疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 循環器 · 疾患

閉塞性血栓血管炎(Buerger病)

Thromboangiitis obliterans

別名
閉塞性血栓血管炎Buerger病バージャー病TAO
臓器系
循環器
科目
PathologyCardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
病理学 B/40:動脈炎・静脈炎(血管炎)循環器内科 B-07:動脈疾患の疫学・危険因子・スクリーニング・予防・保存的治療:血管炎
鑑別疾患
末梢動脈疾患
関連疾患
血管炎(大血管炎・中血管炎・小血管炎)
治療薬
イロプロストシロスタゾール
症状
間欠性跛行跛行疼痛びらん・潰瘍レイノー現象四肢痛
画像所見
コークスクリュー側副血行
適応薬
イロプロストニコモール

🧠 全体像:()は、若年〜中年の喫煙者に生じる、の小〜中動脈(しばしば静脈も)を侵す非動脈硬化性の性疾患である。診断を決める検査は無く、喫煙歴+若年発症+遠位優位の閉塞パターン+動脈硬化危険因子の欠如という臨床像の組み合わせとで診断する。治療の柱はただ一つ、完全禁煙であり、これだけが疾患の進行そのものを止める。動脈硬化性の()と病態・危険因子・が根本的に異なるため、両者を混同しない。

病因と病態

本疾患は主に四肢の小〜中動脈・静脈を侵す、若年・男性に多い血管炎であり、その発症・進行・予後は機序不明のまま喫煙と強く結びついている1。喫煙(時にを含む製品全般)に対する血管の過敏反応が発症の中心にあり、・血管収縮・を介しての閉塞性血栓を形成すると考えられている。組織学的には、急性期は細胞成分に富む閉塞性の炎症性血栓(・・を含む)が主体で血管壁自体の炎症は軽度にとどまり、と中膜が保存される点が特徴で、これらの層が破壊されるとは対照的である2。後期には血栓が器質化・線維化し、ではの周囲にを形成する。

罹患は下肢だけでなく上肢にも及び得る遠位優位のパターンを取り、表在性のとがそれぞれ患者の約40%に合併する2。には著明な地域差があり、西欧諸国の患者中0.5〜5.6%にとどまるのに対し、インドでは45〜63%、韓国・日本では16〜66%、では80%に達するとされる2。

臨床像

診断

診断は単一の検査ではなく、臨床像の組み合わせと除外で確定する。代表的な2つの基準を次に示す。

項目 Shionoya基準 Olin基準
発症年齢 50歳未満 45歳未満
喫煙 喫煙歴 現在または最近の喫煙歴
病変分布 以下の閉塞+上肢病変または 非侵襲的検査で確認されたの虚血(・・・壊疽)
除外すべき背景 喫煙以外の動脈硬化危険因子が無いこと 自己免疫疾患・・糖尿病の除外
の除外 (上記に含む) 心エコーまたはによるの除外
画像所見 — 罹患肢・非罹患肢とも一致する所見

いずれの基準も、喫煙以外の動脈硬化危険因子(高血圧・糖尿病・など)が無いことと、・近位動脈原性の塞栓症を除外することを要件に含む2。

flowchart TD
    A["若年〜中年の喫煙者に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='distal extremities'>四肢遠位</span>の虚血症状"] --> B["非侵襲的検査で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral ischemia'>末梢虚血</span>を確認"]
    B --> C["自己免疫疾患・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombophilia'>血栓性素因</span>・糖尿病を除外"]
    C --> D["心エコー/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiography'>血管造影</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal embolic source'>近位塞栓源</span>を除外"]
    D --> E["喫煙以外の動脈硬化危険因子が無いことを確認"]
    E --> F["Shionoya基準またはOlin基準を満たすか判定"]
    F -->|"満たす"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thromboangiitis obliterans (Buerger disease)'>閉塞性血栓血管炎</span>と診断"]
    F -->|"満たさない・危険因子あり"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral artery disease, PAD'>末梢動脈疾患</span>など他の血管疾患を再検討"]

