疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 運動器 · 外傷

遠位脛腓靱帯損傷

Syndesmotic injury

別名
高位足関節捻挫遠位脛腓靱帯結合損傷
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 32:足関節捻挫の診察・治療と足関節骨折の合併症外傷学 33:足関節骨折の種類と治療解剖学 6.5:下肢:足関節と足
鑑別疾患
Maisonneuve骨折足関節捻挫
合併症
変形性足関節症
関連疾患
三角靱帯損傷足関節骨折
症状
疼痛圧痛腫脹

🧠 全体像:は「」と呼ばれるが、通常の外側の「重症版」ではなく、壊れている場所も、機転も、治るまでの時間もまったく違う損傷である。機転はではなく。壊れるのはの前下方ではなく脛骨とをつなぐ靱帯結合。そして⭐ 回復が明らかに長引く——同じチームで同じ期間に生じた外側と比べて、欠場した試合も練習も有意に多い1。⚠️ 見落としの原因はを周囲だけで探すことにある。圧痛はより近位、脛腓間に及ぶ。治療の分かれ目はただ一つ、脛腓間が不安定かどうか——安定なら保存、不安定ならスクリューまたはで固定する。

解剖 — 4本の靱帯が別々の動きを止めている

は、脛骨のに遠位がはまり込む構造を、4本のが支えている2。

止めている動き
(AITFL) の
(IOL) の外側への移動
(PITFL) の後方への移動
の

内側の三角靱帯はの外転・・を防いでおり、三角靱帯も損なわれるとの不安定性はさらに大きくなる2。

💡 「靱帯結合が切れた」だけでは不安定とは言えない理由がここにある。 が切れても、後方と内側が残っていればはまだ押さえられている。不安定になるのは内側(三角靱帯)まで破れたときである。だから分類もも、内側が生きているかどうかで分かれる。

疫学と受傷機転

⚠️ 報告される頻度の幅がきわめて大きい。 古典的にはの靱帯損傷の1〜18%とされてきたが、近年の報告では診断法と機転の理解が進んだこともあってのスポーツ外傷全体の17〜74%へと大きく上振れしている(いずれも総説が引用した数値であって総説自身の報告ではない)2。「まれな損傷」と決めてかかると見落とす。

はであり、しばしばを伴う。足部が固定された状態で下腿がする(=相対的に足部がする)動き——コンタクトスポーツでのタックル、スキーのビンディング、方向転換——が典型である。⭐ ・で受傷する外側とは、力の向きそのものが違う。

臨床像 — 腫れないのに痛い

⚠️ 腫脹が目立たないことが、かえって手がかりになる。 通常のと違い、診察時に強い浮腫を伴わないことが多い。むしろやで痛みが増すこと、踵を上げた、上の圧痛が通常みられる2。「腫れていないから軽い」と読み替えない。

⭐ 圧痛が近位に及ぶことが最大の手がかりである。 ESSKA-AFASコンセンサスはと上の圧痛を推奨する診察項目に挙げ、圧痛が近位に及ぶほど損傷の範囲が大きいとしている2。の先端と前縁しか触らなければ、この損傷は診察をすり抜ける。

診断

徒手検査 — 古典的な検査とコンセンサスの推奨が食い違う

検査 やり方 位置づけ
上の圧痛 脛腓間の前面を遠位から近位へ触っていく ESSKA-AFASの推奨項目。圧痛の近位への広がりが損傷範囲を示す2
translation試験 脛骨を固定しを前後へ引く 推奨項目。対側より可動が増し疼痛を伴えば陽性2
でを内外へ動かす 推奨項目。対側より可動が増し疼痛を伴えば陽性2
squeeze試験 下腿中央付近でを脛骨へ圧迫し、遠位の脛腓間に疼痛が出るかを見る 古典的に広く教えられるが、が低くに乏しいためコンセンサスからは除外されている2
(ストレス)試験 ・で足部をさせる 受傷直後に外側と鑑別する臨床的方法として古くから記載されている1が、同じ理由でコンセンサスからは除外されている2
crossed-leg試験 を組んで膝の内側を下方へ押す 同上。コンセンサスから除外2

⚠️ 「squeeze試験とで診断する」と単純化しない。 両者は疑いを持つきっかけとしては有用だが、と再現性の低さを理由にESSKA-AFASの推奨からは外されている2。だけで確定も除外もしない。

画像

X線は正面・mortise・側面の3方向を撮る。偏位の評価にはのが最も正確だが、受傷直後は疼痛でこのを取れない患者も多い2。⚠️ を除外するため、下腿全長の正面・側面像を撮る2。

