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Disease Atlas · 運動器 · 症候群

足根洞症候群

Sinus tarsi syndrome

臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 32:足関節捻挫の診察・治療と足関節骨折の合併症解剖学 6.5:下肢:足関節と足
鑑別疾患
距骨下不安定症距骨骨軟骨損傷慢性足関節不安定症腓骨筋腱脱臼・断裂
症状
疼痛圧痛腫脹
元疾患
足関節捻挫
原因となる疾患
後脛骨筋腱機能不全

🧠 全体像:は、のあとの前下方が痛み続けるときに挙がる主要な鑑別である。足根洞はとのあいだの空間で、そこにある滑膜・・が病変の座になる。⭐ 実用の核はひとつ、足根洞へのの注入で痛みが消えるかどうか——これが痛みの発生源を足根洞に確定する唯一の手段に近い。⚠️ ただしこの「症候群」には臨床的にもX線学的にもが存在しない1。定義は「足根洞の外側の疼痛」というだけで、その背後には・瘢痕・靱帯損傷・・不安定症・腫瘍まで、互いに異なる病態が並んでいる2。「」で診断を終えず、その中身を探しにいくところまでが診療である。

定義 — 症候群であって疾患名ではない

は足根洞の外側の疼痛と定義され、後足部不安定の症状を含みうる。⚠️ この定義は広く非特異的で、現行の文献は明確な原因を解明できておらず、実体としての存在そのものを疑う著者もいる1。

最初の記載はO’Connorによる1958年のもので、既往の外傷の結果として足根洞領域の外側に生じる非特異的な疼痛と捉えられていた1。

⚠️ は存在しない。 これらの記載のいずれも明確な病因・機序を示さず、臨床的にもX線学的にもを示していない。したがっては病歴とに基づく臨床診断である1。⚠️ 「確立したを満たす」という書き方をしない。

⭐ 用語そのものが批判の対象になっている。 スコーピングレビューは、605編から31編を採用した検討でこの語が互いに異なる複数の病態を指して使われていることを指摘し、背景病態が多岐にわたるため特異的な画像所見と最適治療の同定が難しいとしている2。批判的総説の著者らも、可能な限りより正確な診断名を使うべきだと提案している1。

解剖 — 足根洞に何が入っているか

とのあいだには円錐状のがあり、後内側の狭いと前外側の広い足根洞から成る。長軸は後内側から前外側へ45°傾き、の寸法は高さ10〜15 mm・幅3〜5 mm・長さ15〜20 mmである1。

内容 役割
(ITCL) 主要な安定化構造。に関与する頻度が高いのひとつ1
(CL) 同じく主要な安定化構造
の3根 同上1
脂肪組織・、 炎症・線維化・瘢痕の座になる
動脈の吻合網 足根洞動脈。の動脈と吻合し体部の血流に関わる
、、の支配1

💡 足根洞は「隙間」ではなく感覚器である。 足根洞には豊富なと3種の(・Golgi様終末・)が認められ、この空間が単なるではなく足との運動に関する・の情報源であることが示されている1。ここが痛みの発生源になりうること、そして損傷後に「不安定な感じ」が残ることの両方が、この解剖から説明できる。

病因 — ひとつではない

提唱されてきた病因は次のように並ぶ1。

  • 滑膜の、軟部組織の
  • 足根洞の(・)の損傷、洞内の出血
  • の関節炎・、の慢性炎症(瘢痕・線維化)
  • 、、による外側
  • 障害によるの上昇

⭐ との関係は強いが、非の入口もある。 で管理された29例の検討では86%に外傷の既往があり、うち15例は損傷であった(この数値は総説が引用したもので総説自身の報告ではない)1。一方で、・・肥満・ダンサーや競技者といった繰り返す負荷からも生じうる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ankle joint'>足関節</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inversion sprain'>内反捻挫</span>または反復する後足部への負荷"] --> B["足根洞の靱帯損傷・出血"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hindfoot valgus'>外反後足部</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pes planus'>扁平足</span>による外側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='impingement'>インピンジメント</span>"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synovitis'>滑膜炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrofatty tissue'>線維脂肪組織</span>の慢性炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ECM deposition'>瘢痕形成</span>"]
    C --> D
    D --> E["足根洞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mechanoreceptor'>機械受容器</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free nerve ending'>自由神経終末</span>が刺激される"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral malleolus'>外果</span>前下方の持続する疼痛"]
    B --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='talus'>距骨</span>下の支持性の低下"]
    G --> H["足が急に崩れる感覚や足が返る感覚の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='awareness (subjective)'>自覚</span>"]

