内科学

内科学 · L-77

肝臓の良性・悪性腫瘍

Benign and malignant tumors of the liver

前提:病態
肝腫瘍・腫瘍様病変肝硬変
疾患
肝細胞癌

🧠 全体像:肝腫瘤は嚢胞性/、肝硬変など高リスク背景、造影ダイナミックパターンで整理する。典型的な血管腫・は経過観察、は出血・癌化リスクで治療を選ぶ。悪性ではが最も多く、原発性では()が中心である。

良性・嚢胞性病変

病変 画像・リスク 管理
薄壁、、USで 無症状は不要。症候性ならなど
多嚢胞性肝疾患 多発嚢胞、腎病変を伴いうる 症状に応じ誤嚥+、開窓、切除、重症例で移植
末梢結節状から中心へ次第に 典型像・無症状なら治療不要。典型像なら生検は不要だが「禁忌」ではない(・ブラジル肝臓学会は出血リスクを理由に勧めず、は正常が介在していれば禁忌ではないとする)1
(FNH) 均一な、、肝細胞特異的造影剤取込み 典型像なら追跡・治療不要。経口避妊薬との因果は確立しない
(HCA) エストロゲン、、肥満・代謝疾患。脂肪・出血を含みうる。2017年のBordeaux分類で8亜型 原因薬中止・減量(:強い推奨)。男性とβ-カテニン変異証明例は大きさを問わず切除。女性は6か月の生活介入後、5 cm前後が持続するか径の20%以上増大すれば分子・組織亜型によらず切除。5 cm未満で安定なら1年後・以後年1回の画像21

💡 は「良性」で片づけられない亜型を含む。 Bordeaux分類の8亜型のうち3つが高リスクで、β-カテニンexon 3(純型ßex3-HCAと炎症性混合型ßex3-IHCA)は、sonic hedgehog型とβ-カテニンexon 7/8は出血のリスクを負う。は最大80%を亜型分類できるが、所見が不明瞭なら生検がである2。男性のHCAを大きさを問わず切除するのは、このリスクが男性で高いためで、女性の径基準とは別の根拠に立つ。

⚠️ 「5 cm」の不等号はの文書内で割れている。 推奨欄は「5 cm以上」(西 igual o superior a 5 cm/仏 égale ou supérieure à 5 cm)、本文と管理アルゴリズムの図4は「5 cmを超える」(西 superior a 5 cm/仏 supérieure à 5 cm)で、境界ちょうどの症例がどちらに落ちるかは文書から一意に決まらない。スペイン語版・フランス語版の2版で同じ割れ方なので翻訳由来ではない1。2024年の総説は一貫して「5 cmを超える」側の書き方を採る2。5 cm前後は切除を検討する閾値と幅を持って覚え、不等号の1点で判断を分けない。 なお出血して血行動態が不安定なときの第一段階は切除ではなく塞栓術である1。

ではUS//と血清学を組み合わせる。は主にEchinococcus granulosusによって生じ、病期に応じ、(puncture-aspiration-injection-reaspiration)、手術、経過観察を選ぶ。無計画な穿刺は内容物漏出・アナフィラキシーを招く。は主にE. multilocularisによって生じ、浸潤性に増殖するため完全切除+長期を目指す。

肝細胞癌

肝硬変、慢性/、アルコール関連肝疾患、代謝機能障害関連、、などがリスクである。対象リスク群は腹部US+を6か月ごとに行う3。

flowchart TD
    A["高リスク患者への6か月ごとの経過観察"] --> B{"US病変 ≥1 cmまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha-fetoprotein'>AFP</span>異常"}
    B -->|"はい"| C["多相造影CTまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>"]
    C --> D{"典型的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial phase'>動脈相</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperchromasia; strong (contrast) enhancement'>濃染</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='washout'>ウォッシュアウト</span>か"}
    D -->|"はい"| E["高リスク背景では非侵襲的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular carcinoma'>HCC</span>診断"]
    D -->|"いいえ"| F["別の画像<span class='jp-term jp-term-diagram' title='modality'>モダリティ</span>または生検を個別検討"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor burden'>腫瘍量</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic functional reserve'>肝予備能</span>・PSで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic options'>治療選択</span>"]

単独では診断できない。肝硬変などリスク背景では典型的なで生検せず診断できる。

💡 生検なしで診断できるのは、高リスク背景でが高いからである。 v2018を用いた14研究2,708病変のでは、LR-5の診断能は感度70%・特異度91%で、実際にであった割合はLR-5で95%、LR-4で64%、LR-3で31%、LR-1・LR-2で0%であった4。特異度が高く感度は高くないため、LR-5は「これはだ」と言うのには足りるが、LR-5でないことはの除外にならない。また同じ画像所見でも肝硬変などの背景が無ければこの精度は成り立たない。