末梢動脈疾患との鑑別

⭐ 両者はが正反対に近いため、鑑別を誤ると危険因子是正だけに終始しを怠る、あるいはその逆が起こる。

項目 (動脈硬化性)
好発年齢 若年〜中年(50歳未満が典型) 中高年
主な危険因子 喫煙のみ 加齢・喫煙・高血圧・糖尿病・など多因子
罹患血管 小〜中動脈(±静脈)、遠位優位、 大〜中動脈、近位を含む広範な動脈硬化
病理 ・中膜が保存された閉塞性血栓 ()による・石灰化
上肢病変 しばしば合併する まれ
特徴的 通常みられない
、 びまん性・滑らかな狭窄、石灰化
完全禁煙(唯一) 危険因子是正・・

治療

⭐ 禁煙が治療の必須の第一歩であり、他のどの介入よりも優先される。12 壊疽に至る前に完全に喫煙をやめれば切断を回避できるが、喫煙を継続する患者は手指・の切断リスクを負い続ける2。や代替製品への曝露も避ける必要がある。

  • 薬物療法:はアスピリンよりの完全な緩和との治癒に優れ、切断リスクを減らす2。
  • :短期的な疼痛緩和や潰瘍治癒の促進が得られることがあるが、長期的な有効性は確認されていない2。
  • :遠位に吻合可能な血管が残る重症虚血例では、静脈を用いたを検討する2。病変が広範囲・遠位に及ぶため、動脈硬化性に比べての適応となる例は限られる。
  • 切断:禁煙が得られず壊疽が進行する例では、最終手段として・四肢の切断に至ることがある。

まとめ

  • ()は喫煙者の小〜中動静脈を侵す非動脈硬化性の性疾患で、・中膜は保存される。
  • 診断は単一検査ではなく、Shionoya基準(50歳未満)またはOlin基準(45歳未満)に沿った臨床像と、動脈硬化危険因子・自己免疫疾患・・の除外で確定する。
  • 遊走性表在性とが約40%に合併し、上肢病変も特徴的である。
  • (動脈硬化性)とは好発年齢・危険因子・罹患血管・病理・のいずれも異なり、混同しない。
  • 完全禁煙が唯一のであり、による症状緩和、限定的な、遠位吻合が可能な例でのを補助的に用いる。継続喫煙は切断リスクを直接高める。

出典

  1. 1.Thromboangiitis obliterans or Buerger's disease: challenges for the rheumatologist(Rheumatology・2007)バージャー病が若年・男性優位の患者に生じ、四肢の小〜中動脈および静脈を侵す血管炎であること、その発症・進行・予後が機序不明のまま喫煙と強く結びついていること、完全禁煙が治療の要(cornerstone)であることを確認した(抄録を確認。全文は未取得)。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Thromboangiitis obliterans (Buerger's disease)(Orphanet Journal of Rare Diseases・2006)Shionoya基準(喫煙歴・50歳未満での発症・膝窩動脈以下の閉塞・上肢病変または遊走性静脈炎・喫煙以外の動脈硬化危険因子の欠如の5項目)とOlin基準(45歳未満・現在または最近の喫煙歴・非侵襲的検査で確認された末梢虚血・自己免疫疾患や血栓性素因や糖尿病の除外・心エコーまたは血管造影による近位塞栓源の除外・罹患肢と非罹患肢で一致する血管造影所見の6項目)の内容、内弾性板と中膜が保存され全身性血管炎の破壊像と対照的であること、遠位優位(下肢・上肢とも)の分布、遊走性表在性静脈炎とレイノー現象が約40%に合併すること、有病率に著明な地域差があり西欧諸国の末梢動脈疾患患者中0.5〜5.6%にとどまるのに対しインドでは45〜63%、韓国・日本では16〜66%、アシュケナージ系ユダヤ人では80%に達すること、禁煙が治療の必須の第一歩であり禁煙により壊疽が無ければ切断を回避できること、イロプロストがアスピリンより疼痛緩和・治癒に優れ切断リスクを下げること、交感神経切除術は短期的な疼痛緩和にとどまり長期的有効性が確認されていないこと、自家静脈バイパスが遠位に吻合部位がある場合に考慮されることを確認した(全文閲覧)。閲覧 2026-09-02