婦人科学

婦人科学 · 36

婦人科手術手技(D&C、円錐切除、子宮摘出、子宮鏡)

Gynecologic operation techniques (D and C, conisation, hysterectomy, hysteroscopy)

前提:正常
骨盤・会陰:骨盤内臓骨盤・会陰:血管とリンパ管
疾患
子宮内癒着症頸管狭窄

🧠 全体像:婦人科手術では、子宮腔を採取・排出する拡張・、子宮頸部を切除する、子宮腔を直視する、子宮の範囲を選んで摘出するを、目的と解剖学的切除範囲で区別する。

子宮頸管拡張・掻爬

目的と適応

  • を拡張し、吸引またはで子宮内容・内膜を採取する。
  • 妊娠関連では流産・妊娠組織遺残、などのに吸引法を用いる。
  • 非妊娠時のでは内膜組織採取が必要な場合に行うが、外来内膜生検や下標的生検が優先されることが多い。
  • 既知の希望妊娠、活動性、重篤ななどでは適応・時期を再検討する。
flowchart TD
    A["適応確認・妊娠状態・感染・出血リスク評価"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vaginal examination'>内診</span>・子宮の方向と大きさを<span class='jp-term jp-term-diagram' title='grasp'>把握</span>"]
    B --> C["必要に応じ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical ripening'>頸管熟化</span>・麻酔"]
    C --> D["頸管を段階的に拡張"]
    D --> E["吸引または標的採取"]
    E --> F["出血・穿孔・感染を監視"]
    F --> G["病理検体を確認"]
  • などの浸透圧性拡張材や薬剤でを行う場合がある。
  • 合併症は出血、感染、(腸管・膀胱損傷を伴いうる)、頸管裂傷、()である1。
  • 盲目的な「ざらつき(uterine cry)」をとして過度にすると内膜基底層損傷・穿孔の危険がある。

💡 D&Cの遠隔合併症は「次回妊娠の早産」である。 21研究1,853,017人ので、流産・にD&Cを受けた既往のある女性は次回妊娠での早産が多く、D&Cの回数が増えるほどリスクが上がるという性がを示唆する。より低侵襲な選択肢(薬物療法・)がある以上、D&Cの適応は慎重に絞るべきとされる1。

⚠️ 挿入やをすべてのD&C前に必須とする考え方は適切でない。適応に応じ超音波・ガイドを活用する。

子宮頸部円錐切除

  • を含むと頸管の円錐状組織を切除する。
  • 方法はループ式切除(/LLETZ)、、レーザーなどである。
  • 高度扁平上皮内病変(/ 2・3)、腺系病変、浸潤疑い、細胞診・不一致、を十分観察できない場合に診断・治療目的で行う。
  • 検体では、病変、浸潤、を評価する。
  • 合併症は出血、感染、、将来妊娠での早産リスク上昇である。妊娠中は癌疑いなど利益が上回る場合に限定する。

方法の選択は「再発を抑える力」と「産科的な代償」のである。(71研究19,240人、早産29研究68,817人)の推定値は次の通りで、切除が深く広いほどは減るが早産は増える2。

方法 (LLETZ比) 早産(未治療コルポ群比)
LLETZ() 基準 OR 1.37(1.16–1.62)
レーザー OR 0.59(0.44–0.79) OR 1.77(1.29–2.43)
(CKC) OR 0.63(0.50–0.81) OR 2.27(1.70–3.02)
レーザー OR 1.69(1.27–2.24) OR 1.05(0.78–1.41)
OR 1.84(1.33–2.56) OR 1.01(0.35–2.92)
  • 法は早産を増やさない一方でが多く、病変全体とが観察でき浸潤・腺病変を疑わない例に限られる。妊孕性希望例でLLETZが標準的に選ばれるのは、この両者のバランスが最もよいためである2。

💡 産科リスクは「方法」より「切除量」で決まる。 71研究6,338,982人のでは、有害な産科転帰の頻度と重症度は円錐が深いほど増え、より切除で高い。患者はもともと早産のベースラインリスクが高い点も併せて説明する3。

💡 2は自動的に切除ではない。 2でも25〜40歳では標本の24.9%に 3+が潜在し、25歳未満の7.1%より高い。一方、 16/18陽性かつ細胞診正常、その他の陽性かつASC-US/といった低リスク例では、年齢と妊孕性希望を踏まえた経過観察が選択肢になる4。

