疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 運動器 · 外傷

橈骨遠位端骨折

Distal radius fracture

別名
Colles骨折
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 19:橈骨遠位端骨折の原則と治療外傷学 05:骨折の臨床症状と診断解剖学 5.6:上肢:手関節と手
鑑別疾患
舟状骨骨折
合併症
複合性局所疼痛症候群末梢神経絞扼症候群変形性関節症
関連疾患
舟状月状骨間靱帯損傷
症状
腫脹疼痛圧痛骨変形しびれ
スコア
患者立脚型手関節評価(PRWE)
原因となる疾患
骨粗鬆症

🧠 全体像:は最も頻度の高い骨折の一つで、年齢のピークが2つある——10代の(スポーツ・)と、高齢女性のによるである。同じ骨折名でも、前者は関節面と長さを取り戻す外傷、後者は骨粗鬆症という全身病の顕在化であって、目指すものが違う。覚えるべき骨格は3つ——転位の向きで決まる骨折型(背側ならColles、ならSmith、関節縁が割れて手根が付いていくならBarton)、整復の3つの目標(・・)、そして2つの神経・腱の合併症(急性期の障害と、遅発性の)である。最後に一つ、実務でいちばん誤解されやすい点がある——X線を正常に戻すことは目的ではなく手段である。

疫学:2つのピークは別の病気に近い

日本の一地域(北海道の道立病院)で10年間に診断された258例のでは、73.6%が女性、平均年齢67.0歳であり、粗年間は人口10万あたり158.0〜272.6だった。年齢別のピークは男性が10〜14歳、女性が75〜79歳と性別で大きく異なり、受傷原因は15歳を超えると単純な転倒、15歳以下ではスポーツ外傷が最多だった。屋外・冬季に多い1。

⭐ 高齢女性の低エネルギーは、しばしば骨粗鬆症の最初のイベントである。 手関節を治して終わりにせず、骨密度評価・評価・へつなぐ。次に起こる骨折は椎体やという、はるかに予後の悪い部位になりうる。

💡 同じ疫学データが、治療の重心の違いも説明する。 15歳超の症例のAO/OTA分類はA型(関節外)が78.7%、C型(関節内完全)が19.6%で、手術を受けたのは29.1%にとどまった1。多数派は関節外骨折で、が基本線になる。

骨折型:遠位骨片がどちらへ転位したかで名前が決まる

骨折型 転位の向き・部位 典型的な機転と要点
関節外、遠位骨片が背側へ転位・傾斜 位で手をつく。背側へ突出した骨片がを作る。最も多い
遠位骨片がへ転位 手関節屈曲位への外力。逆とも呼ばれる。が保ちにくい
橈骨関節面の辺縁が骨折し、が骨片とともに・する 型・背側型がある。関節内かつ手根が一緒にずれるため本質的に不安定
Chauffeur(Hutchinson)骨折 の の合併を単純X線で見落としやすい

💡 とを暗記で分けようとしない。 「手をついた瞬間に手関節がどちらへ折れ曲がったか」を思い浮かべれば、遠位骨片の行き先はそのまま決まる。伸展位で倒れれば骨片は背側へ動いてになり、屈曲位で押されればへ動いてになる。

⚠️ BartonとChauffeurを「小さい骨折」と読まない。 どちらも関節内損傷で、Bartonでは手根が骨片ごと橈骨から外れているため保存治療ではを維持できないことが多い。Chauffeurでは骨片の大きさに比して手根間靱帯損傷の合併が問題になる。

整復の3つの目標

治療の目標は「痛くない、動く、力が入る手関節」であり、それを担保する幾何が次の3つ(+関節面の)である。

目標 何を表すか 崩れると何が起こるか
側面像での関節面の向き。正常はを向く 背側傾斜に反転すると手根が背側へずれ、と手関節可動域制限。荷重がへ移る
正面像で関節面がへ傾く角度 減少すると手根がへ落ち、手根の当たりと変形が残る
() 橈骨関節面が頭よりどれだけ遠位にあるか 短縮するとが相対的に長くなり()、手関節痛・制限を生じる
関節面の・間隙 での軟骨面の不整 遺残すると外傷後の危険が上がる
flowchart TD
    A["遠位骨片の背側転位・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impaction (impacted fracture)'>嵌入</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='volar tilt'>掌側傾斜</span>の消失と橈骨短縮"]
    B --> C["手根が背側・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radial (side)'>橈側</span>へ偏位"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulna'>尺骨</span>が相対的に長くなる"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased grip strength'>握力低下</span>・可動域制限"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ulnar (side)'>尺側</span>手関節痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='forearm rotation'>前腕回旋</span>制限"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malunion'>変形治癒</span>として残る機能障害"]
    F --> G

