病理学

病理学 · C/71

子宮頸部の病理

Pathology of the uterine cervix

応用トピック
子宮頸癌の疫学・病因・組織・病期・症状・診断
疾患
子宮頸癌

🧠 全体像:のほぼ全例は()から生じる。ここに感染した高リスクはゲノムに組み込まれてE6がp53を、E7がRBを不活化し→浸潤癌へ進む一方、低リスクは組み込まれずコンジローマ+にとどまる——同じ場所・同じウイルス群でも「組み込まれるか否か」が運命を分ける。

子宮頸部の解剖

  • 子宮頸部 = 腟に連なる子宮の下部の狭い部分。
  • 腟の細菌叢や空気が子宮に入るのを防ぐバリアとして働く。
  • 2つの部分:
    • 頸管 — 外子宮口と子宮腔の間の通路、円柱(腺)上皮に裏打ちされる。
    • — 腟へ突出、扁平上皮に裏打ちされる。
  • (・transformation zone) — 両者が接する部分、にある。
    • 露出した円柱上皮は赤く湿って見える。
    • ここのが、異形成、癌を来す。
    • ここが大部分のの発生部位。

子宮頸管炎

頸管ポリープ

  • 良性増殖:+頸管腺・化生扁平上皮。
  • 慢性炎症に続発。
  • 数cm、軟らかい、を伴う、円柱細胞に裏打ちされる。
  • 慢性炎症 → +。

子宮頸部の腫瘍 — 概要

  • 世界の女性の主要な癌死因の一つ——2024年の推計で新規診断約60.4万例・死亡約28.0万人、女性では罹患第5位・癌死第4位であり、サハラ以南アフリカを中心とする26か国では女性の癌死の第1位である1。
  • かつては女性で最も多い癌、により罹患が劇的に減少、最も成功した癌検診。
  • ほぼすべての浸潤性子宮頸部SCCは()のから生じる。

💡 検診の主軸は細胞診単独から検査(または細胞診との併用)へ移りつつある。 40試験・14万人超を統合したコクランのでは、CIN2以上の検出について検査のプール感度89.9%は通常細胞診62.5%・72.9%より高く、逆にプール特異度は検査89.9%に対し細胞診96.6%・90.3%と検査のほうが低かった——検査は感度が高いぶん特異度は下がるである2。この差は実地の検診政策でも確認されており、スウェーデンで395,725人をした政策試験では、検査ベース検診に招待された群の浸潤リスクが細胞診群より17%低かった(HR 0.83、実際に受検した者では28%低下)一方、・生検紹介はやや増えた(7.5% vs 6.9%)3。の2021年ガイドライン(第2版)は、一次検診にはVIA(酢酸塗布後の)や細胞診ではなく 検査を用いることを強く推奨し(中等度の確実性)、ただし質の保証された細胞診検診は 検査が稼働するまで継続すべきとしている。一般女性では30歳から開始し(強い推奨)、 検査なら5〜10年ごとの間隔を提案している(条件付き推奨)。とともに生きる女性では25歳から3〜5年ごとを提案する4。

  • すべてのCINが浸潤癌に進行するわけではない。

子宮頸部上皮内腫瘍

概要

  • HPV関連の扁平上皮病変のスペクトラム。
  • ピーク発症:約30歳(浸潤癌は約45歳)。

危険因子

  • 初性交年齢が若い
  • 複数の
  • 感染したパートナー
  • 高リスクの
  • 喫煙+免疫不全

組織学的分類

()分類と細胞診カテゴリーの対応の目安を示す。

グレード 組織像 Bethesda
CIN I 軽度異形成、表層の様異型 LSIL
CIN II 中等度異形成、中1/3までの成熟の遅延 HSIL
CIN III ・、全層の異型、なし HSIL

