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Disease Atlas · 運動器 · 外傷

月状骨周囲脱臼

Perilunate dislocation

別名
月状骨周囲損傷経舟状骨月状骨周囲骨折脱臼月状骨脱臼
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 20:月状骨周囲損傷・舟状骨骨折・手指骨折解剖学 5.6:上肢:手関節と手
合併症
末梢神経絞扼症候群複合性局所疼痛症候群変形性関節症
関連疾患
舟状月状骨間靱帯損傷舟状骨骨折
症状
腫脹疼痛しびれ知覚異常骨変形
画像所見
無腐性壊死

🧠 全体像:は、⭐ 手関節外傷のなかで最も見逃されやすいである。理由は単純で、だけが橈骨との関係を保ったまま残り、その周りのがまとめて背側へ外れる——つまり「橈骨とがずれている」という素朴な見方では気づけないからである。実際、注意をそらす他の外傷が無い患者でも初診時に最大25%が見逃されると推定されている1。しかも⚠️ これは緊急整復を要する整形外科的緊急症で、転位したがを押してを起こす。で救うには、正面像での配列(Gilulaの3本の弧)を、側面像で橈骨――の一直線の関係を、毎回同じ手順で確かめるしかない。

進行の順序が、そのまま解剖の順序になっている

Mayfieldらは手関節32体に破断まで荷重をかけ、伸展・・という機転で13件と2件を作製した。重要なのは、これらがでたらめに壊れるのではなく、特定のが決まった順序で破綻して段階的に進んだことである2。

段階 破綻する構造 起こること
第1期 舟状骨が背側へする。正面像で(間隙3 mm超)1
第2期 は橈骨との整列を保ち、以下が背側へする=古典的な1
第3期 がから離れ、もも橈骨に対する位置を失う1
第4期 がを支点に回転し、の内へする()1

💡 外力はのから始まり、のまわりをへ回っていく。 だから第1期は(舟状月状)、第3期は(月状三角)で、最後に背側の支えが切れて自身がへ落ちる。壊れる順番=を一周するだと覚えると、4段階を丸暗記しなくてよい。第1期のは、この行進の入口にあたる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-energy trauma'>高エネルギー外傷</span><br>手関節の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperextension'>過伸展</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulnar deviation'>尺屈</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intercarpal supination'>手根間回外</span>"] --> B["第1期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scapholunate ligament'>舟状月状骨間靱帯</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radial (side)'>橈側</span>から始まる)"]
    B --> C["第2期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capitolunate joint'>有頭月状関節</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='capitate'>有頭骨</span>以下が背側へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dislocation'>脱臼</span>"]
    C --> D["第3期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lunotriquetral interosseous ligament'>月状三角骨間骨間靱帯</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulnar (side)'>尺側</span>へ回る)"]
    D --> E["第4期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal radiocarpal ligament'>背側橈骨手根靱帯</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='lunate'>月状骨</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carpal tunnel'>手根管</span>内へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palmar (side)'>掌側</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dislocation'>脱臼</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='median nerve'>正中神経</span>の直接圧迫"]
    C --> G["血腫・組織浮腫による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carpal tunnel'>手根管</span>の狭小化"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute carpal tunnel syndrome'>急性手根管症候群</span>"]
    G --> H

大弧損傷と小弧損傷

同じ外力でも、だけが切れるか、骨も折れるかで2つの型に分かれる1。

  • :より急速に加わった外力で、周囲の純粋な靱帯損傷として進む。
  • :より緩徐なで、舟状骨・・の骨折を伴う。で最も多い骨折は舟状骨である。

⭐ 第2期の最大60%にが合併し、と呼ばれる1。「を見つけて満足する」ことが、そのままの見逃しになる。

診断

身体所見

可動域制限・腫脹・疼痛・な変形が多いが、⚠️ 明らかな変形を欠く例があり、身体所見だけでは診断できない1。上肢のは必須で、領域のやしびれを必ず確認する。

単純X線

⚠️ 単純X線で診断されるのが通常であるにもかかわらず、25%までが見逃される1。見逃さないためのは3点に絞れる。

所見 撮影 内容
の破綻 正面 舟状骨・・の近位凸と遠位凹、・の近位凸が描く弧。途切れは手根損傷とを示す1
正面 が3 mm超に開大する。第1期の所見1
側面 がへ回転・した像。第4期()を示す1
正面 が本来の位置から回転したときの三角形の像1

💡 側面像は「橈骨――が一直線に載っているか」だけを見る。 ではが橈骨に載ったままが背側へ外れ、では自身がへ落ちる。この2つは治療のも神経障害の危険も違うので、区別して読む。

とは骨折形態・関節面の破綻・のとに有用だが、⚠️ 明らかなの整復を待たせてはならない1。

急性手根管症候群——ここが緊急症たるゆえん

のは、①転位したによるの直接圧迫と、②外傷後の血腫・組織浮腫によるの狭小化の2つから生じる3。頻度は29〜46%1、別の総説では15〜50%と推定されている3。⚠️ どの段階でも起こりうるが、が内へ落ちる第4期で最も危険が大きい3。