正常値 測る場所
脛腓間clear space 正面・mortiseいずれでも6 mm未満 の1 cm上
脛overlap(正面像) 6 mm超 同上
脛overlap() 1 mm超 同上

(いずれも靱帯結合が無傷のときの値2。)ESSKA-AFASも、X線では正面像とで脛腓間clear space、medial clear spaceのoverlap、脛骨幅、幅を確認しなければならないとしている3。

⚠️ 単純X線だけで決めない。 疑わしいときはCTで内におけるの位置を評価する。超音波はが低くのため推奨されない2。MRIは靱帯損傷をgrade I(は連続し周囲に浮腫)・II(肥厚と+浮腫)・III(の途絶と広範な浮腫)に段階づけられる2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral rotation'>外旋</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='forced dorsiflexion'>強制背屈</span>での受傷"] --> B["脛腓間・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior tibiofibular ligament'>前脛腓靱帯</span>上の圧痛<br>圧痛が近位に及ぶ"]
    B --> C["正面・mortise・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral radiograph'>側面X線</span><br>および下腿全長のX線"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibula'>腓骨</span>近位に骨折があるか"]
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Maisonneuve fracture'>Maisonneuve骨折</span>として扱う"]
    D -->|"なし"| F["脛腓間clear spaceとoverlapを<span class='jp-term jp-term-diagram' title='measuring'>計測</span>"]
    F --> G["明らかな<span class='jp-term jp-term-diagram' title='separation (dehiscence)'>離開</span>がある"]
    F --> H["所見がはっきりしない"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibular notch'>腓骨切痕</span>内の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibula'>腓骨</span>の位置を評価<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で靱帯損傷を段階づける"]
    G --> J["不安定:手術"]
    I --> J
    I --> K["安定:保存治療"]

分類 — 時間と安定性の2軸

ESSKA-AFASコンセンサスは、まず受傷からの時間で分ける2。

時期 定義 治療の軸
急性 6週未満 安定なら保存、不安定なら手術
亜急性 6週〜6か月 の修復・再建と一時的な
慢性 6か月超 脛腓間の固定術

急性期はさらに安定と不安定に分かれる32。

型 損傷の範囲
安定 の損傷(損傷の有無を問わない)で、三角靱帯は無傷
不安定() (±)に加えて三角靱帯の損傷があるが、静止X線ではが明らかでない
不安定(明らかな) 全ての靱帯結合と三角靱帯がし、明らかながある

⭐ この分類の要は「三角靱帯が無傷かどうか」である。 内側が残っていればは保持され、保存治療でが治癒する。内側が破れていればは動けるようになり、その位置のままで治ってしまう。

鑑別

疾患 見分け方
(外側) ・機転。圧痛はの前下方にとどまり、脛腓間と近位には及ばない。回復も速い
近位に骨折がある。とのは常に伴うので、この損傷を含み込んだ形になる
にがある。靱帯結合損傷はしばしば併存するので、骨折の整復後に必ず靱帯結合の安定性を確かめる
遠位の の脛骨側・側付着部の小骨片(、)

⚠️ との関係を取り違えない。 ではとのが常に伴う。つまりは「近位骨折を伴う」であり、本項の孤立性のとは、近位に骨折があるかどうかで分かれる。一方で内側の破綻はでも一定ではなく、内側構造が無傷であった例も報告されている(頻度はの項を見る)。「機転なら内側が必ず壊れている」とは考えない。

治療

安定例 — 保存治療

不安定を伴わない靱帯結合は保存治療で治癒する。最も広く行われているのは3相の手順である2。

相 内容
第1相 1〜2週間の安静・冷却・圧迫・挙上との固定。を避けるためよりが好まれる
第2相 での歩行を開始し、(関節の可動化、筋力訓練、基本的な機能の回復)
第3相 との訓練を完全回復まで続ける

への復帰までの平均は4〜8週である(本総説が引用した数値であって総説自身の報告ではない)2。

⭐ 同じ「」でも復帰までの時間が違う。 プロフットボールチームの6年間の記録では、15例は有意な外側28例に比べ、欠場した試合と練習が有意に多く、受けた治療も相当に多かった1。この報告はの間の延長を明確に示したものとして引かれ続けている。⚠️ 「よくあるだから2週間で戻れる」と説明しない。 最初の説明で復帰時期を短く見積もると、患者は治っていない足で復帰する。

