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Disease Atlas · 呼吸器 · 疾患

慢性血栓塞栓性肺高血圧症

Chronic thromboembolic pulmonary hypertension

別名
CTEPH
臓器系
呼吸器循環器
科目
Pulmonology
トピック
呼吸器内科 42:肺高血圧症呼吸器内科 41:肺塞栓症
上位概念
肺高血圧症
合併症
慢性心不全
治療薬
ワルファリンリオシグアトセレキシパグ
症状
労作時呼吸困難倦怠感失神
原因となる疾患
肺血栓塞栓症

🧠 全体像:CTEPHはのWHO第4群であり、急性の後に血栓が完全に溶け切らず、器質化した線維性物質として肺動脈内腔に残存・狭窄することで発症する。診断の要はCT単独で除外しないこと——が陰性でもCTEPHは否定できず、除外には感度の高い換気血流(V/Q)を用いる。そして治療の要は、CTEPHがの中で唯一、外科手術()により治癒しうる病型だという点にある。

病態:急性PEから残存する器質化血栓

CTEPHは、急性後に血栓がによって完全に溶解・吸収されず、器質化した線維性の物質として肺動脈壁に取り込まれ、内腔をに狭窄・閉塞することで生じる1。狭窄を免れた肺には血流が再分配されて過剰な血流にさらされ、細動脈レベルでは急性PEとはな二次性の(小血管動脈症)も進行し、をさらに押し上げる。

flowchart TD
    A["急性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary embolism, PE'>肺血栓塞栓症</span>"] --> B["血栓が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrinolytic system'>線溶系</span>で完全に溶解・吸収されない"]
    B --> C["器質化した線維性物質が肺動脈壁に取り込まれる"]
    C --> D["中枢〜区域レベルの肺動脈内腔が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic'>慢性的</span>に狭窄・閉塞"]
    D --> E["非閉塞域への血流再分配"]
    E --> F["非閉塞域の細動脈で二次性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular remodeling'>血管リモデリング</span>"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary vascular resistance'>肺血管抵抗</span>の上昇"]
    F --> G
    G --> H["右室<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afterload'>後負荷</span>の増大"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right ventricular hypertrophy'>右室肥大</span>・拡張"]
    I --> J["右心不全"]

臨床像

  • 初期はなど非特異的な症状にとどまり、急性PE後のの症状と区別しにくく見逃されやすい。
  • 進行すると右室の増大が右心不全)として顕在化し、労作時失神を来すこともある。
  • 急性PE後に3か月を超えて呼吸困難・運動制限が残る例では、・CTEPHの評価対象とする。

急性PE・DVTとの関係

CTEPHの多くは、に由来する急性の遠隔期合併症として発症する。ただし急性PEの既往が確認できない例もあり、初回の血栓塞栓イベントが無症候だった、または見逃されていた可能性を示唆する。急性PEの診断・治療を受けた患者すべてがCTEPHへ進行するわけではなく、多くは治療により血栓が十分に溶解・吸収される。CTEPHは、あくまで一部の患者で血栓の溶解が不完全に終わった結果として生じる別個の慢性病態であり、遷延する症状を「治療中の急性PEの回復過程」とだけ捉えずに評価する。

診断:CT単独で否定しない

CTEPHを疑う契機は、急性PE後の症状遷延や、原因不明の肺高血圧の精査である。診断の核心は、除外に用いるべき検査を取り違えないことにある。

検査 CTEPHに対する診断的価値
換気血流(V/Q) スクリーニングの第一選択。感度90〜100%・特異度94〜100%で、正常なV/Qスキャンは高くCTEPHを除外できる1
の描出や肺実質評価には有用だが、陰性所見だけではCTEPHを除外できない1
+肺動脈造影 血行動態の確定診断(前毛細血管性の確認)と、手術適応判断のための肺動脈の解剖評価を兼ねる

⚠️ CTだけを根拠に「肺塞栓は無い・CTEPHは否定的」と判断しない。V/Qで多区域の灌流欠損を認めなければCTEPHはほぼ除外できるが、が陰性というだけではこの除外はできない1

flowchart TD
    A["急性PE後の症状遷延、または原因不明の肺高血圧"] --> B["心エコーで肺高血圧の可能性を推定"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventilation-perfusion (V/Q) scintigraphy'>換気血流シンチグラフィ</span>でスクリーニング"]
    C --> D{"多区域の灌流欠損があるか"}
    D -->|"なし(正常)"| E["CTEPHをほぼ除外"]
    D -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right heart catheterization'>右心カテーテル検査</span>+肺動脈造影"]
    F --> G["前毛細血管性肺高血圧を確認し手術適応を評価"]
    G --> H["CTEPHチームで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]

治療

生涯抗凝固

確定診断後は直ちに生涯抗凝固を開始する1。標準治療は2〜3を目標とするワルファリンであり、肺動脈局所でのの進展とさらなる血栓塞栓の再発を防ぐ。

肺動脈内膜摘除術(PEA):唯一治癒しうる肺高血圧

すべてのCTEPH患者はCTEPHチームによる評価の対象となる2。中枢〜区域レベルに血栓が到達し外科的に到達可能であれば、による外科的根治を検討する。CTEPHは、WHO各群のの中で唯一、治癒しうる病型である1

手術不能・残存例の治療

手術不能例、または術後に肺高血圧が残存・再発した例では、と薬物治療を組み合わせる。BPAと薬物治療の併用は、治療体系の中での位置づけが引き上げられている2。薬物治療では、と、選択的IP受容体作動薬がいずれも不適応・術後残存/再発のCTEPHに承認されている。

まとめ

  • CTEPHはのWHO第4群で、急性後に器質化血栓が肺動脈内腔に残存・狭窄することで発症する。
  • にはを用いる。感度・特異度がともに高く、正常なら高くCTEPHを除外できる。の陰性所見だけでは除外できない。
  • 生涯抗凝固(ワルファリンが標準)を治療の土台とし、CTEPHチームでによる根治可能性を必ず評価する。
  • CTEPHはの中で唯一、外科的に治癒しうる病型である。
  • 手術不能・残存例ではと、などの薬物治療を組み合わせる。

出典

  1. 1.2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(European Society of Cardiology/European Respiratory Society・2022)すべてのCTEPH患者をCTEPHチームによる集学的評価の対象とすること、バルーン肺動脈形成術(BPA)と薬物治療の併用がCTEPHの治療体系上で位置づけを引き上げられたこと閲覧 2026-08-11
  2. 2.Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension(StatPearls (NCBI Bookshelf; Sabbula BR, Sankari A, Akella J)・2024)換気血流(V/Q)シンチグラフィの感度は90〜100%・特異度は94〜100%で正常V/Qスキャンは慢性血栓塞栓性肺高血圧症を信頼性高く除外できる一方、CT肺動脈造影の陰性所見だけでは除外できないこと、CTEPHは肺高血圧の原因の中で唯一治癒しうる病型であること、確定診断後は生涯抗凝固を直ちに開始すべきこと閲覧 2026-08-11