⚠️ を一次的に行うかどうかは決着していない。 症状があれば速やかに開放すべきだとする立場と、手関節の整復だけで圧迫は解除されるとする立場が並立している3。

報告 対象
Carrollら(2023年) Mayfield第3期・第4期の重度例43例(91.2%に開放) 重度例には一次的・予防的なが有益3
Jagiella-Lodiseら(2025年) 急性例56例(開放0%) のみで92%の症状が消失した3
Mühldorfer-Fodorら(2014年) 32例(40.6%に開放) 一次的開放でも症状が常に解消するとは限らず、固定後に発症して二次的開放を要する例が多い3

⭐ 一次的に開放しなかった患者の50%超が、症状の遷延または新たな出現のために二次的なを受けたとする報告が複数ある3。「整復すれば治る」と決めてかからず、整復後もを繰り返し評価する。

治療

  1. 緊急のと固定。 整復はを逆転させる方向、すなわち・・で得られる2。
  2. ⚠️ 整復のみで整列を保つのは難しい。 最終的な治療はが標準である1。
  3. は3通りある1。
進入 利点
背側 の展開が広く、舟状骨などの骨折固定とのができる
の損傷を修復でき、のが展開の一部に含まれる(とも呼ばれる)
背側+ 両者の利点をもち複雑例で選ばれるが、・腫脹・硬直とのの危険がある

はおよそ10〜12週留置する1。

診断が遅れたとき

受傷から6週以降に診断されたものをとする。軟部組織ののため解剖学的整復が難しく、変性が進んでいれば+・・といったになる1。⚠️ 治療の遅れが45日を超えると機能予後が悪い1。

成績と合併症

26研究・患者550例(手関節553)の系統的レビュー(平均追跡3.45年)では、の合計が平均100度(の約76%)、が平均38.8 kg(の73%)、が平均77.1、DASHが平均15.8であった1。

合併症 頻度
外傷後の 約30%(最多)1
の再発 15%1
11%1
の 12%1
舟状骨の 9%1

⚠️ のをと同一視しない。 は明らかな歴を欠くのを指す独立した疾患であり、後の壊死はこの外傷の合併症として扱う。

⭐ 患者説明の核は「元どおりにはならない」である。 平均して可動域とが長期に25%低下すること、の遷延やの再発でになりうることを、初回の時点で伝える1。

まとめ

  • はだけが橈骨に残り、その周りのが背側へ外れる損傷で、⭐ 初診時に最大25%が見逃される。
  • の4段階は、外力がのからへ一周するである(舟状月状→有頭月状→月状三角→の)。
  • 骨折を伴うと純粋な靱帯損傷のに分かれる。⭐ 第2期の最大60%にが合併する()。
  • は正面像の・、側面像の橈骨――の一直線()。
  • ⚠️ を伴う整形外科的緊急症である。合併頻度は総説により29〜46%または15〜50%。一次的の要否は決着しておらず、整復後もを繰り返し評価する。
  • 治療は緊急(・・)に続く。遅れが45日を超えると機能予後が悪い。
  • 合併症は外傷後の30%、の再発15%、11%、の12%。可動域とは長期に約25%低下する。

