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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 疾患

前置胎盤

Placenta previa

臓器系
生殖・産婦人科
科目
Obstetrics and Gynecology (Obstetrics)
トピック
産科学 26:前置胎盤とその他の胎盤異常
鑑別疾患
常位胎盤早期剥離
続発疾患
早産陣痛・早産播種性血管内凝固骨盤位・胎位異常分娩後出血
関連疾患
子宮破裂前期破水
治療薬
デキサメタゾン硫酸マグネシウム
症状
出血疼痛
画像所見
超音波エコー輝度
原因となる疾患
多胎妊娠
禁忌薬
オキシトシン

🧠 全体像:を理解する幹は「胎盤の位置異常→部の脆弱な血管の破綻→無痛性の反復出血」という一本の因果線である。妊娠後半の無痛性性器出血をみたら、まずを疑いの前に超音波で胎盤位置を確認する——この一点がすべての管理方針(の、経腟分娩の可否、分娩時期の決定)を貫く中心的なロジックになる。同じ「胎盤の異常」でも、は母体の出血が本質、合併しうるは剥離不能による母体大出血、は胎児血管破綻による急速な胎児失血が本質であり、この3層を区別すると学習が整理しやすい。

概要・分類

は、妊娠16週以降において胎盤がを部分的または完全に覆う状態と定義される。胎盤辺縁がに達しないものの、その距離が20 mm未満にある状態はとして区別する。

⭐ 現在の用語法——NICHD・SMFM・AIUM・ACOG・ACRらの合同 Fetal Imaging Workshop(2014年)に由来し(RCOG Green-top Guideline No. 27a はこれをAIUMのワークショップとして引用している)、同ガイドラインもこれに準拠する——では、を覆う程度によらず「(を覆う)」か「(覆わないが20 mm未満)」かのに統一されており、かつて用いられた・・という重症度別の分類は用いない1。

分類 定義 現在の位置づけ
胎盤 胎盤がを完全に覆う として記載
胎盤 胎盤がを部分的に覆う として記載
胎盤 胎盤辺縁がに達する として記載
胎盤辺縁がを覆わず、距離20 mm未満 距離(mm)で記載

💡 妊娠中期に胎盤がに近い、あるいは覆っていても、多くは妊娠経過とともに子宮下節が伸展・形成されるにつれてから相対的に離れていく(俗に「胎盤の遊走」と呼ばれる現象)。そのため中期の所見だけで・を確定診断せず、妊娠32週前後、必要なら36週前後にもで再評価する。

  • 頻度は足月の妊娠200件に1件程度と推定される1。
  • 妊娠16〜20週の解剖学的スクリーニング超音波で低在胎盤を指摘される頻度ははるかに高いが、大多数は上記の理由で足月までに正常化する。

病因・危険因子

そのものの直接的な病因は確立していないが、子宮内膜・のや胎盤面積の増大と関連する因子が危険因子として一貫して報告されている。

危険因子群 具体例
子宮手術・瘢痕 帝王切開の既往(回数依存性に増加)、、などの子宮内膜損傷歴
既往・患者背景 の既往、の増加、(35歳以上)
胎盤面積の増大
喫煙(代償性の胎盤肥大による面積増大が機序として想定される)
などのART妊娠

⭐ 帝王切開既往は自体の危険因子であると同時に、が判明した後に(PAS)を疑う最大の手掛かりでもある——帝王切開回数が増えるほど両者のリスクはともに上昇する。この一致が、後述の「関連する胎盤異常」節でPASを重点的に扱う理由になる。

臨床像・診断

臨床像

典型像は妊娠後半(多くは28週以降)に生じる疼痛を伴わない反復性の性性器出血である。

⚠️ ただし子宮収縮や疼痛を伴うこともあり、症状のみでを除外することはできない。無痛性か有痛性かは有用な手掛かりだがな鑑別点ではなく、必ず超音波で胎盤位置を確認する。

診断

  1. 出血を認めたら、まず母体の・出血量・胎児心拍数を同時に評価する。
  2. で胎盤の概位置をしたうえで、により胎盤辺縁との位置関係・距離を確定する。経腟法は適切な手技で行えば安全であり、経腹法より診断精度が高い。