⚠️ Bethesda・・は同じ言葉でも別の体系である。 Bethesdaシステム(ASC-US・・など)は細胞診(塗抹)の報告様式、は(生検・)の分類であり、両者は目的も検体も異なる。2012年の(Lower Anogenital Squamous Terminology)勧告は、外陰・腟・子宮頸部などの下部肛門生殖器全体で組織診断名をの3段階から/の2段階へ統一し、必要に応じて括弧内に・などの旧表記を併記する形にした56。上表の「Bethesda」列は組織診断(/・)に対応する細胞診カテゴリーの目安であり、両者を機械的に一対一対応させてよいわけではない——同じ「」「」という語も、細胞診の結果として使われるかの結果として使われるかで指している検体・確実性が異なる。CIN2の判定は観察者間のが低く、勧告はによる振り分けを推奨している6。

💡 はの判定の再現性を上げる。 子宮頸部円錐生検194例をHE染色とで5人の婦人科病理医が独立判定した研究では、HE単独の診断一致度はkappa 0.60(病変で特に不一致)にとどまったが、p16発現の判定はkappa 0.91まで改善した。p16発現はCIN2/3・高リスク関連CIN1・に限局していた7。

HPVの生物学

  • (16、18、31、45など。) → +浸潤癌:
    • ウイルスゲノムが宿主ゲノムに組み込まれる。
    • E6タンパク → p53を不活化。
    • E7タンパク → RBを不活化。
    • → 細胞周期制御の喪失 → 増殖亢進。
  • (6、11型) → +コンジローマ:
    • ウイルスゲノムは組み込まれない()、。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='squamocolumnar junction'>扁平・円柱上皮境界</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transformation zone (prostate: transition zone)'>移行帯</span>)に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human papillomavirus'>HPV</span>感染"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human papillomavirus'>HPV</span>の型"}
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-risk HPV'>高リスク型</span>(16, 18, 31, 45)"| C["ウイルスゲノムが宿主ゲノムに組み込まれる"]
    C --> D["E6がp53を、E7がRBを不活化"]
    D --> E["細胞周期制御の喪失"]
    E --> F["CIN II/III(HSIL)"]
    F --> G["浸潤<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical cancer'>子宮頸癌</span>"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-risk HPV'>低リスク型</span>(6, 11)"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='episome'>エピソーム</span>のまま(組み込みなし)"]
    H --> I["コンジローマ+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical intraepithelial neoplasia'>CIN</span> I(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-grade squamous intraepithelial lesion'>LSIL</span>)"]

浸潤性子宮頸癌

型

  • 扁平上皮癌(75%)
  • 腺癌(約20%)
  • (約5%)

💡 2020年分類(第5版)はとの関係で癌を分ける。 子宮頸部の上皮性と癌は主に関連であり、扁平上皮癌・腺癌のいずれも関連と非依存に分けて記載する(の定義そのものは変わっていない)。HE形態だけでは両者を区別できないため、ブロック状のが関連の代替指標として勧められる。非常に稀な陰性の扁平上皮癌には既知のがなく、扁平上皮癌では治療・予後の差が無いため「扁平上皮癌NOS」の診断も許容される。これに対し非依存の腺癌(胃型など)は予後が有意に不良で、従来の「腺癌NOS」という診断区分は無くなった。も関連型と、非依存の胃型に分けられる8。

A)扁平上皮癌

  • ほぼすべてが関連、HSILから生じる(非依存型は非常に稀で、既知のがない8)。
  • ピーク発症:45歳。
  • → 疼痛、出血、。
  • 危険因子:早期性交、感染パートナー、の既往、喫煙、高リスク。
  • 予後因子:、腫瘍サイズ、浸潤の深さ、リンパ節転移、子宮内膜への進展。
  • 病期:現行のFIGO 2018病期は、臨床評価に加えて画像・病理所見を病期決定に使える。IA期の水平方向の広がりのは廃止され、IB期は腫瘍の最大径でIB1(2 cm未満)・IB2(2〜4 cm)・IB3(4 cm以上)に分かれる。はIIIC(のみIIIC1、IIIC2)とし、判定法を「r」(画像)・「p」(病理)で付記する9。詳しい病期表と治療はにまとめた。
  • 治療:手術+放射線+放射性(、Brachytherapy)。

B)腺癌

  • 大部分が関連、 = 。
  • 非亜型(、、胃型)→ 進行性( 2020では非依存腺癌としてまとめられ、予後が有意に不良8)。
  • 症状:性器出血、。
  • 進展:骨盤内構造 → → 卵巣、上腹部、遠隔。
  • 病期別生存:I = 79%、II = 37%、III/IV < 9%。
  • 肉眼:・潰瘍性局面・。
  • 顕微鏡:しばしば高分化、、。

