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Disease Atlas · 皮膚 · 疾患

壊疽性膿皮症

Pyoderma gangrenosum

別名
PGpyoderma gangraenosum
臓器系
皮膚免疫・膠原病
科目
DermatologyInternal MedicinePediatrics
トピック
皮膚科 3-25:腫瘍随伴性皮膚症状内科学 G-03:炎症性腸疾患内科学 L-47:炎症性腸疾患小児科 53:炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎、Crohn病小児科 3-43:炎症性腸疾患
鑑別疾患
壊死性軟部組織感染症血管炎(大血管炎・中血管炎・小血管炎)
治療薬
プレドニゾロンシクロスポリンAタクロリムスインフリキシマブ
症状
びらん・潰瘍膿疱疼痛
原因となる疾患
クローン病関節リウマチ骨髄異形成症候群潰瘍性大腸炎

🧠 全体像という名前は誤解を招く——感染症でも壊死性疾患でもなく、好中球性の一つである。培養は陰性で、抗菌薬は効かない。最も重要な臨床上の落とし穴はpathergy(外傷部位に新たな病変が生じる現象)で、「壊疽」という名前に引きずられて感染や壊死組織を疑いや切断に踏み切ると、かえって病変が拡大・悪化しうる。診断は特異的なのないであり、・関節リウマチ・という3系統の背景疾患を必ず検索する。

病態

は、皮膚の自然免疫(好中球)が誘因なく過剰に活性化することで生じる好中球性の代表的疾患である。同じ好中球性のスペクトラムにはSweet症候群(急性熱性好中球性)があり、両者はしばしば同じ背景疾患()を共有し、まれに移行例・合併例も報告される。

・関節リウマチ・に伴う例では、これらの基礎疾患に共通する自然免疫の異常な活性化が皮膚でも顕在化したものと考えられている。まれにPSTPIP1遺伝子のによる自己炎症性症候群(PAPA症候群:)の一部として発症する家族例もあり、好中球の遊走・活性化を制御する経路の異常という共通の土台を示唆する。

flowchart TD
    A["自然免疫の調節異常<br>(IL-1・IL-17/IL-23経路の関与が想定される)"] --> B["好中球の異常な組織浸潤・活性化"]
    B --> C["表皮・真皮の急速な炎症性破壊"]
    C --> D["有痛性の潰瘍・膿疱として顕在化"]
    E["外傷・手術・注射などの些細な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織損傷</span>"] -->|"pathergy現象"| B
    F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory bowel disease, IBD'>炎症性腸疾患</span>・関節リウマチ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood dyscrasias'>血液疾患</span>"] -.->|"共通の免疫異常を背景に合併"| A

💡 感染ではないのに膿疱・排膿がある理由。 病変内には好中球が充満し臨床的には膿性に見えるが、培養は陰性である。感染症は「病原体への反応として好中球が集まる」のに対し、PGは「明確な誘因なく好中球そのものが暴走する」——この違いが、感染症の枠組み()がPGにはむしろ有害になりうる理由である。

臨床像

は無菌性の紅色丘疹・膿疱で、これが急速に拡大し、辺縁が堤防状に隆起し暗赤紫色を呈する有痛性の潰瘍へ進展する。で、しばしば膿性・壊死性の被覆を伴う。下腿(特に脛骨前面)に好発するが、どの部位にも生じうる。

特徴 主な背景
潰瘍型( 堤防状の暗赤紫色辺縁をもつ急速拡大する有痛性潰瘍 、関節リウマチ
水疱型(非典型) 表在性のがびらん化する、より浅い病変 (特に
膿疱型 多発する有痛性膿疱、発熱を伴うことがある に一致しやすい
増殖型(表在性腫性) 潰瘍が浅く境界明瞭、進行が緩徐 の合併が少なく、局所型として単独で生じやすい

pathergy現象(外傷部位に新たな病変が生じる、または既存病変が悪化する現象)は患者の20〜50%にみられ、些細な・静脈穿刺・手術創・部などが誘因になる。この現象こそが「切ってはいけない」という治療原則の根拠である。

背景疾患の検索

PGの約半数は基礎疾患を伴わない特発性だが、残り半数は次の3系統のいずれかを背景にもつため、初診時に必ず検索する。

診断

⚠️ PGを診断する特異的なは存在しない。臨床像・・経過を組み合わせたである。 生検は感染症・血管炎・悪性腫瘍などの他疾患を除外する目的で行い、PGを積極的に証明する所見(培養陰性、非特異的な)を確認する位置づけにとどまる。

⚠️ 生検・自体がpathergyを誘発しうる。 診断確定のための生検は潰瘍辺縁の小範囲にとどめ、広範な外科的処置は避ける。

として次を必ず除外する。

鑑別疾患 除外の手がかり
培養・グラム染色陽性、急速な全身性敗血症所見、画像でのガス像。PGは培養陰性で全身性敗血症像を伴わない
血管炎 、腎・肺病変などの他臓器所見、血清学的検査の異常
慢性の所見(浮腫、色素沈着)を伴い、辺縁は浅く境界不明瞭。PARACELSUS score(後述)で鑑別しうる
悪性腫瘍による皮膚潰瘍(皮膚転移、など) 生検で腫瘍細胞を確認
クモ咬傷などによる 曝露歴、の経過

