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Disease Atlas · 肝胆膵 · 先天性疾患

Gilbert症候群

Gilbert syndrome

別名
体質性黄疸Gilbert-Meulengracht症候群
臓器系
肝胆膵
科目
PathologyInternal MedicinePediatrics
トピック
病理学 C/45:黄疸の病態生理/ビリルビン代謝異常/胆石症内科学 L-51:黄疸の鑑別診断小児科 09:新生児黄疸
鑑別疾患
Crigler-Najjar症候群遺伝性・後天性溶血性貧血
症状
黄疸
検査値
ビリルビン

🧠 全体像は「病気」というより、人口の2〜20%が持つきわめて頻度の高い良性の体質である。核心はUGT1A1遺伝子のプロモーター多型により酵素活性が30〜50%まで低下し、絶食・感染・脱水・月経・運動などストレス時にだけ軽度の優位の黄疸として顔を出す点にある。臨床的な意義は治療ではなく2つ——「これは肝疾患ではない」と確定して不要な精査を止めることと、UGT1A1で代謝される薬剤(など)の毒性が強く出る体質だと患者に伝えることである。

病態

の分子基盤は、と同じUGT1A11A1)を舞台にした量的な異常である。多くはUGT1A1遺伝子プロモーターのTATAボックス領域に余分なTA配列が挿入される多型(A(TA)₆TAA → A(TA)₇TAA)をホモ接合で持ち、転写効率が下がることで酵素活性が正常の30〜50%まで低下する1

flowchart TD
    A["UGT1A1プロモーターのTA反復挿入<br>A(TA)6TAA→A(TA)7TAA(多くはホモ接合)"] --> B["UGT1A1酵素活性が正常の30〜50%に低下"]
    B --> C["肝細胞での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bilirubin conjugation'>ビリルビン抱合</span>能が部分的に低下"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unconjugated'>非抱合型</span>(間接)ビリルビンが軽度に蓄積"]
    E["絶食・感染・脱水・月経・運動などのストレス"] --> F["ビリルビン産生増加または肝への負荷増大"]
    F --> D
    D --> G["軽度で変動する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indirect (unconjugated) predominance'>間接優位</span>の黄疸<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='total bilirubin'>総ビリルビン</span>多くは4 mg/dL未満"]

💡 プロモーター多型があってもを発症するとは限らない。 同じホモ接合の多型を持っていても、性別など他の因子が発症に関与するとされ、遺伝子型と表現型は一対一に対応しない1。この量的な異常という性格が、UGT1A1を完全に欠くI型部分的に強く欠くII型とを、同じ酵素の活性低下の程度が違うだけの連続体として整理できる理由になっている。

⭐ 溶血ももない。ビリルビン以外の肝(AST・ALT・ALP)、血算、、LDH、はすべて正常であり、これが溶血性貧血との決定的な違いになる1

誘因と臨床像

  • 明らかな症状のない偶発的な軽度黄疸として、健診の採血や他疾患の検査中に発見されることが多い。
  • 絶食・カロリー制限が最も特徴的な増悪因子で、摂取カロリーを1日400 kcal程度に制限すると48時間以内にビリルビンが2〜3倍に上昇し、通常の食事に戻すと12〜24時間で正常化する1
  • 発熱性疾患、脱水、月経、激しい運動、術後の絶食も同様にビリルビンを一過性に押し上げる。
  • ⚠️ これらの誘因はいずれも軽度で自然に軽快する。強い黄疸、腹痛、掻痒、体重減少を伴う場合はだけで説明せず、肝硬変や胆道閉塞などほかの原因を検索する。

診断

診断は積極的な確定検査ではなくである。

確認する項目 での所見
軽度上昇、多くは4 mg/dL未満、間接()優位
正常
AST・ALT・ALP 正常
血算・・LDH・ 正常(溶血の否定)
(UGT1A1プロモーター多型) 診断に迷う例でのみ考慮。ルーチンでは不要

