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Disease Atlas · 肝胆膵 · 中毒

アマトキシン中毒

Amatoxin poisoning

別名
Amanitaキノコ中毒タマゴテングタケ中毒
臓器系
肝胆膵消化器
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 C/43:肝不全内科学 S-62:有害物質中毒―エチレングリコール・メタノール・重金属・毒キノコ
鑑別疾患
アセトアミノフェン(パラセタモール)中毒
続発疾患
急性肝不全急性腎障害
治療薬
シリマリン(シリビニン)アセチルシステインペニシリンG
症状
嘔吐下痢腹痛黄疸
検査値
ビリルビンプロトロンビン時間血糖乳酸クレアチニン

🧠 全体像:の要点は、経過がに見えるという一点に集約される。摂取から6時間以上たって激しい消化器症状が始まり、輸液で一度は「治った」ように見え、その裏で肝細胞の転写が止まったまま壊死が進み、数日後に肝不全として姿を現す。つまり患者が最もよく見えるときに、肝臓は最も悪くなっている。この見かけのに帰宅させないことが臨床上の最大の勘所であり、「摂取から6時間以内に症状が出たキノコは軽症、6時間を超えて出たキノコは致死的」という時間軸の振り分けが、種の同定より先に立つ。

原因となるキノコと毒素

を含むキノコはAmanita群・Lepiota群と、GalerinaやConocybeを含むその他の種に分かれる1。による死亡の90%超が()を含む種によるもので、なかでもAmanita phalloidesはその毒性の強さから多数の致死例の原因になっている2。

⚠️ 有毒種と一部の食用種を形態だけで区別することはできない2。「見た目で見分けられる」という前提に立たず、残品・写真・摂取時刻・同席者を確認し、症状のない同時摂取者も評価する。

💡 この症候群を決めているのは属ではなく毒素の側にある。 同じ経過をたどる中毒がAmanita属だけでなくLepiota属・Galerina属の種でも起こるため、臨床では「どの属のキノコか」よりも「を含む種か」を問う。

病態:肝細胞に取り込まれて転写を止める

は()に分類される毒素で2、ポリメラーゼIIを阻害してmRNAの転写を障害する1(引用元は型番を付けず「ポリメラーゼ」と記すが、障害されるのはmRNAの転写であり、これを担うのはII型である)。転写が止まればタンパク質合成が絶たれ、の速い肝細胞から順に壊死に陥る。

⭐ 毒素が肝臓に選択的に効くのは、取り込み口が肝細胞にあるからである。ヒト肝細胞のにあるのうち、を輸送するのはOATP1B3であり、OATP1B1・OATP2B1では輸送が認められなかった3。

💡 の作用機序がここで説明できる。 過去からに用いられてきたとは、いずれもOATP1B3を介したの取り込みを阻害する3。毒素を分解する薬ではなく、肝細胞の入口をふさぐ薬だと理解すると、「早く投与するほど意味がある」という性質が腑に落ちる。

さらにはを受けるため、摂取から数時間たった後にも腸管から再吸収されうる1。を1回で終わらせずする根拠がここにある。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amatoxin'>アマトキシン</span>含有キノコの摂取"] --> B["腸管から吸収"]
    B --> C["OATP1B3により肝細胞へ取り込まれる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ribonucleic acid'>RNA</span>ポリメラーゼII阻害 → mRNA転写の停止"]
    D --> E["タンパク質合成の途絶 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatocellular necrosis'>肝細胞壊死</span>"]
    C --> F["胆汁へ排泄され腸管で再吸収(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Enterohepatic circulation'>腸肝循環</span>)"]
    F --> C
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute liver failure, ALF'>急性肝不全</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulopathy'>凝固障害</span>・低血糖"]

臨床経過:3つの期

期 時期 内容
第1期(消化器期) 摂取後6〜12時間まで始まらない 悪心、腹部けいれん、下痢、脱水。嘔吐・が激しく、腹痛を伴う
第2期(見かけの) 2〜3日続く 症状が改善し、患者は良くなったように見える。その間も肝障害は進行している
第3期(肝腎期) 第2期以後 肝・腎機能が破綻し、重症例では3〜7日で死に至りうる

(時期・期間はいずれも出典の記載による1)

