病理学

病理学 · C/72

子宮内膜炎/内膜増殖症/子宮内膜症

Endometritis, endometrial hyperplasia, endometriosis

応用トピック
子宮体部腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断
疾患
子宮内膜増殖症
症状
月経困難症

🧠 全体像:この3疾患は同じ子宮内膜という組織を異なる角度から傷める——は感染(上行性)、は拮抗されないエストロゲン(増殖の暴走)、は場所の誤り(子宮外への内膜組織の)。3つとも共通して不妊のリスクを増すが、機序はまったく異なる。

子宮内膜炎

定義

発生機序

分類

A)急性

B)慢性

  • 子宮内膜間質内の形質細胞+リンパ球。
  • 形質細胞が診断的特徴。HE染色だけでは形質細胞の同定率が低く、CD138免疫染色を併用すると検出率が上がる(93例の検討でCD138併用27.96% vs HE単独26.89%)1。

臨床像

  • 発熱+腹部・++不妊+。

子宮内膜増殖症

定義

  • 長期のエストロゲン過剰(相対的なプロゲステロン欠乏を伴う)による過剰な。
  • 進行:正常 → 無秩序な増殖 → 増殖症 → (異型)→ 癌。
flowchart TD
    A["正常子宮内膜"] --> B["長期の拮抗されないエストロゲン過剰"]
    B --> C["無秩序な増殖"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endometrial hyperplasia'>子宮内膜増殖症</span>"]
    D --> E["異型を伴う増殖症(EIN)"]
    E --> F["類内膜腺癌"]

原因(エストロゲン過剰)

組織学的鑑別(リスクの鍵)

型 進行リスク 管理
異型なし増殖症 1〜3% 、経過観察
異型を伴う増殖症 20〜50% 子宮摘出(若年患者では高用量も)
  • EIN = 類内膜上皮内腫瘍(類内膜腺癌の)。

💡 この2分類は 2014改訂に基づき、現行の 2020年分類(第5版)でも維持されている2。旧WHO94分類は腺構築(/複合型)×核異型(異型なし/異型あり)で4群に分けていたが、国際婦人科病理学会が承認した 2014分類はこれを異型なし増殖症と/EINの2群へ整理し、の同定精度がWHO94より優れる3。整理の根拠となった代表的な長期では、子宮摘出を受けなかった増殖症170例(平均13.4年追跡)で癌への進展は異型なし群122例中2例(1.6%)に対し異型あり群では11例(23%)で(P=0.001)、細胞異型の有無が癌化を予測する最も有用な基準だった。構築の複雑さで細分した4群(1%・複合型3%・異型8%・複合型異型29%)の差は傾向にとどまり有意ではなかったが、著者は異型に構築異常が加わる群を特に高リスクの亜群とみている4。

⚠️ 上の表の1〜3%・20〜50%と、この1.6%・23%は、同じことを別の研究から取った数字である。前者は診療で広く引かれる概算、後者はKurman 1985の実測値。さらに後年の20年追跡(コホート内、7,947例)では、異型なしの19年が4.6%、異型ありが27.5%と報告されている5——追跡年数が延びれば数字は上がるので、どの研究の何年時点かを外して比べない(に3研究の対比を置いた)。

子宮内膜症

定義

  • 子宮内膜の外に存在する+間質。
  • しばしば多巣性:卵巣、卵管、子宮靭帯、腹腔、リンパ節、遠隔臓器。
  • = 内の子宮内膜(関連疾患)。

疫学

  • 生殖年齢の女性の10%6。
  • 不妊女性の50%。

💡 「良性疾患」だが振る舞いは腫瘍に似る。 は病理学的には良性のとされながら、局所浸潤やアポトーシス抵抗性など癌に似た性質をもつ。型27例のでは24例中19例(79%)にがあり、5例はARID1A・PIK3CA・KRAS・PPP2R1Aという既知の癌を有していたが、この病型自体のリスクはほぼ無いとされる——の存在そのものは悪性の証明にならない6。

