小児科学

小児科学 · 2-37

周産期仮死と低酸素虚血性脳症

Perinatal Asphyxia

前提:正常
胎児循環酸素・二酸化炭素運搬と低酸素症
疾患
低酸素性虚血性脳症(周産期仮死)

🧠 は胎盤または肺でのガス交換・血流障害により低酸素、高CO₂血症、代謝性アシドーシス、多臓器障害を生じる過程である。はその表現で、適格なのは出生6時間以内に開始する。

病態

flowchart TD
    A["胎盤・臍帯・分娩・出生後の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gas exchange impairment'>ガス交換障害</span>"] --> B["低酸素血症+高CO₂血症"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic metabolism'>嫌気性代謝</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactic acidosis'>乳酸アシドーシス</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary energy failure'>一次性エネルギー不全</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ATP depletion'>ATP枯渇</span>・細胞浮腫"]
    D --> E["潜伏期:およそ数時間"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary energy failure'>二次性エネルギー不全</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excitotoxicity'>興奮毒性</span>・炎症・痙攣"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoxic-ischemic encephalopathy'>HIE</span>と多臓器障害"]

低体温は潜伏期の治療窓を利用し、二次性障害を減らす。

原因

時期 例
出生前 胎盤機能不全、、母体低血圧・低酸素、重症感染、、
、胎盤、、持続する、
出生後 重症呼吸不全、胎便吸引、肺高血圧、、重症貧血・出血

認識と評価

  • 出生直後の無呼吸・弱い呼吸、徐脈、低緊張、反応不良にはを直ちに行う。
  • 低値だけでは仮死やを診断できない。経時Apgar、臍帯/出生後血液ガス、蘇生の強度・持続、、多臓器障害を統合する。
  • pH・base deficit・は5分低値や stage 2-3への進展と関連するが、単独の固定閾値だけで仮死の有無を確定するものではなく、在胎週数で補正したの方が精度が高いと報告されている。1
  • 💡 近年は「」が指す範囲が狭められている。低酸素虚血のみで説明できる新生児脳症は一部にとどまり、・代謝異常・胎盤異常などの原因が占める割合が増えているとされ、「新生児脳症(NE)」を包括的な初期診断名とし、原因検索が完了した時点で()か他の原因によるNEかを区別する用語運用が提案されている。「」という用語自体は現在も臨床で使われる。2
  • では意識、姿勢、筋緊張、、自律神経機能、痙攣から重症度を反復評価する。1976年のは、正常・のStage 1、傾眠・痙攣を伴いうるStage 2、・を伴うStage 3に分け、Stage 3に達した例やStage 2が5日を超えた例は予後不良だった。その修正版が現在もの対象児選定に広く用いられている。3
  • または(aEEG)でを検出し、は障害パターンと予後評価に用いる。を受けた70例の検討では、aEEG背景異常の予後不良に対するが生後6時間0.5から60時間0.92まで時間とともに上昇した4。スコアリング(Barkovich・Weekeスコアなど)はを受けた162例ので2歳時点の複合転帰(死亡または重度障害)を予測することが確認されている5。
  • 腎・肝・心筋・凝固・血糖・電解質障害を系統的に調べる。

治療

出生直後

  • 体温を保ち、気道・換気を優先する。/の換気は空気から開始し、右手のSpO₂で酸素濃度を調整する。100%酸素で開始しない。
  • 血糖、灌流、血液ガスを監視し、低血糖・低血圧・低酸素・高CO₂・発熱を避ける。

治療的低体温療法

と規定プロトコル下で、一般に在胎36〜37週以上の中等度〜重度を対象に、出生6時間以内に開始し、33〜34℃程度を72時間維持後、緩徐にする。34〜36週児の適応はエビデンスが不十分で、専門施設のプロトコルに従う。搬送中の無制御な過冷却は避ける。

⚠️ 低体温の有効性は、主に高所得国の環境で行われたに基づく。11件・1505例のでは、死亡または重度の複合転帰を有意に減らした(RR 0.75、7)6。一方、インド・スリランカ・バングラデシュの7施設・408例(在胎36週以上、中等度〜重度脳症、出生6時間以内に開始し33.5℃を72時間)を対象としたでは、死亡または中等度〜重度障害の複合転帰に有意差がなく(50%対47%)、死亡単独はむしろ低体温群で多かった(42%対31%)。この結果から、が十分でない低・中所得国では低体温を新生児脳症の治療として提供すべきでないとづけられている。したがっての有効性は高所得国の専門的な環境で得られたエビデンスであり、そのまま外挿できない医療環境があることに注意する。7