臨床像

⭐ 足根洞部の圧痛は全例にある。 の症状を訴える患者は全例が足根洞部の圧痛または疼痛を訴える1。触診点はの前下方で、ここに限局した圧痛がなければこの診断は成り立たない。

不安定の訴えも多い。⚠️ ()の不安定と下の不安定はが酷似するため区別が難しい1。では多くが足が急に崩れる感覚や足が返る感覚を訴え、不整地の歩行の困難、反復する疼痛と腫脹を伴う1。

診断

身体診察

⚠️ 病態特異的な徴候も特殊検査も存在しない1。したがって診察は「この診断を当てる」ためではなく、痛みの発生源と不安定の座を切り分けるために行う。

検査 見るもの
足根洞の触診 前下方の限局した圧痛。後足部をしながら触診するは強い臨床指標とされる1
20°での (ATFL)1
中間でのと (CFL)1
90°での 下の過度の弛緩1
・ 、、腓骨筋の働き

💡 同じ「」をを変えて3回行う意味。 ではATFL、ではCFL、90°では下——が変われば緊張するが変わるので、どので弛緩が出るかがそのまま損傷部位を指す。と足根洞由来の疼痛を切り分けるには、この使い分けが要る。

⭐ 診断的な局所麻酔薬の注入

足根洞へのまたはコルチゾンの注入による疼痛の軽減は、を強く示唆する1。が存在しないこの病態で、痛みの発生源を足根洞に帰属させられる数少ない手段であり、同じ注入がとしても用いられる1。

⚠️ 「注入で痛みが消えた」が示すのは発生源であって病因ではない。 なのか、なのか、なのかは、この検査では分からない。中身を決めるのは画像と、必要なら鏡視である。

画像

検査 役割
立位の正面・ 変形(とくに)の同定。・・両側比較を加える1
・ 面の描出1
の(開大)が7 mm超ならを疑う。⚠️ ただし偽陽性が多く実臨床ではほとんど用いられない1。⚠️ 本総説は「が7 mm超」と記すが、原典(Heilman 1990、10体)の7 mmは+を切離したときの「開大」の値であり(単独では5 mm)、の値ではない——二次文献の側で測定量が入れ替わっている
骨性病変(、、の延長、腫瘍)の第一選択。とも有用1
病変、、の・肥厚、瘢痕、、、軟骨病変を見る。⚠️ 足根洞痛の評価では感度は高いが特異度は不明1

⚠️ 画像所見だけで診断しない。 スコーピングレビューは、とが患者において非特異的な異常を示すにとどまり、背景にある病態の同定が難しいと述べている2。と比較した30足の前向き研究では、はのを過小評価し、感度44%・特異度60%であった(総説が引用した数値)1。

鑑別

疾患・病態 手がかり
giving way——足が急に崩れる感覚——の訴えは共通する。⚠️ 症状が酷似して区別が難しい1ので、を変えたでと下を分けて評価する。両者はしばしば併存する
荷重時のが主で、引っかかり・。は足根洞に限局しない
の病変・ の後方の疼痛と。の低下
若年からの後足部可動域制限。で骨性・線維性の連結
・ による外側。の原因側でもある
痛風・関節リウマチ・ 全身の状、発作性の経過
・の延長、腫瘍(など) X線・で骨性の異常。は腫瘍を疑う