手術を考える目安として、整復後の橈骨短縮3 mm超・背側傾斜10°超・関節内または転位2 mm超が挙げられるが、これは絶対適応ではなく年齢・機能需要と合わせて解釈する(外傷学 19)。

診断と初期評価

手関節の疼痛・腫脹・圧痛と、背側転位例のフォーク状で疑い、正面・で確定する。や手術計画ではを追加する。

⚠️ 整復の前と後で、必ずと循環を記録する。 母指・・のしびれ、の筋力、末梢の色調と再充満を、整復操作の前後それぞれで書き残す。あとから「いつからの麻痺か」を争わないために、これは診療録上の防御でもある。

⚠️ 同じ機転で起こる損傷を同時に探す。 手をついて転倒したではが併存しうるし、ではが合併する。手関節の骨折が見つかった時点で探索をやめない。

治療:整復位を保つことと機能が良くなることは同じではない

転位が小さい安定骨折、および整復後の位置を保持できる骨折では、のうえ・で固定する。急性期は腫脹を許容するを用い、固定中も手指を動かし続ける。不安定・再転位・関節面不整・では手術固定(、、)を検討する。

⭐ この領域で最も重要なの一つがDRAFFT2である。英国36施設で、を要した背側転位型骨折の成人500例(平均年齢60.1歳、83%が女性)を群とK-wire固定群に無作為に割り付けた2。

項目 群 K-wire群
された例数 255例 245例
12か月時のPRWE(。12か月データのある200例/195例で解析) 21.16 20.69(調整 −0.34、95%信頼区間 −4.33〜3.66)
6週以内に喪失で手術を要した例 33例(13%) 1例
合併症 28件 22件(・血栓塞栓症に有意差なし)

著者らのは「K-wireによる手術固定は、と比べて12か月時の手関節機能を改善しなかった」である2。

💡 この結果の読み方に注意がいる。 群の13%はを失って結局手術になったのに、群全体の12か月の機能は変わらなかった。これは「初めから全例にピンを入れておく利益は無い」ことを示すのであって、「はどうでもよい」ことを示すのではない。⚠️ 両群ともを受けているのだから、この試験は整復そのものの是非を検証していない。

⚠️ 同時に、が無害だと一般化してもいけない。 受傷後12か月以上のをの有無で比べた6研究・898例のでは、がある側で障害度が有意に大きかった(全年齢の成人を対象とした5研究で0.58、95%信頼区間0.42〜0.74。65歳以上に限定した唯一の研究を加えた全6研究では0.51、95%信頼区間0.35〜0.67)3。ただしこの解析は年齢や治療法の影響を扱っていないと著者ら自身が明記している3。「高齢者では画像上の整復不良を許容できることがある」という臨床判断と、「は平均すれば障害と関連する」という集団の事実は両立する。 目の前の患者の機能需要(・職業・活動性)を抜きにして、どちらか一方を原則にしない。

2つの合併症を名指しで覚える

急性手根管症候群(早い、緊急)

と腫脹、背側転位した骨片による牽引で内圧が上がり、が急性に障害される。進行する・痛み・の脱力が特徴で、一過性のとは経過で区別する(の慢性型は数か月〜数年で進むが、急性型は数時間から数日で悪化する)。

⚠️ 症状が進行するなら緊急に整復し、改善しなければを行う。 「様子を見る」判断が最も危険な合併症である。整復前後のを記録していれば、この判断は容易になる。

遅発性の長母指伸筋腱断裂(遅い、意外)

はを回り込む狭い第3区画を通るため、骨折後の上昇とで・する。母指をできなくなり、母指を机から持ち上げられないのが所見である。

⭐ これはの合併症である。 米国の外傷センターで、4名の評価者全員が非転位と判定した61例を追跡すると、3例(5%)にが起こり、受傷から平均6.6週で発症した4。⚠️ 「転位が無いから安心」という説明をしない。 転位した骨折では骨片が背側へ抜けて第3区画の圧が逃げるのに対し、では区画が閉じたまま圧が上がると説明される。した腱は縫合できず、の移行で再建する。

そのほか

合併症 要点
橈骨短縮・背側傾斜から、制限、手関節痛。患者報告の障害度と関連する3
遅発性 したの形状変化により、数か月後に緩徐発症する
プレートによる プレートが遠位に突出するとを刺激し、しうる
外傷後 関節面の・に関連する。ただし画像所見と症状は一致しないことがある
受傷・手術に不釣り合いな疼痛、浮腫、色調・発汗・可動域の変化。早期の認識が予後を左右する
を避け、手指・肘・肩を最初から動かす