支持療法

  • 酸素化・換気、血圧・灌流、尿量、Na⁺、血糖、体温を管理する。
  • 電気的痙攣を確認し、第一選択としてなどをプロトコルに従って用いる。
  • 腎障害では輸液を調整し、、心筋障害、PPHNを治療する。
  • 退院後は聴覚・視覚、運動、認知、言語、摂食を長期追跡し、へつなげる。

まとめ

  • Apgar低値だけで・を診断しない。
  • 蘇生歴、血液ガス、、、多臓器障害を統合する。
  • 適格な中等度〜重度は出生6時間以内に管理されたを開始する。
  • 発熱、低血糖、低酸素、換気異常、痙攣を防ぎ、多臓器を支持する。

出典

  1. 1.Relation between umbilical cord blood pH, base deficit, lactate, 5-minute Apgar score and development of hypoxic ischemic encephalopathy(Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica・2010)単胎分娩13,735例の臍帯動脈血ガス値を検討した研究で、低pH・高base deficit・高乳酸値がいずれも5分Apgarスコア低値やHIE stage 2-3への進展と関連すること、在胎週数で補正した基準値の方が固定的な基準値より精度が高いことを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Causes and Terminology in Neonatal Encephalopathy: What is in a Name? Neonatal Encephalopathy, Hypoxic-ischemic Encephalopathy or Perinatal Asphyxia(Clinics in Perinatology・2024)現代の周産期管理下では新生児脳症のうち仮死・低酸素虚血のみで説明できる例は一部にとどまり、先天奇形・代謝異常・胎盤異常などの器質的原因(maldevelopment)が占める割合が増えていること、これを踏まえ「新生児脳症(NE)」を初期の包括的作業診断名とし、原因検索が完了した時点で低酸素虚血性脳症(HIE)か他の原因によるNEかを区別する用語運用が提案されていることを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.The Sarnat score for neonatal encephalopathy: looking back and moving forward(Pediatric Research・2020)1976年のSarnat & Sarnat原著(21例)は新生児脳症を3病期(Stage 1:過覚醒・腱反射亢進・正常脳波、通常1〜18時間/Stage 2:傾眠・軽度筋緊張低下・痙攣を伴いうる、平均約5日間/Stage 3:昏迷・弛緩性・脳幹機能低下・平坦または異常に不連続な脳波)に分類し、Stage 3に達した例やStage 2が5日を超えて持続した例は予後不良だったこと、この分類の修正版が現在も低体温療法の主要な無作為化比較試験で対象児選定に用いられていることを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Accuracy of amplitude-integrated electroencephalography in the prediction of neurodevelopmental outcome in asphyxiated infants receiving hypothermia treatment(Acta Paediatrica・2013)低体温療法を受けた正期産HIE児70例の単一施設研究で、振幅統合脳波(aEEG)の背景異常が不良転帰(死亡または18〜24か月時点の重度神経発達遅滞)を予測する陽性的中率は、生後6時間0.5、24時間0.65、48時間0.82、60時間0.92と時間経過とともに上昇したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.The predictive value of MRI scores for neurodevelopmental outcome in infants with neonatal encephalopathy(Pediatric Research・2025)治療的低体温を受けた新生児脳症児162例の後方視的コホートで、Barkovich・Weeke MRIスコアリングシステムが2歳時点の死亡または重度障害の複合転帰、運動・認知転帰を予測したこと、より詳細なWeekeスコアの方が予測精度が高かったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Cooling for newborns with hypoxic ischaemic encephalopathy(Cochrane Database of Systematic Reviews・2013)主に高所得国で実施された無作為化比較試験11件・正期産〜後期早産児1505例(中等度〜重度脳症)のコクランレビューで、治療的低体温は生後6時間以内に開始した場合、死亡または重度神経発達障害の複合転帰を有意に減らし(RR 0.75、治療必要数7)、死亡単独(RR 0.75)も生存者の神経発達障害(RR 0.77)も有意に減らしたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Hypothermia for moderate or severe neonatal encephalopathy in low-income and middle-income countries (HELIX): a randomised controlled trial in India, Sri Lanka, and Bangladesh(The Lancet Global Health・2021)インド・スリランカ・バングラデシュの7施設で実施した無作為化比較試験(在胎36週以上、中等度〜重度脳症408例、低体温群202例・対照群206例、出生6時間以内に開始し深部体温33.5℃を72時間)で、死亡または中等度〜重度障害の複合転帰に有意差はなく(50%対47%)、死亡単独は低体温群でむしろ多く(42%対31%、P=0.022)、新生児期死亡も多かった(36%対24%、P=0.0087)ことを確認した。低・中所得国では治療的低体温を新生児脳症の治療として提供すべきでないと結論づけている。閲覧 2026-08-27