組織病理学

組織病理学 · H1-086

肺癌性リンパ管症

Lymphangiosis carcinomatosa pulmonis

疾患
癌性リンパ管症肺腫瘍塞栓

🧠 全体像:肺(pulmonary lymphangitic carcinomatosis)は、癌細胞が肺のリンパ管内へ進展して閉塞・を起こす転移様式である。名称に「」と付くことがあるが、感染性炎症ではなく腫瘍性リンパ管侵襲が本態である。

病変の分布

肺リンパ管は、、周囲に分布するため、癌細胞が充満するとこれらの部位が状に肥厚する。

部位 所見
リンパ管内腫瘍と
胸膜リンパ管内の
周囲 間質の・浮腫・線維化
肉眼 灰白色の細い状肥厚としてみえうる
肺実質 進行例では広範な

💡 この分布は所見としてそのまま読める。 21例のと生検・剖検・標本を対比した研究では、の不均一な肥厚・孤立した間質線の肥厚・多角形のがとして挙げられ、写真が正常または非特異的でもでは認められうるとされた。さらに、少なくとも早期にはこれらの所見の病理学的基盤が浮腫や線維化ではなくリンパ管内のそのものにあると考えられている1。「不均一」「」という形容が肺水腫との分かれ目になるのはこのためである。

flowchart TD
    A["原発癌"] --> B["血行性または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphatic'>リンパ行性</span>に肺へ到達"]
    B --> C["肺リンパ管内へ腫瘍細胞が進展"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymph flow'>リンパ流</span>の閉塞"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interstitial edema'>間質浮腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='desmoplastic (fibrous) reaction'>線維性反応</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interlobular septum'>小葉間隔壁</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bronchovascular bundle'>気管支血管束</span>の肥厚"]
    F --> G["呼吸困難・低酸素血症"]

原発巣

比較的多い原発癌 補足
乳癌 代表的な
肺癌 原発肺癌から肺管へ進展しうる
胃癌・大腸癌 消化管原発からも生じる
重要な
前立腺癌 頻度は上記より低いが生じうる

女性なら乳癌、男性なら肺癌と一律に決めず、既往、画像、組織形態、からを推定する。実際、が6か月以上持続した10例の内訳は乳癌6例・卵巣癌2例・1例・1例で、上の表に載らないも現に含まれる2。

「炎症」と「胸水」の補正

は、腫瘍細胞によると反応性間質変化が中心であり、感染性ではない。呼吸困難はによるやから生じる。胸水はやを伴う場合にみられるが、必発ではなく、単に「炎症が液体を産生する」と説明しない。

💡 呼吸機能の落ち方は「どの間質が侵されたか」で決まる。 20例のと肺機能を対比した研究では、所見は一様ではなく、20例中15例は(周囲)の著明な肥厚に対し(・)の肥厚は軽微または認めず、両者とも著明が3例、末梢性優位が2例だった。そしてとの著明な障害が生じたのは、びまん性かつ末梢性のを示した症例である3。標本でがびまん性に侵されているかどうかが、そのままの重さに対応する。

💡 「慢性に経過している=ではない」とは言えない。 が6か月以上続いた10例では、発症後の生存が11〜30か月(中央値13か月)に及び、化学療法で画像と症状が当初改善した症例が6例あった。全例が4か月以上にわたり画像所見の安定または緩徐な進行の時期をもち、それでも・剖検ではリンパ管内腫瘍が残存していた2。画像がで動かないことを、を否定する根拠に使わない。

鑑別

病変 鑑別点
肺水腫 リンパ管内腫瘍を欠き、心不全などの背景を伴う
・線維化が主体で、を欠く
小動脈・細動脈内の腫瘍が主体
を示し、リンパ管内癌細胞を欠く

でリンパ管腔を示し、で腫瘍細胞を確認することが診断補助になる。

まとめ

  • 肺癌性リンパ管症は癌細胞による肺リンパ管内進展である。
  • 、、周囲が状に侵される。
  • 呼吸困難はとによるで説明する。
  • 胸水は併存しうるが必発ではなく、感染性炎症と混同しない。

出典

  1. 1.Pulmonary lymphangitic carcinomatosis: CT and pathologic findings(Radiology・1988)癌性リンパ管症21例のCTと生検・剖検・肺葉切除標本の対比から、気管支血管束の不均一な肥厚・孤立した間質線の肥厚・多角形の線(polygonal lines)という特徴的なCT所見が得られること、これらの所見は胸部単純X線写真が正常または非特異的であってもCTでは認められうること、少なくとも早期にはこれらのCT所見の病理学的基盤が浮腫や線維化ではなくリンパ管内の腫瘍塞栓にあると考えられることを確認した。閲覧 2026-08-24
  2. 2.Pulmonary lymphangitic carcinomatosis: chronicity of radiographic findings in long-term survivors(AJR American Journal of Roentgenology・1995)癌性リンパ管症が6か月以上持続した10例(原発は乳癌6例・卵巣2例・膵1例・皮膚1例)で、癌性リンパ管症発症後の生存が11〜30か月(中央値13か月)に及んだこと、化学療法により画像所見と呼吸器症状が当初改善したのが6例・増悪2例・不変2例で、全例が4か月以上にわたり画像所見の安定または緩徐な進行の時期をもったこと、経気管支生検や剖検で治療にもかかわらずリンパ管内腫瘍が残存していたこと、したがって画像所見が慢性に経過することは癌性リンパ管症を否定する根拠にならないことを確認した。閲覧 2026-08-24
  3. 3.CT findings in lymphangitic carcinomatosis of the lung: correlation with histologic findings and pulmonary function tests(AJR American Journal of Roentgenology・1992)確診された癌性リンパ管症20例のCT所見が一様ではなく、20例中15例では中心性間質(axial interstitium)の著明な肥厚に対し末梢性間質(peripheral interstitium)の肥厚は軽微または認めず、両者とも著明が3例、末梢性優位が2例であったこと、これらのCT所見が組織所見と対応したこと、肺活量と肺胞気動脈血酸素分圧較差の著明な障害はびまん性かつ末梢性間質肥厚を示す症例に生じ、肺機能障害の程度がCT所見から予測できることを確認した。閲覧 2026-08-24