病理学

病理学 · C/70

外陰・膣の疾患

Diseases of the vulva and vagina

応用トピック
外陰・腟・卵巣腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断
薬剤
ジエチルスチルベストロール
疾患
乳房外Paget病腟明細胞腺癌

🧠 全体像:外陰・腟の病変は「感染性かか」、そして扁平上皮癌では「関連か非依存か」( 2020年分類の区分)という2つの対比軸で整理すると崩れにくい。関連は比較的若く予後良好、非依存(を背景に分化型VINから)は高齢で進行しやすく予後不良という対比が繰り返し現れる。

外陰 — 外陰炎

定義

  • 女性外性器(、、)の炎症。

A)接触皮膚炎

  • 外因性の原因への。
  • 接触刺激性:石鹸、、。
  • 接触アレルギー性:、香水。
  • 外陰掻痒の最多原因。

B)細菌感染

  • (N. gonorrhoeae)— 腟を除く婦人科系全体を侵す(は小児のみ)、不妊を来す。
  • 梅毒(T. pallidum)— 、二次性。

C)ウイルス感染

D)真菌

  • カンジダ症(Candida albicans)— 、白い斑+(濃い白〜黄色の分泌物)+掻痒。

非腫瘍性上皮疾患

  • 外陰粘膜:萎縮性の菲薄化またはの肥厚。
  • 肉眼:白い病変 → 。

A)硬化性苔癬

  • 自己免疫性と考えられている慢性炎症性疾患で、皮膚の萎縮とを特徴とする1。
  • 表皮の菲薄化+真皮線維化()+真皮炎症(帯状の)1。
  • 時間とともに融合する平滑な白色局面・丘疹。
  • 女性の発症は8〜13歳()と40〜50歳代(閉経前後〜閉経後)の二峰性で、診断時の平均年齢は52〜60歳1。
  • 未治療ではが進み、腟口の狭窄・の癒合と吸収など外陰の構造が失われる1。
  • 非依存の扁平上皮癌リスク増加(外陰では最大約5%と推定される。それ自体はではない)1。

⚠️ 講義資料はとの記述の一部を入れ替えて載せている。「慢性刺激()の結果」「」はの特徴で、「と閉経後に多い」「萎縮・硬化で腟口が狭くなる」はの特徴である12。

💡 リスク増加は数字で押さえる。 デンマークの全国病理登録では、生検で確認されたの女性は一般女性人口に比べ外陰高度扁平上皮のが8.5、扁平上皮癌が16.2と高く、この比は追跡期間の長さによって大きく変わらなかった(=リスクは診断早期に限らず持続する)3。

B)慢性単純性苔癬

  • 習慣的な・摩擦の結果として表皮が肥厚する慢性で、湿疹・乾癬など他の皮膚疾患に続発することもある2(講義資料は「多くの炎症性皮膚疾患の終末段階」と表現する)。
  • ++の拡大2。
  • 臨床:。
  • 扁平上皮癌・へのはまれに報告されている程度である2。
  • 独立の疾患ノート:。

外陰腫瘍

A)Bartholin腺嚢胞

  • Bartholin腺は腟を潤滑する粘液を分泌。
  • 導管閉塞 → 液体充満嚢胞 → 感染すると膿瘍。講義資料はなどの炎症後を強調するが、閉塞は多くの場合はっきりした原因なく起こり、膿瘍の起因菌はブドウ球菌・レンサ球菌・大腸菌など腟・頸管の常在菌によるが普通である4。
  • 生殖年齢に最も多い。嚢胞は通常片側性で、大きくなるか感染しない限り痛まない。膿瘍は疼痛・腫脹・圧痛を来し、嚢胞の約3倍多い4。
  • 40歳を超える患者やな所見では、悪性腫瘍を除外するため生検を考慮する。Bartholin腺癌はの2%未満と極めてまれで、通常は閉経後に診断され、最も多いのは扁平上皮癌である(講義資料はを挙げている)4。

B)コンジローマ

  • 肛門性器の疣贅、湿潤な外陰環境で大きくなる。
  • 原因:低リスク(HPV 6/11)。
  • 2つの型:
    • — 二期梅毒、平坦でわずかに隆起。
    • — 性感染症、、組織像:++。
  • ではない(低リスク)が、上皮内腫瘍(講義資料のVIN1。 2020年分類の用語では扁平上皮内病変=)・と共存しうる5。

C)外陰扁平上皮癌(外陰癌の90%)

  • 平均年齢60〜74歳。
  • 2つの経路。 2020年腫瘍分類は、を関連と非依存に分けて報告するよう勧めている。HE染色の形態だけでは20〜30%で判定を誤るため、(ブロック状の強陽性)が関連の代替指標として使われる5。
特徴 関連SCC 非依存SCC
割合 約40% 50〜60%
年齢 より若い(40〜60歳)、喫煙者 高齢女性(50〜70歳)
外陰(講義資料のVIN II/III)、高リスク(HPV-16) 非依存VIN(主に分化型VIN=dVIN)。背景に(数年)
分子・免疫染色 p16陽性 p53異常
組織型 非角化型が多い 角化型が80〜90%
進行 緩徐、進行は少ない 頻繁に進行
予後 より良い(5年89%) 不良(同75%)

