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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 疾患

子宮破裂

Uterine rupture

臓器系
生殖・産婦人科
科目
Obstetrics
トピック
産科学 31:産道損傷と子宮破裂
鑑別疾患
常位胎盤早期剥離
続発疾患
分娩後出血播種性血管内凝固
関連疾患
前置胎盤
原因薬剤
オキシトシンミソプロストール
症状
圧痛血尿出血腹痛疼痛Bandl輪
元疾患
エーラス・ダンロス症候群
原因となる疾患
肩甲難産骨盤位・胎位異常難産(陣痛異常・児頭骨盤不均衡)

🧠 全体像を理解する幹は一点に尽きる——既往子宮瘢痕(多くは帝王切開創)の存在が最大の危険因子であり、の突然の胎児徐脈こそが最も鋭敏な初発徴候であるという点である。教科書的な「引き裂かれるような激痛」「性器出血」「の上昇」はむしろ遅れて、あるいは目立たずに出現することが多く、下ではなおさら痛みに頼れない。だからこそ、(trial of labor after cesarean、TOLAC)を行う症例では、持続的な胎児心拍モニタリングそのものがの早期警報装置として機能する。破裂を疑った時点で画像診断による確定を待たず、母体蘇生・大量輸血準備と緊急開腹帝王切開を同時並行で進めることが、母児の予後を決める。

定義

とは、子宮壁が全層にわたって破綻し、子宮腔と腹腔が直接交通する状態をいう。

  • 完全破裂・漿膜のすべての層が破綻し、胎児部分や臍帯が腹腔内に脱出しうる。
  • 、uterine dehiscence):筋層はするが漿膜が保たれ、腹腔との交通を生じない。多くは無症候性で、緊急性・出血量ともに完全破裂より軽度である。

⚠️ )は臨床像が乏しく、しばしば帝王切開時などに偶発的に発見される。完全破裂と同列に扱うと過剰介入になりうるが、鑑別のために画像検査を優先して緊急対応を遅らせてはならないという原則自体は完全破裂と共通である。

危険因子

の危険因子は、既往子宮瘢痕の有無を軸に整理すると理解しやすい。既往帝王切開などの瘢痕を持つ「瘢痕子宮」での破裂が大部分を占め、瘢痕のない子宮での自然破裂はまれである。

高リスク(TOLACの一般的な禁忌) 追加・修飾リスク
既往(子宮体部への)・ の使用、とくに
子宮腔に達するなどの既往子宮体部手術 異常
の既往 、外傷、の既往
子宮奇形(など) による子宮の
胎盤が子宮瘢痕に及ぶ 帝王切開の既往回数が多い(2回既往で1〜2%)

既往1回の帝王切開後のTOLACでは、破裂率は1%未満にとどまる。既往2回では1〜2%とやや上昇するが、いずれも古典的切開・既往破裂例の破裂率と比べれば低い。この数値の対比こそが、TOLACの適応判断の土台になる。

TOLAC(帝王切開後経腟分娩)の候補選択

  • 既往帝王切開が1〜2回で、他に産科的禁忌がなく、緊急帝王切開に直ちに移行できるの施設であれば、TOLACは候補となりうる。
  • 既往が古典的切開・・子宮体部への広範な手術・そのものである場合は、が高いためTOLACの対象としない。
  • など、瘢痕の有無によらず経腟分娩自体が禁忌となる病態が併存する場合も対象外となる。

💡 なぜ切開の位置がここまで予後を左右するのか。 子宮下部のは分娩後に筋層の少ない部分で修復されるため、次回妊娠での・収縮に対する強度が保たれやすい。一方、子宮体部(収縮する筋層が厚い部分)を縦に切開する古典的切開・は、瘢痕が最も力のかかる領域を横断するため、次回の陣痛で破綻しやすい。この解剖学的な違いが、TOLAC可否を分ける根拠である。

臨床像

の臨床像は、痛みや出血よりも胎児心拍の変化が先行するという点が最大の特徴である。

  • 最も頻度が高く鋭敏な初発所見は、突然の胎児徐脈または持続的な胎児心拍数異常である。下で母体の疼痛が乏しくても、この所見は変わらず出現しうる。
  • 突然発症する持続性の腹痛、既往瘢痕部の圧痛
  • それまであった子宮収縮の消失・減弱
  • 性器出血、血尿
  • 母体の頻脈・低血圧などショック徴候
  • 児頭などの上昇(それまで下降していたが急に触れにくくなる)、腹壁を通じて胎児部分を触れやすくなる
  • 完全破裂では胎児が腹腔内へ娩出されることがある

⚠️ 典型的とされる「裂けるような激痛」や外出血の目立つ増加は、実際にはないことも多い。症状の派手さに頼らず、胎児心拍数モニタリングの異常を最重要のとして扱う姿勢が、TOLAC管理の基本である。

診断

の診断は臨床的になされ、上記の徴候(とくに突然の)から疑うこと自体が診断の出発点である。

治療(緊急対応)

を疑ったら、蘇生と外科的止血を同時並行で進める。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uterine rupture'>子宮破裂</span>を疑う<br>(突然の胎児徐脈・持続する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='abnormal fetal heart rate'>胎児心拍異常</span>が最多の初発所見)"] --> B["緊急応援要請・母体蘇生・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='massive transfusion protocol'>大量輸血プロトコル</span>準備"]
  B --> C["画像検査での確定を待たず直ちに緊急開腹・帝王切開"]
  C --> D["胎児を娩出し出血点を確認"]
  D --> E{"修復可能で止血できるか"}
  E -->|"はい"| F["子宮修復(将来の妊孕性を考慮)"]
  E -->|"いいえ・出血制御不能"| G["子宮摘出"]
  F --> H["膀胱・尿管など隣接臓器損傷の有無を確認し修復"]
  G --> H
  • 開腹時には胎児娩出と母体の出血制御を最優先し、膀胱・尿管など隣接臓器の損傷がないか確認して必要な修復を行う。
  • 子宮修復か子宮摘出かは、破裂の範囲・出血量・患者の将来の妊孕性希望・血行動態の安定性を総合して判断する。出血制御が困難な広範囲破裂や、患者が妊孕性温存を希望しない場合は子宮摘出を選択する。
  • ・促進に用いていたオキシトシンなど)は直ちに中止する。
  • 大量出血が続く場合はの合併に注意し、凝固因子の補充を含めたを進める。
  • 次回妊娠を希望する場合、子宮修復後は次回分娩を計画帝王切開とするのが原則であり、再度のTOLACは通常勧められない。

まとめ

  • は子宮壁全層の破綻で子宮腔と腹腔が交通する状態であり、漿膜が保たれる)とは重症度が異なる。
  • 最大の危険因子は既往子宮瘢痕であり、とくに・子宮体部への手術・の既往はTOLACの対象外となる。1〜2回のみであれば適切な候補選択と緊急帝王切開下でTOLACを検討できる(破裂率は既往1回で1%未満、2回で1〜2%)。
  • 最も多い初発所見は突然の胎児徐脈・持続的なであり、典型的な激痛や出血がなくても発症しうる。中でも胎児心拍数モニタリングを最重要視する。
  • で子宮が硬いのに出血が続く場合は、頸管・腟・などの産道損傷との両方を鑑別に挙げ、収縮消失・上昇・の有無で見分ける。
  • 疑ったら画像確認で緊急対応を遅らせず、母体蘇生・大量輸血準備と緊急開腹帝王切開を同時に進め、破裂範囲・出血・妊孕性希望・血行動態から子宮修復か子宮摘出かを選択する。