⚠️ を除外するまで、指による腟を絶対に行わない。 の刺激により脆弱な胎盤組織からの出血が増悪し、大量出血を招きうる。

評価法 位置づけ
・初期スクリーニング
確定診断の標準。安全に施行可能で精度が高い
通常は不要。が疑われる場合の補助評価に限定
指による腟 ⚠️ を除外するまで禁忌
  1. 妊娠中期に低在胎盤・を指摘されても、32週頃にで再評価し、なお・が残存すれば36週頃に再度確認する。の約90%は子宮下節の発達に伴って足月前に解消するが、帝王切開の既往があると解消しにくい1。

関連する胎盤異常

と同じ産科病理の枠組みで学ぶ胎盤異常として、とが特に重要である。いずれもこのvaultに独立した疾患ノートを持たないため、ここに統合して扱う。

癒着胎盤スペクトラム

正常な妊娠ではとが絨毛とを隔てているが、PASではこの境界が欠損し、胎盤絨毛がへ異常に接着・浸潤する。

病型
絨毛が表面に異常接着するがには浸潤しない
絨毛が内へ浸潤する
漿膜を越え、膀胱など隣接臓器にまで達し得る

⭐ 最大の危険因子はと帝王切開既往の組合せであり、帝王切開回数が増えるほどリスクは著しく上昇する。そのほか、、、などの子宮内膜損傷歴も関与する。

  • 診断は経験あるによる超音波が第一選択で、、胎盤後方帯の消失、菲薄化した、膀胱境界の不整、架橋血管などを評価する。は後壁胎盤や浸潤範囲が不明瞭な場合の補助的位置づけであり、初期評価の第一選択ではない2。
  • 超音波所見が陰性でも、+複数回帝王切開という強い臨床的危険因子があればPASを否定できない。
  • 時点で母体胎児医学、麻酔科、骨盤外科、泌尿器科、、輸血部門を含むと大量輸血を整える。

⚠️ 標準的な手術方針は、胎児娩出後に胎盤を無理に剥がさず子宮内に残したまま帝王切開を行うことである。用手剥離を試みると制御不能な大量出血を招き、に至りうる。妊孕性温存を目的としたは選択例に限り、経験ある施設で十分な説明と長期追跡のもとに行う。

  • 安定例におけるは、によるリスク(出血による緊急手術)が高まる36週0日以降を避け、妊娠34週0日〜35週6日を目安にで計画する。確認のためのルーチンは不要である2。

前置血管

胎児血管がに保護されないまま、の上または近傍を走行する状態。

型 形成機序
1型 から胎盤へ向かうが付近を走る
2型 ・を結ぶ血管が付近を横切る

⚠️ 出血量は母体にとってはわずかに見えても、胎児にとっては循環血液量の大部分を占め得る。破水(自然・人工を問わず)や陣痛の進行で容易に血管が破綻し、急速な胎児失血・胎児死亡に至る。

  • 診断は経腟で胎盤位置・臍帯付着部・の有無を確認し、上の胎児血流を同定する。
  • がついた場合、副腎皮質ステロイドを妊娠28〜32週頃に投与し、切迫症状(早産兆候・出血歴・病院までの距離)に応じて妊娠30〜34週での入院管理を個別に検討する。
  • 破水・陣痛前の計画帝王切開を妊娠34〜37週の範囲で行う3。実際の時期は症状・頸管所見・早産歴・搬送距離などに応じて個別化される(この個別化要因の列挙は当該コンサルトのには無く、裏づけを取れていない)。
  • 性器出血・破水・(洞様波形を含む)を認めたら胎児失血を疑い、緊急帝王切開と新生児輸血の準備を直ちに行う。

💡 の危険因子には、、・、妊娠、の既往などがあり、これらが超音波で確認された場合は周囲の血管走行を意識的に確認する。

その他の胎盤形態異常

  • ・:主胎盤から離れた副葉、または大きさの近い2つの胎盤葉に分かれる形態異常。葉間を結ぶ血管がの温床となる。
  • :臍帯が胎盤実質でなくに付着し、血管がの保護を失って走行する。の主要な危険因子である。