割合・年齢・免疫染色・組織型・は 2020年分類の解説論文の表による。同じ表はp16陰性・p53野生型の第3群(約20%)も挙げるが、この群はデータ不足のため 2020年分類には含まれていない5。講義資料は非依存型について「VINの典型的な細胞変化を欠くことが多い」と書くが、これは関連のVIN()にみられる変化を欠くという意味で読む。非依存型にも分化型VINというがある6。

💡 「VIN」という呼称も2型に分かれる。 関連のはusual type VIN(外陰)、非依存のは分化型VIN(dVIN)と呼ばれ、dVINはを背景に生じる。dVINは浸潤癌への進展リスクが高くかつ進展が速く、dVIN由来のは(usual type VIN)由来のものより再発リスク・死亡率がともに高い6。

D)乳房外Paget病

💡 「表皮内が主だが再発が多い」を数字で押さえる。 のでは、外陰型の70.3%がにとどまるにもかかわらず約3分の1でが行われており、それでも34%が再発した(再発の89.4%は皮膚・粘膜内にとどまる)。診断までの遅れも平均25.1か月と長い7。

腟

  • 原発疾患の部位となることは稀、通常は隣接癌・感染により二次的に侵される。

腟炎(感染性の原因)

  • (白〜黄色の分泌物)を生じる。
  • しばしばが免疫不全・抗菌薬・で病原性を帯びる。
病原体 特徴
Candida albicans 酵母、、白い「カッテージチーズ」様分泌物・掻痒
Trichomonas vaginalis() 大型の、灰緑色の泡状、「イチゴ状子宮頸部」、粘膜のみの炎症
Gardnerella vaginalis 、灰色でい分泌物、

腟腫瘍

A)+SCC

  • 極めて稀、通常60歳超。
  • VAINは関連の。
  • 腟の浸潤性SCC = 50%超が関連。とくに非角化型と、腟の上部・中部3分の1に生じるものが関連で、 2020年分類は腟でも関連/非依存の区別を記載するよう勧めている5。

B)

  • 若年女性、10代後半〜20代前半。
  • 古典的関連:妊娠中の母体曝露。した娘4,536人のコホートでは腟明細胞腺癌のが40.7に上った一方、それ以外の癌の増加はみられなかった8。
  • 時に30〜40歳代で発症。
  • 約1/3が子宮頸部に生じる。
  • 腟アデノーシス — 小さな腺・の封入、の赤い巣から生じる。

💡 ポイント: :(掻痒の第1位)、、潰瘍、カンジダ症(+)。:(表皮菲薄+自己免疫+と閉経後の二峰性+腟口狭窄 → SCCリスク増加)と(による+)。Bartholin嚢胞 = 導管閉塞(膿瘍は)、40歳超は生検を考慮。 = HPV 6/11+。外陰SCC:関連(より若い、HPV-16、外陰、p16陽性、予後良好)と非依存(高齢、・分化型VIN、p53異常、不良)。 = 子宮内DES曝露、 = 腟アデノーシス。 = イチゴ状子宮頸部+灰緑色分泌物。

まとめ

  • の最多原因はで、細菌性(・梅毒)、ウイルス性(、)、真菌性()も鑑別に挙がる。
  • (と閉経後の二峰性、自己免疫性、萎縮と腟口狭窄、非依存SCCのリスク)と(による)はいずれもとして現れるである。
  • は 2020年分類で関連(比較的若年、HPV-16、外陰、予後良好)と非依存(高齢、・分化型VINから、予後不良)の2経路に分けられ、非依存型のほうが多い。
  • Bartholin腺嚢胞は導管閉塞による嚢胞で、痛むのは主に感染して膿瘍になったときである。40歳を超える例や非典型例では、まれなBartholin腺癌を除外するため生検を考慮する。
  • 腟の疾患は原発性より隣接臓器からの二次性が多く、では(曝露と関連)が特徴的である。
  • の主な原因はカンジダ(白いカッテージチーズ様分泌物)、(イチゴ状子宮頸部)、Gardnerella()である。

