婦人科学

婦人科学 · 35

乳癌

Breast cancer

前提:病態
乳腺の悪性腫瘍遺伝性腫瘍症候群(遺伝性がん症候群)
前提:正常
上肢:胸筋部と乳房
疾患
遺伝性乳癌卵巣癌症候群乳頭Paget病
症状
乳頭陥凹

🧠 全体像:乳癌は病期だけでなく、(ER)、(PR)、、腫瘍グレードなどので治療が変わる。疑わしい病変を画像とで確定し、とを組み合わせる。

危険因子と臨床像

  • 加齢、の乳癌、BRCA1/BRCA2などの病的、、胸部放射線治療歴が重要である。
  • 長いエストロゲン曝露、閉経後肥満、飲酒、複合型閉経なども関連する。
  • 典型は無痛性で、上外側領域に多い。進行すると皮膚・胸壁固定、牽引による、、を生じる。
  • は皮膚リンパ管侵襲により急速な発赤・浮腫・を示し、明瞭な腫瘤がないこともある。

病理型

型 病理・画像の特徴 学習上の要点
内、しばしば。では 基底膜を越えないが浸潤癌の
(/LCIS) 低下、発見、石灰化・腫瘤を作りにくい 浸潤癌そのものではなく、必ずしも浸潤癌へ進まないかつ乳癌リスクの指標。その後の乳癌は同側63%・対側25%・両側12%で、病変のある側に多い1
/ 硬い腫瘤、 最も多い浸潤癌
低下、浸潤 多中心性・両側性に注意
乳頭・の片側性湿疹様病変 背景にまたは浸潤癌を伴う
内 に似るが抗菌薬で改善しない

診断

flowchart TD
    A["腫瘤・乳頭変化・検診異常"] --> B["診断<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mammography'>マンモグラフィ</span>+超音波"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='image-guided'>画像ガイド下</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='core needle biopsy'>コア針生検</span>"]
    C --> D["組織型・グレード"]
    C --> E["ER・PR・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human epidermal growth factor receptor 2'>HER2</span><br>必要に応じ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ki-67 proliferation index'>Ki-67</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic testing'>遺伝子検査</span>"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor, node, metastasis'>TNM</span>病期評価"]
    E --> G["生物学的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Subtype'>サブタイプ</span>"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multimodal therapy'>集学的治療</span>計画"]
    G --> H
  • 症候または画像異常があれば、診断・超音波とを行う。
  • 病理では組織型・グレード、ER、PR、を評価する。必要に応じ、BRCA1/2などの遺伝学的検査、多遺伝子発現検査を追加する。
  • 腫瘍径、所属リンパ節、遠隔転移で病期を決める。遠隔転移の好発部位は骨、肺、肝、脳である。

💡 の信頼度はマーカーごとに違う。 浸潤癌504例でと手術標本のを比べると、ER 96.7%、PR 93.2%、(IHC 0/1+ と 3+ の判定)100%と高いのに対し、は72.6%、は70.5%にとどまる2。ER・PR・はの結果をそのまま治療計画の土台にできる中核マーカー、とグレードは標準化に課題が残る補助的な指標、と区別して覚える。多遺伝子発現検査も全例に行うものではなく、化学療法の効果を判断したい症例に絞って追加する。

代表的サブタイプ

主な 頻度 治療の軸
陽性(HR+/−) ERおよび/またはPR陽性 約70%3 ± 化学療法。進行例ではにを、耐性後は/AKT/の阻害薬を組み合わせる4
陽性 ・増幅 15〜20%3 抗抗体+化学療法を中心に病期別治療。進行例ではやなどの4
ER、PR、陰性 約15%3 化学療法を軸に、Trop-2標的の、、4

💡 は予後も分ける。 90%以上は診断時に非転移性で、I期の5年乳癌特異的は85%に対し・陽性は94〜99%。転移例の生存期間中央値も約1年に対し他の2型は約5年である3。頻度としてはが最多、予後が最も悪いのは、という並びで覚える。

