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Disease Atlas · 運動器 · 外傷

橈骨頭亜脱臼(肘内障)

Radial head subluxation (nursemaid elbow)

別名
肘内障nursemaid elbowpulled elbow
臓器系
運動器小児
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)Traumatology and Orthopedics
トピック
解剖学 5.4:上肢:肘と肘窩外傷学 04:関節脱臼の受傷機転・診断・治療
鑑別疾患
小児虐待・非事故性外傷
症状
四肢痛

🧠 全体像:()は、幼児の前腕が・で急に引っ張られたときに、がの下へ滑り込んで嵌まり込む外傷である1。骨は折れておらずもしていないので、X線は原則として要らず、写しても正常である。診断の核心は「典型的な機転」「腫脹・変形・皮下出血がない」「上肢をだらりと下げてを嫌がる」の3点が揃うことにあり、が治療であると同時に診断そのものでもある——整復すれば数分で腕を使い始めるので、その反応が正しさを保証する。逆にこの3点が揃わない児にこの診断を当ててはいけない。腫脹や変形があれば骨折であり、機転が説明されない・つじつまが合わないならを考える。

病態:輪状靱帯が橈骨頭を「滑り越える」

はを輪のように取り囲み、のに押し当てて保持している(解剖学 5.4)。前腕がにあるときのに対する把持が最も緩くなる、というのが広く用いられる説明である(の断面が完全な円ではないことによる。ただしこの点は後掲の一次資料には記載がない)。一次資料が述べているのは、・の前腕に長軸方向の牽引が加わるとがを越えて偏位し、との間に挟み込まれるという部分である1。挟まったが動かすたびに痛むため、児は肘を動かさなくなる。

flowchart TD
    A["幼児の前腕:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pronated position'>回内位</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elbow extension'>肘伸展位</span>"] --> B["長軸方向の急な牽引<br>(手を引く・片手でぶら下げる)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radial head'>橈骨頭</span>がわずかに遠位へ引き出される"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='annular ligament'>輪状靱帯</span>の近位縁が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radial head'>橈骨頭</span>を滑り越える"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ligament'>靱帯</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radial head'>橈骨頭</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capitellum'>上腕骨小頭</span>の間に挟み込まれる"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='supination'>回外</span>・肘の運動で疼痛<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='affected limb'>患肢</span>を使わない"]

⚠️ 「骨が未発達だから」ではなく「が緩いから」起こる。 5歳を超えると本症は減るが、その理由として一次資料が挙げているのはが加齢とともに強くなることである1。の形態が未成熟だから、という説明は広く流布しているが、頻度低下の説明としては側の成熟が挙げられている点に注意する。

疫学と受傷機転

項目 内容
好発年齢 1〜4歳。小児の上肢外傷の20%超を占める1
5歳以降 が強くなるため頻度が下がる1
性差・側性 わずかに女児優位、左上肢に多い1
再発 約20%1

典型的なのは、腕を持って振り回す・片腕で持ち上げる動作である1。転びそうな子の腕を引いて止めた、肘から転倒した、前腕をひねった、といった機転でも起こり、生後6か月未満では寝返りが機転になることもある1。

臨床像

児はをほぼ完全伸展・に保ち、動かそうとしない。「腕が動かない」と訴えられることが多いが麻痺ではなく、痛みによる不使用である。皮下出血・発赤・腫脹などの外傷所見は通常みられない1。受診前にして「症状が消えてしまった」ように見えることもある1。

⭐ 「腫れていない」「変形していない」ことが、この診断を支える最大の所見である。 局所の腫脹・変形・骨性の圧痛があればやを優先して考え、単純X線を撮る。

画像:撮らないことが標準

X線は本症では通常正常であり、ルーチンには不要である1。次のいずれかがあるときに限って撮影する1。

  • 骨折やを疑う所見(腫脹・変形)がある
  • が典型的な軸方向の牽引ではない
  • (虐待)を疑う

整復:過回内法を第一に

flowchart TD
    A["典型的機転+腫脹・変形なし"] --> B{"骨折・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dislocation'>脱臼</span>を疑う所見や<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-conventional'>非典型的</span>機転・虐待の疑いはあるか"}
    B -->|"あり"| C["単純X線を先に撮影"]
    B -->|"なし"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='closed reduction'>徒手整復</span>(画像なしで可)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperpronation maneuver'>過回内法</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='radial head'>橈骨頭</span>に軽く母指を当て前腕を強く<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pronation'>回内</span>"]
    E --> F{"整復されたか<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clicking sensation'>クリック感</span>・疼痛消失)"}
    F -->|"はい"| G["5〜10分で上肢を使い始める<br>30分以内に90%が無症状"]
    F -->|"いいえ"| H["再試行(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperpronation maneuver'>過回内法</span>の反復)または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='supination-flexion maneuver'>回外屈曲法</span>"]
    H --> I{"それでも整復されないか<br>使用が戻らない"}
    I -->|"はい"| J["単純X線で骨折・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dislocation'>脱臼</span>を除外し再評価"]
    G --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splint'>副子</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='triangular sling'>三角巾</span>は不要。牽引動作を避けるよう保護者へ指導"]