不安定例 — 手術

急性期に明らかなまたはの不安定があれば手術の適応である2。目的はが治癒するあいだ、構造を正しい位置に整復して保つことにある。

方法 要点
4皮質を貫く4.5 mm 2本が好まれる。の2〜3 cm上に、前内側へ20〜30°傾けて設置する。スクリューまで少なくとも2か月はを勧めない2
による動的固定 生理的な可動を残しつつ間の安定を得られる。2〜3週後から耐えられる範囲で漸増的なを許す2
の 縫合、アンカー、ワッシャー付きスクリューで行う2

⚠️ では推奨される本数と皮質が異なる。 同ノートは3または4皮質を貫く1〜2本のスクリューを経皮的に設置してよいとしており、本項の「4皮質・4.5 mm 2本」とは別の出典に基づく。数字が割れて見えたときは、どちらの損傷型の話をしているのかを先に確かめる。

⭐ どちらを選ぶかより、どこに置くかが効く。 スクリューでもでも、設置位置の正確さが最も重要な予後因子である2。整復不良のまま強固に固定することが、この損傷の最悪の結末につながる。

⚠️ スクリューの必要性には決定的な根拠がない2。を前提とした説明をしない。

亜急性・慢性

  • 亜急性(6週〜6か月):を可能なら縫合し、修復できないは腱によるで置き換え、一時的なで保護する2。
  • 慢性(6か月超):脛腓間の固定術が勧められる。既存のがあると転帰が悪いため、その場合はが優先される2。

⚠️ 手術治療の推奨はレベルIV・Vのエビデンスに基づくにとどまる2。強い言い切りをしない。

経過と合併症

放置または整復不良のまま経過すると、慢性疼痛・回復の遅延・の反復・・、そして最終的にに至りうる2。安定例でも、靱帯結合の石灰化やによるが起こりうるため、最低6か月は経過を追う。

まとめ

  • は(しばしばを伴う)で生じる「」で、・で起こる外側とは機転も損傷部位も間も違う。
  • 靱帯結合は(を制限)・(外側移動を制限)・(を防ぐ)・(のを制限)から成り、三角靱帯まで破れるとの不安定性が大きくなる。
  • 腫脹が目立たないことが多く、・で痛む。圧痛がより近位に及ぶことが最大の手がかりで、圧痛が近位に及ぶほど損傷範囲が大きい。
  • ESSKA-AFASが推奨する診察は・上の圧痛、translation試験、である。squeeze試験・・crossed-leg試験はと再現性の低さからコンセンサスに含まれていない。
  • X線は正面・mortise・側面に下腿全長を加える。脛腓間clear spaceは正面・mortiseとも6 mm未満、脛overlapは正面で6 mm超・mortiseで1 mm超が正常で、いずれもの1 cm上で測る。疑わしければ、の段階づけには。超音波は推奨されない。
  • 分類は受傷からの時間(急性6週未満・亜急性6週〜6か月・慢性6か月超)と、急性期の安定/不安定の2軸で行う。安定と不安定を分けるのは三角靱帯が無傷かである。
  • 安定例は保存治療で、3相の手順を経てへは平均4〜8週。不安定例は手術で、スクリュー(4皮質・4.5 mm 2本、の2〜3 cm上、前内側へ20〜30°)または(2〜3週から漸増)を用いる。設置位置の正確さが最も重要な予後因子である。
  • 外側より回復が長引くことは古くから示されており、復帰時期を短く見積もらない。
  • 放置すると慢性疼痛、、の反復、、に至る。

