産科学

産科学 · 31

産道損傷と子宮破裂

Lesions of the birth canal. Uterine rupture

前提:正常
骨盤・会陰:会陰
疾患
会陰裂傷肩甲難産産科的肛門括約筋損傷子宮破裂直腸ボタンホール裂傷
画像所見
肛門超音波

🧠 全体像:分娩後に子宮が硬く収縮しているのに出血が続くなら、頸管・腟・会陰の損傷を検索する。ではを見逃さず、の突然の、疼痛、の上昇ではとして緊急開腹を準備する。

産道損傷の原因

機序 例
急速・制御困難な娩出 急産、前の
胎児要因 、、
器械・手術 、吸引、
組織要因 瘢痕、感染、浮腫、脆弱な組織

外陰・腟・頸管裂傷

外陰・腟裂傷

の小さく浅い裂傷は、出血がなく解剖が保たれていれば縫合不要なことがある。持続出血、深い裂傷、解剖の変形、尿路近傍の損傷では、十分な照明・鎮痛下に修復する。

腟壁裂傷は奥へ伸びて血管を損傷し、目立つ外出血がなくても腟・後腹膜血腫を形成し得る。、圧迫感、直腸痛、循環不安定、片側性腫脹が手掛かりとなる。

頸管裂傷

  • 小さな表在裂傷は経腟分娩後にしばしばみられ、出血がなければ処置不要である。
  • 子宮が硬いにもかかわらず出血が続く場合は、腟鏡で頸管全周を観察する。
  • 深い裂傷は、、下部子宮へ及び得る。出血点の上方からで縫合し、尿管・膀胱・直腸損傷に注意する。
  • から頸管が部分的・完全にするはまれだが重篤である。

会陰裂傷

分類

度 損傷範囲
第1度 会陰皮膚・のみ
第2度 に及ぶがは保たれる
第3a度 厚の50%未満
第3b度 EAS厚の50%超(原文 “More than 50%”)。⚠️ 50%を超えるか判断がつかないときは過小評価を避けて3bとする
第3c度 EASとの両方
第4度 EAS・IASを越えて直腸に達する

第3〜4度がOASISである1。裂傷が目立たなくても、分娩後はに加えを行い、括約筋断端、直腸、直腸ボタンホール損傷を確認する。

💡 OASISの頻度は上昇して見える。 英国では初回経腟分娩でのOASIS報告率が2000〜2012年に1.8%から5.9%へ上昇したが、これは診断精度・報告の向上を反映している可能性があり、必ずしもケアの質の低下を意味しない1。

危険因子

  • 、、、
  • 遷延、
  • 、
  • OASIS既往

修復と術後管理

  • 出血を制御し、十分な麻酔・照明・器具を確保する。
  • 第1度で非出血性なら保存的に管理できるが、第2度以上は層ごとに解剖を再建する。
  • OASISは経験あるが手術室で修復する。直腸粘膜、IAS、EASをそれぞれ同定し、EASは端々縫合または重層縫合を損傷形態に応じて選ぶ1。
  • 、・、鎮痛、骨盤底リハビリテーションを行う1。

⚠️ はを保護しない。 は自然な第2度裂傷と比べ産後の便・リスクを増やすとの報告があり2、などが必要な場面ではが推奨される1。

💡 重層法との比較。 全層EASの修復は重層法・とも同等の転帰とされるが、(3a、一部の3b)にはが推奨される1。Cochraneレビューでは、重層法が12カ月時点の感を減らしたが36カ月時点では両法に差がなく、根拠となる試験は少ない3。

  • 産後に創傷、排便、便・ガス失禁、疼痛、を追跡し、症状があれば専門外来へ紹介する。

見逃したOASISは感染、、、慢性につながる。

血腫

小さく増大しない血腫は鎮痛・冷却・観察が可能である。増大、強い疼痛、尿閉、神経症状、循環不安定があれば、切開排血と血管、または術を行う。

子宮破裂

子宮壁全層が破綻し、子宮腔と腹腔が交通する状態である。漿膜が保たれる/とは区別する。

危険因子

高リスク 追加リスク
既往・4 ・、とくに
子宮腔へ達するなど 遷延・、、
既往 外傷、内、
子宮奇形 、による

後のは適切な候補選択と緊急帝王切開下で可能だが、古典的切開・既往破裂などでは通常避ける。

💡 TOLAC/VBACの実数。 米国の多施設観察研究では、既往帝王切開後にTOLACを行った17,898人のうち症候性は0.7%に生じ、は低いものの選択的反復帝王切開より周産期リスクが高かった。既往切開法別では、はに比べ破裂の補正後が3.23と有意に高い54。

