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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

距骨下不安定症

Subtalar instability

別名
距骨下関節不安定症距踵関節不安定症距骨下不安定
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 32:足関節捻挫の診察・治療と足関節骨折の合併症解剖学 6.5:下肢:足関節と足
鑑別疾患
足根洞症候群慢性足関節不安定症
症状
疼痛圧痛腫脹
元疾患
足関節捻挫

🧠 全体像:⭐ 崩れているのはではなく、その1つ下のである。 の後に不安定が残るとき、多くはATFL・CFLによるの弛緩だが、⚠️ 同じ「足が崩れる」という訴えの一部はから来ている——も症状も大きく重なるためされやすく、見落とせば保存治療も手術も失敗する1。ただし⚠️ この診断名は今なお議論の的である。 1962年にRubinが記載してから半世紀以上を経て、近年ようやく独立した臨床実体と見なされるようになった段階にあり1、⚠️ 信頼できるが存在しない2。だからこの主題の要点は「どの検査で確定するか」ではなく、どういう手順で疑いを積み上げるかになる。

⚠️ 足根洞の疼痛そのものが主題ならを見る。 はの背景病態のひとつとして挙げられており、両者は重なるが同じものではない。

何が緩んでいるのか

は、下面と背側の前・中・後の3関節面からなる。と足根洞が後関節面を前・中関節面から隔てている1。

位置づけ
(ITCL) 。⭐ の中心的な回転軸に位置する1
(CL) 。足根洞を斜めに走り、とをつなぐ最も強い結合
(CFL) 。⭐ 外側でとの両方をまたぐ唯一の1

⭐ CFLがこの2つの関節を橋渡ししていることが、話を難しくしている根本である。 CFLは・でほぼ排他的に内転をし、ではATFLに助けられる。ATFLに次いで損傷頻度が高く、はATFLの2〜3.5倍ある1。⚠️ CFLが切れると3平面すべてで有意に弛緩が増す1——だから同じ1本のが、の不安定としてもの不安定としても現れうる。

原因として提唱されているのはCFL・CL・ITCLの慢性だが、⚠️ これらの単独損傷はまれで、他の靱帯損傷の併存が示唆されている1。近年の総説は、CLとITCLがの正常な運動と安定性に重要な機能を果たし、CFLとともに病態力学の中心にあるとする2。

実在するのか

系統的レビューが正面からこの問いを立てている。25研究(慢性16・下の急性損傷5・4)を検討し、を評価した12研究が、の異常に増大した可動性(7研究)または下の異常(6研究)に関連する不安定の訴えをもつ一群の存在を示した3。

⭐ は「実体はある。ただしが無い」である。 同レビューは、⚠️ によるのを支持する根拠は不十分で、にの地位を与えるべきではないとし、臨床診断はを含む複数の要素に依拠すべきだと述べている3。

診断

⚠️ 最良の評価法についての合意は存在しない1。そこで、疑いを段階的に積み上げる手順が推奨されている2。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ankle sprain'>足関節捻挫</span>後に不安定の訴えが遷延"] --> B["病歴:giving way、反復する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sprain'>捻挫</span>、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='walking on uneven ground'>不整地歩行</span>やスポーツでの悪化"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='physical examination'>身体診察</span>:足根洞の圧痛、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hindfoot varus'>後足部内反</span>の増大、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcaneus'>踵骨</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior translation'>前方移動</span>の増大"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='manual (by hand)'>徒手</span>ストレス試験(前外側引き出し・回旋ストレス・内側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='talus'>距骨</span>下グライド)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>:CFL・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical ligament'>頸靱帯</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interosseous talocalcaneal ligament'>骨間距踵靱帯</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior capsular ligament'>前関節包靱帯</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronal plane'>冠状断</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oblique coronal plane'>斜冠状断</span>で評価"]
    E --> F["手術を要する場合は術中評価で後関節面の開大と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ligament'>靱帯</span>を直視"]