治療はBarcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)などで、/、門脈圧、全身状態(performance status、PS)を統合する。BCLCは2022年に改訂され、2018年の更新以降のの進歩を取り込んだ。ただし改訂版自身が、有望でもモデルへ組み込むには時期尚早なデータがあること、分類だけでは個々の患者の判断は決まらないことを明記している5。

⚠️ BCLCは2026年に再改訂された6。解説論文によれば、5段階の病期構造と「各病期を根拠に基づく一次治療に対応づける」骨格は維持され、主な変更点は次のとおりである——中(B)の多発の定義を「4個以上、または3個以下でも1個以上が3 cmを超える」と明確化した。の補助指標としてALBIスコアを、予後因子・移植適応の判断材料としてを位置づけた(1,000 ng/mL以上はによらず通常は移植の適応外)。(C)の一次治療は+、+、+、カムレリズマブ+リボセラニブなどの免疫療法併用をより優先し、直接比較が無いため順位は付けない。中ではTACEが引き続き標準である。意思決定には・不確実性・主観性・感情を明示するCUSEの枠組みを組み込んだ7。原典(2026年版)の全文は取得できていないため、2022年版に基づく記述を2026年版で逐語確認したものではない。

病期・条件 主な治療
早期、肝機能良好 、
移植基準内または可能
中 化学塞栓術(transarterial chemoembolization、TACE)など
・病変・進行例 を含むなど

⚠️ 進行の一次治療は、から免疫療法併用へ移った。 IMbrave150試験で+がに対し・無増悪生存とも有意に改善し8、HIMALAYA試験ではSTRIDEレジメン(単回300 mg+4週ごと)がに対しを延長した9。は2007年以来10年以上唯一の一次治療だったが、現在は主に併用免疫療法が使えない場合の選択肢である。は出血リスクがあるため、静脈瘤の評価と処置を先に済ませる。

その他の悪性腫瘍

はで、ならが唯一の根治手段である。例では+シスプラチン+免疫療法などを用い、FGFR2融合、IDH1変異など分子異常を検索する。は一般的標準ではない。

は肝で最も多く、大腸、膵、胃、乳房、肺、などが原発となる。原発癌の、病変、病変分布、の血流・胆道・機能でを判断する。とくに大腸癌は切除・と全身治療で長期生存や治癒を目指せるため、「切除は予後を変えない」と一括しない。

まとめ

  • 典型的FNH・血管腫は原則経過観察、HCAは性別・径・増大・で治療する。HCAの径の閾値「5 cm」は、の推奨欄が「5 cm以上」、本文と図4が「5 cmを超える」と文書内で割れているので、境界ちょうどの1点で判断を分けない。1
  • の経過観察はリスク群へ6か月ごとのUS+、診断はが中心である。
  • でも、特に大腸癌・ではを多職種で評価する。

