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Symptoms · Published

乳頭陥凹

Nipple retraction

別名
乳頭陥没陥没乳頭
臓器系
生殖・産婦人科腫瘍
科目
Obstetrics and Gynecology (Gynecology)Surgery
トピック
婦人科 34:乳房疾患婦人科 35:乳癌外科学 B/24:良性乳腺病変(症状・診断・治療)外科学 B/25:悪性乳腺腫瘍(症状・診断・治療)
関連疾患
乳癌乳頭Paget病良性乳房疾患

🧠 全体像:の意味を決めるのは形ではなくいつからかである。思春期前から続く先天性のは全人口の最大1割にみられるな形態で、それ自体は病的意義に乏しい1。これに対し、思春期・乳房発達以降に新しく生じたはの短縮・・のいずれかが背後にあることを意味し、⚠️ とくに片側性で新規の陥凹は乳癌を疑う所見として扱う12。「先天性か後天性か」を最初の1問に置けば、以後の道筋は自然に分かれる。

定義と用語の整理

患者は「乳首がへこんでいる」「引っ込んだ」と訴える。医学的には次の2つを混同しない。

用語 何を指すか 意味づけ
(先天性) に中胚葉の発生が不十分で、乳頭がより上に挙上されないまま経過したもの 女性の10〜20%が1つ以上のをもって生まれ、先天性のは人口の最大10%にみられる1。授乳・整容の問題として扱う
(後天性) もともと突出していた乳頭が、後から引き込まれたもの 背後の病変を探す所見。新規発症は精査の対象2

⭐ で決め手になるのは「昔の写真や本人の記憶で、以前は突出していたか」の一点である。ここが曖昧なまま先天性と決めつけない。

は、線維化の程度・にできるか・がどれだけ短縮しているかでgrade 1〜3に分ける1。これは悪性の評価ではなく整復術式を選ぶための尺度であり、鑑別には使わない。

grade 所見
1 線維化はごく軽度でも正常。に容易にでき、突出を保てる
2 中等度の線維化との短縮。できるがすぐ戻る
3 高度の線維化と軟部組織の不足。は細く短縮し、にできない

病態生理:何が乳頭を内側へ引くか

機序はどれも「乳頭の裏側で組織が短くなり、乳頭を引き込む」に収束する。違いは短くなるものが何かである。

群 機序
腫瘍性 癌細胞がへ浸潤し1、との牽引が乳頭・皮膚を引き込む
炎症・瘢痕性 や・膿瘍、、結核の反復により、瘢痕がを短縮させる12
医原性・ 乳房手術後の瘢痕、3
その他の後天性 急激な体重減少、、3
先天性 で乳頭が挙上されなかったもの。線維化の程度がgradeに対応する1

💡 先天性のは、後天性の原因の危険因子にもなる。 は喫煙者と、先天性の・奇形をもつ女性でより多い2。「昔からへこんでいる」ことは、新しい病変が起きない保証ではない。

⚠️ 見逃してはいけない疾患

  • ⚠️ 乳癌——とくに片側性・新規発症・にできない(固定した)陥凹。 新規発症のは、初診の患者ではとりわけ徹底的に精査すべき徴候である2。・・・乳頭分泌を伴えば疑いはさらに強い。
  • ⚠️ 。 乳頭のから潰瘍・の破壊へ進む。乳頭部の湿疹は通常両側性なので、片側だけの難治性のは本症を疑う3。90%を超える例で背景に浸潤癌またはがある3。
  • ⚠️ 悪性を除外する前に整容目的のを行わない。 悪性によるではその他の外科的整復は禁忌であり、と腫瘍学的精査で先に見分けなければならない1。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["乳頭がへこんでいる"] --> B{"以前は突出していたか<br>(新規発症か)"}
    B -->|"思春期前から同じ"| C["先天性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inverted nipple'>陥没乳頭</span>"]
    B -->|"後から生じた/不明"| D["後天性として扱う"]
    C --> E{"授乳困難・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recurrent infection'>反復感染</span>・<br>整容上の希望があるか"}
    E -->|"いいえ"| F["経過観察"]
    E -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Han and Hong classification'>Han・Hong分類</span>で<br>gradeを決めて治療を選ぶ"]
    D --> H{"片側性か、随伴所見があるか"}
    H -->|"片側性・固定・腫瘤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='skin dimpling'>皮膚陥凹</span>・<br>血性分泌・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eczematous change'>湿疹様変化</span>"| I["悪性を強く疑う"]
    H -->|"反復する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='areola'>乳輪</span>下の炎症・膿瘍・<br>喫煙歴"| J["炎症性・瘢痕性を疑う"]
    I --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammography'>マンモグラフィ</span>+超音波"]
    J --> K
    K --> L{"病変を指摘できたか"}
    L -->|"はい"| M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='triple assessment'>トリプルアセスメント</span>:<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='needle biopsy'>針生検</span>で組織診断"]
    L -->|"いいえだが臨床的疑いが強い"| N["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contrast-enhanced breast MRI'>造影乳房MRI</span>を追加"]
    N --> M
    M --> O{"悪性か"}
    O -->|"はい"| P["乳癌として<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を組み立てる"]
    O -->|"いいえ"| Q["原因疾患の治療。<br>整復は悪性除外後に検討"]