進行の経路

正常 → 感染()→ I()→ II/III()→ 浸潤癌

  • LSIL → 70%が。
  • → 数年で浸潤癌への進行リスクがより高い。

💡 ポイント: は()に生じる。高リスク(16、18、31、45) → 組み込み → E6がp53を、E7がRBを不活化 → +浸潤SCC。低リスク(6、11) = コンジローマ+(、組み込みなし)。CIN I = LSILで、CIN II/III = HSIL。 = 最も成功した癌検診。SCC(75%)+腺癌(20%)+小細胞(5%)。リスク:早期性交、複数パートナー、喫煙、高リスクの。

まとめ

  • はほぼ全例が()に生じる。
  • 危険因子は早期性交、複数の、高リスクの、喫煙、免疫不全。
  • 高リスク(16、18、31、45)はゲノムに組み込まれ、E6がp53を、E7がRBを不活化して・浸潤癌へ進む。
  • 低リスク(6、11)はのまま留まり、コンジローマとを来す。
  • 組織学的分類は I=()、 II/III=。
  • は扁平上皮癌(75%)、腺癌(約20%)、(約5%)に分けられる。
  • の70%はするが、は浸潤癌への進行リスクがより高い。
  • は最も成功した癌検診としての罹患を劇的に減少させた。
  • 現行の検診は一次検診を 検査へ移す方向にあり、 2021は 検査を一次検診として強く推奨する(一般女性は30歳から、5〜10年ごとを提案)。
  • 2020年分類は扁平上皮癌・腺癌を関連と非依存に分け、非依存腺癌(胃型など)は予後が有意に不良である。
  • 病期はFIGO 2018(画像・病理所見を利用、IB1〜IB3を腫瘍径で細分、リンパ節転移はIIIC)で評価する。