いずれも単独では母体・胎児への直接的な危険は乏しいが、の合併を積極的に確認する契機として重要である。

管理・分娩時期

flowchart TD
    A["妊娠後半の無痛性性器出血、または妊婦健診の超音波で低在胎盤を指摘"] --> B{"活動性の大量出血・母体不安定・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetal compromise'>胎児機能不全</span>があるか"}
    B -->|"あり"| C["週数によらず蘇生・緊急帝王切開"]
    B -->|"なし・安定"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transvaginal ultrasound, TVUS'>経腟超音波</span>で胎盤辺縁と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal os'>内子宮口</span>の距離を確認(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='digital examination'>指診</span>は行わない)"]
    D --> E{"胎盤は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='internal os'>内子宮口</span>を覆うか"}
    E -->|"覆わない(辺縁距離20mm未満)=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-lying'>低置胎盤</span>"| F["32週・36週で再評価し、距離・出血歴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetal lie'>胎位</span>で分娩様式を個別判断"]
    E -->|"覆う=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='placenta previa'>前置胎盤</span>"| G{"帝王切開既往などPASの危険因子はあるか"}
    G -->|"あり:PAS疑い"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multidisciplinary team'>多職種チーム</span>・大量輸血<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body plan'>体制</span>を準備し34週0日〜35週6日で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='planned delivery'>計画分娩</span>"]
    G -->|"なし"| I{"出血や早産兆候はあるか"}
    I -->|"安定"| J["36週0日〜37週6日で計画帝王切開"]
    I -->|"あり"| K["個別に分娩時期を前倒し"]
  • 大量出血、母体不安定、分娩の進行、があれば、妊娠週数にかかわらず蘇生と緊急分娩を優先する。
  • 安定した早産期では、入院管理の必要性を出血歴・病院までの距離・支援で個別化する。早産が見込まれる場合は適応週数に応じて副腎皮質ステロイドを投与し、妊娠32週未満での早産が見込まれる場合は胎児目的にの投与を検討する(・早産と共通の原則)。
  • PASを伴わないが残存すれば計画帝王切開を行う。安定例の時期は一般に妊娠36週0日〜37週6日を目安とし4、出血歴や施設方針で調整する(RCOG GTG 27a は推奨文で「36〜37週」と書く一方、同じ文書の監査基準は「37週0日〜37週6日」としており、文書内で表現が割れている。上限の取り方はACOGとしない)1。確認のためのルーチンは行わない。
  • (覆わないが20mm未満)では、胎盤辺縁との距離、出血歴、、施設の緊急対応能力を踏まえ、経腟分娩の可否を個別に判断する。

⭐ 帝王切開時は大量出血に備え、大口径の確保と、血液型・済みのの準備を行う。 輸血を要する大量出血ではを含むの評価を並行して行う。は分娩時大量出血に対する補助的な止血手段として使用されることがある。Rh陰性妊婦で経腟的な出血・処置があれば、Rho(D)免疫グロブリンの投与適応を確認する。

⚠️ が残存する限り、経腟分娩は禁忌であり、分娩様式は原則として帝王切開に限られる。

まとめ

  • はを覆う胎盤、は胎盤辺縁がから20 mm未満にある状態であり、現在は・・という旧分類ではなくこので記載する。
  • を除外するまで指による腟を避け、で胎盤位置を確認する。典型像は無痛性反復性出血だが、有痛性でもを除外できない。
  • 最大の危険因子は帝王切開既往であり、回数が増えるほど自体、および合併する(PAS)のリスクがともに上昇する。
  • PASは+帝王切開既往で強く疑い、超音波(必要なら併用)で評価し、34週0日〜35週6日にで・を行う。胎盤を無理に剥離しない。
  • は胎児血管の異常走行であり、破水・陣痛での破綻が胎児失血につながるため、34〜37週での計画帝王切開と早期のステロイド投与を行う。
  • が残存する安定例の分娩時期は妊娠36週0日〜37週6日を目安とし、大量出血・母体不安定・があれば週数によらず緊急帝王切開を行う。