治療

保存治療が基本

初期治療は足根洞への・ステロイド注入、、である1。は約3分の2の患者で奏功したと報告されている(総説が引用した数値)1。

背景病態が分かれば、それに沿って治療も分かれる1。

  • ・による外側:足根洞への力学的負荷を減らすことが目的で、・・から始め、無効ならへ進む。
  • :の強化、、後足部の。無効ならを検討する。

手術

画像で関節内病変が同定されず、保存治療で最低6か月疼痛が改善しない場合にを行う1。鏡視は診断と治療を同時に担い、・の、、変性性関節病変を直接確認できる。33例のではの88%・55%・の33%・24%・軟部組織21%が認められた(総説が引用した数値)1。ほかに開放的(最大90%が改善または症状消失)、終末枝の(13例中10例=77%が疼痛消失)が報告されている(いずれも総説が引用した数値)1。

⚠️ の見通しは慎重に伝える。 2013〜2018年にを受けた22例(年齢中央値28歳、追跡60か月)では、受傷前と同じ種目のスポーツへ復帰したのは55%(術後中央値23週)、何らかの種目・水準のスポーツへの復帰は95%(中央値12週)だったが、受傷前のパフォーマンス水準まで戻ったのは18%(中央値25週)にとどまった。合併症はなくは1件であった3。⭐ 「動けるようになる」ことと「元の水準に戻る」ことの差が大きい。

まとめ

  • は後にの前下方が痛み続けるときの主要な鑑別で、足根洞の・の慢性炎症・やの損傷・など複数の病態を含む。
  • ⚠️ 臨床的にもX線学的にもは存在せず、病歴とに基づく臨床診断である。 病態特異的な徴候も特殊検査もない。用語そのものが「複数の異なる病態を指す包括語」として批判されている。
  • 足根洞はとのあいだの円錐状トンネルで、・・の3根と脂肪組織・血管・神経を含む。豊富なと3種のがあり、との情報源になっている。
  • 全例に足根洞部の圧痛がある。足が急に崩れる感覚や足が返る感覚の、の困難を伴うが、の不安定と症状が酷似するため、を変えたでと下を分けて評価する。
  • ⭐ 足根洞への(またはコルチゾン)の注入で疼痛が軽減することが強く示唆的であり、診断と治療を兼ねる。ただし示すのは痛みの発生源であって病因ではない。
  • は感度は高いが特異度は不明で、の検出はに劣る。画像の非特異的な異常だけで診断しない。
  • 治療は注入・・から始め、背景病態(、)が分かればそれに沿って進める。約3分の2で保存治療が奏功する。
  • 画像で病変が同定されず保存治療が6か月無効なら。鏡視後、受傷前と同じ種目への復帰は約6割だが、受傷前のパフォーマンス水準まで戻るのは2割弱である。