子宮鏡

から内視鏡を挿入し、などで子宮腔を展開して直視する。

診断・治療対象 での対応
内膜ポリープ、、局所病変の観察・標的生検
不妊・ 子宮中隔、の診断・切除
遺残・異物 妊娠組織遺残、などの除去
妊娠希望がない選択例で内膜
  • 合併症は、出血、感染、頸管裂傷、空気・ガス塞栓、灌流液・電解質異常である。実測ではがほぼ1%、での過剰出血が3%、灌流液1〜2 Lのが約5.2%・2 L超が約1%、緊急子宮摘出などの外科的介入が2%で、敗血症・灌流液による死亡は0.1%と稀である5。
  • 灌流液の流入出量差(不足量)を監視し、設定された限界に達したら中止する。では不足量1,000〜2,500 mLで厳重監視、2,500 mL以上で直ちに中止(Grade 1C)、高齢者や心血管・腎疾患などの併存症がある患者では閾値を750 mLへ下げる(Grade 1B)6。

💡 合併症の半分以上は機械的損傷である。 頸管拡張時・スコープ挿入時・過度の切除で起こる頸管裂傷と頸部・が最多で、では筋腫と子宮漿膜のが穿孔リスクの指標になる6。

子宮摘出術

切除範囲

術式 切除範囲
子宮体部+子宮頸部
(supracervical/subtotal) 子宮体部、頸部を温存
子宮・頸部に加え、傍子宮組織、上部腟などを腫瘍学的範囲で切除

アプローチと適応

  • 経腟、腹腔鏡・ロボット支援、開腹の各経路がある。良性疾患では実施可能な限り低侵襲経路(経腟・腹腔鏡)を優先し、そのなかでも経腟が第一選択、経腟が適応外・実施困難なら腹腔鏡が開腹より望ましい7。
  • 経路は腟と子宮の大きさ・形、子宮への到達性、子宮外病変の広がり、術の必要性、の訓練・経験・症例数、施設の設備、緊急か予定かで決まる。開腹は依然として一部の症例で重要な選択肢である7。
  • 適応は症候性筋腫・・内膜症、治療抵抗性出血、、悪性・、重篤ななどである。
  • は主に選択されたで行い、病期によりを選ぶ。
  • 卵管・卵巣の切除は子宮摘出と別の意思決定である。閉経後を含め「常に付属器も摘出」とせず、年齢、遺伝性癌リスク、卵巣病変、の不利益を個別評価する。

💡 「経腟>腹腔鏡」の差は近年縮まっている。 ACS NSQIP 2012〜2022年をマッチした83,436人(経腟・腹腔鏡各41,718人)の解析では、30日合併症は経腟8.2%・腹腔鏡6.4%といずれも低く、著者らは「経腟が明らかに優先される経路とは言えない」とした8。ただし観察研究であり、低侵襲優先・経腟第一選択という現行推奨を覆すものではない。試験の場では従来どおり「良性なら経腟を第一に検討」で答える。

合併症

  • 出血、、尿路感染、、肺合併症
  • 膀胱、尿管、腸管、血管、神経損傷
  • 経路に応じ、癒着、慢性疼痛

まとめ

  • D&Cは・内膜採取、は頸部切除、は子宮腔直視、子宮摘出は範囲を選ぶ手術である。
  • では盲目的D&Cより、内膜生検や下標的生検が適することが多い。
  • は方法によってと早産のが変わり、産科リスクは切除の深さに比例して上がる(CKCの早産OR 2.27に対しLLETZは1.37)。
  • では灌流液の不足量を数値で管理する(生食で2,500 mL以上は中止、があれば750 mL)。
  • 子宮摘出の経路・切除範囲とは、疾患・妊孕性・腫瘍学的必要性・合併症を個別に評価して決める。良性疾患は低侵襲優先・経腟第一選択が原則である。