出典

  1. 1.Lichen Sclerosus(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)最終更新2023年7月31日の版(Wayback の2025年2月保存版)で、硬化性苔癬が皮膚の萎縮と低色素を特徴とする粘膜皮膚の自己免疫性疾患と考えられていること、女性の発症は8〜13歳と第5・第6の10年代(40〜50歳代)の二峰性で診断時の平均年齢は52〜60歳で、陰部に85〜98%が生じること、組織像は正角化性角質増殖の下の真皮浮腫・硝子化の帯と、その下の帯状リンパ球浸潤であること、未治療では腟口の狭窄・小陰唇の癒合と吸収など外陰の構造の喪失に至ること、前癌状態そのものではないが陰部の硬化性苔癬は扁平上皮癌のリスクを高め、外陰では最大約5%と推定されることを確認した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Lichen Simplex Chronicus(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)最終更新2023年8月7日の版(Wayback の2026年6月保存版)で、慢性単純性苔癬が習慣的な掻破・摩擦の結果として表皮が肥厚する慢性神経皮膚炎で、陰部を含む手の届く部位に生じること、組織像が角質増殖・顆粒層の目立つ肥厚・表皮突起の延長・表皮肥厚であること、扁平上皮癌や疣状癌への悪性転化がまれに報告されていることを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Biopsy-verified vulvar lichen sclerosus: Incidence trends 1997-2022 and increased risk of vulvar squamous precancer and squamous cell carcinoma(International Journal of Cancer・2024)デンマークの全国病理登録を用いた研究で、生検で確認された外陰硬化性苔癬の女性は一般女性人口に比べ、外陰高度扁平上皮前癌病変の標準化罹患比が8.5(95%信頼区間7.2〜10.0)、扁平上皮癌が16.2(14.2〜18.4)と有意に高いこと。これらの標準化罹患比は追跡期間の長さによって大きく変わらなかったこと閲覧 2026-08-27
  4. 4.Bartholin Gland Cyst(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)最終更新2025年8月19日の版(Wayback の2026年6月保存版)で、Bartholin腺嚢胞・膿瘍は生殖年齢に最も多く、嚢胞は通常片側性・無症状で大きくなるか感染しない限り痛まない一方、膿瘍は疼痛・腫脹・圧痛を来し嚢胞の約3倍多いこと、閉塞は多くの場合明らかな原因なく起こること、膿瘍は通常ブドウ球菌・レンサ球菌・大腸菌など腟・頸管の常在菌による多菌性であること、Bartholin腺癌は極めてまれで外陰癌の2%未満、通常は閉経後に診断され最も多いのは扁平上皮癌であること、40歳を超える患者や非典型的な所見では悪性腫瘍を除外するため生検を考慮することを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 5.2020 WHO Classification of Female Genital Tumors(Geburtshilfe und Frauenheilkunde・2021)全文(PMC8494521)で、WHO 2020年女性生殖器腫瘍分類(第5版)が下部生殖器の扁平上皮癌をHPV関連とHPV非依存に分けることを重視し、所見報告に記載するよう勧めていること、外陰上皮内腫瘍もHPV関連(低異型度=VIN 1相当のLSIL、高異型度=VIN 2・3相当のHSIL)とHPV非依存(分化型VIN〔dVIN〕のほか、DEVIL・VAADといった形態)に分けること、p16免疫染色がHPV関連の代替指標となりHE形態だけでは20〜30%で判定を誤ること、Table 1でHPV関連型が外陰扁平上皮癌の約40%・40〜60歳・前駆病変HSIL・予後良好、HPV非依存型が50〜60%・50〜70歳・p53異常・角化型80〜90%・予後不良(5年疾患特異的生存率89%対75%)と整理していること、同じ表が挙げるp16陰性・p53野生型の第3群(約20%)はデータ不足のためWHO 2020年分類に含まれていないと本文が述べること、腟の扁平上皮癌も大半はHPV関連(とくに非角化型と上部・中部3分の1)で、WHOは腟でもこの区別を記載するよう勧めることを確認した。閲覧 2026-09-24
  6. 6.Clinical and molecular classification of vulvar squamous pre-cancers(International Journal of Gynecological Cancer・2019)外陰上皮内腫瘍がusual type(外陰高異型度扁平上皮内病変:HSIL、HPV関連)と分化型(dVIN、HPV非依存で硬化性苔癬としばしば関連)に分けられること。dVINは外陰扁平上皮癌へ進展するリスクが高くかつ進展が速いこと。さらにdVIN由来の外陰癌はHSIL由来のものより再発リスクが高く死亡率も高いこと閲覧 2026-08-27
  7. 7.Anatomic Subtype Differences in Extramammary Paget Disease: A Meta-Analysis(JAMA Dermatology・2024)乳房外Paget病のメタ解析で、外陰型の多くが無症状で診断までの遅れが平均25.1か月であること。外陰型の70.3%が表皮内病変にとどまるにもかかわらず約3分の1で根治的手術が行われていたこと。それでも34%が再発し、再発の89.4%は皮膚・粘膜内にとどまっていたこと閲覧 2026-08-27
  8. 8.Cancer Risk in Women Exposed to Diethylstilbestrol In Utero(JAMA・1998)1970年代に登録されたDES胎内曝露娘4,536人(81%が回答)を平均16年追跡したコホート研究で、腟明細胞腺癌が3例発生し、一般人口の罹患率と比較した標準化罹患比は40.7(95%CI 13.1-126.2)であったこと。DES曝露娘は明細胞腺癌以外の癌種では全体として罹患リスクの増加を認めなかったこと閲覧 2026-08-27