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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

心房粗動

Atrial flutter

別名
AFL
臓器系
循環器
科目
Cardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular SurgeryIntensive Therapy and Anesthesiology
トピック
循環器内科 A-30:上室性不整脈循環器内科 A-32:電気的および薬理学的カルディオバージョン麻酔科学 B-07:周停止期不整脈の診断と治療
上位概念
不整脈
鑑別疾患
心房細動
続発疾患
脳梗塞慢性心不全頻脈誘発性心筋症
治療薬
ビソプロロールジルチアゼムアピキサバンフレカイニドプロパフェノンジソピラミドランジオロール
症状
動悸頻脈めまい失神
スコア
CHA2DS2-VAScスコア
適応薬
ジゴキシン

🧠 全体像:は、右房内の(CTI)を必ず通過する大きな1本のが、規則正しく興奮を旋回させ続ける不整脈である。心房細動が「無秩序な多数の小さな興奮」であるのに対し、典型的は「単一の解剖学的に決まった回路」であるため、の標的が明確で成功率も心房細動より高い。が約300/分と規則的なため、2:1伝導ならは約150/分という覚えやすい数字の関係になる。

病態:三尖弁輪峡部依存性のマクロリエントリー

典型的(type I、CTI依存性)は、と下大静脈・に囲まれた(CTI)を必ず通過する、右房内の大きな解剖学的によって生じる。多くはを反時計方向(から見て)に旋回し、この向きが最も高頻度な「典型的」パターンである。時計方向に旋回する非典型例や、外科手術瘢痕・瘢痕を回路に含む非CTI依存性のもあるが、頻度は典型例より少ない。

flowchart TD
    A["右房内の解剖学的境界<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tricuspid annulus'>三尖弁輪</span>・下大静脈・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Eustachian ridge'>Eustachian隆起</span>)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cavotricuspid isthmus'>三尖弁輪峡部</span>(CTI)を通過する<br>大きな<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macroreentry'>マクロリエントリー</span>回路"]
    B --> C["反時計方向の興奮旋回(典型的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrial flutter'>心房粗動</span>)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrial rate'>心房レート</span>約250〜330/分の規則的な興奮"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior leads'>下壁誘導</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sawtooth (pattern)'>のこぎり歯状</span>のF波"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrioventricular (AV) node'>房室結節</span>を介して心室へ伝導"]
    F --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AV conduction'>房室伝導</span>比"}
    G -->|"2:1"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular rate'>心室レート</span>約150/分"]
    G -->|"1:1"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular rate'>心室レート</span>約250〜300/分<br>血行動態が破綻しうる"]
    G -->|"可変"| J["不規則な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular response'>心室応答</span>"]

⭐ 約300/分・2:1伝導なら約150/分という関係は、新規発症ので最も頻度の高い伝導比が2:1であることに由来する1。規則的なでレートがちょうど150/分に近いときは、2:1伝導のを鑑別に必ず挙げる。

なおの数値は資料によって幅の取り方が違う。上の250〜330/分は依存性の典型例についての範囲であり1、全体を扱うJCS/JHRS 2020ガイドラインは240〜440/分とし、周期の長いtype I(240〜340/分)と短いtype II(340〜440/分)に分けている(type Iの回路の多くがを通る)2。

心電図所見

(II・III・aVF)で、通常のが失われ、に連続するF波を認める。典型的な反時計方向旋回ではのF波が陰性、V1誘導で陽性になることが多い。F波の間にがないことが、心房細動の不規則なとも、の孤立したP波とも異なる特徴である。

2:1伝導では毎回のF波の半分がQRSに隠れて見えにくく、規則的なと誤認しやすい。を一時的に抑制するやアデノシンを用いると、が遅れる間にF波が露出し、診断が確定する(アデノシンは頻拍そのものを止めないが、波形を見やすくする診断的価値を持つ)。

臨床像

  • 、頻脈、めまい、低下が主な症状である。
  • へ悪化するとが200/分を超え、血行動態が破綻して失神やを来しうる。
  • の持続的な高値はの原因になり、心房細動と同様にを来しうる。
  • 心房の有効な収縮が失われるため、でのから血栓塞栓・のリスクが生じる。

治療

レートコントロールと血行動態不安定例

血行動態が不安定なら、機序の確定を待たずを優先する。・心不全・急性を伴うでは、静脈麻酔下の(50〜100 J)が第一選択に位置づけられる2。

血行動態が安定した症例のでは、静注・経口のまたはが推奨クラスIで、経口β遮断薬も慢性期の管理でクラスIである2(ガイドラインの表は薬効群で記載しており個々の薬剤名を挙げていない。国内で用いられる代表例がである)。血行動態が不安定な例では、静注(クラスIIa。国内のJ-LAND試験で心機能低下例での有効性・安全性が示された)や静注(ジゴキシン。クラスIIa。心機能低下例で選ばれやすい)を用いる2。