臨床像

  • 最も多い初発所見は、突然のまたは持続的な6
  • 突然の持続性腹痛、瘢痕部圧痛、収縮の消失
  • 性器出血、血尿、母体頻脈・低血圧
  • の上昇、腹部で胎児部分を触れやすくなる
  • 完全破裂では胎児が腹腔内へ娩出され得る

典型的な「裂ける痛み」や出血がないこともある。中でもを重視する。

対応

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uterine rupture'>子宮破裂</span>を疑う"] --> B["緊急応援・母体蘇生・大量輸血準備"]
  B --> C["直ちに緊急開腹・帝王切開"]
  C --> D["胎児娩出・出血点確認"]
  D --> E{"修復可能で止血できるか"}
  E -->|"はい"| F["子宮修復"]
  E -->|"いいえ"| G["子宮摘出"]

画像検査で確定するために手術を遅らせない。開腹時に胎児娩出、母体出血制御、膀胱・尿管など隣接臓器損傷の修復を行う。破裂範囲、出血、将来の妊孕性、循環状態により子宮修復か子宮摘出を選ぶ。

まとめ

  • 子宮が硬いのにが続けば、頸管・腟・会陰を系統的に診察する。
  • 第3度裂傷は3a・3b・3cへ細分し、第3〜4度のOASISでは括約筋を同定して専門的に修復する。
  • は既往子宮瘢痕に多く、突然の、疼痛、上昇、母体ショックで疑う。
  • を疑ったら画像確認で遅らせず、蘇生・大量輸血準備と緊急開腹帝王切開を同時に進める。

出典

  1. 1.The Management of Third- and Fourth-Degree Perineal Tears (Green-top Guideline No. 29)(Royal College of Obstetricians and Gynaecologists・2015)英国のOASIS報告率は2000〜2012年に単胎正期産初回経腟分娩で1.8%から5.9%へ上昇し、全体の頻度は2.9%(初産6.1%、経産1.7%)。全層外肛門括約筋断裂の修復は重層法・端々法とも同等の転帰(グレードA)だが、部分層断裂(3a、一部の3b)には端々法を推奨する。器械分娩では正中側切開を検討すべきで、正中線から60度離す角度が断裂予防に重要。修復後は広域抗菌薬と緩下薬を推奨し、修復後12カ月時点で60〜80%が無症状になるとした。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Midline episiotomy and anal incontinence: retrospective cohort study(BMJ・2000)米国の大学病院での初産婦を対象にした後ろ向きコホート研究(会陰切開群209人、自然裂傷群206人、無・軽度裂傷群211人)。正中会陰切開は自然な第2度裂傷と比べ産後3カ月の便失禁リスクを約3倍、排ガス失禁リスクを約2倍に増やし、正中会陰切開は肛門括約筋を保護せず、かえって肛門機能を損ないうると結論した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Methods of repair for obstetric anal sphincter injury(Cochrane Database of Systematic Reviews・2013)6試験588人を統合したCochraneレビュー。重層法は端々法と比べ12カ月時点で便意切迫感と便失禁スコアが有意に良好だったが、36カ月時点では排ガス・便失禁とも両法で差がなかった。根拠となる試験は2件と少なく、さらなる研究が必要と結論した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Risk of uterine rupture and placenta accreta with prior uterine surgery outside of the lower segment(Obstetrics & Gynecology・2012)米国NICHD多施設ネットワークのコホート研究。既往子宮下部横切開帝王切開13,273人と比べ、既往古典的帝王切開455人では子宮破裂の補正後オッズ比が3.23(95%CI 1.11-9.39)と有意に高く、切開法によって次回妊娠の破裂リスクが異なることを示した。閲覧 2026-08-26
  5. 5.Maternal and perinatal outcomes associated with a trial of labor after prior cesarean delivery(New England Journal of Medicine・2004)米国19施設・既往帝王切開後の単胎妊娠の前向き観察研究。TOLAC(経腟分娩試行)を受けた17,898人のうち症候性子宮破裂は124人(0.7%)に生じ、選択的反復帝王切開群では低酸素性虚血性脳症の発生がゼロだったのに対しTOLAC群では12例に発生するなど、TOLACは絶対リスクは低いが選択的反復帝王切開より周産期リスクが高いとした。閲覧 2026-08-26
  6. 6.Fetal heart rate changes associated with uterine rupture(Obstetrics & Gynecology・2004)米国2施設の症例対照研究。子宮破裂36例を経腟分娩成功例100例と比較し、分娩第1期・第2期の胎児徐脈が子宮破裂を区別する唯一の所見だったとし、胎児心拍数異常が子宮破裂の最も重要な早期徴候であることを支持した。閲覧 2026-08-26