(に中等度の圧を加えながら前腕を強くさせる)は、(に母指圧を加え、遠位前腕を持って+完全屈曲し軽い牽引を加える)より初回成功率が高い1。Cochrane レビューでは初回整復の失敗が 9.2% 対 26.4%、 0.35(95%信頼区間 0.25〜0.50、811人・8試験、エビデンスの質は低い)で、は6(95%信頼区間 5〜8)と算出されている2。手技中・手技後の疼痛については非常に質の低いエビデンスしかなく、両法に差があるとは言えない2。

整復に成功すると疼痛は直ちに消え、多くの児は5〜10分で腕を使い始め、30分以内に90%が無症状になる1。成功例にやは不要で、予後は良好である1。保護者には、腕やを持って振り回す・引き上げるといった軸方向の牽引を避けるよう指導する1。

💡 整復後に腕を使い始めないときこそ立ち止まる。 30分以上経ってもを使わないなら、整復が成功していないか、そもそも診断が違う(骨折・)。ここで初めてX線の出番になる。

鑑別

疾患 見分け方
肘の腫脹・変形・強い圧痛。など高エネルギーの機転。血管・神経障害の評価が必須で、X線が必要
・Monteggia骨折(骨折+) 前腕の変形・腫脹。が触知位置からずれる。X線で診断
明らかな変形と高度の可動域制限。年長児に多い
・ 「腕を使わない乳幼児」全般の鑑別。発熱・全身状態と局所の熱感を確認
(虐待) 機転が説明されない・発達段階と合わない・説明が変わる。腫脹や皮下出血を伴う場合、な機転の場合は画像を撮る1

⚠️ 典型的な牽引の機転が語られないときは、この診断に飛びつかない。 一次資料も、機転が典型的な軸方向の牽引でない場合とを疑う場合を、画像を撮るべき状況として並べて挙げている1。

まとめ

  • ・伸展位の前腕への軸方向の牽引で、がの下へ滑り込む。1〜4歳に多く、小児上肢外傷の20%超を占める。
  • を伸展・に保って使わないが、腫脹・変形・皮下出血はない。この「所見の乏しさ」が診断を支える。
  • X線は原則不要。撮るのは腫脹・変形がある、機転が、虐待を疑う場合に限る。
  • 整復はを第一とする(初回失敗 9.2% 対 26.4%、 0.35、6)。
  • 成功すれば5〜10分で腕を使い始め、30分以内に90%が無症状。固定は不要で再発は約20%。

出典

  1. 1.Nursemaid Elbow(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)橈骨頭が輪状靱帯の下へ滑り込むことで生じ("the radial head slips under the annular ligament")、典型的な機転が回内位・伸展位の前腕への軸方向の牽引であること、好発年齢が1〜4歳で小児上肢外傷の20%超を占めること、5歳を超えると輪状靱帯が加齢とともに強くなるため頻度が下がること、わずかに女児優位で左側に多いこと、再発が約20%であること、患児は上肢をほぼ完全伸展・回内位に保ち皮下出血・発赤・腫脹などの外傷所見を欠くのが通常であること、画像は骨折・脱臼の疑い・腫脹や変形・非典型的な受傷機転・非事故性外傷の疑いがある場合に限られ通常は正常であること、過回内法が回外屈曲法より初回成功率が高いこと、整復成功例では5〜10分で上肢を使い始め30分以内に90%が無症状になること、整復後の副子固定や三角巾は不要であることを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Manipulative interventions for reducing pulled elbow in young children(Cochrane Database of Systematic Reviews・2017)7歳未満の小児906人を含む9試験のレビューで、8試験(811人)の統合により過回内法の初回整復失敗が9.2%、回外屈曲法が26.4%、リスク比0.35(95%信頼区間0.25〜0.50、エビデンスの質は低い)であったこと、リスク差からの治療必要数が6(95%信頼区間5〜8)であったこと、手技中・手技後の疼痛については非常に質の低いエビデンスしかなく両法の差は不確実であること、有害事象と再発は報告されていないことを確認した。閲覧 2026-09-02