⚠️ ・は、を介して伝導する、中等症以上の心不全、、房室ブロック、恒久ペースメーカを植え込んでいない心室内では避ける2。も、25%未満の高度心機能低下例や90 mmHg未満のな心不全では慎重な管理を要する2。

電気的カルディオバージョンとカテーテルアブレーション

はに対する反応が良く、心房細動より低いエネルギーでしやすい(は50〜100 Jで行う)2。抗凝固の準備(3週間以上の治療域抗凝固、またはでの除外)は心房細動と同じ原則に従う。

はCTI依存性の標的が単一の解剖学的に絞られるため、長期薬物治療より優先される第一選択治療である1。JCS/JHRS 2020ガイドラインも、CTI依存性・非CTI依存性のいずれについても再発予防の第一選択としてを挙げ、薬物療法は既往の不成功例や患者の希望でを行わない場合の選択肢と位置づけている2。158研究・10,719例を統合したでは、報告を補正したは91.1%に達し、太径・の使用との確認を手技の終了点とすることで再発率がさらに低下した3。同じ心房の不整脈でも、心房細動より再発が少なく成功率が高い点は、が単一の解剖学的経路に限局するCTI依存性の構造的な特徴による1。

薬物によるリズムコントロールとI群薬の落とし穴

I群は、の「使ってはいけない薬」ではなく、適応が心機能と基礎心疾患で線引きされている薬である。JCS/JHRS 2020ガイドラインは、がなく血行動態も安定しているの停止について静注I群薬を推奨クラスIIaとし、実際に停止効果が検討されてきた薬として静注・経口・静注・静注を名指ししている(停止効果はIII群薬と同等か劣ると評価されている)。再発予防でも、心機能が正常〜軽度低下にとどまる例では経口I群薬がクラスIIaに置かれる2。

⚠️ 逆に、血行動態が不安定な、中等症以上の心機能低下、、では、I群薬はクラスIII(行うべきでない)である2。

⚠️ I群薬の最大の落とし穴はへの悪化で、経路が2つある。

  1. をもつI群薬(・シベンゾリン)はそのものを促進するため、のを誘発しうる。この状態では心拍数が300/分を超え致死的になりうるので、速やかなかが必要になる2。
  2. Ic群薬(・)は心房内のを落としての周期を延長させる(例:300/分→200/分)ため、が2:1ではなく1:1で追随できるレートまでが下がる。

💡 いずれの経路でも対策は同じで、のを直接落とすβ遮断薬・・を併用しておくのが望ましい2。Ic群薬はまた、心房細動をへ変えることもある(の延長で興奮波長が伸びるため。いわゆる「Ic flutter」)2。

⚠️ はの停止薬ではない。 欧州の製品情報は「典型的な原発性をへ戻す効果は認められなかった」と明記しており、ACT II・ACT IIIに組み入れられた典型的例で有効性は示されていない。適応は発症早期の心房細動に限られる。それどころか、心房細動に本剤を投与した患者では投与後2時間以内にへ移行する頻度が高く(頻度としてはcommon)、市販後にはまれながらを伴うも報告されている4。

抗凝固

の適応は心房細動と同じスコアによるに従う1。という病型の違いだけで抗凝固の要否を判断しない。長期の血栓塞栓リスクが心房細動と同程度であることが複数の前向き研究とで示されており、持続するでは年間3%と報告されている2。

⚠️ の前3週間だけでなく、施行後も少なくとも4週間は抗凝固を続ける。 💡 の直後はの収縮が一過性に低下する「心房スグ」が数週間続き、これが後の血栓塞栓の機序になるためである(薬理学的でもでも観察される)。前後の短期の血栓塞栓リスクは1.5〜2.2%と報告され、持続48時間以上のでは48時間未満より有意に高い2。

心房細動との違い

同じ心房性のでも、機序・心電図・治療反応が異なる。

項目 心房細動
機序 単一の解剖学的(CTI依存性が典型) 心房内の多発興奮・無秩序な
心房の興奮 規則的(約250〜330/分) 不規則・無秩序(300〜600/分)
心電図 、なし P波消失、の細動様変化
規則的なことが多い(2:1伝導など) に不規則
単一が標的で成功率が高い が中心で再発が相対的に多い
抗凝固の適応 心房細動と同じで判断 同左

まとめ

  • はを通過する単一のによる不整脈で、典型例は反時計方向に旋回しにを作る。
  • は約250〜330/分で、2:1伝導ではが約150/分になるという規則的な数字の関係が診断の手がかりになる。
  • は標的が単一に絞られるため成功率が高く、長期薬物治療より優先される第一選択治療である。
  • I群薬は「禁忌の薬」ではなく、がない例ではクラスIIaの停止・再発予防手段だが、例・中等症以上の心機能低下・・ではクラスIIIである。
  • I群薬のへの悪化には、による促進(・シベンゾリン)と、Ic群薬による周期の延長という2つの経路があり、いずれもの併用で備える。
  • は典型的をへ戻す効果が示されておらず、むしろ心房細動からへの移行を増やす。
  • の抗凝固適応は心房細動と同じスコアで判断し、という病型だけで免除しない。後も心房スグを理由に4週間以上続ける。

