内科学

内科学 · L-22

インスリン治療とインスリンアナログ

Insulin treatment and insulin analogues

前提:病態
膵ホルモンおよび注射用抗糖尿病薬
前提:正常
インスリン分泌とその調節
疾患
1型糖尿病注射部位の脂肪肥厚・脂肪萎縮
症状
注射部位反応

🧠 全体像:インスリン治療は、、補正を再現する。1型糖尿病ではまたは基礎・療法が必須で、2型糖尿病では重症高血糖、症状、での目標未達時に導入する。単独の「」を継続療法にしない。

製剤の特徴

分類 例 おおよその作用 主な用途
lispro、aspart、 数分〜15分で開始、3〜5時間 の追加、ポンプ、補正
約30分で開始、5〜8時間 食前、などの標準的静注製剤
1〜2時間で開始、明瞭なピーク、約12〜18時間 基礎、ステロイド高血糖との時間整合
、 ピークが小さく約24時間 1〜2回/日の基礎
、濃度別 24時間超、変動が小さい 基礎、低血糖低減

は用量、注射部位、血流、腎機能で変わる。濃度製剤を取り違えず、同じ単位数でも注入体積・デバイスが異なることを教育する。

💡 アナログを使う理由は「低血糖の減らし方」で段階的に整理できる。 1型糖尿病ではアナログ製剤全体がヒトインスリンより低血糖・体重増加が少なくも低い1。基礎の側では、(U100)が()に比べレベル2低血糖とを減らし、さらに作用が長く平坦な第2世代の(、U300)はそのU100と比べてもが少ない1。ただしU300はが長い一方で単位あたりのがやや低く、他のインスリンへ切り替える際は通常10〜20%の減量を要する1。

1型糖尿病

  • 多くの成人ではまたは1日複数回注射を用いる。
  • CGMとは、、time in range、低血糖、負担を改善し得る。
  • 食事炭水化物、脂質・蛋白、現在血糖、トレンド、運動、に応じ追加量を調整する。
  • は絶食・急性疾患時も原則中断しない。ポンプ停止は短時間でにつながる。

💡 の管理指標は2019年の国際コンセンサスで数値化された。 ATTD会議が招集した国際パネルが、とは別にの指標と目標を合意し2、現行のADA基準では多くの成人で(TIR、70〜180 mg/dL=3.9〜10.0 mmol/L)70%超、範囲下時間(TBR)は70 mg/dL未満が4%未満・54 mg/dL未満が1%未満、範囲上時間(TAR)は180 mg/dL超25%未満・250 mg/dL超5%未満、36%以下を目安とする3。TIR 70%超は約7%におおむね対応する3。健康状態が複雑・中間的な高齢者ではTIR 50%超・70 mg/dL未満1%未満とし、高血糖側を許容してでも低血糖を避ける3。は1型糖尿病と1日複数回注射中の2型糖尿病で推奨される投与法であり、新規発症1型糖尿病の若年者に診断から21日以内に導入した無作為化試験では12か月後のTIRが通常治療より10ポイント高かった4。

2型糖尿病への導入

症候性高血糖、体重減少・、 >10%、血糖 ≥16.7 mmol/L、妊娠、急性クリーゼでは早期導入する。非クリーゼでは関連薬を先に検討し、インスリンが必要なら受容体作動薬との併用は体重・低血糖面で有利なことが多い。

一般にから開始し、で調整する。の開始量は0.1〜0.2 U/kg/日を目安とする1。空腹時が目標でもが高い場合、基礎を際限なく増やさず、を確認して関連薬または食事時インスリンを追加する。食事時インスリンを足す前に、受容体作動薬またはGIP/受容体作動薬の追加を先に検討する1。

⚠️ 「」を見逃さない。 だけを見て基礎量を増やし続けると、を隠したまま低血糖と血糖変動が増える。手掛かりは就寝時から朝までの血糖差が大きいこと(目安として50 mg/dL=2.8 mmol/L以上)、・を問わない低血糖、大きな血糖変動である1。これらがあれば基礎の増量ではなく治療計画そのものを見直し、への対策へ切り替える1。

レジメン

flowchart TD
    A["インスリン適応"] --> B{"1型または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='absolute'>絶対的</span>欠乏?"}
    B -->|"はい"| C["基礎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bolus (prandial) insulin'>追加インスリン</span>/ポンプ+CGM"]
    B -->|"いいえ"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal insulin'>基礎インスリン</span>から開始"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fasting blood glucose'>空腹時血糖</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='titration'>滴定</span>"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postprandial hyperglycemia'>食後高血糖</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycated haemoglobin A1c'>HbA1c</span>高値が残る?"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glucagon-like peptide-1'>GLP-1</span>関連薬または食事時インスリン追加"]
    F -->|"いいえ"| H["低血糖・負担を監視"]
レジメン 内容・注意
基礎・ /+各食前。最も生理的で調整可能
基礎+非インスリン薬 2型で簡便。薬剤の心腎利益を可能なら維持
注射回数は少ないが食事時間・量のが低く、低血糖に注意。入院中は基礎・と血糖成績が同等でも低血糖が有意に多く、75/25・70/30・50/50などはルーチンには推奨されない5
CSII/AID を基礎・。装置トラブル時の代替計画が必須