⚠️ 第2期が最大の罠である。 輸液で消化器症状が落ち着いた時点を「回復」と解釈して帰宅させると、として戻ってくる。第1期に症状が始まるまで6時間以上を要したという病歴自体が、この経過をたどる可能性のになる。

⚠️ 食後すぐの嘔吐・下痢とは意味が正反対である。 摂取から6時間以内に症状が出るキノコはによるものが多く自然軽快するのに対し、6時間を超えてから始まるものはを警戒する。時間軸だけで初期の振り分けができる点が、この中毒の実務上の特徴である。

診断

血中濃度を測定できる特殊検査室は存在するが、検査のは低く、症状が出てからではしばしば陰性になる1。したがって診断は病歴(摂取したキノコ、摂取時刻、症状開始までの時間)と経過に依存する。

確定を待たずに、・、、ビリルビン、血糖、乳酸、クレアチニンを反復測定し、見かけのにも下がり続けていないかを追う。低血糖・・は肝細胞の機能喪失を直接反映する。

治療

⚠️ 治療は支持療法+毒素の取り込み阻害であり、確立したに基づく標準治療ではない。

手段 用量・要点
1 g/kgを2〜4時間ごとに反復。を断つのが目的で、吸収抑制だけが狙いではない
輸液・ 激しい消化器症状による脱水・電解質異常の補正。血糖の補正を含む
5 mg/kgを1時間かけて静注し、続いて20 mg/kg/日を
の手順に準じて静注
400万単位を4時間ごと

(用量はいずれも出典の記載による1)

⭐ とはOATP1B3阻害薬として働く3。取り込みを阻む薬である以上、肝細胞に毒素が入りきってからでは効きようがない。「利用可能なら早期に」という運用はこの機序から出てくる。

肝移植

肝性脳症・・への急速な進行がの適応である1。重症化してから相談するのでは間に合わないため、経過が第2期にある段階で移植施設へ連絡しておく。

⭐ には中毒特異的な決定モデルがある。 198例のでは、致死的転帰の予測は25%未満と106 μmol/L超の組み合わせを摂取後3日目以降に用いたときに最適となり、感度100%(95%信頼区間87〜100)・特異度98%(同94〜100)であった。単一指標として比べると、致死的転帰予測のは0.96・0.93で、血清ビリルビン0.82・ 0.69より有意に大きかった。著者らは、摂取後3〜10日のとを組み合わせた決定モデルにより転帰を早期かつ確実に評価できるとしている4。

💡 「早く分かる」ことに意味がある基準である。 非生存例で、この予測因子が初めて満たされてから死亡までの期間は中央値63時間(範囲3〜230時間)であり、判定から搬送・移植登録までに使える時間が残る4。同じ検討で死亡23例の死亡時期は摂取後中央値6.1日(範囲2.7〜13.9日)だった4。

⚠️ 一般のの予後基準をそのまま当てない。 King's College基準は全般の移植適応判断に用いる基準で、病因の区分としてははその非群に当たる。ただし上記の中毒特異的モデルとは導出集団も指標も別物であり、本ノートのはの移植適応としてに言及していない。

鑑別と予後

とは「初期に無症状〜軽症で、遅れてが現れる」という時間構造がよく似ており、いずれもを用いる点も共通する。異なるのは、では血中濃度とによる定量的な判定が成立するのに対し、では濃度測定が実用的な判断材料にならないことである。によるも鑑別に挙がるが、キノコ摂取の病歴と6時間を超えるが手がかりになる。

第3期にはを合併しうる。治療が直ちに開始されれば死亡はまれで、へ早期にアクセスできる先進国での死亡は全症例の5%未満にとどまる1。

まとめ

  • による死亡の90%超が含有種によるもので、有毒種と食用種は形態だけでは区別できない。
  • 摂取から6時間を超えて始まる消化器症状はを警戒する最も実用的な指標。
  • 経過は第1期(消化器、6〜12時間以降)→ 第2期(見かけの回復、2〜3日)→ 第3期(肝腎不全、3〜7日で死に至りうる)。第2期に帰宅させない。
  • 機序はOATP1B3を介した肝細胞への取り込みとポリメラーゼII阻害。・はこの取り込みを阻害する薬なので早期投与に意味がある。
  • はを断つためにする。肝性脳症・・への急速な進行はの適応で、移植の要否は摂取後3〜10日の25%未満+106 μmol/L超という中毒特異的な決定モデルで早期に判定できる。