検診

  • 平均リスク女性に対するの開始年齢・間隔は国の制度で異なるが、方向はおおむね揃っている。11か国・地域の23ガイドラインを比較した系統的レビューでは、すべてが第一の検診法としてを挙げ、多くが40〜74歳に年1回または2年ごとを推奨し、なかでも50〜69歳を最適年齢層としていた(23件中9件は上限年齢を設けない立場)5。
  • 米国 2024では40〜74歳に2年ごとのを推奨する(B推奨)。ただし75歳以上の検診と、に対する超音波・の追加検診は「根拠不十分」としている6。実際の診療では居住国のプログラムに従う。
  • 欧州のEUSOBIも定期を検診の中核と位置づけ、この30年で乳癌死亡率を少なくとも20%下げてきたと整理している7。「の40〜74歳・2年ごと」は代表例の一つであって、世界標準の唯一解ではない。
  • 高リスク例では若年からの併用など個別計画を立てる。ACRは、遺伝的高リスク・生涯リスク20%以上・若年での胸部放射線照射歴のいずれかがあれば25〜30歳からを開始し、はリスクの種類により25〜40歳の間で追加するとしている8。EUSOBIも高リスクでは年1回のを先に始め、35〜40歳から年1回または2年ごとのを併用する形を推奨する7。
  • 極度に高濃度の乳房も、による追加検診の対象として支持されている。が使えない場合は超音波で代えるが、癌検出への効果は限定的である7。
  • 乳房単独で死亡率を下げる根拠はないが、普段との変化に気づいたら受診することは重要である。

💡 検診の入口はリスク評価。 ACRは全女性が25歳までにリスク評価を受け、平均以上のリスクの人を拾い上げて適切な検診を始めることを勧めている8。「何歳から撮るか」を一律に決めるのではなく、まずリスクを測ってから開始年齢と方法を決める、という順序で理解する。

治療原則

局所療法

  • 早期癌ではまたはを選ぶ。非のの基本はあくまで手術+(温存手術なら)術後放射線であり3、年齢・腫瘍特性による放射線の省略は例外的な個別化と位置づける。
  • 臨床的陰性の浸潤癌ではが基本だが、腫瘍・年齢・治療計画により省略可能な群もある。
  • 陽性でも全例にが必要とは限らず、術式・転移量・放射線計画で決める。
  • は温存手術+放射線または乳房切除を広がりに応じて選ぶ。LCISは通常、単純に「乳房切除の適応」とせず、リスク低減とを個別化する。

全身療法

  • HR+では、、などを閉経状態と再発リスクに応じて用いる。進行・再発例ではにを併用し、耐性後は/AKT/の阻害薬を組み合わせるのが現在の軸である4。
  • 陽性ではを含むを用い、心機能を監視する。
  • 化学療法は病期、リンパ節、グレード、、多などから利益を見積もる。固定した腫瘍径だけで一律に決めない。
  • 進行・では分子標的薬、免疫療法、などをに応じて選ぶ。は陽性の、のTrop-2標的薬のようにをまたいで広がりつつある4。

⚠️ 放射線療法、、特定の化学療法レジメンを乳癌全例に一律適用することはない。

⚠️ 免疫療法は「乳癌に効く薬」ではない。 乳癌はもともと免疫学的に冷たい腫瘍とされ、が標準治療に入っているのはの術前補助・進行例における+化学療法である。PD-L1 CPS、TMB、TILといったによる患者選択は今も検討途上で、を問わず使える治療ではない9。

まとめ

  • 乳癌の診断は画像+で行い、とER・PR・を必ず評価する。
  • 、小葉病変、浸潤癌、では病態と局所治療が異なる。
  • 手術・放射線のと、・化学療法・などのを病期とで個別化する。
  • の頻度は/陰性が約70%、陽性15〜20%、約15%で、予後もこの順に悪くなる3。
  • 検診は国で異なるが、平均リスクでは40〜74歳(最適は50〜69歳)のを年1回または2年ごと5、高リスクでは25〜30歳からのを軸に、25歳までのリスク評価を起点として個別化する8。

