小児科学

小児科学 · 2-19

小児ショックの認識・病型・治療

Recognition and Treatment of Shock in Children

前提:病態
循環性ショックの定義と分類循環血液量減少性ショックの病型心原性ショックの原因敗血症性ショックの機序と治療
症状
毛細血管再充満時間延長

🧠 全体像:小児は血圧を遅くまで保つため、低血圧を待たない。頻脈、、意識、尿量から代償性ショックを捉え、少量ごとに再評価する。

認識

  • 頻脈、延長またはフラッシュ、・斑状、、乏尿、意識変容、乳酸上昇を評価する。頻脈・徐脈の閾値も含め、の正常範囲は年齢で大きく異なる1。
  • は測定法(部位・圧迫秒数・室温)を標準化しないと観察者間でばらつく2。
  • 低血圧はショックの遅い所見であり、の下限は年齢で異なる。目安の一例として、FEAST試験は重症低血圧を生後12か月未満で50 mmHg未満、1〜5歳で60 mmHg未満、5歳超で70 mmHg未満と定義した3。⚠️ これは1つの試験の組入れ基準であって普遍的な定義ではない。2026年のSurviving Sepsis Campaign小児版は輸液の推奨を「低血圧の有無」で分けているが、本文に低血圧の数値定義を置いていない4。の基準として使われるPhoenix基準(2024年)は、ではなく年齢別ので採点する(1点となるのは生後1か月未満で17〜30 mmHg、1〜11か月で25〜38 mmHg、1〜2歳未満で31〜43 mmHg、2〜5歳未満で32〜44 mmHg、5〜12歳未満で36〜48 mmHg、12〜17歳で38〜51 mmHg。それぞれの下限を下回るとさらに1点加わる)5。どの基準の「低血圧」を使っているかを確かめてから当てはめる。
  • 心拍出量はポンプ、循環血液量、血管抵抗のどこが破綻したかで考える。

病型

病型 原因 手掛かり 原因治療
出血()、下痢・嘔吐による脱水、熱傷、 、、頸静脈虚脱 出血制御、晶質液、必要に応じ
心筋炎、心筋症、、不整脈 、、、輸液で悪化 慎重な輸液、、原因治療
敗血症、アナフィラキシー、 温かい四肢・または冷ショック 抗菌薬・、、
閉塞性 緊張性気胸、心タンポナーデ、 胸部・静脈圧所見、急速悪化 減圧、など閉塞解除

初期治療

flowchart TD
    A["ショックを認識"] --> B["気道・酸素化・換気を支持"]
    B --> C["静脈/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intraosseous route'>骨髄路</span>・血糖・採血"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isotonic crystalloid'>等張晶質液</span>10〜20 mL/kg"]
    D --> E["心拍・灌流・意識・尿量・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='overload'>過負荷</span>を再評価"]
    E -->|"改善"| F["維持・原因治療"]
    E -->|"不十分"| G["追加輸液、または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasoactive drug'>血管作動薬</span><br>(末梢路から始めてよい)"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subtype-specific treatment'>病型別治療</span>・PICU"]

⚠️ 急速なが、資源の限られた環境ではかえって死亡を増やした無作為化試験がある。 ウガンダ・ケニア・タンザニアの資源制限下病院(・人工呼吸が利用できない環境)で、重症と灌流障害を有する小児3,141例を対象としたFEAST試験では、群の48時間死亡率が対照群(なし)より有意に高かった(RR 1.45、95%CI 1.13-1.86)3。組入れは重症の熱性疾患に意識障害または呼吸窮迫を伴い灌流障害のある生後60日〜12歳で、栄養不良と胃腸炎は除外されている。この結果はが利用できない低・中所得国の環境で得られたものであり、が利用できる環境にそのまま外挿できるかは議論がある。

2026年のSurviving Sepsis Campaign小児版は、この環境差を推奨そのものの書き分けとして取り込んだ4。

医療 低血圧 最初の1時間の輸液 推奨の強さ・確実性
が利用できる 問わない() 10〜20 mL/kgずつ、計40〜60 mL/kgまで 条件付き推奨・低い
が利用できない 低血圧あり 10〜20 mL/kgずつ、最大40 mL/kgまで 条件付き推奨・低い
が利用できない 低血圧なし を行わずから始める 強い推奨・エビデンスの確実性は高い

⭐ この表で強い推奨は最下行だけである。同ガイドラインの61記述のうち強い推奨は5件、高または中等度の確実性に基づくものは3件しかない。

  • 輸液の種類も決まっている。はアルブミンではなく晶質液を用い(条件付き推奨・確実性は中等度)、を要するでは0.9%食塩液より緩衝晶質液(、ハルトマン液などの多電解質液)を選ぶ(条件付き推奨・きわめて低い)。手に入らなければ0.9%食塩液でよく、やの懸念があるときはむしろ0.9%食塩液が好まれる4。
  • 各後に心拍・血圧・・意識・尿量と、・などの徴候を確認し、ショックが消えるかが出たら中止する(good practice statement)4。や栄養不良ではさらに慎重にする。
  • 敗血症では培養を可能なら採取し、抗菌薬を遅らせず、感染源を制御する。
  • はの確保を待たず路から始めてよい(条件付き推奨・きわめて低い)。40 mL/kgの前後どちらで始めるか、第一選択をエピネフリンとノルアドレナリンのどちらにするかは、いずれも推奨を出せるだけの根拠がない(心筋機能障害・低心拍出にはエピネフリン、体血管抵抗を上げたいときはノルアドレナリン、という選好が述べられているにとどまる)4。
  • アナフィラキシーの第一選択は大腿外側へので、抗ヒスタミン薬・ステロイドは代替しない。
  • へ漫然と大量輸液・利尿薬を行わず、超音波と循環専門評価で個別化する。