発生機序 — 4つの説

  1. 逆流説 — 卵管を通る月経の逆流 → 骨盤内への着床。
  2. 転移説 — 子宮内膜組織が血管+リンパ管を介して広がる。
  3. 化生説 — からの子宮内膜分化。
  4. 幹細胞説 — 循環幹細胞が子宮内膜組織へ分化。

形態

  • は機能する子宮内膜を含み、ホルモンに応じ周期的出血を起こす。
  • 肉眼:赤褐色の結節(「」)。
  • 卵巣病変:血液で満たされた大きな嚢胞 → 血液が古くなると()。
  • 顕微鏡所見の三徴 = +子宮内膜間質+。

臨床像

  • (有痛性月経)+。
  • — 子宮・膀胱漿膜の病変。
  • — 直腸壁の病変。
  • — 膀胱漿膜の病変。
  • 不妊 — 卵管+卵巣の。
  • 悪性リスク:長期のでは卵巣の類内膜・腺癌が生じうる。13のを統合した解析(対照13,226人、浸潤性卵巣癌7,911人)では、の既往が卵巣のリスクを3.05(95%CI 2.43-3.84)で高め(の20.2%に既往があったのに対し対照では6.2%)、(2.04)・(同2.11)のリスク上昇とも関連した。関連は全組織型に一様ではなく、組織型特異的であった7。

子宮内膜症の3つのD

  • (±Dysuria、不妊)

💡 ポイント: :急性(好中球+N. gonorrhoeae/Chlamydia、しばしば産後/)、慢性(形質細胞 = 診断的)→ 不妊+。 = 拮抗されないエストロゲン(PMOS、、肥満、、)、異型を伴う(EIN)= 20〜50% → 類内膜腺癌、異型なし = 1〜3%。 = 子宮外の子宮内膜組織、女性の10%、不妊女性の50%、卵巣の、古典的症状 = +++不妊、4つの発生機序説(逆流 = Sampsonが第1)。

まとめ

  • は急性(好中球、N. gonorrhoeae/Chlamydia)と慢性(形質細胞が診断的、しばしば産後・関連)に分けられ、卵管を傷害し不妊・のリスクとなる。
  • は拮抗されないエストロゲン過剰(PMOS、、肥満、、など)が原因。
  • 異型を伴う増殖症(EIN)は20〜50%が類内膜腺癌へ進行し子宮摘出の対象となるが、異型なしは1〜3%で・経過観察で足りる。
  • 増殖症の分類は 2014以降「異型なし増殖症」と「/EIN」の2群で、 2020でも維持されている。癌化の予測に最も有用なのは細胞異型の有無である(構築異常が加わるとさらに高リスク)。
  • は子宮外に+間質が存在する状態で、生殖年齢女性の10%、不妊女性の50%にみられる。
  • の発生機序には逆流説・転移説・化生説・幹細胞説の4つがある。
  • の古典的3徴は・・(±・不妊)。
  • 卵巣の()は長期化すると類内膜・腺癌のリスクとなる。