出典

  1. 1.2019 ESC Guidelines for the management of patients with supraventricular tachycardia(European Society of Cardiology・2020)典型的な三尖弁輪峡部依存性心房粗動は反時計方向の大きなマクロリエントリーで心房レートはおよそ250〜330/分、2:1房室伝導では心室レートはおよそ150/分になること、カテーテル心房粗動へのアブレーションは長期薬物治療より優先されるClass I推奨であり心房細動アブレーションより再発が少ないこと、脳卒中予防は心房細動と同じCHA2DS2-VAScによるリスク層別化を適用すること閲覧 2026-08-11
  2. 2.JCS/JHRS 2020 Guideline on Pharmacotherapy of Cardiac Arrhythmias(Journal of Arrhythmia(日本循環器学会・日本不整脈心電学会)・2020)6.2節の全文で以下を確認した。心房粗動の心房レートは240〜440/分で、周期の長いtype Iが240〜340/分、短いtype IIが340〜440/分に分けられること。心原性ショック・心不全・急性心筋虚血を伴う心房粗動では静脈麻酔下の同期下カルディオバージョン(50〜100 J)が第一選択とされること。Table 54で静注・経口のジルチアゼムまたはベラパミルによるレートコントロールが推奨クラスI(LOE A)、血行動態不安定例への静注β遮断薬(ランジオロール)と静注ジギタリスがクラスIIa、器質的心疾患のない血行動態安定例への静注I群薬による停止がクラスIIaである一方、血行動態不安定例・中等症以上の心機能低下例、およびBrugada症候群・徐脈頻脈症候群へのI群薬はクラスIIIであること。停止効果が検討されたI群薬として静注ジソピラミド・経口プロパフェノン・静注プロカインアミド・静注フレカイニドが名指しされ、その効果はIII群薬と同等か劣ると記載されること。Table 55で経口I群薬による再発予防が心機能正常〜軽度低下例でクラスIIa、中等症以上の心機能低下例でクラスIIIであること。Table 10と5章で、Ic群薬は不応期延長により興奮波長が伸びるため心房細動を心房粗動へ変えうること、抗コリン作用をもつI群薬(ジソピラミド・シベンゾリン)は房室伝導促進により1:1伝導の心房粗動を起こし心拍数が300/分を超えて致死的になりうること、そのため房室結節伝導を直接抑制するβ遮断薬・ジルチアゼム・ベラパミルの併用が望ましいこと。カテーテルアブレーションはCTI依存性・非CTI依存性のいずれでも長期薬物療法より優先される第一選択とされること。カルディオバージョン前3週間・後4週間以上の抗凝固が必要で、後者は心房スタンニングによる血栓塞栓が理由であり、電気的カルディオバージョン前後の短期血栓塞栓リスクは1.5〜2.2%、持続48時間以上では48時間未満より有意に高いこと。閲覧 2026-09-05
  3. 3.Long-Term Outcomes After Catheter Ablation of Cavo-Tricuspid Isthmus Dependent Atrial Flutter: A Meta-Analysis(Circulation: Arrhythmia and Electrophysiology (Perez FJ, Schubert CM, Parvez B, et al.)・2009)158研究・10,719例を統合したメタ解析で、三尖弁輪峡部アブレーションの報告バイアス補正後の急性成功率は91.1%であり、8〜10 mm先端または灌流型カテーテルの使用と両方向性ブロックを手技終了点とすることで再発率がそれぞれ有意に低下したこと閲覧 2026-08-11
  4. 4.Brinavess (vernakalant) EPAR product information — Summary of Product Characteristics(European Medicines Agency・2024)取得したPDFは第10項「DATE OF REVISION OF THE TEXT」が空欄で、初回承認2010年9月1日・直近の更新2020年6月2日の記載のみだったため、yearには文書ファイル自体の作成日(2024年11月)を採った。セクション4.4に「Vernakalant was not found to be effective in converting typical primary atrial flutter to sinus rhythm.」とあり、セクション5.1で ACT II・ACT III に組み入れられた典型的心房粗動例で有効性が示されなかったと記載されていることを確認した。同じ4.4と4.8に、心房細動へ投与した患者では投与後2時間以内に心房粗動へ移行する頻度が高いこと(副作用頻度は common)、市販後にまれに1:1房室伝導を伴う心房粗動が報告されていること(rare)、I群抗不整脈薬を併用している患者では心房粗動のリスクが高まりうることも確認した。閲覧 2026-09-05