組織病理学

組織病理学 · H2-090B

子宮内膜増殖症(異型なし)の組織像

Typical simple hyperplasia

🧠 全体像:(異型なし)(endometrial hyperplasia without atypia)は、プロゲステロンに拮抗されない持続的エストロゲン刺激により腺が過剰増殖する病変で、腺・間質比と細胞異型の有無で・EINと区別する。

💡 標本名「typical simple hyperplasia」は旧WHO94分類の呼び名である。 WHO94分類は腺構築の複雑さ(/複合型)と核異型の有無を組み合わせ、異型なし・異型なし複合型・異型・異型複合型の4群に分けていた。「typical simple hyperplasia(異型のない増殖症)」はその最も軽い群にあたる。国際婦人科病理学会が承認した 2014分類( 2020も踏襲)はこれを異型なし増殖症/(=EIN)の2群へ整理しており、の同定はこの2分類のほうが優れる1。旧4群名は実習・試験でなお問われるので、旧名と新2分類の対応(・複合型はどちらも異型がなければ「異型なし増殖症」、異型があればどちらも「/EIN」)を押さえておく。

原因となるエストロゲン過剰状態

原因 機序
(周辺に多い) 黄体形成がなくプロゲステロンによる拮抗を欠く
エストロゲン単独療法の長期投与 併用なしの
エストロゲン産生卵巣病変 多嚢胞性卵巣、など
肥満 脂肪組織が末梢でステロイド前駆体をエストロゲンへ変換する
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unopposed estrogen stimulation'>拮抗されないエストロゲン刺激</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometrial gland'>子宮内膜腺</span>の過剰増殖"]
    B --> C["異型なし増殖症"]
    B --> D["細胞異型を伴う増殖"]
    D --> E["EIN・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atypical hyperplasia'>異型増殖症</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometrioid carcinoma'>類内膜癌</span>(20〜50%で進展)"]
    C -->|"1〜3%で進展"| F

組織像の鑑別点

所見 異型なし増殖症 EIN・
間質量 豊富な子宮内膜間質を保つ 間質が減少し腺が密集する
腺・間質比 おおむね1:1以下を保つ 1:1を超えて腺優位になる
腺の形態 に拡張した不整腺 複雑な出芽・分岐を示す腺
上皮 型の円柱上皮、化生を伴いうる 周囲内膜と異なる細胞異型を示す上皮

は良性の化生変化であり、それ自体はを意味しない。

悪性化リスクと対応

異型なし増殖症は悪性化リスクが低い(1〜3%)が、無治療放置の対象ではなく、原因是正と治療、追跡内膜採取で管理する。EIN・は同時併存癌を高率に伴い、進展リスクも高い(20〜50%)ため、が原則となる2。

この数値の出どころは2つある。1年以上子宮摘出を受けなかった増殖症170例を平均13.4年追跡した研究では、癌への進展は異型なし増殖症122例中2例(1.6%)に対しで11例(23%)であり(P=0.001)、細胞異型の有無が進展を予測する最も有用な基準だった。異型に構築異常(腺の密集・複雑化)が加わる群は特に高リスクとみられている3。生検でとされ12週以内にを受けた289例では、摘出標本の42.6%に癌が併存し、うち30.9%が筋層浸潤を伴っていた4。前者は「将来進展する率」、後者は「すでに癌がある率」であり、意味が違う。

⚠️ 生検診断そのものの再現性が高くない。 同じ289例を専門病理医3名が再評価すると、25.6%が未満、29.1%は既に癌と判定された4。妊孕性温存を検討するときは、まず癌の併存を除外してから方針を決める2。

旧分類名からの用語整理は(旧)、進展したの詳細は子宮内膜・子宮内膜、疾患全般は/内膜増殖症/を参照する。

まとめ

  • 異型なし増殖症の主因はである。
  • 腺・間質比を保ち、細胞異型がないことがEIN・との鑑別点である。
  • 化生は良性変化であり悪性化を意味しない。
  • 悪性化率は異型なしで1〜3%(では1.6%)、EIN・で20〜50%(進展23%、標本での癌併存42.6%)と大きく異なる34。

出典

  1. 1.New classification system of endometrial hyperplasia WHO 2014 and its clinical implications(Przegląd Menopauzalny (Menopause Review)・2017)WHO94分類は腺の構築の複雑さと核異型により、異型なし増殖症(単純型・複合型)と異型増殖症(単純型・複合型)の4群に分けていた。国際婦人科病理学会が承認したWHO 2014分類はこれを良性増殖症と異型増殖症/子宮内膜上皮内腫瘍(EIN)の2群へ整理し、前癌病変の同定においてWHO94より優れる。異型増殖症から子宮内膜癌への進展リスクは8〜29%と見積もられている。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Management of Endometrial Intraepithelial Neoplasia or Atypical Endometrial Hyperplasia: ACOG Clinical Consensus No. 5(American College of Obstetricians and Gynecologists・2023)EIN/異型子宮内膜増殖症に対しては子宮全摘が根治治療である。妊孕性温存を検討する際は先に子宮内膜癌の存在を除外して過少治療を避ける。手術を行わない場合はプロゲスチン療法(経口・子宮内・併用)と綿密な監視を要し、レボノルゲストレル放出子宮内システムは経口プロゲスチン単独より高い退縮率を示す。周期的投与は持続的経口投与より退縮率が低いと示唆される。閲覧 2026-08-24
  3. 3.The behavior of endometrial hyperplasia. A long-term study of "untreated" hyperplasia in 170 patients(Cancer・1985)抄録(PubMed)で確認した。子宮摘出を1年以上受けなかった子宮内膜増殖症170例を平均13.4年(1〜26.7年)追跡した研究で、癌へ進展したのは異型なし増殖症122例中2例(1.6%)に対し、異型増殖症では11例(23%)であった(P=0.001)。細胞異型の有無が判別因子であり、癌化の予測に最も有用な基準(the most useful criterion)であること。構築で細分した単純型1%・複合型3%・単純型異型8%・複合型異型29%の差は傾向にとどまり統計学的に有意ではなかったが、異型に構築異常が加わる群は特に高リスクの亜群とみられると著者が述べていること閲覧 2026-08-24
  4. 4.Concurrent endometrial carcinoma in women with a biopsy diagnosis of atypical endometrial hyperplasia: a Gynecologic Oncology Group study(Cancer・2006)生検で異型子宮内膜増殖症と診断され12週以内に子宮全摘を受けた289例の前向きコホートで、摘出標本に子宮内膜癌が併存したのは42.6%(123例)であり、そのうち30.9%が筋層浸潤、10.6%は筋層外側1/2に及んでいた。専門病理医3名による生検再評価では25.6%が異型増殖症未満、29.1%が既に癌と判定され、生検診断の再現性は限られていた。閲覧 2026-08-24