ポンプと自動インスリン投与

インスリンポンプはを、時刻ごとに設定した少量のとして連続投与し、食事ごとにを追加する。は夜間・起床前・運動時などの需要に合わせて調整できるが、に「夕方は減量、起床前は増量」とするのではなく、CGMパターンと低血糖リスクから個別化する。

では、CGMセンサーが測定した血糖と変化傾向を制御アルゴリズムが解析し、ポンプの基礎投与や自動補正を調節する。食事の入力は多くのシステムでなお必要であり、センサー不良、注入セット閉塞、ポンプ停止時には指先血糖・ケトン確認と皮下注射へ切り替える代替計画を用意する。

入院中は食事摂取に応じ基礎++補正、または基礎+補正を用いる。補正量だけを後追い投与する単独は血糖変動を増やすため避ける。ADA基準はを伴わない単独(旧称)の入院中使用を推奨しないと明記しており、一般外科手術を受けた2型糖尿病では基礎+のほうが血糖と入院合併症の成績が良かった5。例外は、非重症で血糖が180 mg/dL未満に保たれる軽度高血糖・ストレス高血糖にとどまる5。

安全管理

  • 低血糖の認識、15-15ルール、グルカゴン、運転・運動時対応を本人・家族に教育する。
  • 注射部位をローテーションし、を避ける。
  • 腎機能低下、体重減少、摂取低下では必要量が減る。ステロイド、感染、妊娠では増えることがある。
  • では血糖・ケトンを頻回測定し、水分を取り、基礎中断を避け、早期連絡基準を決める。

まとめ

  • インスリンは基礎・・補正を分けて設計し、単独を避ける。
  • 1型ではMDIまたはポンプとCGM/AIDを活用し、基礎を中断しない。
  • 2型では重症高血糖を除き関連薬も比較し、基礎過量より食後対策を選ぶ。

出典

  1. 1.9. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)超速効型アナログは速効型ヒトインスリンより発現が速くピークが早く作用時間が短いこと、持効型アナログはNPHより平坦で安定した血中濃度を示し1型糖尿病では低血糖・体重増加が少なくHbA1cも低いこと、持効型アナログ(グラルギンU100)はNPHに比べレベル2低血糖と夜間低血糖を減らし、さらに作用の長いグラルギンU300とデグルデクはグラルギンU100より夜間低血糖リスクが低いこと、グラルギンU300はグラルギンU100より作用時間が長い一方で単位あたりの効力がやや低く切り替え時に通常10〜20%の減量を要すること、2型糖尿病の基礎インスリンは0.1〜0.2 U/kg/日から開始すること、過剰基礎化(overbasalization)の手掛かりが就寝時から朝までの血糖差50 mg/dL(2.8 mmol/L)以上・自覚/無自覚の低血糖・大きな血糖変動であり推奨9.26でその監視を求めていること、食事時インスリンを足す前にGLP-1受容体作動薬またはGIP/GLP-1受容体作動薬の追加を考慮すべきことを確認した。閲覧 2026-08-25
  2. 2.Clinical Targets for Continuous Glucose Monitoring Data Interpretation: Recommendations From the International Consensus on Time in Range(Diabetes Care(Advanced Technologies & Treatments for Diabetes 国際コンセンサスパネル)・2019)2019年2月のATTD会議で招集された国際パネルが、持続血糖モニタリングの主要指標と臨床目標を合意し、目標範囲内時間などのCGM指標の標準的な報告・解釈の枠組みを定めたこと。ADA Standards of Care 2026の表6.2はこのコンセンサスを出典として掲げている。閲覧 2026-08-25
  3. 3.6. Glycemic Goals, Hypoglycemia, and Hyperglycemic Crises: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)表6.2の持続血糖モニタリング指標の目標が、目標範囲内時間(70〜180 mg/dL=3.9〜10.0 mmol/L)70%超、70 mg/dL未満の時間4%未満、54 mg/dL未満の時間1%未満、180 mg/dL超25%未満、250 mg/dL超5%未満、変動係数36%以下であること(推奨6.3c)、目標範囲内時間70%超がHbA1c約7%に対応すること、健康状態が複雑または中間的な高齢者では目標範囲内時間50%超・70 mg/dL未満1%未満へ緩めることを確認した。閲覧 2026-08-25
  4. 4.7. Diabetes Technology: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)自動インスリン投与(AID)が1型糖尿病および1日複数回注射を行う2型糖尿病で推奨されるインスリン投与法であること、新規発症1型糖尿病の若年者を対象に診断から21日以内へAIDを導入した無作為化試験で12か月後の目標範囲内時間が通常治療より10ポイント高くHbA1cも低かったこと、連結ペプチド(Cペプチド)や膵島自己抗体の有無・罹病期間はポンプ/AID適応の判断材料にすべきでないことを確認した。閲覧 2026-08-25
  5. 5.16. Diabetes Care in the Hospital: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)推奨16.10で、基礎インスリンを伴わない補正インスリン単独(旧称スライディングスケール)の入院中の使用を推奨しないとすること(グレードA)、一般外科手術を受けた2型糖尿病では基礎+追加インスリンのほうが血糖と入院合併症の成績が良かったこと、例外は非重症で血糖180 mg/dL未満に保たれる軽度高血糖・ストレス高血糖にとどまること、70/30などの混合製剤は基礎・追加インスリンと血糖成績は同等だが低血糖が有意に多く院内でのルーチン使用は推奨されないことを確認した。閲覧 2026-08-25