出典

  1. 1.Analysis of the diagnostic value of CD138 for chronic endometritis, the risk factors for the pathogenesis of chronic endometritis and the effect of chronic endometritis on pregnancy: a cohort study(BMC Women's Health・2016)生殖補助医療を予定する93例の子宮内膜組織でHE染色とCD138免疫染色を比較した研究で、CD138免疫染色による慢性子宮内膜炎の検出率(27.96%)はHE染色単独(26.89%)より高かったこと。CD138免疫染色は慢性子宮内膜炎の診断率を改善しうること閲覧 2026-08-27
  2. 2.Atypical Endometrial Hyperplasia and Concurrent Cancer: A Comprehensive Overview on a Challenging Clinical Condition(Cancers (Basel)・2024)全文(Europe PMC、PMC10930610)の組織学的分類の節で、WHO 2014分類が子宮内膜増殖症を異型なし増殖症と異型子宮内膜増殖症/EINの2群に分けたこと、この分類の予後予測能・再現性・治療選択との整合を理由に、2群制が2020年版WHO分類でも維持されたと述べていることを確認した閲覧 2026-09-24
  3. 3.New classification system of endometrial hyperplasia WHO 2014 and its clinical implications(Przeglad Menopauzalny (Menopause Review)・2017)WHO94分類は腺の構築の複雑さと核異型により、異型なし増殖症(単純型・複合型)と異型増殖症(単純型・複合型)の4群に分けていた。国際婦人科病理学会が承認したWHO 2014分類はこれを良性増殖症と異型増殖症/子宮内膜上皮内腫瘍(EIN)の2群へ整理し、前癌病変の同定においてWHO94より優れる。異型増殖症から子宮内膜癌への進展リスクは8〜29%と見積もられている閲覧 2026-08-27
  4. 4.The behavior of endometrial hyperplasia. A long-term study of "untreated" hyperplasia in 170 patients(Cancer・1985)抄録(PubMed)で確認した。子宮摘出を1年以上受けなかった子宮内膜増殖症170例を平均13.4年(1〜26.7年)追跡した研究で、癌へ進展したのは異型なし増殖症122例中2例(1.6%)に対し、異型増殖症では11例(23%)であった(P=0.001)。細胞異型の有無が判別因子であり、癌化の予測に最も有用な基準(the most useful criterion)であること。構築で細分した単純型1%・複合型3%・単純型異型8%・複合型異型29%の差は傾向にとどまり統計学的に有意ではなかったが、異型に構築異常が加わる群は特に高リスクの亜群とみられると著者が述べていること閲覧 2026-08-27
  5. 5.Absolute risk of endometrial carcinoma during 20-year follow-up among women with endometrial hyperplasia(Journal of Clinical Oncology・2010)抄録(Europe PMC、PMID 20065186)で、1970〜2002年に子宮内膜増殖症と診断され1年以上リスク集団にとどまった7,947例のコホート内症例対照研究(症例138例・対照241例)で、異型なし増殖症の累積進展リスクが4年1.2%・9年1.9%・19年4.6%(95%CI 3.3-5.8)、異型増殖症では4年8.2%・9年12.4%・19年27.5%(95%CI 8.6-42.5)であり、20年累積進展リスクは異型なしで5%未満、異型ありで28%と結論していることを確認した閲覧 2026-09-24
  6. 6.Cancer-Associated Mutations in Endometriosis without Cancer(The New England Journal of Medicine・2017)子宮内膜症は生殖年齢女性の約10%に生じ、良性の炎症性病変とされながら局所浸潤やアポトーシス抵抗性といった癌に似た性質をもつこと。深部浸潤型子宮内膜症27例のエクソーム解析で24例中19例(79%)に体細胞変異が見つかり、5例はARID1A・PIK3CA・KRAS・PPP2R1Aという既知の癌ドライバー変異を有したこと。それでも深部浸潤型子宮内膜症は悪性転化のリスクがほぼ無い病変であること閲覧 2026-08-27
  7. 7.Association between endometriosis and risk of histological subtypes of ovarian cancer: a pooled analysis of case-control studies(The Lancet Oncology (Ovarian Cancer Association Consortium)・2012)13の症例対照研究を統合した解析(対照13,226人、浸潤性卵巣癌7,911人、境界悪性1,907人)で、自己申告の子宮内膜症既往は明細胞癌のリスク上昇と有意に関連したこと(明細胞癌674例中136例=20.2%が既往あり、対照は13,226人中818人=6.2%、オッズ比3.05、95%CI 2.43-3.84)。類内膜癌(1,220例中169例=13.9%、オッズ比2.04、95%CI 1.67-2.48)・低異型度漿液性癌(336例中31例=9.2%、オッズ比2.11、95%CI 1.39-3.20)とも有意に関連したこと(抄録)。関連は全組織型に一様ではなく組織型特異的であること閲覧 2026-08-27