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Drug Atlas · B7 Prostacyclin analogs / プロスタサイクリン誘導体 · 必修

トレプロスチニル

treprostinil

分類
Prostacyclin analogs / プロスタサイクリン誘導体
商品名(日本)
トレプロスト
科目
Pharmacology
トピック
B7: Ca++-channel blockers and other vasodilators
承認適応
肺高血圧症特発性肺線維症
副作用
注射部位反応低血圧失神出血
影響検査値
血小板数好中球数

🧠 全体像の中で最もが多彩な薬である。(半減期数分)と(半減期20〜30分)に続くさらに半減期の長い類似薬(数時間)であり、この安定性のおかげで携帯型ポンプによる持続という、他のにはない投与様式が可能になった。加えて日本では吸入薬としても承認されており、しかも吸入薬に限ってはPAHだけでなくに伴う(PH-ILD、WHO第3群)にも適応を持つ——これはPAH治療薬を第3群PHに無批判に転用しないという原則の数少ない例外である。

薬効群の中での位置づけ

分類 代表薬
(内因性物質そのもの) 数分 持続静注のみ
類似薬 約20〜30分 (間欠)
類似薬 数時間(さらに安定) 持続静注・持続皮下注・吸入
選択的IP受容体作動薬(非 経口で1日2回維持できる程度に安定 経口のみ

半減期がさらに延びたことで、携帯型ポンプによる持続という選択肢が生まれた。 は分単位で消失するためによる持続静注が必須だが、は皮下からの吸収でも十分な血中濃度を維持でき、カテーテルに伴うのリスクを避けられる一方、では注射部位の局所反応がほぼ必発という代償を伴う1。経路を選ばず経口だけで済ませたいなら、化学構造の異なる選択的IP受容体作動薬が候補になるが、PH-ILDへの適応は持たない。

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treprostinil'>トレプロスチニル</span>(安定化<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prostacyclin (PGI2)'>プロスタサイクリン</span>類似薬)がIP受容体に結合"] --> B["Gs蛋白質を介し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adenylyl cyclase, AC'>アデニル酸シクラーゼ</span>を活性化"]
    B --> C["細胞内cAMPが増加"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular smooth muscle relaxation'>血管平滑筋弛緩</span>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary vascular resistance'>肺血管抵抗</span>低下"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet aggregation'>血小板凝集</span>の抑制"]
    F["半減期が数時間まで延長<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epoprostenol'>エポプロステノール</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iloprost'>イロプロスト</span>より安定)"] -.->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='route of administration'>投与経路</span>の多様化を可能にする"| A

💡 半減期の違いが、そのままの選択肢の広さに直結する。 はいずれもIP受容体→cAMPという同じ機序を共有するが、体内での安定性が高いほど「持続静注しか選べない」から解放され、・吸入投与という侵襲の小さい経路が現実的になる。

適応

領域 使いどころ
(第1群PAH) II〜IV1。注射剤(静注・皮下注)・吸入液のいずれも承認
(第3群PH-ILD) などのに伴う(PH-ILD)。吸入液に限り承認されている2。基礎にあるそのものの治療は)が担い、本剤が担うのは合併したの側である

⚠️ PH-ILDへの適応は吸入液だけが持つ、固有の特徴。 試験(INCREASE試験)で、がPH-ILD患者のを有意に改善し臨床的悪化のリスクを下げたことが示され、この結果が承認の根拠になった3。第3群PHにPAH治療薬を経験的に転用しない、というの中で、エビデンスに基づいた明確な例外にあたる。同じ第3群PHでもはARTEMIS-試験での疾患進行をむしろ悪化させ、米国添付文書で禁忌になった——「転用してよいか」は薬ごとに試験で決まるのであって、薬効群から演繹できるものではない。

用法・用量

注射剤(静注・皮下注):成人には1.25 ng/kg/分のまたは持続を開始する。最初の4週間は1週間あたり最大1.25 ng/kg/分、その後は1週間あたり最大2.5 ng/kg/分の範囲で漸増する。持続で注射部位の局所反応が耐えがたい場合は、への変更を検討する1