⭐ かつて行われていた48時間酸・・リファンピシンによるは、いずれも現在は推奨されていない1。血算・肝で溶血とを除外できれば、それ以上の検査は通常不要である。

治療は不要、ただし2つの臨床的意義がある

そのものは治療を要さない良性の体質で、予後は一般人口と変わらない1。臨床的に重要なのは次の2点である。

1)「病気ではない」と確定し、不要な精査を止める

偶発的に見つかった軽度のに対し、溶血と肝機能異常を除外できればとして説明がつく。画像検査や、繰り返す採血は不要である。

2)UGT1A1で代謝される薬剤の毒性リスクを伝える

UGT1A1活性の低下は、この酵素で解毒される薬剤の代謝にも影響する。

  • SN-38はUGT1A1によるで不活化されるが、に相当するUGT1A128ではUGT1A1のが約70%低下しており2、SN-38が蓄積して下痢・骨髄抑制(好中球減少)が強く出る1。単剤投与66例の検討では、UGT1A128のグレード4好中球減少が50%に達し、の12.5%、野生型の0%と際立った差があった2。FDAは*28/*28患者で開始用量を少なくとも1段階減量するよう推奨している2
  • アタザナビル・:これらの抗HIV薬はUGT1A1を阻害してビリルビンのを妨げ、を上昇させる1。UGT1A1の低活性遺伝子型(UGT1A128またはUGT1A16の、すなわちに相当する遺伝子型)を持つ患者では、ビリルビン上昇を理由にアタザナビルを中止せざるを得なくなる可能性が高く、黄疸が患者にとって懸念となる場合は代替薬の検討が推奨されている3

⚠️ 自体は無害でも、この2剤を投与する前にはの既往・UGT1A1多型を確認する価値がある。診断されている患者にを投与する際は、通常量からの減量を検討する。

Crigler-Najjar症候群との違い

同じUGT1A1の異常でも、量的な違いが臨床像を大きく分ける。

項目
UGT1A1活性 正常の30〜50% I型:ほぼ0、II型:低下するが残存
ビリルビン値 多くは4 mg/dL未満 I型:2〜25(重症で50)mg/dL、II型:20 mg/dL未満
のリスク ない I型で高い、II型は低い
治療 不要 I型:、II型:
頻度 人口の2〜20%(民族差)ときわめて高頻度 まれな疾患

まとめ

  • はUGT1A1プロモーターのTA反復挿入によりUGT1A1活性が正常の30〜50%へ低下する、人口の2〜20%が持つ良性の体質である。
  • 絶食・感染・脱水・月経・運動で誘発される軽度の優位のを呈するが、溶血・肝機能異常はない。
  • 診断は溶血・肝疾患を除外する診断で、は通常不要。
  • 治療は不要で予後は良好だが、(SN-38の蓄積による骨髄抑制・下痢)とアタザナビル(UGT1A1阻害による)の毒性が強く出るため、これらの薬剤を使う際は考慮する。
  • UGT1A1活性がほぼゼロ、または低下するが残存するとは、同じ酵素の障害の程度が違う連続体として理解する。

出典

  1. 1.Gilbert Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)UGT1A1プロモーター領域のTA配列挿入(A(TA)6TAAからA(TA)7TAAへ)による酵素活性30〜50%への低下、人口の2〜20%という民族差のある有病率、絶食・溶血反応・発熱性疾患・月経・身体的運動が増悪因子であること、400kcal/日への摂取制限で48時間以内にビリルビンが2〜3倍に上昇すること、イリノテカンの活性代謝物SN-38の蓄積による下痢・骨髄抑制、アタザナビル・インジナビルによるUGT1A1阻害と高ビリルビン血症、溶血を除外する検査(血算・網赤血球・LDH・末梢血塗抹)が正常であること、総ビリルビン4 mg/dL未満の非抱合型高ビリルビン血症であること、予後が一般人口と同等であることを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Irinotecan Therapy and UGT1A1 Genotype(Medical Genetics Summaries (NCBI Bookshelf)・2018)UGT1A1*28ホモ接合体(北米人口の約10%)でSN-38のグルクロン酸抱合の転写活性が約70%低下すること、単剤イリノテカン投与66例の検討でUGT1A1*28ホモ接合体のグレード4好中球減少が50%(ヘテロ接合体12.5%、野生型0%)に達したこと、FDAが*28/*28患者で開始用量を少なくとも1段階減量するよう推奨していることを確認した。閲覧 2026-08-11
  3. 3.Clinical Pharmacogenetics Implementation Consortium (CPIC) Guideline for UGT1A1 and Atazanavir Prescribing(Clinical Pharmacogenetics Implementation Consortium / Clinical Pharmacology & Therapeutics・2016)アタザナビルがUGT1A1によるビリルビンのグルクロン酸抱合を阻害し血中間接ビリルビン濃度を上昇させること、UGT1A1*28ホモ接合体など低活性遺伝子型でビリルビン関連のアタザナビル中止に至る可能性が高いこと、UGT1A1*28またはUGT1A1*6のホモ接合体はGilbert症候群である可能性が非常に高いこと、黄疸が懸念される患者では代替薬を検討すべきとされていることを確認した。閲覧 2026-08-11