出典

  1. 1.Dilatation and curettage increases the risk of subsequent preterm birth: a systematic review and meta-analysis(Human Reproduction・2015)流産・人工妊娠中絶に対するD&Cの既往が次回妊娠の早産リスクを上げること(21研究1,853,017人のシステマティックレビュー・メタ解析)。D&Cの回数が増えるほどリスクが上がる用量反応性が因果関係を示唆すること。より低侵襲な選択肢があるため使用は慎重であるべきこと。D&Cの合併症として頸管裂傷、出血、感染、子宮・腸管・膀胱の穿孔、Asherman症候群が挙げられること閲覧 2026-08-21
  2. 2.Comparative effectiveness and risk of preterm birth of local treatments for cervical intraepithelial neoplasia and stage IA1 cervical cancer: a systematic review and network meta-analysis(The Lancet Oncology・2022)CIN局所治療のネットワークメタ解析(治療失敗71研究19,240人、早産29研究68,817人)。LLETZを基準とすると治療失敗はレーザー円錐切除OR 0.59(0.44–0.79)、コールドナイフ円錐切除OR 0.63(0.50–0.81)と低く、レーザー焼灼OR 1.69(1.27–2.24)、凍結療法OR 1.84(1.33–2.56)と高いこと。未治療コルポスコピー群と比べた早産はCKC OR 2.27(1.70–3.02)、レーザー円錐切除OR 1.77(1.29–2.43)、LLETZ OR 1.37(1.16–1.62)で切除法すべてが上昇し、焼灼法(レーザー焼灼1.05、凍結療法1.01)では上昇しないこと。LLETZが有効性と産科的合併症のバランスに優れること閲覧 2026-08-21
  3. 3.Adverse obstetric outcomes after local treatment for cervical preinvasive and early invasive disease according to cone depth: systematic review and meta-analysis(The BMJ・2016)71研究6,338,982人(治療群65,082人)のメタ解析で、CIN患者はもともと早産のベースラインリスクが高く、切除・焼灼療法がそれをさらに上げること。有害な産科転帰の頻度と重症度は**円錐が深いほど**増加し、焼灼(ablation)より切除(excision)で高いこと閲覧 2026-08-21
  4. 4.Risk stratification and conservative management of women aged 25-40 years with cervical intraepithelial neoplasia grade 2 (CIN2)(BMC Infectious Diseases・2025)パンチ生検でCIN2と診断された女性のうち25〜40歳では**LEEP標本で24.9%にCIN3+が潜在**しており、25歳未満の7.1%より有意に高いこと。**HPV16/18陽性かつHSIL細胞診**の症例では治療を考慮すべきこと。HPV16/18かつ細胞診正常、あるいはその他のhrHPVかつASC-US/LSILでは危険度が低く保存的管理が選択肢になること閲覧 2026-08-21
  5. 5.Managing bleeding, fluid absorption and uterine perforation at hysteroscopy(Best Practice & Research Clinical Obstetrics & Gynaecology・2009)子宮鏡が子宮内病変評価のゴールドスタンダードであること。合併症頻度は灌流液過負荷1〜2 Lが約5.2%・2 L超が約1%、子宮穿孔がほぼ1%、手術的子宮鏡での過剰出血が3%、緊急子宮摘出など外科的介入が2%、敗血症や灌流液過負荷による死亡は0.1%と稀であること閲覧 2026-08-21
  6. 6.Prevention, diagnosis, and management of complications in hysteroscopic myomectomy: a literature review(Gynecology and Pelvic Medicine・2024)子宮鏡下筋腫核出術の合併症の50%以上が機械的損傷(頸管裂傷、頸管・子宮穿孔)であること。生理食塩水を灌流液とする場合、不足量1,000〜2,500 mLで厳重監視が必要で、2,500 mL以上では直ちに手術を中止すべきこと(Grade 1C)。高齢者や心血管・腎などの併存疾患がある患者では不足量の閾値を750 mLへ下げること(Grade 1B)。筋腫と子宮漿膜の距離(free myometrial margin)が穿孔リスクの指標になること閲覧 2026-08-21
  7. 7.Committee Opinion No 701: Choosing the Route of Hysterectomy for Benign Disease(American College of Obstetricians and Gynecologists・2017)良性疾患の子宮摘出では実施可能な限り低侵襲経路(経腟・腹腔鏡)を選ぶこと。低侵襲経路のなかでは**経腟が第一選択**であり、経腟が適応外・実施困難な患者では**腹腔鏡が開腹より望ましい**こと。経路選択は腟と子宮の大きさ・形、子宮への到達性、子宮外病変の広がり、併施術の必要性、術者の訓練・経験・症例数、施設の設備、緊急か予定かで影響を受けること閲覧 2026-08-21
  8. 8.Vaginal hysterectomy vs laparoscopic hysterectomy for benign indications: complications and length of stay in a national analysis of contemporary data(American Journal of Obstetrics and Gynecology・2026)現行の「良性疾患では可能な限り経腟を選ぶ」という推奨が、限られた症例数の古い臨床試験に基づいていること。ACS NSQIP 2012〜2022年のデータを傾向スコアマッチした83,436人(経腟・腹腔鏡各41,718人)の解析で、30日合併症は経腟8.2%・腹腔鏡6.4%と両群とも低く、経腟が明らかに優先される経路とは言えないと結論したこと(観察研究)閲覧 2026-08-21