⭐ 画像で悪性を除外できたと言えるかどうかは、何を評価したいかによる。 乳腺内の病変はと超音波で探せるが、そのものへの浸潤の評価には・超音波では不十分で、造影MRIが優れる3。乳頭直下の病変を疑うときにを省略しない。⚠️ は良性のでも悪性に類似しうるため、形態が良性型に一致しなければ生検で組織学的に確認する2。

この所見自体への介入をどう考えるか

そのものを治すのは、悪性と活動性の炎症を除外したあとの話である。 順序を逆にしない。

状況 対応
後天性・原因未確定 整復を行わず、まず原因の診断を完了させる1
悪性による陥凹 は禁忌。乳癌のの中での温存可否を決める1
炎症・瘢痕による陥凹 原疾患の制御が先。反復・持続するでは罹患の切除を検討する2
先天性 grade 1〜2 吸引器具・などの保存的方法1
先天性 grade 2〜3 ・・内部縫合などの外科的整復1

⚠️ 術式選択では将来の授乳希望を必ず確認する。 を切離・損傷する術式は、整復には有効でも授乳を妨げうる1。

まとめ

  • の入口は「先天性か後天性か」であり、決め手は以前突出していたかどうかの一点である。
  • ⚠️ 新規発症・片側性・固定したは乳癌を疑う所見で、・・血性乳頭分泌・を伴えば疑いは強まる。片側だけの難治性の乳頭はPaget病を疑う。
  • 後天性の原因は腫瘍性・炎症瘢痕性・医原性に分かれ、いずれも「乳頭の裏側で組織が短縮して引き込む」という共通の機序をもつ。
  • 画像はと超音波が基本だが、への浸潤の評価には不十分で、疑うときは造影MRIを追加する。
  • ⚠️ 整容目的のは悪性除外後に限る。先天性ではのgradeで保存的か外科的かを選び、授乳希望を術式選択に織り込む。

出典

  1. 1.Inverted Nipple(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)女性の10〜20%が1つ以上の陥没乳頭をもって生まれること、先天性の乳頭陥没が人口の最大10%にみられること、先天性は胎生期の中胚葉の発生不全で乳頭が乳輪面より上に挙上されないこと、後天性の原因に外傷性脂肪壊死・感染(急性乳腺炎・結核)・乳管拡張症・急激な体重減少・術後変化・悪性腫瘍・乳頭Paget病があること、思春期・乳房発達以降に生じた後天性の乳頭陥凹は悪性その他の異常をより強く疑わせること、悪性における乳頭陥凹が癌細胞の乳管への浸潤によること、そうした症例では乳頭形成術など外科的整復が禁忌でありまず身体診察と腫瘍学的精査で同定すべきこと、Han・Hong分類が線維化の程度・用手的翻転の可否・乳管の短縮でgrade 1〜3に分けられること、grade 1〜2には吸引器具・乳頭牽引器などの保存的方法、grade 2〜3には真皮腺弁・内視鏡下剥離などの外科的手技を用いること、乳管を損なう術式は将来の授乳を妨げうるため授乳希望を考慮して術式を選ぶことを、Introduction節・Etiology節・Evaluation節・Treatment/Management節で確認した。閲覧 2026-08-20
  2. 2.Mammary Duct Ectasia(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)新規発症の乳頭陥凹は、とくに初診の患者では徹底的に精査すべき徴候であること、乳管拡張症では重症例で乳頭が陥凹しうること、反復する感染や瘢痕化が乳頭の変形・陥凹を招きうること、乳管拡張症が閉経周辺期45〜55歳の女性に多く喫煙者や先天性の乳頭陥没・奇形をもつ女性でより高頻度であること、マンモグラフィの石灰化が悪性に類似しうるため生検で組織学的に確認することを、History and Physical 節・Epidemiology 節・Mammographic Findings 節で確認した。閲覧 2026-08-20
  3. 3.Multimodality Imaging of Benign and Malignant Diseases of the Nipple-Areolar Complex(RadioGraphics・2024)後天性の乳頭陥凹が思春期以降に生じるものであり原因として外傷性脂肪壊死・感染・乳管拡張症・急激な体重減少・Mondor病・乳輪下乳頭腫症・乳房手術・乳癌が挙げられること、マンモグラフィと超音波は乳頭乳輪複合体への浸潤の評価には不十分でMRIが優れること、乳頭Paget病が湿疹様変化から乳頭潰瘍・乳頭乳輪複合体の破壊へ進みうること、乳頭乳輪部の湿疹が通常両側性である点でPaget病と異なること、Paget病の90%を超える例で背景に浸潤癌または非浸潤性乳管癌が存在することを確認した。閲覧 2026-08-20