出典

  1. 1.A Review of Perilunate Wrist Dislocations(Journal of Hand Surgery Global Online・2025)月状骨周囲脱臼の診断・治療・成績をまとめた総説(PMC12355994で全文を取得)。本総説の記述として、月状骨周囲脱臼が自動車事故・高所からの転落・スポーツ外傷などの高エネルギー外傷による手関節の過伸展・尺屈・手根間回外で生じること、若く活動性の高い成人に多いこと、手関節損傷全体の10%未満を占めるとするDobynsら1983年の報告が今も引用され続けており真の発生率は不明であること、注意をそらす他の外傷が無い患者でも初診時に最大25%が見逃されると推定されること。Mayfield分類の4段階について、第1期は舟状月状骨間靱帯の破綻で舟状骨が背側へ亜脱臼し画像上は舟状月状間隙3 mm超の開大(Terry-Thomas徴候)として現れること、第2期は有頭月状関節の破綻で月状骨は橈骨との整列を保つ一方で有頭骨と残りの手根骨が背側へ脱臼する古典的な月状骨周囲脱臼であること、この第2期の最大60%に舟状骨骨折が合併し経舟状骨月状骨周囲骨折脱臼と呼ばれること、第3期は月状三角骨間骨間靱帯の破綻で三角骨が月状骨から離れ月状骨と有頭骨の双方が橈骨に対して位置を失うこと、第4期は背側橈骨手根靱帯の損傷により月状骨が短橈骨月状靱帯を支点として掌側の手根管内へ脱臼すること。大弧損傷はより緩徐な軸圧で生じ舟状骨・有頭骨・橈骨茎状突起の骨折を伴い、月状骨周囲脱臼で最も多い手根骨骨折が舟状骨であること、小弧損傷はより急速な外力で生じ月状骨周囲の純粋な靱帯損傷であること。身体所見は可動域制限・腫脹・疼痛・触知可能な変形が多く、上肢の神経血管評価が必須であること、急性手根管症候群の合併が推定29〜46%であること。単純X線で診断されるのが通常だが25%まで見逃されること、Gilulaの弧は舟状骨・月状骨・三角骨の近位凸と遠位凹、および有頭骨・有鉤骨の近位凸を描き、その途切れが手根損傷と脱臼の可能性を示すこと、側面像のこぼれたティーカップ徴候は月状骨の掌側脱臼を、正面像のパイ切れ徴候は月状骨が回転したときの三角形の像を指すこと。CT・MRIは骨折形態と靱帯損傷の把握と術前計画に有用であること。初期治療は緊急の徒手整復と固定であるが整復のみで整列を保つのは難しく、最終的な治療は観血的整復内固定が標準であること、背側進入は舟状月状骨間靱帯の直達修復と手根骨骨折の固定ができ、掌側進入はPoirier間隙の関節包損傷の修復ができるうえ手根管の除圧が展開の一部に含まれるため拡大手根管進入とも呼ばれること、内固定材は10〜12週留置されること。受傷から6週以降に診断された陳旧例では軟部組織の拘縮により解剖学的整復が難しく、変性が強ければ舟状骨切除+四隅固定・近位手根列切除・手関節固定術といった救済術が検討されること、治療の遅れが45日を超えると機能予後が悪いこと。2023年の系統的レビュー(26研究・患者550例・手関節553)では平均追跡3.45年で屈伸可動域の合計が平均100度(健側の約76%)、握力が平均38.8 kg(健側の73%)、Mayo手関節スコアが平均77.1、DASHが平均15.8であったこと。合併症で最も多いのは外傷後関節症で推定30%、次いで手根不安定症の再発15%、複合性局所疼痛症候群11%であり、月状骨の無腐性壊死12%・舟状骨の無腐性壊死9%が報告されていること、患者には平均して可動域と握力が長期に25%低下することを説明すべきであること。伝統的に用いられる進入路が背側・掌側・両者併用の3通りであり、併用進入には創部合併症・より広範な腫脹や硬直・月状骨の血行障害の危険があること。CTが骨折形態に加えて関節面の破綻と骨片転位の詳細な評価をもたらし進入路と固定法の決定を導くこと。来院時の初期治療が緊急の徒手整復であること閲覧 2026-09-02
  2. 2.Carpal dislocations: pathomechanics and progressive perilunar instability(The Journal of Hand Surgery・1980)屍体手関節32体に破断まで荷重をかけて月状骨周囲脱臼と月状骨脱臼の病態力学・靱帯損傷・手根不安定症の程度を解析し、月状骨周囲脱臼13件・月状骨脱臼2件を作製したこと。受傷機転が伸展・尺屈・手根間回外であったこと。これらの脱臼が進行性かつ特定の靱帯破綻によって順序立てて生じ、月状骨周囲不安定症(PLI)の程度によって分類されたこと。第1期(舟状月状骨解離)の手根不安定性が最も軽く、月状骨脱臼(第4期)が最も強い不安定性を示したこと。橈骨茎状突起骨折が裂離により7件で生じたこと、舟状骨の回転が8件で生じ橈骨舟状靱帯と舟状月状骨間靱帯の断裂によるものであったこと。整復は受傷機転を逆転させること(手根間回内・橈屈・掌屈)で得られたこと。橈屈位・尺屈位で手根に長軸方向の圧迫を加えるストレス撮影が併存する手根不安定症の程度の判定に有用であったこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  3. 3.A Review of Perilunate Dislocations and Concomitant Acute Carpal Tunnel Syndrome: When Should the Carpal Tunnel be Released?(Journal of Hand Surgery Global Online・2025)月状骨周囲脱臼に合併する急性手根管症候群の管理を扱った文献レビュー(PMC12304676で全文を取得)。本総説の記述として、月状骨周囲脱臼に伴う急性手根管症候群が、転位した手根骨による正中神経の直接圧迫、あるいは外傷後の血腫・組織浮腫による手根管の狭小化から生じること、その合併頻度が15〜50%と推定されること(本ノートは同じ著者らの総説が示す29〜46%ではなく、こちらの引用範囲を併記した)、どの月状骨周囲損傷でも正中神経圧迫の危険はあるが第4期のようなより重度の損傷で最も大きいこと。手根管開放の要否は議論があり、症状があれば速やかな開放を要すると主張する側と、手関節の整復のみで圧迫は解除されるとする側があること、一次的な手根管開放を受けなかった患者の50%超が症状の遷延または新たな出現のために二次的な手根管開放を受けたとする複数の報告があること。レビューした6研究の内訳として、Carrollら2023年はMayfield第3期・第4期の重度例43例で91.2%に手根管開放を行い重度例には一次的・予防的開放が有益と結論したこと、Jagiella-Lodiseら2025年は急性例56例で手根管開放を行わず徒手整復のみで92%の正中神経症状が消失したと報告したこと、Mühldorfer-Fodorら2014年は32例(40.6%に開放)で一次的開放でも正中神経症状が常に解消するとは限らず固定後に手根管症候群を生じて二次的開放を要する例が多いと報告したこと閲覧 2026-09-02