まとめ

  • は年齢のピークが2つある。地域研究では男性が10〜14歳、女性が75〜79歳で、15歳超の受傷原因は単純転倒が最多である。高齢女性例は骨粗鬆症の顕在化として扱う。
  • 骨折型は遠位骨片の転位方向で決まる。背側がColles、がSmith、関節縁の骨折に手根のを伴うのがBartonで、Bartonは本質的に不安定である。
  • 整復目標は・・の3つに関節面のを加えたもので、それぞれ・手根の位置・・の危険に対応する。
  • DRAFFT2では、整復を要した背側転位型骨折でK-wire固定はに対して12か月の機能を改善しなかった。ただし群の13%はを失って手術になっており、またそのものは患者報告の障害度と関連する。
  • 合併症は2つを名指しで覚える。は数時間〜数日で進行し緊急に対応する。はむしろの後、平均6.6週で遅発し、母指のが失われる。

出典

  1. 1.Epidemiology of distal radius fracture: a regional population-based study in Japan(BMC Musculoskeletal Disorders・2023)北海道の道立病院で2011〜2020年に診断された橈骨遠位端骨折258例の記述疫学で、73.6%が女性・平均年齢67.0歳(標準偏差21.5)であったこと、粗年間発生率が人口10万あたり158.0〜272.6であり女性の年齢調整発生率は同期間に有意な減少傾向を示したこと、年齢別発生率のピークが男性で10〜14歳・女性で75〜79歳と性別で異なったこと、受傷原因が15歳超では単純転倒、15歳以下ではスポーツ外傷が最多であったこと、受傷場所は屋外が最多で冬季に多かったこと、15歳超でのAO/OTA分類の内訳がA型78.7%(184/234)・B型1.7%(4/234)・C型19.6%(46/234)で29.1%(68/234)が手術を受けたこと、1年死亡率2.8%・5年死亡率11.9%であったこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  2. 2.Surgical fixation with K-wires versus casting in adults with fracture of distal radius: DRAFFT2 multicentre randomised clinical trial(BMJ・2022)英国36施設の多施設無作為化優越性試験で、徒手整復を要する背側転位型橈骨遠位端骨折の成人500例(平均年齢60.1歳・標準偏差16.6、83%が女性、16歳以上、受傷2週以内、橈骨手根関節から3 cm以内の骨折、開放骨折はGustilo-Anderson分類1度以下)をギプス群255例とK-wire固定群245例に割り付けたこと、主要評価項目である12か月時のPRWEがギプス群21.16・K-wire群20.69で調整平均差−0.34(95%信頼区間 −4.33〜3.66、P=0.87)であったこと、受傷後6週以内に整復位の喪失で手術を要したのがギプス群255例中33例(13%)に対しK-wire群では1例であったこと、合併症がギプス群28件・K-wire群22件で複合性局所疼痛症候群や血栓塞栓症に有意差がなかったこと、著者らがK-wireによる手術固定はギプスと比べて12か月時の手関節機能を改善しなかったと結論したこと閲覧 2026-09-02
  3. 3.Association between distal radius fracture malunion and patient-reported disability: a systematic review and meta-analysis(EFORT Open Reviews・2024)受傷後12か月以上の患者報告アウトカムを変形治癒の有無別に報告し、変形治癒を受傷3か月以降に画像で確認したコホート研究・無作為化比較試験6研究・898例(77%が女性)のメタ解析で、全年齢の成人を対象とした5研究(1,047観察)の標準化平均差が0.58(95%信頼区間 0.42〜0.74、P<0.001)、6研究すべて(1,193観察)では0.51(95%信頼区間 0.35〜0.67、P<0.001)といずれも変形治癒がない側に有利であったこと、著者らが変形治癒は臨床的に中等度の大きさで患者報告の障害度が大きいことと関連すると結論する一方、年齢や治療法の影響は本研究では扱っていないと明記していること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  4. 4.Incidence of extensor pollicis longus tendon rupture after nondisplaced distal radius fractures(The Journal of Hand Surgery・2012)米国のレベル1外傷センターで2006〜2009年に受診した橈骨遠位端骨折のうち、4名の評価者全員が非転位と判定した61例を後ろ向きに追跡し、3例(5%)に長母指伸筋腱断裂が生じたこと、断裂は受傷から平均6.6週で起こったこと、この頻度が従来の報告より高いと著者らが結論したこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02