出典

  1. 1.The Evolution of Sinus Tarsi Syndrome-What Is the Underlying Pathology?-A Critical Review(Journal of Clinical Medicine・2023)足根洞症候群が足根洞の外側開口部周囲の疼痛と定義され後足部不安定の症状を含みうること、この定義が広く非特異的で現行の文献は明確な原因を解明できておらず実体としての存在を疑う著者もいること、O'Connorが1958年に最初に記載し既往外傷の結果として足根洞領域外側に生じる非特異的疼痛と考えたこと、これらの論文のいずれも明確な病因・機序を示さず臨床的にもX線学的にも診断基準を示していないため足根洞症候群は病歴と身体診察に基づく臨床診断であること、足根管と足根洞が後内側の狭い足根管と前外側の広い足根洞から成る円錐状の骨間トンネルで長軸が後内側から前外側へ45°傾き寸法が高さ10〜15 mm・幅3〜5 mm・長さ15〜20 mmであること、内容が頸靱帯・骨間距踵靱帯・下伸筋支帯の3根という主要な安定化構造と脂肪組織・関節包・動脈の吻合網・神経線維であること、足根管と足根洞が脛骨神経ならびに深腓骨神経・浅腓骨神経に支配されること、Akiyamaらが足根洞に豊富な自由神経終末と3種の機械受容器(Pacini小体・Golgi様終末・Ruffini終末)を認め足根洞が関節腔であるだけでなく足と足関節の運動に関する侵害受容・固有感覚の情報源であることを示したこと、提唱されてきた病因が滑膜の嵌入・軟部組織インピンジメント・足根洞の靱帯損傷・洞内出血・距踵関節の関節炎や滑膜炎・線維脂肪組織の慢性炎症・後脛骨筋腱機能不全や外反後足部や副前外側距骨関節面による外側インピンジメント・静脈流出障害による洞内圧上昇であること、距骨下不安定に関与する頻度の高い靱帯が踵腓靱帯と骨間距踵靱帯であること、足根洞症候群の症状を訴える患者は全例が足根洞部の圧痛または疼痛を訴えること、足関節不安定と距骨下不安定は臨床症状が酷似するため区別が難しく後者では多くが足が急に崩れる感覚や足が返る感覚を訴え不整地歩行の困難・反復する疼痛と腫脹を伴うこと、診察では足関節中間背屈位での前方引き出しと内反ストレスで踵腓靱帯を・底屈20°での前方引き出しで前距腓靱帯を・90°での前方引き出しで距骨下の過度の弛緩を評価すること、病歴や身体所見に基づく病態特異的な徴候や特殊検査は現時点で存在しないこと、後足部を外がえししながら足根洞を触診する動的インピンジメント試験が上級著者にとって強い臨床指標であること、足根洞への局所麻酔薬またはコルチゾンの注入による疼痛の軽減が足根洞症候群を強く示唆し注入は治療手段としても用いられること、立位の正面・側面X線に加えmortise像・Saltzman像・両側比較が有用でありBroden像とHarris–Beath像が距踵関節面の描出に使えること、ストレス撮影で後距踵関節の「前方移動」が7 mmを超えると距骨下不安定を疑うが偽陽性が多く実臨床ではほとんど用いられないと本総説が記していること(⚠️ ただし本総説が参照する原典 Heilman 1990 が測っているのは前方移動ではなく開大であり、本総説の側で測定量が入れ替わっている)、骨性病変にはCTが第一選択で荷重位CTとSPECTも有用であること、MRIは足根洞痛の評価において感度は高いが特異度は不明であること、非手術治療(足根洞への局所麻酔薬・ステロイド注入、活動調整、理学療法)が初期治療であること、画像で関節内病変が同定されず保存治療で最低6か月疼痛が改善しない場合に距骨下鏡視を行うこと。⚠️ 次の数値はいずれも本総説自身の報告ではなく引用である。MRIの感度44%・特異度60%(関節鏡と比較した30足の前向き研究)、非手術治療が約3分の2で奏功したこと(Taillardら)、開放的足根洞除圧で最大90%が改善または症状消失したこと、深腓骨神経終末枝の除神経を行った13例中10例(77%)が疼痛消失したこと(Dellonら)、距骨下鏡視33例で骨間距踵靱帯の部分断裂88%・滑膜炎55%・頸靱帯の部分断裂33%・関節線維化24%・軟部組織インピンジメント21%を認めたこと(Leeら)、鏡視管理した29例の86%に外傷の既往がありうち15例が内反損傷であったこと(Oloffら)閲覧 2026-09-02
  2. 2.Current concepts in sinus tarsi syndrome: A scoping review(Foot and Ankle Surgery・2021)605編から選定基準を満たした31編を対象としたスコーピングレビューで、足根洞症候群という語が互いに異なる複数の病態を指して使われていること、MRIと関節造影は患者において非特異的な異常を示すにとどまり背景にある病態を同定することが難しいこと、背景病態が多岐にわたるため特異的な画像所見と最適な治療の同定が困難であり、より特異的な診断名を正当化する前に個々の病態に対する最適治療の研究と保存治療の有効性の検証が必要であること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  3. 3.Six out of ten patients with sinus tarsi syndrome returned to pre-injury type of sport after subtalar arthroscopy(Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy・2021)足根洞症候群に対して2013〜2018年に距骨下鏡視を受けた22例(年齢中央値28歳、追跡期間中央値60か月)の検討で、受傷前と同じ種目のスポーツへ復帰したのが55%(術後中央値23週)、何らかの種目・水準のスポーツへ復帰したのが95%(術後中央値12週)、受傷前のパフォーマンス水準まで復帰したのが18%(術後中央値25週)であったこと、安静時のNRSが1.0・歩行時2.0・走行時3.0・階段昇降時2.0であったこと、合併症はなく再手術は距骨下鏡視の再施行1件のみであったこと、エビデンスレベルがIVであること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02