出典

  1. 1.Global cancer statistics 2024: GLOBOCAN estimates of incidence and mortality worldwide for 34 cancers in 186 countries(American Cancer Society / International Agency for Research on Cancer (IARC)・2026)全文(PMC13343830)で、2024年に子宮頸癌は世界で推計60.4万例(604,196例)が新規に診断され28.0万人(279,583人)が死亡し、女性で罹患第5位・癌死第4位であること、26か国(主にサハラ以南アフリカ)では女性の癌死の第1位であることを確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.Cytology versus HPV testing for cervical cancer screening in the general population(Cochrane Database of Systematic Reviews・2017)20〜70歳の女性14万人超を含む40試験のコクランメタ解析で、CIN2以上の検出について、HPV検査(hybrid capture 2、1 pg/mL閾値)のプール感度は89.9%で通常細胞診62.5%・液状化検体細胞診72.9%より高く、プール特異度はHPV検査89.9%に対し通常細胞診96.6%・液状化検体細胞診90.3%とHPV検査のほうが低かったこと。HPV検査は細胞診より偽陰性が少ない一方、不要な精査紹介を増やすこと閲覧 2026-08-27
  3. 3.Human papillomavirus-based cervical screening and long-term cervical cancer risk: a randomised health-care policy trial in Sweden(The Lancet Public Health・2024)スウェーデンの無作為化医療政策試験(30〜64歳395,725人、8年追跡)で、HPV検査ベース検診に招待された群は細胞診群より浸潤子宮頸癌リスクが17%低かった(HR 0.83、95%CI 0.70-0.98)こと。実際に受検した者では28%低下(HR 0.72)したこと。代償としてコルポスコピー・生検紹介が増えた(7.5% vs 6.9%)こと閲覧 2026-08-27
  4. 4.WHO guideline for screening and treatment of cervical pre-cancer lesions for cervical cancer prevention, second edition(World Health Organization・2021)全文PDF(IRIS、115頁)の推奨表で、推奨1「一般女性・HIVとともに生きる女性の双方で、一次検診にはVIAや細胞診ではなくHPV DNA検出を用いる」が強い推奨・中等度の確実性であり、質の保証された細胞診を一次検診とする既存プログラムはHPV DNA検査が稼働するまで継続すべきとの注記があること。一般女性では定期検診を30歳から開始する(推奨5、強い推奨)、HPV DNA検査を一次検診とする場合の間隔は5〜10年ごとを提案(推奨8、条件付き推奨・低い確実性)、HIVとともに生きる女性では25歳から開始し3〜5年ごと(いずれも提案)であることを確認した閲覧 2026-09-24
  5. 5.The Lower Anogenital Squamous Terminology Standardization Project for HPV-Associated Lesions: background and consensus recommendations from the College of American Pathologists and the American Society for Colposcopy and Cervical Pathology(Archives of Pathology & Laboratory Medicine・2012)米国病理学会(CAP)と米国コルポスコピー・子宮頸部病理学会(ASCCP)が2012年に合意した LAST 勧告は、下部肛門生殖器のHPV関連扁平上皮病変の組織診断用語を全部位で統一し、バイオマーカーの適切な使い方を併せて定めたこと閲覧 2026-08-27
  6. 6.Revised terminology for cervical histopathology and its implications for management of high-grade squamous intraepithelial lesions of the cervix(Obstetrics & Gynecology・2012)LAST勧告は外陰・腟・子宮頸部・陰茎・肛門周囲・肛門のすべてで低異型度/高異型度扁平上皮内病変(LSIL/HSIL)の二段階用語を用い、必要に応じて括弧内にCINなどのintraepithelial neoplasia表記を併記すること。従来CIN 2と診断されていた病変の振り分けと、HSILと良性の類似病変との鑑別にp16免疫染色を推奨していること閲覧 2026-08-27
  7. 7.p16INK4a Immunohistochemistry Improves Interobserver Agreement in the Diagnosis of Cervical Intraepithelial Neoplasia(The American Journal of Surgical Pathology・2002)子宮頸部円錐生検194例をHE染色とp16免疫染色の連続切片で5人の経験豊富な婦人科病理医が独立に判定した研究で、HE単独の診断一致度はkappa値0.60(95%CI 0.58-0.63、低異型度病変で特に不一致が目立つ)にとどまったが、p16発現の判定はkappa値0.91(95%CI 0.84-0.99)と有意に高い一致度を示したこと。p16発現はCIN2/CIN3、高リスクHPV関連CIN1、子宮頸癌に限局していたこと閲覧 2026-08-27
  8. 8.2020 WHO Classification of Female Genital Tumors(Geburtshilfe und Frauenheilkunde・2021)全文(PMC8494521)の子宮頸部の節で、WHO 2020年分類(第5版)ではCINに変更が無いこと、上皮内腺癌をHPV関連型とHPV非依存の胃型(g-AIS)に分けること、子宮頸部の上皮性前癌病変・癌は主にHPV関連で、非常に稀なHPV陰性扁平上皮癌には既知の前駆病変が無いこと、HE形態だけでは両者を区別できないためp16免疫染色を勧めるが治療・予後の差が無いので扁平上皮癌NOSの診断も許容すること、腺癌もHPV関連とHPV非依存に分け、HPV陰性腺癌は予後が有意に不良で、従来の腺癌NOSという診断区分は無くなったことを確認した閲覧 2026-09-24
  9. 9.Revised FIGO staging for carcinoma of the cervix uteri(International Journal of Gynecology & Obstetrics (FIGO Gynecologic Oncology Committee)・2019)抄録(Europe PMC、PMID 30656645)で、改訂の目的が画像・病理所見と腫瘍径・進展の臨床評価を病期に取り込むことであり、IA期は水平方向の広がりの計測を廃止、IB期は3亜群(IB1:2 cm未満、IB2:2〜4 cm、IB3:4 cm以上)に分け、後腹膜リンパ節転移は画像または病理で評価して転移があればIIIC(骨盤リンパ節のみIIIC1、傍大動脈リンパ節IIIC2)とし、判定法を「r」(画像)・「p」(病理)で付記すること、改訂病期はあらゆる資源水準で適用可能としていることを確認した。全文はWiley側で取得していない閲覧 2026-09-24