⭐ 2018年に提唱されたPARACELSUS scoreは、(進行性の経過・関連するの除外・赤紫色の潰瘍辺縁)・への反応性・の辺縁・ 4/10超の激しい疼痛・pathergy現象)・追加基準(組織学的な、毛細血管様に浸食された辺縁、関連する)からなる点数化ツールで、赤紫色の辺縁はPG患者の98%にみられるであり、合計10点以上がPGをから鑑別する高い可能性を示す1

治療

⚠️ 積極的な・切断を行わない。 のPGで生存している炎症組織を積極的にした後に創が悪化したという複数の報告がある一方、壊死組織のみを対象とした保存的が創を悪化させるという証拠は認められておらず、保存的そのものは禁忌ではない2。「創が汚いから切除する」という感染症的な発想をそのまま持ち込まないことが要点である。

薬物治療

  • 限局した軽症例:外用または内副腎皮質ステロイド、)。
  • 中等症〜重症例:全身副腎皮質ステロイドまたはを第一選択とする。多施設(STOP GAPトライアル)では、0.75 mg/kg/日と 4 mg/kg/日の間で6週時点の治癒速度・6か月時点の治癒割合(いずれも約47%)に有意差はなく、副作用プロファイルと患者の希望に基づいて選択してよいことが示されている3
  • 難治例・合併例:などのを中心とした生物学的製剤が有効な選択肢となる。

創傷管理

湿潤環境を保つ非を用い、圧迫や摩擦を避ける。は保存的(壊死組織の除去にとどめる)に行い、を並行する。背景疾患(IBD、関節リウマチ、)が判明していれば、その治療強化がPGの制御にも寄与する。

まとめ

  • は感染症でも壊死性疾患でもない好中球性であり、名称に反して抗菌薬・積極的なは無効〜有害である。
  • pathergy現象(外傷部位への新病変の出現・既存病変の悪化)が20〜50%にみられ、「切ってはいけない」という治療原則の根拠になる。
  • 約半数は・関節リウマチ・のいずれかを背景にもち、初診時に必ず検索する。
  • 診断は特異的検査のないで、・血管炎・・悪性腫瘍を鑑別する。PARACELSUS scoreはとの鑑別を補助する。
  • 治療は保存的にとどめ、またはを第一選択とする(STOP GAPトライアルでは両者に有効性の差はなかった)。難治例・IBD合併例ではなどの生物学的製剤を検討する。

出典

  1. 1.The PARACELSUS score: a novel diagnostic tool for pyoderma gangrenosum(British Journal of Dermatology(Jockenhöfer F, Wollina U, Salva KA, Benson S, Dissemond J)・2019)PG60例と静脈性下腿潰瘍対照50例を用いた2施設の後方視的検討で、大基準(進行性の経過・関連する鑑別診断の除外・赤紫色の潰瘍辺縁)・小基準(免疫抑制薬への反応・不整形の潰瘍辺縁・VAS 4/10超の激しい疼痛・外傷部位への局在=pathergy現象)・追加基準(組織学的な化膿性炎症・毛細血管様に浸食された辺縁・関連する全身疾患)からなる点数化診断ツールを作成し、赤紫色の潰瘍辺縁がPG患者の98%にみられたこと、合計10点以上がPGを静脈性潰瘍から鑑別する高い可能性を示すことを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Wound Debridement in Pyoderma Gangrenosum(Advances in Skin & Wound Care(Taheri A, Mansoori P, Sharif M)・2024)2023年1月までのMEDLINE文献レビューで、活動期の壊疽性膿皮症で生存している炎症組織への積極的な外科的デブリードマンを行った後に創が悪化したとする複数の報告がある一方、壊死組織のみを対象とした保存的デブリードマンが創を悪化させるという証拠は活動期であっても認められず、保存的デブリードマンを禁忌とみなすべきではないと結論づけたことを確認した。閲覧 2026-08-11
  3. 3.Comparison of the two most commonly used treatments for pyoderma gangrenosum: results of the STOP GAP randomised controlled trial(BMJ(Ormerod AD, Thomas KS, Craig FE, et al.; UK Dermatology Clinical Trials Network)・2015)多施設観察者盲検無作為化比較試験で、プレドニゾロン(0.75 mg/kg/日)とシクロスポリン(4 mg/kg/日)の6週時点での潰瘍治癒速度に有意差はなく(補正後平均差0.003 cm²/日、95%信頼区間 -0.20〜0.21、P=0.97)、6か月時点の治癒割合もシクロスポリン群47%(28/59例)・プレドニゾロン群47%(25/53例)と同等であったことを確認した。閲覧 2026-08-11