"]
    D --> E{"改善したか"}
    E -->|"はい"| F["経過観察を継続"]
    E -->|"いいえ:不変・悪化"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='full-thickness punch biopsy'>全層パンチ生検</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wedge incisional biopsy'>楔状切開生検</span>"]
    G --> H["病理で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Paget cell'>Paget細胞</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human epidermal growth factor receptor 2'>HER2</span>/neu強陽性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ki-67 proliferation index'>Ki-67</span>高値)を確認"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammography'>マンモグラフィ</span>・超音波・造影MRIで基礎病変を検索"]
    I --> J["93〜100%で浸潤癌または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ductal carcinoma in situ'>DCIS</span>を併存<br>(内訳はコホートにより異なる)"]

⚠️ 「93〜100%」というと、下の内訳の数字は別々のコホートから来ている。 は複数の報告を通じた値であるのに対し、「浸潤癌60%・DCIS33%・単独の乳頭病変7%」という内訳はM.D. Andersonの104例のコホートに固有の数字であり、両者を1つの母集団の数字として足し合わせない1。

診断:生検が確定、画像はMRIが最も高感度

確定診断はまたはによる。画像検査は基礎病変の検索に用いるが、報告によって層別化の軸そのものが違うため、数字を1つの表に混ぜて比較しない1。

⚠️ 層別化の軸が異なる2種類の報告がある。 一つはな腫瘤の有無で層別したもの、もう一つはSiponenらによる58例のコホートで基礎病変が浸潤癌かかで層別したものであり、同じ「感度」でも意味している母集団が違う。

な腫瘤の有無による層別 感度
(腫瘤あり) 97%
(腫瘤なし) 50%
Siponenコホート(58例):浸潤癌 / による層別 感度
79% / 39%
超音波 74% / 19%
造影MRI 100% / 44%

⭐ は基礎の手がかりになるが、そのものへの浸潤評価には不十分で、疑いが強ければを追加する。 どちらの層別でも造影MRIが最も高感度であり、・超音波が陰性でも、臨床的に疑いが強い場合はを省略しない1。

治療:病変の広がりで乳房切除か乳房温存かを選ぶ

病変の広がり 治療
多中心性・多発病変 (・再建の要否を個別に判断)
単発・乳頭 を含む+による

(の完全切除+放射線療法)後のは、報告により5.2〜11%とやや幅がある1。腋窩の評価は、な腫瘤や画像陽性所見の有無に応じてまたは郭清を検討する。

⚠️ 予後を決めるのはPaget病そのものではなく、背景にある腫瘍の悪性度である。 SEERデータベースを用いた解析では、Paget病を合併する・は、合併のない同病期の乳癌よりも・進行病期・低陽性率・高陽性率を示し全生存率も劣っていたが、腫瘍学的特徴と治療法をそろえてマッチングすると、Paget病合併の有無による予後の差は消失した2。Paget病という所見自体が予後不良因子なのではなく、それが伴う基礎腫瘍の生物学的な悪性度の高さを反映しているにすぎない。

まとめ

  • は全乳癌の1〜3%を占める片側性の湿疹様乳頭病変で、93〜100%に基礎の浸潤癌またはを伴う。
  • 病因は基礎の細胞が乳頭表皮へ遊走するが優勢で、良性のとの病理学的鑑別が要点になる。
  • ⭐ 「片側性・に反応しない」が両側性の良性湿疹との最大の識別点であり、2週間で改善しなければ生検へ進む。
  • 確定診断は・。画像は造影MRIが最も高感度で、・超音波陰性でも臨床的疑いが強ければ省略しない。
  • 治療は病変の広がりでか、を含む+によるかを選ぶ。
  • ⚠️ 予後は基礎腫瘍の悪性度(異型度・病期・)で決まり、Paget病を合併すること自体が独立した予後不良因子ではない。

出典

  1. 1.Mammary Paget's Disease: An Update(Cancers (MDPI)・2022)乳頭Paget病が全乳癌の1〜3%を占め閉経後女性に多いこと、病因として基礎の乳管内癌細胞が基底膜に沿って乳頭表皮へ遊走するとする表皮向性理論と多能性ケラチノサイト幹細胞由来と考える表皮内起源理論の2説があり前者がPaget細胞と基礎DCISのHER2/neu発現の一致で支持されること、良性のToker細胞(女性の乳輪皮膚の約10%にみられHER2/neu陰性)との鑑別が病理上の落とし穴になること、患者の98%が乳頭乳輪部の湿疹様変化または潰瘍を呈し局所ステロイドに反応しないことが診断の手がかりになること、片側性で閉経後・乳頭変形を伴う点が両側性で自壊しない良性湿疹と異なること、乳頭Paget病全体では41%が多巣性・34%が多中心性であり触知可能な腫瘤を伴う例に限ると100%が多巣性・30%が多中心性となること、確定診断に全層パンチ生検または楔状切開生検を要すること、外見上良性の皮膚変化が2週間のステロイド外用で改善しなければ画像検査と生検を行うべきこと、画像感度は2つの異なる層別化軸の報告があり、①触知可能な腫瘤の有無による層別ではマンモグラフィ感度が腫瘤を伴う例で97%・伴わない例で50%であること、②Siponenらの58例のコホートでは浸潤癌/DCISによる層別でマンモグラフィ79%/39%・超音波74%/19%・MRI100%/44%とMRIが全体で最も高感度であったこと、乳頭Paget病の93〜100%に基礎の乳癌を伴い、M.D. Anderson の104例のコホートでは浸潤癌60%・DCIS33%・単独の乳頭病変が7%という内訳が報告されていること、治療は多中心性・多発病変では乳房切除術、単発の乳頭乳輪限局病変では乳頭乳輪複合体を含む中心部分切除+全乳房照射による乳房温存療法が選択肢に入ること、乳房温存療法後の局所再発率が報告により5.2〜11%であることを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Comparative study of breast cancer with or without concomitant Paget disease: An analysis of the SEER database(Cancer Medicine・2019)SEERデータベース2000〜2015年の解析でPaget病合併浸潤乳管癌1,569例・Paget病合併DCIS1,489例を同定し、Paget病合併浸潤乳管癌は合併のない浸潤乳管癌と比較して高異型度(グレードIII/IV 61.5%対39.0%)・進行病期(AJCC stage III 29.3%対12.1%)・低ホルモン受容体陽性率(55.7%対79.4%)・高HER2陽性率(63.5%対16.7%)を示すこと、5年・10年全生存率がPaget病合併浸潤乳管癌で76.2%・61.5%(合併なし86.6%・73.4%)、Paget病合併DCISで88.6%・74.4%(合併なし95.6%・87.3%)といずれも合併群で不良であること、腫瘍学的特徴と治療法を一致させたマッチング解析ではPaget病合併の有無で予後に有意差が消失したこと(Paget病自体が独立した予後不良因子ではなく背景にある腫瘍生物学的悪性度を反映すること)、Paget病合併浸潤乳管癌では乳房切除術(89.1%)が非合併例(40.4%)より有意に多く選択されていることを確認した。閲覧 2026-09-02