出典

  1. 1.Syndesmotic ankle sprains(The American Journal of Sports Medicine・1991)プロフットボールチームの6年間の足関節捻挫を検討し、遠位脛腓靱帯結合捻挫15例と有意な外側足関節捻挫28例を比較したところ、遠位脛腓靱帯結合捻挫の選手は欠場した試合と練習が有意に多く受ける治療も相当に多かったこと、この結果が遠位脛腓靱帯結合捻挫の回復期間の延長を明確に示すこと、受傷直後に両者を鑑別する臨床的方法として外旋ストレス試験を記載したこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  2. 2.Management of syndesmotic injuries of the ankle(EFORT Open Reviews・2017)遠位脛腓靱帯結合が前脛腓靱帯(腓骨の外旋を制限)・骨間靱帯(腓骨の外側移動を制限)・後脛腓靱帯(腓骨の後方移動を防ぐ)・下横靱帯(距骨の後方移動を制限)の4靱帯からなること、三角靱帯が距骨の外転・回内・外旋を防ぎ三角靱帯も損なわれると距骨の不安定性がさらに大きくなること、捻挫と違って診察時に強い浮腫を伴わないことが多く外旋や強制背屈で痛みが増すことと踵を上げた逃避性歩行・前脛腓靱帯上の圧痛が通常みられること、ESSKA-AFASコンセンサスが前脛腓靱帯と後脛腓靱帯上の圧痛(圧痛が近位に及ぶほど損傷範囲が大きい)・腓骨translation試験・Cotton試験を推奨し、外旋試験・squeeze試験・crossed-leg試験は陽性的中率が低く検者内信頼性に乏しいためコンセンサスから除外されていること、X線は正面・mortise・側面の3方向を撮り単脚荷重のmortise像が偏位の評価に最も正確であること、Maisonneuve骨折の除外に下腿全長の正面・側面像を撮ること、健常な靱帯結合では脛腓間clear spaceが正面・mortiseいずれでも6 mm未満であり脛腓骨overlapは正面で6 mm超・mortiseで1 mm超が正常でいずれも脛骨天蓋の1 cm上で測ること、疑わしいときはCTで腓骨切痕内の腓骨の位置を評価し超音波は信頼性が低く検者依存のため推奨されないこと、MRIが靱帯損傷をgrade I〜IIIに段階づけられること、ESSKA-AFASが受傷からの時間で急性(6週未満)・亜急性(6週〜6か月)・慢性(6か月超)に分け急性を安定と不安定に分けること、安定は前脛腓靱帯損傷(骨間靱帯損傷の有無を問わない)で三角靱帯が無傷のもの、不安定は三角靱帯損傷を伴いlatentとfrankに分かれること、不安定のない捻挫は保存治療で治癒し3相の治療手順(1〜2週の安静・冷却・圧迫・挙上と非荷重固定、機能装具での歩行と理学療法、神経筋制御と固有感覚の訓練)が最も広く行われていること、通常活動への復帰までの平均が4〜8週であること(本総説自身の報告ではなく引用)、不安定例は手術の適応でスクリュー固定・縫合ボタンによる動的固定・前脛腓靱帯の直接修復のいずれかを行うこと、スクリューは4皮質を貫く4.5 mm 2本が好まれ関節裂隙の2〜3 cm上に前内側へ20〜30°傾けて設置しスクリュー抜去まで少なくとも2か月は全荷重を勧めないこと、縫合ボタンでは2〜3週後から耐えられる範囲で漸増的な全荷重を許すこと、スクリュー・縫合ボタンのいずれでも設置位置の正確さが最も重要な予後因子であること、亜急性は靱帯修復・靱帯形成術と一時的スクリュー固定、慢性は脛腓間の固定術が勧められるが手術治療の推奨はレベルIV・Vのエビデンスに基づくにとどまること、第1相の非荷重固定は拘縮を避けるためギプスよりウォーカーブーツが好まれること、靱帯結合固定後のスクリュー抜去が必要かどうかについては決定的なエビデンスが存在しないこと、既往の足関節変形性関節症がこれらの術式の転帰不良の予測因子であり、その場合は距腿関節固定術が優先されること、安定損傷の患者の多くは損傷が治癒すれば良好または優秀な機能に復帰するものの、異所性骨化・靱帯結合の石灰化・線維性瘢痕に続発する前方インピンジメント症候群といった合併症を除外するため最低6か月は経過を追うべきとされること(この点はAmendolaらの報告として本総説が引用しているもの)、放置すると慢性疼痛・回復遅延・捻挫の反復・異所性骨化・足関節不安定症・変形性関節症に至りうること閲覧 2026-09-02
  3. 3.Classification and diagnosis of acute isolated syndesmotic injuries: ESSKA-AFAS consensus and guidelines(Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy・2016)1962〜2015年の文献を系統的に検索し分類に関する27編と診断法に関する13編を採用した結果として、ESSKA-AFASコンセンサスパネルが急性の孤立性遠位脛腓靱帯結合損傷を安定と不安定に分けることを推奨し、安定例は短下肢ギプスまたは装具による非手術治療、不安定例は手術治療で管理すべきとしたこと、推奨する臨床検査が前脛腓靱帯上の触診による圧痛・腓骨translation試験・Cotton試験であること、X線検査は靱帯結合の正面像とmortise像を含めて脛腓間clear space・medial clear spaceのoverlap・脛骨幅・腓骨幅を確認しなければならないこと、エビデンスレベルがIVであること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02