出典

  1. 1.EASL Clinical Practice Guidelines on the management of benign liver tumours(European Association for the Study of the Liver・2016)英語原文は出版社サイトが403を返すため、EASLがeasl.euで公開している公式スペイン語版・フランス語版PDFで照合した(英語の逐語はOAの範囲確認レビュー PMC8351490 の表3・表4が転記している)。肝細胞腺腫について、全例に経口避妊薬の中止と減量を勧め(根拠II-2、推奨の強さ1)、男性とβ-カテニン変異が証明された例は大きさによらず切除(II-3、強さ2)、女性は生活習慣の変更後6か月の観察を置いて切除の適応を判断し(II-3、強さ2)、5 cm未満は1年後に再評価し以後年1回の画像(III、強さ2)、出血して血行動態が不安定ならまず塞栓術を行い追跡画像の生存病変が切除の適応(III、強さ2)とする。⚠️ 「5 cm」の不等号は文書内で割れており、推奨欄は西 "igual o superior a 5 cm"/仏 "égale ou supérieure à 5 cm"(5 cm以上)、本文と管理アルゴリズムの図4は西 "superior a 5 cm"/仏 "supérieure à 5 cm"(5 cmを超える)である。公式スペイン語版・フランス語版の2版で同じ割れ方なので翻訳由来ではない。本文は増大の判定をRECIST基準に倣った径の20%以上の増大とし、切除の適応は分子・組織亜型によらないと明記する。限局性結節性過形成は治療を推奨せず(II-3、強さ2)、典型像なら基礎に血管性肝疾患がない限り追跡も不要とする。肝血管腫では、画像で診断を確定できないときの経皮生検について、被膜と病変縁のあいだに正常肝実質が介在していれば針生検は禁忌ではないとする(全体正診率96%)。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Hepatocellular adenoma update: diagnosis, molecular classification, and clinical course(The British Journal of Radiology・2024)2017年のBordeaux分類は肝細胞腺腫を表現型・遺伝子型から8亜型に分けた(HNF1α変異型、β-カテニン変異型、いずれの変異も無い型をさらに炎症性の有無で細分)。8亜型のうち3つが高リスク病変で、β-カテニンexon 3変異型(純型ßex3-HCAおよび炎症性混合型ßex3-IHCA)は悪性転化、sonic hedgehog型とβ-カテニンexon 7/8変異型(ßex7/8-HCA、ßex7/8-IHCA)は出血のリスクを持つ。したがって組織学的検討なしに「純粋に良性」と分類してはならない。待機的手術は**男性のあらゆる肝細胞腺腫、または5 cmを超えるあらゆる肝細胞腺腫**に推奨される。MRIは腺腫の最大80%を分類できるが、所見が不明瞭なら亜型決定の基準検査は生検である。閲覧 2026-08-25
  3. 3.AASLD Practice Guidance on prevention, diagnosis, and treatment of hepatocellular carcinoma(American Association for the Study of Liver Diseases (AASLD)・2023)肝硬変などのハイリスク集団に対する肝細胞癌サーベイランスは6か月ごとの腹部超音波を基本とし、AFPを併用する。閲覧 2026-08-25
  4. 4.CT and MRI Liver Imaging Reporting and Data System Version 2018 for Hepatocellular Carcinoma: A Systematic Review With Meta-Analysis(Journal of the American College of Radiology・2020)LI-RADS v2018を用いた14研究2,708病変(うち肝細胞癌1,841)のメタ解析で、LR-5カテゴリーの肝細胞癌診断能は感度70%(95%CI 61〜78%)・特異度91%(95%CI 89〜93%)だった。肝細胞癌が占める割合はLR-1・LR-2で0%、LR-3で31%、LR-4で64%、LR-5で95%、LR-M(悪性だが肝細胞癌に非特異的)で33%、LR-TIV(腫瘍による静脈内進展)で54%であった。閲覧 2026-08-25
  5. 5.BCLC strategy for prognosis prediction and treatment recommendation: The 2022 update(Journal of Hepatology・2022)2018年の公式更新以降、肝細胞癌の治療手段に大きな進歩があったことを受けたBarcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)病期分類・治療戦略の2022年改訂版。戦略の変更につながった進歩に焦点を当てる一方、有望でもエビデンスに基づくモデルへ組み込むには時期尚早なデータがあることを明示し、個々の患者への臨床判断には分類だけでなく専門的知見が要ると述べている。閲覧 2026-08-25
  6. 6.BCLC strategy for prognosis prediction and treatment recommendations: The 2026 update(Journal of Hepatology・2026)抄録のみ確認した(全文は取得できず)。2026年改訂版は近年の治療の進歩を推奨に取り込み、各病期を根拠に基づく一次治療の選択肢に直接対応づける構成を維持したこと、臨床判断の章にCUSE(Complexity, Uncertainty, Subjectivity, Emotion)の枠組みを組み込んだこと閲覧 2026-09-24
  7. 7.From algorithm to dialogue: interpreting the 2026 BCLC-CUSE strategy for HCC care(Hepatoma Research・2026)全文で確認した解説(原典ではない)。2026年版は5段階の病期構造を維持し、中間期の多発の定義を4個以上または3個以下で1個以上が3 cm超と明確化したこと、ALBIをChild-Pughを補う肝予備能の指標とし、AFPを予後因子・移植基準とし1,000 ng/mL以上は通常移植の適応外としたこと、進行期の一次治療としてアテゾリズマブ+ベバシズマブ、トレメリムマブ+デュルバルマブ、イピリムマブ+ニボルマブ、カムレリズマブ+リボセラニブなどの免疫療法併用をソラフェニブより優先し順位を付けないこと、中間期ではTACEが標準であり続けること、期待生存期間中央値を0/Aで5年超・Bで2.5年超・Cで約2年・Dで1年未満としたこと閲覧 2026-09-24
  8. 8.Atezolizumab plus Bevacizumab in Unresectable Hepatocellular Carcinoma(New England Journal of Medicine・2020)未治療の切除不能肝細胞癌でアテゾリズマブ+ベバシズマブがソラフェニブに対し全生存期間・無増悪生存期間を有意に改善し、進行肝細胞癌の一次治療をソラフェニブから免疫チェックポイント阻害薬併用へ置き換えたIMbrave150試験。閲覧 2026-08-25
  9. 9.Tremelimumab plus Durvalumab in Unresectable Hepatocellular Carcinoma(NEJM Evidence・2022)STRIDEレジメン(トレメリムマブ単回300 mg+デュルバルマブ4週ごと)がソラフェニブに対し全生存期間を有意に延長した第3相HIMALAYA試験。切除不能肝細胞癌の一次治療としての承認根拠であり、ベバシズマブを使えない食道胃静脈瘤ハイリスク例などで選択肢となる。閲覧 2026-08-25