:1日4回ネブライザで吸入投与し、1回3吸入(18μg)から開始、7日以上の間隔で1回3吸入ずつ最大9吸入(54μg)まで漸増する2

:同じく1日4回吸入投与するが、1回3吸入(18μg)から開始し、7日ではなく3日以上の間隔で1回1吸入ずつ、より緩やかに最大12吸入(72μg)まで漸増する2。PAHと適応が違うだけでなく漸増の刻み方自体が異なる点に注意する。

禁忌・注意

  • 禁忌(注射剤):本剤成分に対する過敏症、右心不全の時、重篤な左心機能障害、重篤な低血圧1
  • ⚠️ のリスクが高く(21.7%)、カテーテルの清潔なライン管理が重要になる1
  • 作用を持つため、中の患者では出血リスクに注意する

副作用

頻度 内容
高頻度( 注射部位反応(疼痛・発赤・、ほぼ必発)1
重大な副作用(注射剤) 減少(10.5%)、好中球数減少(2.6%)、時の(21.7%)1
重大な副作用(吸入液) 低血圧(1.6%)、失神(1.3%)2
頻度不明 出血、甲状腺機能亢進症

まとめ

  • 類似薬の中で最も半減期が長く(数時間)、静注・皮下注・吸入という最も多彩なを持つ薬。カテーテルを不要にする一方、注射部位反応がほぼ必発という代償を伴う。
  • 適応はPAH(注射剤・吸入液とも)に加え、吸入液に限りに伴う(PH-ILD、第3群)にも承認されている——PAH治療薬を第3群PHへ転用しないという原則の、エビデンスに基づいた数少ない例外である。
  • 吸入液の漸増スケジュールはPAHとPH-ILDで異なる(PAH:7日ごとに3吸入ずつ/PH-ILD:3日ごとに1吸入ずつ、より緩やか)。
  • 重大な副作用として血小板減少・好中球減少・(注射剤)、低血圧・失神(吸入液)がある。

出典

  1. 1.トレプロスト注射液20mg/50mg/100mg/200mg 添付文書(2024年9月改訂)(持田製薬株式会社(医薬品医療機器総合機構 掲載)・2024)効能・効果(肺動脈性肺高血圧症、WHO機能分類II〜IV)、用法・用量(持続静脈内投与・持続皮下投与とも1.25 ng/kg/分で開始し、最初の4週間は週最大1.25 ng/kg/分、その後は週最大2.5 ng/kg/分で漸増)、持続皮下投与は注射部位の局所反応がほぼ必発〈頻度100%〉であり忍容できない場合は静脈内投与へ変更を検討すること、禁忌(成分過敏症、右心不全の急性増悪時、重篤な左心機能障害、重篤な低血圧)、重大な副作用(血小板減少10.5%、好中球減少2.6%、静脈内投与時の血流感染21.7%)を確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.トレプロスト吸入液1.74mg 添付文書(2026年5月改訂)(持田製薬株式会社(医薬品医療機器総合機構 掲載)・2026)吸入液は2023年5月に販売開始され、肺動脈性肺高血圧症と間質性肺疾患に伴う肺高血圧症の両方に承認されていること、それぞれ用法・用量が異なる(PAH:1回3吸入〈18μg〉から開始し7日以上の間隔で1回3吸入ずつ最大9吸入〈54μg〉まで漸増/間質性肺疾患に伴う肺高血圧症:1回3吸入〈18μg〉から開始し3日以上の間隔で1回1吸入ずつ最大12吸入〈72μg〉まで漸増)、重大な副作用(血圧低下1.6%、失神1.3%)を確認した閲覧 2026-08-10
  3. 3.Inhaled Treprostinil in Pulmonary Hypertension Due to Interstitial Lung Disease(New England Journal of Medicine・2021)間質性肺疾患に伴う肺高血圧症(PH-ILD)患者326例を対象とした無作為化プラセボ対照試験で、吸入トレプロスチニルが16週時点の6分間歩行距離を有意に改善し、臨床的悪化のリスクを低下させたことを確認した。この試験がPH-ILDに対する吸入トレプロスチニルの承認の根拠になった閲覧 2026-08-10