出典

  1. 1.Amatoxin Mushroom Toxicity(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)アマトキシンを含むキノコがAmanita群・Lepiota群と、GalerinaやConocybeを含むその他の種に分かれること、毒素がRNAポリメラーゼを阻害してmRNAの転写を障害すること、アマトキシンが腸肝循環を受けるため摂取から数時間後にも再吸収されうること、第1期が摂取後6〜12時間まで始まらず悪心・腹部けいれん・下痢・脱水を呈すること、第2期が2〜3日続き見かけ上は回復する一方で肝障害は進行すること、第3期には肝・腎機能が破綻し3〜7日で死に至りうること、血中アマトキシン濃度を測定できる特殊検査室はあるが信頼性が低く症状出現後はしばしば陰性になること、治療として活性炭1 g/kgを2〜4時間ごとに投与しうること、シリビニン(精製シリマリン)を5 mg/kgで1時間かけて静注したのち20 mg/kg/日で持続投与すること、N-アセチルシステインをアセトアミノフェン中毒の手順に準じて静注すること、ペニシリンGを400万単位ずつ4時間ごとに投与すること、肝性脳症・肝腎症候群・凝固障害への急速な進行が肝移植の適応であること、治療が直ちに開始されれば死亡はまれで、集中治療へ早期にアクセスできる先進国では全症例の5%未満にとどまることを確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.Mushroom poisoning: An updated review(Turkish Journal of Emergency Medicine・2025)キノコをシクロペプチド・ジロミトリン・ムスカリン・コプリン・オレラニン・シロシビン・消化管刺激物質といった毒素で分類できること、シクロペプチド(アマトキシン)を含むキノコがキノコ中毒による死亡の90%超を占めること、Amanita phalloidesがその毒性の強さゆえに多数の致死例の原因となっていること、有毒種と一部の食用種を形態だけで区別することはできないことを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  3. 3.Molecular characterization and inhibition of amanitin uptake into human hepatocytes(Toxicological Sciences・2006)ヒト肝細胞の類洞側膜に局在する有機アニオン輸送ポリペプチドのうち、検討した条件下でOATP1B3のみがアマニチンを輸送し(Km 3.7 ± 0.6 μM)、OATP1B1・OATP2B1では輸送が認められなかったこと、シクロスポリンA・リファンピシン・MK571・モンテルカスト・パクリタキセルなどのOATP1B3基質/阻害薬に加え、過去にヒトのアマトキシン中毒治療に用いられてきたシリビニン ジヘミスクシネート・ペニシリンG・プレドニゾロンリン酸エステル・アンタマニドが毒素の取り込みを阻害したこと、著者らがOATP1B3をアマトキシンのヒト肝取り込みトランスポーターと同定し、その基質・阻害薬が治療に有用でありうると結論したことを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  4. 4.Indication of liver transplantation following amatoxin intoxication(Journal of Hepatology・2005)アマトキシン中毒後の急性肝不全における肝移植の適応がなお不確実であるとして198例を後方視的に検討し、ALT・血清ビリルビン・血清クレアチニン・プロトロンビン指数の経時変化を解析したこと、23例が摂取後中央値6.1日(範囲2.7〜13.9日)で死亡したこと、単一指標では致死的転帰予測のROC曲線下面積がプロトロンビン指数0.96・血清クレアチニン0.93であり血清ビリルビン0.82・ALT 0.69より有意に大きかった(P<0.05)こと、プロトロンビン指数25%未満と血清クレアチニン106 μmol/L超の組み合わせを摂取後3日目以降に用いたときに予測が最適となり感度100%(95%信頼区間87〜100)・特異度98%(95%信頼区間94〜100)であったこと、非生存例で本予測因子が初めて満たされてから死亡までの期間の中央値が63時間(範囲3〜230時間)であったこと、摂取後3〜10日のプロトロンビン指数と血清クレアチニンを組み合わせた決定モデルにより転帰を早期かつ確実に評価できると結論したことを確認した(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02