出典

  1. 1.Placenta Praevia and Placenta Accreta: Diagnosis and Management: Green-top Guideline No. 27a(Royal College of Obstetricians and Gynaecologists / BJOG・2019)第4版の著者最終稿(セント・ジョージズ大学ロンドンの機関リポジトリに置かれた受理版PDF、全47ページ)で確認した。用語について、米国超音波医学会(AIUM)の多分野ワークショップが partial と marginal の語の使用中止を勧告し、胎盤が内子宮口の直上にある場合に placenta praevia の語を用いるよう提案していること、妊娠16週を超える妊娠では胎盤辺縁が内子宮口から20 mm未満のとき low lying と報告し、20 mm以上であれば正常と報告すべきであることを確認した。⚠️ ただし本ガイドラインは推奨文の側では「20 mm or less(20 mm以下)」と書いており、本文の「less than 20 mm(20 mm未満)」と一致していない。足月での前置胎盤の頻度は妊娠200件に1件と推定され、子宮下節の発達に伴う見かけ上の胎盤の遊走により低置胎盤の90%は足月前に解消する(帝王切開既往があると解消しにくい)。中期の胎児形態スクリーニングで低置または前置が疑われた場合は妊娠32週に経腟超音波での再評価を行い、32週で残存し無症状であれば妊娠36週前後にさらに経腟超音波を追加する。分娩時期は症状に応じて調整し、合併症のない前置胎盤では妊娠36〜37週での予定帝王切開を検討する。緊急を要する出血の危険は妊娠35週までに4.7%、36週までに15%、37週までに30%、38週までに59%と報告されている。危険因子として双胎(二絨毛膜 aOR 1.54、一絨毛膜 RR 3.29)、生殖補助医療(RR 3.71・OR 2.67)、喫煙(OR 1.42)、高年(OR 1.08、ただし経産回数による可能性がある)を挙げている。⚠️ 2026年に第5版(Placenta Praevia and Placenta Accreta Spectrum、doi:10.1111/1471-0528.70239)が公表されているが、出版社・発行元とも全文を取得できず、本ノートの記述は第4版で確認したものである。閲覧 2026-09-04
  2. 2.Obstetric Care Consensus No. 7: Placenta Accreta Spectrum(American College of Obstetricians and Gynecologists and Society for Maternal-Fetal Medicine・2018)発行元PDFの全文で確認した。癒着胎盤スペクトラム(PAS)は癒着胎盤・嵌入胎盤・穿通胎盤を含む胎盤の病的付着の総称である。推奨表(表1)では、超音波所見が陰性でもPASを否定できず臨床的危険因子が超音波所見と同等に重要であること(1A)、MRIが超音波を超えて診断を改善するかは不明でありPASの初期評価に推奨される第一のモダリティではないこと(1B)、PASの管理には多職種チームによる標準化された対応が最適であること(1B)、安定した患者では予定帝王切開または子宮摘出の時期として妊娠34週0日〜35週6日が推奨されること(1A)、保存的・待機的管理は詳細な説明のうえ慎重に選んだ症例に限り検討すべきで研究的な位置づけであること(2C)が示されている。標準的な手術方針は、胎児娩出後に胎盤を子宮内に残したまま帝王切開子宮摘出を行うことである。36週0日を超えて待機することは、その頃までに約半数が出血などで予定外の分娩に至るため勧められない。この週数では肺成熟に関するデータが分娩の判断を変えないため羊水穿刺は不要である。持続する出血、子癇前症、陣痛、破水、胎児機能不全、母体合併症の出現があればより早い分娩を要する。閲覧 2026-09-04
  3. 3.#37: Diagnosis and management of vasa previa(Society for Maternal-Fetal Medicine・2015)前置血管は、臍帯や胎盤に保護されていない胎児血管が卵膜内を走行し子宮頸管を横切る状態であり、破膜すればこれらの血管が破綻して胎児出血・失血・死亡に至りうる。超音波による出生前診断率は約98%、出生前に診断された症例の約28%が緊急の早産分娩に至る。出生前診断がついた症例の管理は、妊娠28〜32週の出生前ステロイド投与、妊娠30〜34週での入院管理の検討、妊娠34〜37週での計画分娩からなる。⚠️ 抄録のみを閲覧しており全文は未取得。1型・2型という形成機序による分類は本抄録には含まれておらず、本ノートでは引いていない。閲覧 2026-09-04
  4. 4.Medically Indicated Late-Preterm and Early-Term Deliveries: ACOG Committee Opinion, Number 831(American College of Obstetricians and Gynecologists and Society for Maternal-Fetal Medicine・2021)発行元PDFの全文(2021年7月版)で確認した。表1の胎盤・子宮の条件の行は、前置胎盤が妊娠36週0日〜37週6日、癒着・嵌入・穿通胎盤の疑いが妊娠34週0日〜35週6日、前置血管が妊娠34週0日〜37週0日である(前置胎盤と癒着胎盤の行には、胎児発育不全や重複した子癇前症などの合併が無い場合という注が付く)。⚠️ 表の脚注は、許容される分娩週数の幅が広い場合に幅の下限が自動的に望ましいわけではなく、幅のどこを選ぶかは個々の患者の要因と利益・不利益によると明記している。閲覧 2026-09-04