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Disease Atlas · 神経 · 疾患

低酸素性虚血性脳症(周産期仮死)

Hypoxic-ischemic encephalopathy (perinatal asphyxia)

別名
HIE周産期仮死
臓器系
神経
科目
Pediatrics
トピック
小児科 2-37:周産期仮死
続発疾患
小児脳性麻痺てんかん
治療薬
フェノバルビタール
症状
痙攣
検査値
血糖乳酸アシドーシス
スコア
アプガースコア
元疾患
肩甲難産

🧠 全体像は、(胎盤・臍帯・分娩経過での)がの脳にもたらす急性の表現型である。低値だけでは仮死やを診断できず、蘇生歴・血液ガス・・多臓器障害を統合して初めて診断できる。脳の破綻は「→数時間の潜伏期→」というの経過をたどり、この潜伏期こそがの治療窓(出生6時間以内に開始)である。適格な中等度〜重度へ管理されたを時間内に開始できるかどうかが、長期予後を左右する最大のになる。

定義

とは、胎盤または肺での・血流障害により、胎児・新生児に低酸素血症、、代謝性アシドーシスが生じ、それに伴って多臓器(脳・腎・肝・心筋・血液凝固系)の機能障害を来す病態である。は、このが中枢神経系に及ぼした急性の障害を指す臨床用語で、在胎36週以上の児で主に問題になる。

⚠️ は出生直後の状態を点数化する便利な指標だが、それ自体は仮死やではない。低の原因は仮死以外にも(分娩時の鎮静薬投与、神経筋疾患、など)多数あり、逆に仮死があってもが保たれることがある。

病因

原因は出生前・・出生後の3つの時期に分けて整理すると理解しやすい。複数の要因が重なることも多い。

時期 代表的な原因
出生前 胎盤機能不全、、母体の低血圧・低酸素、重症感染、、臍帯のな圧迫
、胎盤、遷延するなどの
出生後 重症呼吸不全、、未診断の、重症貧血・

病態

低酸素・虚血は脳のATP産生を直接阻害し、のエネルギー危機を引き起こす。この過程は単発ではなく、とそれに続くという2つの山を持つ点が重要である。

flowchart TD
    A["胎盤・臍帯・分娩・出生後の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gas exchange impairment'>ガス交換障害</span>"] --> B["低酸素血症+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypercapnia'>高炭酸ガス血症</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic metabolism'>嫌気性代謝</span>への転換・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactic acidosis'>乳酸アシドーシス</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary energy failure'>一次性エネルギー不全</span><br>(ATP枯渇・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ion pump'>イオンポンプ</span>機能停止・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic edema'>細胞毒性浮腫</span>)"]
    D --> E["潜伏期(およそ数時間)<br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic hypothermia'>治療的低体温療法</span>の治療窓"]
    E --> F["再灌流後の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excitotoxicity'>興奮毒性</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamate release'>グルタミン酸放出</span>・細胞内Ca²⁺流入・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free radicals'>フリーラジカル</span>産生)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary energy failure'>二次性エネルギー不全</span><br>(アポトーシス・壊死・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuroinflammation'>神経炎症</span>・痙攣)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='HIE'>低酸素性虚血性脳症</span>+多臓器障害"]

💡 が有効なのは、この「潜伏期」という時間的な窓が存在するためである。潜伏期のうちに脳温を下げて代謝需要を落とすことで、の規模を縮小できる。窓を過ぎてから開始しても、既に進行してしまった二次性障害には介入できない。

障害パターンは低酸素・虚血の強さとで変わる。急性・完全な虚血(例:)では大脳基底核・視床・脳幹が優先的に傷害されやすく、遷延する部分的な低酸素・虚血では大脳皮質の)が傷害されやすい。この分布パターンはMRI所見や運動障害の型(後述のの病型)とも関連する。

重症度分類(Sarnat分類)

生後のに基づく(修正版)が、の重症度評価と決定に広く用いられる。、自発運動、姿勢、筋緊張、、自律神経機能、痙攣の有無、所見を組み合わせて軽度・中等度・重度の3段階に分類する。

項目
・昏睡
自発運動 正常〜軽度低下 減少 消失
筋緊張 正常 軽度の低緊張 弛緩性の高度低緊張
姿勢 軽度の遠位屈曲 高度の遠位屈曲
正常〜やや亢進 減弱・不完全 消失
自律神経機能 交感神経優位(・頻脈) 副交感神経優位(・徐脈) 両系とも抑制(不同瞳孔・変動する心拍)
痙攣 なし 頻発しやすい(生後24時間以内に出現) 比較的まれ(脳活動自体が高度に抑制)
所見 正常 パターン ・平坦化
典型的な転帰 ほぼ正常 可変的(正常〜中等度の障害) 死亡または重度が多い

の主な対象は中等度〜重度(Stage II〜III)であり、のみでは現時点での有効性を支持する十分なエビデンスがなく、原則として研究的な位置づけを超えて一律に行うべきではない。