出典

  1. 1.Lobular Carcinoma in Situ: A 29-Year Longitudinal Experience Evaluating Clinicopathologic Features and Breast Cancer Risk(Journal of Clinical Oncology・2015)抄録と全文(PMC4934644、Wayback保存版)で、同時性乳癌のないLCIS 1,060例を中央値81か月追跡し150例に168の乳癌が発生したこと(同側63%・対側25%・両側12%)、乳癌の年間発生率は約2%であったこと、考察でLCISを「非必須の前駆病変であると同時に高リスクの指標でもある不均一な病変」と位置づけていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Concordance between core needle biopsy and surgical excision for breast cancer tumor grade and biomarkers(Breast Cancer Research and Treatment・2022)浸潤性乳癌504例で、コア針生検と手術標本の一致率はER 96.7%(κ=0.687)、PR 93.2%(κ=0.69)、HER2陰性(IHC 0/1+)・陽性(IHC 3+)の判定100%(κ=1.00)と高いのに対し、組織学的グレード72.6%(κ=0.545)、Ki-67 70.5%(κ=0.453)にとどまる閲覧 2026-08-21
  3. 3.Breast Cancer Treatment: A Review(JAMA・2019)乳癌はHR陽性/HER2陰性(70%)、HER2陽性(15〜20%)、トリプルネガティブ(15%)に分かれ、90%以上は診断時に非転移性。I期の5年乳癌特異的生存率はトリプルネガティブ85%に対し他の2型は94〜99%、転移例の生存期間中央値はトリプルネガティブ約1年に対し他の2型は約5年。非転移例の局所療法は手術で、乳房温存手術なら術後放射線を検討する閲覧 2026-08-21
  4. 4.Targeted Therapies for Each Subtype of Breast Cancer(MedComm・2026)HR陽性には内分泌療法+CDK4/6阻害薬またはPI3K/AKT/mTOR阻害薬、HER2陽性にはトラスツズマブ デルクステカンなどの抗体薬物複合体とチロシンキナーゼ阻害薬、トリプルネガティブにはTrop-2標的抗体薬物複合体・免疫療法・PARP阻害薬という、サブタイプ別の標的治療の枠組み閲覧 2026-08-21
  5. 5.Global guidelines for breast cancer screening: A systematic review(The Breast・2022)11か国・地域で2010〜2021年に発行された23の乳癌検診ガイドラインを比較した系統的レビュー。全ガイドラインが平均リスク女性の第一の検診法としてマンモグラフィを挙げ、多くが40〜74歳に年1回または2年ごとを推奨し、50〜69歳を最適年齢層とする。高リスクでは年1回のマンモグラフィまたはMRIをより若年から開始する点でほぼ一致閲覧 2026-08-21
  6. 6.Screening for Breast Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement(JAMA・2024)平均リスクの40〜74歳に2年ごとのマンモグラフィをB推奨。75歳以上の検診と、高濃度乳房に対する超音波・MRIの追加検診はいずれも根拠不十分(I statement)とする閲覧 2026-08-21
  7. 7.ESR Essentials: screening for breast cancer - general recommendations by EUSOBI(European Radiology・2024)定期マンモグラフィが検診の中核であり、この30年で乳癌死亡率を少なくとも20%低下させた。高リスク女性はより早期に年1回のMRIから始め、35〜40歳から年1回または2年ごとのマンモグラフィを併用する。極度の高濃度乳房にもMRIによる追加検診を推奨し、MRIが使えない場合の超音波の上乗せ効果は限定的閲覧 2026-08-21
  8. 8.Breast Cancer Screening for Women at Higher-Than-Average Risk: Updated Recommendations From the ACR(Journal of the American College of Radiology・2023)遺伝的高リスク、生涯リスク20%以上、若年での胸部放射線照射歴のいずれかを持つ女性は25〜30歳からMRIサーベイランスを開始し、マンモグラフィはリスクの種類に応じ25〜40歳の間で追加する。全女性が25歳までにリスク評価を受けるべきとする閲覧 2026-08-21
  9. 9.Immunotherapy in Breast Cancer(International Journal of Molecular Sciences・2024)乳癌は従来「免疫学的に冷たい」腫瘍とされ、免疫チェックポイント阻害薬が標準治療に入っているのはトリプルネガティブの術前補助・進行例におけるペムブロリズマブ+化学療法。PD-L1 CPS・TMB・TILといったバイオマーカーによる患者選択は検討途上閲覧 2026-08-21