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Disease Atlas · 運動器 · 症候群

複合性局所疼痛症候群

Complex regional pain syndrome

別名
CRPS反射性交感神経性ジストロフィー
臓器系
運動器神経
科目
Traumatology and OrthopedicsMedical Rehabilitation
トピック
外傷学 19:橈骨遠位端骨折の原則と治療リハビリテーション 06:整形外科疾患・外傷のリハビリテーション:変形性関節症・多発外傷・人工股関節
鑑別疾患
肢端紅痛症深部静脈血栓症
症状
灼熱痛浮腫発汗振戦拘縮
検査値
定量的軸索反射性発汗試験交感神経皮膚反応
画像所見
3相骨シンチグラフィ
スコア
CRPS重症度スコア
元疾患
Dupuytren拘縮月状骨周囲脱臼橈骨遠位端骨折

🧠 全体像:(CRPS)は、⭐ 確定する検査が無く、「他により良く説明する診断が無いこと」そのものがの一項目になっているである。骨折や手術というありふれた誘因に対して不釣り合いに強く長く続く疼痛があり、そこに感覚・・発汗と浮腫・運動と栄養という4つの領域の異常が重なる。Budapest基準の巧みなところは、患者の訴え(症状)と診察で確認できる所見(徴候)を別々に数える点にある。訴えだけでは特異度が上がらず、徴候だけでは早期例を取り落とす。⚠️ そして臨床で診断するときと研究に組み入れるときで、必要な症状カテゴリー数が違う——臨床は4分の3、研究は4分の4である。治療の中心は薬でもブロックでもなく、早期からの段階的な機能回復(運動療法)である。

定義と基本

CRPSは、既知の外傷や病変の通常の経過に比して時間的にも程度的にも不釣り合いに見える、持続する(自発的または誘発される)限局性の疼痛を特徴とする症候群である。疼痛は特定のやに一致せず、通常は遠位優位の感覚・運動・発汗・・栄養の異常を伴う。経過の進み方は症例によってさまざまである1。

亜型 定義
Ⅰ型 明らかな主要神経損傷を伴わない(旧・)
Ⅱ型 明らかな主要神経損傷を伴う(旧・)

⚠️ Ⅰ型とⅡ型でそのものは同一である。 この区分は1994年の基準から引き継がれた歴史的なもので、Budapestの合意会議では「主要な神経損傷」の定義が曖昧であること、それを判定する検査(電気診断など)はほぼ常に痛みが強すぎて行えないことが問題視された。臨床的に重要でも治療法の選択に影響するわけでもない可能性があるという認識のうえで、歴史的な理由から維持されている1。

Budapest基準

⭐ 症状(患者の訴え)と徴候(評価時に確認できる所見)を、別々のカテゴリー数で数える。 これがBudapest基準の骨格である21。

4項目すべてを満たす

内容
① 誘因に不釣り合いな持続する疼痛があること
② 下の4カテゴリーのうち3カテゴリー以上で、それぞれ1つ以上の症状を患者が訴えること
③ 評価時点で4カテゴリーのうち2カテゴリー以上で、それぞれ1つ以上の徴候が確認できること
④ 症状と徴候をより良く説明する他の診断が存在しないこと

⚠️ 徴候は「診断の時点で観察されたもの」だけを数える。 過去に見られたという申告や記録は徴候として数えない1。

💡 感覚カテゴリーの症状の書き方は版で揺れている。2010年の検証論文の基準表は「および/または」2、2012年にが採用した版は「および/または」1と記している。徴候の側はどちらも「に対する」である。

4つのカテゴリー

カテゴリー 症状(訴え)/徴候(所見)の内容
感覚 症状は/、および/またはの訴え。徴候は(に対して)、および/または(軽い接触、深部圧、関節運動に対して)
左右の皮膚温の非対称、皮膚色の変化、皮膚色の左右非対称
発汗・浮腫 浮腫、発汗の変化、発汗の左右非対称
運動・栄養 可動域の低下、運動障害(筋力低下・振戦・)、(毛・爪・皮膚)

⚠️ 臨床基準と研究用基準で、必要な症状カテゴリー数が違う。 徴候の要件(2カテゴリー以上)は共通で、症状の要件だけが変わる2。

基準 症状 徴候 感度 特異度
旧基準(1994) — — 1.00 0.41
Budapest 臨床基準 3/4カテゴリー以上 2/4カテゴリー以上 0.99 0.68
Budapest 研究用基準 4/4カテゴリーすべて 2/4カテゴリー以上 0.78 0.79