診断・評価

  • 出生直後の無呼吸・弱い呼吸、徐脈、低緊張、反応不良にはを直ちに行う。
  • 、臍帯または出生後の血液ガス(pH、)、蘇生の強度・所見、多臓器障害の有無を統合してを評価する。
  • 生後6時間以内にで重症度を評価し、以後も反復して評価する(脳症は動的に変化しうる)。
  • またはで臨床的に見えにくいを検出する。
  • 頭部MRIは急性期には診断的意義が乏しいため、障害パターンの評価・予後推定を目的に生後4〜7日前後で撮影することが多い。
  • 腎機能、肝機能、心筋逸脱酵素、凝固能、血糖、電解質を系統的に評価し、多臓器障害の程度をする。
flowchart TD
    A["周産期の低酸素・虚血を示唆する病歴<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abnormal fetal heart rate'>胎児心拍異常</span>・重度の蘇生を要した等)"] --> B["臍帯/出生後血液ガスで代謝性アシドーシスを確認"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='newborn life support'>新生児蘇生</span>を実施し、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serial'>経時的</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Apgar score'>Apgarスコア</span>を記録"]
    C --> D["生後6時間以内に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological patient examination'>神経学的診察</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Sarnat staging'>Sarnat分類</span>を評価"]
    D --> E{"中等度〜重度の脳症か<br>(在胎36週以上)"}
    E -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic hypothermia'>治療的低体温療法</span>の適応を検討"]
    E -->|"いいえ<br>(軽度、または在胎36週未満)"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='therapeutic hypothermia'>低体温療法</span>は非適応<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological assessment'>神経学的評価</span>と支持療法を継続"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='core body temperature'>深部体温</span>33.5〜34.5℃を72時間維持し緩徐に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rewarming'>復温</span>"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='continuous electroencephalography'>持続脳波</span>/aEEGで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nonconvulsive seizure'>非痙攣性発作</span>を監視、MRIで障害パターンを評価"]
    I --> J["多職種による長期神経発達<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Follow-up Routines'>フォローアップ</span>へ"]

治療

出生直後の安定化

  • 体温を保ちながら気道確保・換気を優先する。児の蘇生は空気から開始し、右手(動脈管前)のSpO₂モニタリングで酸素濃度を調整する。100%酸素で一律に開始しない。
  • 血糖、循環(灌流・血圧)、血液ガスを密に監視し、低血糖・低血圧・低酸素・発熱を避ける。いずれもを増悪させうる。
  • ⚠️ 搬送中を含め、適応の判断前に無制御な受動的冷却(保育器の加温をただ止めるだけの対応)で意図せず低体温にしてしまうことは避ける。冷却するならを継続モニタリングしながら管理する。

治療的低体温療法

と施設プロトコルの下で行う、現時点でのに対する標準治療である。

区分 基準の目安
対象在胎週数 36週以上。34〜36週は施設プロトコルにより個別に考慮、36週未満での有効性は確立していない
生化学的基準 または生後1時間以内の血液ガスでpH≤7.0または≥16mmol/Lなど、重度の周産期アシドーシスを示す所見
基準 生後6時間以内の診察で 中等度〜重度(Stage II〜III)の脳症
開始時期 出生6時間以内が原則。6〜24時間での開始は得られる効果が乏しいとされ、家族への説明を含め個別に判断する
目標体温・期間 33.5〜34.5℃を72時間維持後、0.5℃/時間程度の速度で緩徐にする
非適応・除外 単独、致死的な、在胎36週未満の早産児

💡 軽度脳症のみの児や早産児(36週未満)に対するは、現時点でを支持する十分なエビデンスがなく、研究プロトコル外でのルーチン適用は推奨されない。

痙攣管理

  • 電気的な痙攣(を含む)を・aEEGで確認したうえで治療する。
  • としてを施設プロトコルに従って投与する。難治例では他のの追加を検討する。

支持療法・多臓器管理

  • 腎障害では輸液・電解質を調整し、乏尿・の程度に応じて管理する。
  • 、心筋障害、を並行して治療する。
  • Na⁺・血糖・体温を厳格に管理し、二次性障害を助長する因子(低血糖、発熱、低酸素、換気異常)を防ぐ。

長期フォローアップ

退院後は聴覚・視覚、運動・発達、認知、言語、摂食嚥下を長期的に追跡し、異常があれば早期に療育につなげる。中等度〜重度の既往児では、てんかんなどののリスクが高く、両疾患を念頭に置いた定期的な発達評価が必要である。

まとめ

  • はガス交換・血流障害による低酸素、、代謝性アシドーシス、多臓器障害を来す過程であり、はその表現である。
  • Apgar低値だけを診断してはならない。蘇生歴、血液ガス、、多臓器障害を統合して評価する。
  • 病態は障害(→潜伏期→)としてとらえ、潜伏期がの治療窓になる。
  • 重症度は(軽度・中等度・重度)で評価し、生後6時間以内の決定の鍵になる。
  • 適格な在胎36週以上の中等度〜重度には、出生6時間以内に33.5〜34.5℃・72時間の管理されたを開始する。軽度脳症や36週未満の早産児には推奨されない。
  • 発熱、低血糖、低酸素、換気異常、痙攣を防ぎ、腎・心・凝固などの多臓器を支持しながら、長期的な神経発達・てんかんを含む)につなげる。