まとめ

  • 小児ショックは低血圧前に見つける。「低血圧」の数値は、どの基準・どの試験のものかで違う。
  • 輸液は一律大量投与せず、10〜20 mL/kgごとに再評価する。が利用できないで低血圧が無ければ、を行わずから始める(強い推奨・確実性は高い)。
  • には0.9%食塩液より緩衝晶質液を選ぶ。は末梢路から始めてよい。
  • 、、血管拡張、閉塞の病態別に原因治療する。

出典

  1. 1.Normal ranges of heart rate and respiratory rate in children from birth to 18 years of age: a systematic review of observational studies(The Lancet・2011)出生から18歳までの健常小児を対象とした69研究(心拍数データ14万3,346例)を統合した系統的レビューで、心拍数中央値が出生時127/分、生後1か月頃にピーク145/分、その後低下し2歳で113/分となること、既存の公表基準値の間で1パーセンタイル・99パーセンタイルを超える食い違いが頻繁にあったこと。頻脈・徐脈の定義は年齢で変わることを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Validity and reliability of measurement of capillary refill time in children: a systematic review(Archives of Disease in Childhood・2015)健常小児を含む21研究・1,915例を対象とした系統的レビューで、生後7日超の小児では指先で測定した毛細血管再充満時間の正常上限が約2秒(胸部・足では4秒)であり、押す秒数や室温が結果に影響すること、観察者間信頼性を扱った7研究があり、ストップウォッチの使用が観察者間のばらつきを減らすと示されたこと。標準化法として20-25℃で指先を5秒間圧迫し3秒以上を異常とするよう推奨した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Mortality after Fluid Bolus in African Children with Severe Infection(The New England Journal of Medicine・2011)Wayback経由でNEJMの全文を取得して確認した。ウガンダ・ケニア・タンザニアの資源制限下の病院で、重症発熱性疾患に意識障害(虚脱・昏睡)または呼吸窮迫を伴い灌流障害のある生後60日〜12歳の小児3,141例(栄養不良・胃腸炎は除外)を、無作為に輸液ボーラス群(5%アルブミンまたは0.9%食塩液を1時間で20 mL/kg。灌流障害が続けば1時間後に20 mL/kg追加。2010年6月のプロトコル改訂で初回ボーラスはストラタムAで40 mL/kg、ストラタムBで60 mL/kgへ引き上げ)とボーラスなし群(維持輸液のみ)に割り付けたストラタムAで、48時間死亡率がアルブミン群10.6%・生理食塩水群10.5%・対照群7.3%となり、ボーラス群は対照群より死亡リスクが有意に高かったこと(ボーラスvs対照のRR 1.45、95%CI 1.13-1.86、P=0.003)。重症低血圧(生後12か月未満で収縮期血圧50 mmHg未満、1〜5歳で60 mmHg未満、5歳超で70 mmHg未満)を伴う小児はストラタムBとしてボーラス群のみに割り付けられ、その死亡率は56〜69%と非常に高かった。一般小児病棟で治療し、短時間のバッグバルブマスク以外の補助換気は利用できない低・中所得国の資源制限環境で得られた結果である。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Surviving Sepsis Campaign International Guidelines for the Management of Sepsis and Septic Shock in Children 2026(Society of Critical Care Medicine / European Society of Intensive Care Medicine・2026)Intensive Care Medicine版(2026年3月23日公開。Pediatric Critical Care Medicineと同時掲載)の全文をWayback経由で取得して確認した。初期輸液は、集中治療が利用できる医療体制の敗血症性ショックで最初の1時間に10〜20 mL/kgずつ計40〜60 mL/kgまで(推奨19、条件付き推奨・確実性は低い)、集中治療が利用できない体制では低血圧を伴わない敗血症にボーラスを行わず維持輸液を開始し(推奨20、強い推奨・エビデンスの確実性は高い)、低血圧を伴う敗血症性ショックには最大40 mL/kgまで(推奨21、条件付き推奨・低い)。ボーラスごとに血行動態を再評価し、ショックが消えるか輸液過剰の徴候が出たら中止する(good practice statement)。初期蘇生はアルブミンより晶質液(条件付き・中等度)、ボーラスには0.9%食塩液より緩衝晶質液(条件付き・きわめて低い。手に入らなければ0.9%食塩液でよく、低ナトリウム血症や頭蓋内圧上昇の懸念があるときは0.9%食塩液が好まれる)。血管作動薬を40 mL/kgの前後どちらで開始するかも、第一選択をエピネフリンとノルアドレナリンのどちらにするかも推奨を出せる根拠がなく、中心静脈路を待たず末梢静脈路から開始することは提案される(条件付き・きわめて低い)。対象は在胎37週以上で出生した児から18歳まで。本文に低血圧の数値定義は無い。閲覧 2026-08-27
  5. 5.International Consensus Criteria for Pediatric Sepsis and Septic Shock(Society of Critical Care Medicine / JAMA・2024)PMC10900966のHTML全文で確認した。SCCM小児敗血症定義タスクフォースのPhoenix Sepsis Score(呼吸・循環・凝固・神経の4臓器系)では、循環器系の年齢別平均血圧の配点が、生後1か月未満で17-30 mmHgのとき1点・17 mmHg未満で2点、1-11か月で25-38と25未満、1-2歳未満で31-43と31未満、2-5歳未満で32-44と32未満、5-12歳未満で36-48と36未満、12-17歳で38-51と38未満であること。測定した平均血圧を優先し、得られなければ収縮期血圧の1/3+拡張期血圧の2/3で計算してよいこと。循環器系が1点以上(高度低血圧・乳酸高値・血管作動薬使用のいずれか)で敗血症性ショックとすること。閲覧 2026-09-17