これらはCRPS I型113例と非CRPSの47例を構造化評価した検証研究の値である。旧基準は感度は高いが特異度が0.41にとどまり過剰診断を招きうること、Budapest基準は感度をほぼ保ったまま特異度を大きく改善したことが示された。4つの独立した構成要素を含めたことが特異度の向上に寄与したと解析されている2。

💡 なぜ研究用基準の方が厳しいのか。 臨床では見落としの害が大きいので感度を優先し(3/4)、ではに非CRPSが混ざると効果が薄まるので特異度を優先する(4/4)。⚠️ 逆に言えば、研究用基準を診療の現場に持ち込むと早期例を取りこぼす——感度は臨床基準の0.99から研究用基準では0.78へ落ちる(特異度は0.68から0.79へ上がる)2。どちらの基準で語っているのかを常に意識する。

⚠️ ④は飾りではない。 「他により良く説明する診断が無いこと」が基準の一項目である以上、CRPSはである。診断を下す前に、腫れて痛い四肢を説明しうる他の病態を潰す。

flowchart TD
    A["外傷・手術のあとに<br>不釣り合いな疼痛が続く"] --> B{"他により良く説明する診断はないか"}
    B -->|"ある"| C["その診断を治療する<br>(CRPSとしない)"]
    B -->|"ない"| D{"症状:4カテゴリーのうち<br>3カテゴリー以上に該当するか"}
    D -->|"いいえ"| E["現時点ではCRPSの基準を満たさない<br>経過を追う"]
    D -->|"はい"| F{"徴候:評価時点で4カテゴリーのうち<br>2カテゴリー以上を確認できるか"}
    F -->|"いいえ"| E
    F -->|"はい"| G["CRPSと診断する"]
    G --> H["ただちに機能回復を中心とした<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='multidisciplinary'>学際的</span>治療を始める"]

鑑別——④を満たすために潰すもの

鑑別 見分ける手がかり
片側の腫脹と疼痛は共通。超音波で除外する
感染(・蜂窩織炎・・骨髄炎) 発熱、、限局した熱感と発赤の広がり方
急性期。での激痛、。が違う
温熱で誘発され冷却で軽快する発作性のと。外傷の先行が必須でない
末梢神経障害・() 症状が特定のに一致する。CRPSの疼痛はに一致しない
・固定によると 疼痛が不釣り合いでない。・発汗の異常を欠く

⚠️ 一方で「不釣り合いに痛い」を安易にCRPSと呼ばない。 骨折の、の刺激、感染、見落とされた合併損傷が痛みの原因であることは珍しくない。

補助検査——確定はできない

CRPSに確定診断のための検査は存在しない。補助検査はもっぱら他疾患の除外と、の裏づけに用いる。

⚠️ 検査が正常でもCRPSは否定できず、検査が異常でもCRPSは確定しない。 診断はあくまでBudapest基準の4項目である。

疫学と誘因

住民ベースの研究(基準を用いた判定)では、CRPS I型のは10万人年あたり5.46、は10万人あたり20.57であった。女性対男性は4対1、発症時年齢の中央値は46歳。上肢が下肢の2倍多く侵された。全例が先行事象を報告しており、最も多い誘因は骨折(46%)である3。

⚠️ 「大きな手術ほど起こる」わけではない。 誘因の重症度と発症は比例しない。や採血程度の軽微な事象の後にも起こりうる。

病期・亜型についての注意

⚠️ 古典的な「3段階の」(急性期・・)は支持されていない。 による検討では、患者を3群に分けてもが群間で同程度であり、順を追って進む段階説とは合わなかった。歴史的に語られてきた3段階は臨床上の言い伝えであって、科学的に裏づけられた理論ではない1。

💡 代わりに支持されつつあるのが「温かいCRPS」と「冷たいCRPS」の区別である。 では、温かく・赤く・乾いて・浮腫んだ四肢の群と、冷たく・青く・湿って・浮腫の少ない四肢の群が分離した。の中央値は温型4.7か月に対し冷型20か月と大きく異なる。ただし現時点では正式な亜型ではなく、予後と治療への含みを踏まえて「どちらが優勢か」を記載することが勧められている段階である1。

重症度の連続指標としては、徴候8項目・症状8項目の計16項目を有無で採点するCRPS重症度スコア(0〜16点)がある1。

治療

⭐ 中心は薬でもブロックでもなく、機能回復を軸にした治療である。 1997年のMalibu会議で作られた治療アルゴリズムは、すべての治療を機能回復(患部の「」)に焦点を合わせ、薬物・・は機能回復の段階を進めない患者に対して段階的に追加するという構成をとる1。

