組織病理学

組織病理学 · H2-090A

浸潤性小葉癌

Invasive lobular carcinoma

描出疾患
乳癌

🧠 全体像:はの中で2番目に多い組織型(全の5〜15%)12で、の機能喪失により腫瘍細胞が結合せず、間質をに浸潤する特徴的な形態を示す。

形態の特徴

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='E-cadherin'>E-カドヘリン</span>機能喪失"] --> B["腫瘍細胞間の接着が失われる"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='single-file'>単列</span>(一列縦隊)に間質を浸潤"]
    C --> D["残存<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactiferous ducts'>乳管</span>を取り囲む標的(bull's eye)パターン"]
    B --> E["境界不明瞭で触知しにくい腫瘤"]
所見 解釈
脂肪組織への浸潤 基底膜を越えた浸潤を示す
残存をに取り囲む配列
非腫瘍性腺 周囲の正常構造との対比に用いる
「一列縦隊」 に配列する非接着性腫瘍細胞。CDH1の蛋白切断型変異と16q22.1の喪失による消失が分子的裏づけとなる3
の 断端評価のための標本処理を示す

腫瘍細胞は均一で細胞質に乏しく、・鎖状に配列するため、に乏しい場合は触知しにくく、画像でも過小評価されやすい。を惹起しにくいというこの組織学的性質そのものが、のの高さと非触知性の原因である2。

臨床的特徴

50歳以降の女性に多く、遺伝子変異とを背景とする点は他のと共通する。ILCはに比べ多中心性・両側性の頻度が高く、ほぼすべてがエストロゲン・陽性である。転移は肺・骨・肝など通常の乳癌の好発部位に加え、髄膜・脳脊髄液、、消化管、卵巣、子宮、骨髄などな部位にも生じうる点が診断・経過観察上の注意点である。乳癌2,605例の比較では、小葉癌はより消化管(4.5%対0.2%)、婦人科臓器(4.5%対0.8%)、腹膜・後腹膜(3.1%対0.6%)、骨髄(21.2%対14.4%)への転移が有意に多い一方、肺・胸膜転移はむしろ少なかった(2.5%対10.2%)4。

💡 「小葉癌は予後がよい」を前提にしない。 小葉癌がより予後良好でによく反応し化学療法に反応しにくいという通説は広く共有されているが、現時点のデータはこれらの前提を一致して支持しているわけではない1。

⚠️ 画像上の腫瘤径がILCでは過小評価されやすいため、切除範囲や断端評価には注意する。超音波とをに追加すると検出感度が上がり、に有用な情報が得られる2。の墨染は断端のを判定するための基本手技である。

背景にしばしば(lobular carcinoma in situ:LCIS)を伴う。との対比は()、組織型全般の分類は乳腺の悪性腫瘍、疫学・病期・診断は乳癌の疫学・病因・組織型・病期・症状・診断を参照する。

まとめ

  • ILCは喪失(CDH1変異と16q22.1の喪失)による非接着性細胞の浸潤を特徴とする3。
  • 標的パターンと一列縦隊パターンがである。
  • 多中心性・両側性が多く、ほぼ全例が陽性である。
  • 卵巣・子宮・髄膜など部位への転移に注意する。

出典

  1. 1.Invasive lobular breast cancer and its variants: how special are they for systemic therapy decisions?(Critical Reviews in Oncology/Hematology・2014)WHO乳腺腫瘍分類は非特殊型浸潤癌(invasive breast cancer of no special type、旧称 invasive ductal carcinoma)と30の特殊型を区別しており、非特殊型が全乳癌の60〜70%、特殊型で最多の浸潤性小葉癌が5〜15%を占める。浸潤性小葉癌は一般に非特殊型より予後良好で内分泌療法反応性が高く化学療法への反応が乏しいと考えられているが、現時点で利用できるデータはこれらの前提を一致して支持しているわけではない閲覧 2026-08-24
  2. 2.Invasive lobular carcinoma of the breast: spectrum of mammographic, US, and MR imaging findings(RadioGraphics・2009)浸潤性小葉癌は全浸潤性乳癌の10〜15%を占める。線維形成反応(desmoplastic response)を惹起しにくいという組織学的特徴のため、マンモグラフィで乳管癌に典型的でない所見を示し偽陰性率が高く、触知可能な腫瘤を形成しないことも多い。超音波とMRIをマンモグラフィに追加すると検出感度が上がり、術前計画に有用な情報が得られる閲覧 2026-08-24
  3. 3.E-cadherin is a tumour/invasion suppressor gene mutated in human lobular breast cancers(The EMBO Journal・1995)乳癌49例のE-cadherin遺伝子(CDH1)変異スクリーニングで、浸潤性乳管癌・髄様癌42例には関連するDNA変化を認めなかったのに対し、浸潤性小葉癌7例中4例に細胞外ドメインの蛋白切断型変異(ナンセンス3、フレームシフト1)を認めた。この4例はいずれもE-cadherin遺伝子座を含む16q22.1のヘテロ接合性喪失を伴い、免疫染色でE-cadherin発現が検出されなかった。浸潤性小葉癌に特徴的な散在性増殖の分子的説明となる閲覧 2026-08-24
  4. 4.Metastatic patterns of invasive lobular versus invasive ductal carcinoma of the breast(Surgery・1993)18年間の浸潤性乳癌2,605例(小葉癌359例=14%、乳管癌2,246例=86%)の比較で、消化管(4.5%対0.2%)、婦人科臓器(4.5%対0.8%)、腹膜・後腹膜(3.1%対0.6%)、副腎(0.6%対0%)、骨髄(21.2%対14.4%)への転移は小葉癌で有意に多く、逆に肺・胸膜転移は小葉癌で少なかった(2.5%対10.2%、いずれもp<0.05)。所属リンパ節・肝・中枢神経系への転移率には有意差がなかった閲覧 2026-08-24