機能回復は次の順序で、ゆるやかに、しかし着実に進める1。

  1. の——、
  2. ごく愛護的な自動運動——段階的な
  3. ——上肢なら軽い荷物を持つ、下肢なら歩行訓練で
  4. より強い荷重を伴う運動へ

これに並行して、(絹から始めて布地の質感を変えていく、温度差を徐々に広げる)を行い、可動域を最大化するために浮腫を管理し、全身のを促す1。

⚠️ 「進めない」ときにこそ他の手段を足す。 一定の期間内に段階を進められない場合に、快適さや自信を与えて次の段階へ進めるための手段として介入を追加する。の痛みが強すぎるなら・で「動かせる窓」を作り、があるならで「動いても悪いことは起きない」ことを示す1。

⚠️ ただし初診時から薬物・ブロック・が必要な場合がある。 重度の抑うつ・不安があるとき、に取り組めないほど疼痛が強いときは、最初からこれらを併用する1。

⚠️ 予防目的のビタミンCは証明されていない。 初期の4研究のは四肢骨折・手術後のCRPS発症を減らすと示唆し、1日500 mgを45日以上という推奨もあったが、同じ手順を用いた後の無作為化試験では骨折6週後により発症が多く、以後の時点では差が無かった。予防効果は未証明であるとされている1。

予後

住民ベース研究では、CRPS I型の74%が寛解し、しばしば自然に軽快した。著者らはこの経過から、大多数の症例ではされない可能性があるとしている3。

⚠️ ただしこの数字は基準(特異度0.41)で選ばれた集団のものである32。より厳しいBudapest基準を満たす集団のが同じとは限らない。

⚠️ 「基準を一時的に満たさなくなること」は治癒ではない。 一度は完全に基準を満たしていた患者が、症状が残ったまま基準を満たさなくなることがあり、ICD-11では「一部の特徴が寛解したCRPS」という亜型が設けられる。CRPSの所見は変動しやすく、法的・保険上の理由からも、一時的に基準を満たさないことを治癒と同一視してはならない1。

まとめ

  • ⭐ CRPSはであり、「他により良く説明する診断が無いこと」がの一項目そのものである。
  • Budapest基準は4項目——①誘因に不釣り合いな持続痛、②症状が4カテゴリー中3カテゴリー以上、③徴候が評価時点で4カテゴリー中2カテゴリー以上、④他診断の否定。
  • 4カテゴリーは感覚・・発汗と浮腫・運動と栄養。症状と徴候を別々に数えるのが要点。
  • ⚠️ 臨床基準は症状3/4、研究用基準は症状4/4(徴候はいずれも2/4以上)。感度は臨床基準で0.99、特異度は臨床0.68・研究用0.79で、旧基準の特異度0.41を大きく改善した。
  • Ⅰ型は主要神経損傷を伴わない、Ⅱ型は伴う。は同一で、区分は歴史的なものである。
  • は10万人年あたり5.46、女性が4倍、上肢が下肢の2倍、最多の誘因は骨折(46%)。
  • 古典的な3段階のは支持されない。温型(中央値4.7か月)と冷型(20か月)という亜型の方が実体に近い。
  • 確定検査は無い。3相・・は補助にとどまる。
  • ⭐ 治療の軸は早期からの段階的な機能回復と。薬物・ブロック・は原則として「進めないとき」に足す(ただし重度の抑うつ・不安や強すぎる疼痛があれば初めから併用する)。
  • 予防目的のビタミンCは証明されていない。基準による集団では74%が寛解した。

出典

  1. 1.Complex Regional Pain Syndrome: Practical Diagnostic and Treatment Guidelines, 5th Edition(Pain Medicine・2022)CRPSの診断と治療に関する専門家による半系統的総説。2012年にIASPが正式に採用した改訂CRPS基準の全文を掲げ、①誘因に不釣り合いな持続する疼痛、②感覚・血管運動・発汗/浮腫・運動/栄養の4カテゴリーのうち3カテゴリー以上でそれぞれ1つ以上の症状の訴えがあること、③評価時点で4カテゴリーのうち2カテゴリー以上でそれぞれ1つ以上の徴候が確認できること(徴候は診断時に観察されたものだけを数える)、④症状と徴候をより良く説明する他の診断が存在しないこと、の4項目からなると記していること。疼痛は限局した神経支配域や皮膚分節に一致せず遠位優位であること。歴史的に語られてきた3段階の病期分類は臨床上の言い伝えであり、クラスター解析による検討はこれを支持しなかったこと。温かいCRPSと冷たいCRPSという亜型はクラスター解析で分離でき、罹病期間の中央値が温型4.7か月・冷型20か月と大きく異なったが、現時点では正式な亜型ではないこと。Ⅰ型(主要な神経損傷を伴わない)とⅡ型(主要な神経損傷を伴う)の区別は1994年基準から引き継がれた歴史的なもので、診断基準自体は同一であり、臨床的な重要性や治療法の選択に影響しない可能性があるとの合意があったが歴史的理由で維持されたこと。重症度の連続指標としてCRPS Severity Score(徴候8項目・症状8項目の計16項目、0〜16点)が開発されたこと。治療は機能回復(functional restoration)を中心に据えた学際的アプローチが枢要であり、Malibuアルゴリズムでは薬物・神経ブロック・心理療法は機能回復の段階を進めない患者に対して段階的に追加するものとされること。ただし重度の抑うつ・不安や理学療法に取り組めないほどの強い疼痛を初診時から伴う場合は最初から薬物・ブロック・心理療法を用いること。機能回復は運動イメージや視覚触覚識別といった感覚運動前野の賦活から、愛護的な自動可動域訓練、部分荷重、より強い荷重を伴う運動へと段階的に進め、絹から始めて布地を変えていく脱感作や交互浴を併用し、浮腫の管理と全身の有酸素運動を通して行うこと。CRPS予防のためのビタミンCについては、初期の4研究のメタ解析が四肢骨折・手術後のCRPS発症を減らすことを示唆し1日500 mgを45日以上とする推奨があったが、その後の大規模無作為化試験では骨折6週後にプラセボより発症が増え以後の時点では差が無く、予防効果は証明されていないと結論していること(PMC9186375で全文を取得して確認)閲覧 2026-09-02
  2. 2.Validation of proposed diagnostic criteria (the "Budapest Criteria") for Complex Regional Pain Syndrome(Pain・2010)当時のIASP診断基準は特異度が低く過剰診断を招きうるという問題意識から、CRPS I型113例と非CRPSの神経障害性疼痛47例に対してCRPS関連の症状・徴候の構造化評価を行い、従来のIASP基準と新提案基準(Budapest基準)の診断精度を比較した検証研究であること。IASP基準は感度1.00と高い一方で特異度は0.41と不良であったこと。Budapestの臨床基準は感度0.99を保ちながら特異度を0.68へ大きく改善したこと。設計どおりBudapestの研究用基準は特異度が最も高く0.79であったこと。4つの独立した構成要素をBudapest基準に含めたことが特異度の向上に寄与したと解析が示したこと。全体としてBudapest基準の妥当性が裏づけられ、既存のIASP基準を改善するものであると結論していること。基準の一般的定義が「何らかの誘因に不釣り合いな持続する疼痛」であること、症状の4カテゴリー(感覚、血管運動、発汗・浮腫、運動・栄養)と徴候の同じ4カテゴリーが定められていること、臨床基準は症状で4カテゴリー中3カテゴリー以上・徴候で4カテゴリー中2カテゴリー以上を要し、研究用基準は症状で4カテゴリーすべて・徴候で2カテゴリー以上を要すること、診断精度が旧IASP基準で感度1.00・特異度0.41、Budapest臨床基準で感度0.99・特異度0.68、Budapest研究用基準で感度0.78・特異度0.79であったこと、および「他により良く症状と徴候を説明する診断が存在しないこと」が基準に含まれること(PMC2914601で本文の基準表を確認)閲覧 2026-09-02
  3. 3.Complex regional pain syndrome type I: incidence and prevalence in Olmsted county, a population-based study(Pain・2003)1989〜1999年のMayo ClinicとOlmsted Medical Groupの診療録から反射性交感神経性ジストロフィー・CRPSおよび適合する診断名を検索し、IASP基準を用いて判定した米国ミネソタ州Olmsted郡(1990年人口106,470)の住民ベース研究。CRPS I型74例が同定され、発生率は10万人年あたり5.46、期間有病率は10万人あたり20.57であったこと。女性対男性の比は4対1、発症時年齢の中央値は46歳であったこと。上肢が下肢の2倍多く侵されたこと。全例が先行事象を報告し、最も多い誘因は骨折(46%)であったこと。症状と徴候はよく一致し、血管運動に関する症状が最も多くみられたこと。3相骨シンチグラフィと自律神経機能検査は80%を超える症例で診断に至ったこと。74%が寛解し、しばしば自然に軽快したこと。著者らは、CRPS I型は有病率が低く、男性より女性に、下肢より上肢に多く、4例に3例が寛解することから、大多数の症例で侵襲的治療は正当化されない可能性があると結論していること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02