提唱されている臨床基準

少数の研究者が、次の5項目のうち4つ以上を満たすことをとして提唱している1。

  1. 反復性の
  2. 足根洞の疼痛と圧痛
  3. 後足部の緩み、または giving way
  4. での後足部不安定
  5. およびBrodenでの(患側の10°超、または左右差5°超)

⚠️ ただしこの基準の正確性はまだ検証されていない1。孤立性のと、との合併例を見分けられるかどうかも未確認である。

徒手検査

⚠️ のはいくつかあるが、どれもを確実に診断することも、外側不安定症と区別することもできない1。

検査 陽性所見
で踵にを加える。の内方移動5 mm超、または下角の開大5°超12
後足部の前内方への移動と傾斜の増大。で感度100%・特異度67%1
下でを内側へ滑らせる。にを併せもつ一群を拾える1

画像

⚠️ どの画像も、外側不安定症とを確実には区別できない1。

  • :を45°のと組み合わせるとが描出でき、後関節面のが7 mm超ならを示す1。⚠️ この7 mmは「」の値であって「」の値ではない。 出所は10体の研究で、単独の切離で5 mm、の切離を加えて7 mmの開大が生じた4。⚠️ 二次文献のなかにはこれを「のが7 mm超」と書き換えているものがあるので、数値を引くときは原典の測り方まで戻る。⚠️ ただしはの後方部分しか見ないため、傾斜を過大に見せうる1。前方での距踵の4 mm以上も指標とされてきたが、病的な不安定との相関はなお不確実である1。
  • MRI:⭐ 現在最も有望な検査。 骨とを3次元で評価でき、合併損傷も見える2。⚠️ CFLは標準断面では評価しにくいので、をプロトコルに含める。 ・・にはとが最も有用である2。ではが薄く狭い(厚さ2.1 mm以下で感度・特異度とも66.7%、幅7.9 mm以下で感度80%・特異度76.2%)1。

治療

保存治療

⭐ の不安定と同じでよい、という点では合意がある2。を制限する、、と腓骨筋を中心とする筋力訓練を、急性例で6週間、慢性例で12〜16週間行う1。

の効き方には向き不向きがある。モデルでは、がCFL切離後の下を5°制限し、下回旋を健常足で30%、CFL切離後で36%、CFL・CL・ITCLの切離後で34%制限した1。⚠️ 一方で・に対してはできず、CFL・CL・ITCLが揃って損傷した重症例では、回旋不安定へのの効果が不安定への効果より小さい1。

手術

⚠️ 適切な保存治療を最低3〜6か月行って無効な場合にのみ考慮する1。⚠️ 記載されている術式のいずれも、の本来の接触力学や後足部の運動様式を回復させてはいない1。

  • 合併不安定例:⭐ CFLの再建が下の弛緩を戻すのに決定的である1。CFL再建の閾値は低くしてよい2。
  • 孤立性の下弛緩:ITCL・CFL・CLを対象とするが推奨される。非(Elmslie・Watson-Jones・Evans・Chrisman-Snook・Larsenなどの)より優れるとされる1。
  • 複雑例:下そのものの再建も考慮する2。

鑑別

鑑別 分ける手掛かり
壊れているのは(ATFL主体)。⚠️ 症状は酷似し、しばしば併存する。 CFLは両方をまたぐため、CFLは両者の共通項になる
足根洞外側開口部の疼痛という症候名。はその背景病態のひとつとして挙げられる
急性期の病態。はその後に残る慢性の状態

まとめ

  • はの不安定で、外側()の不安定症とも症状も重なるためされやすい。見落とすと保存治療も手術も失敗する。
  • (ITCL)・(CL)・(CFL)が関与する。CFLはとの両方をまたぐ唯一の外側で、切れると3平面すべてで弛緩が増す。
  • ⚠️ 信頼できるは存在しない。系統的レビューは実体の存在を支持しつつ、をにすべきでないとし、を含む複数の要素に依拠する診断を勧めている。
  • 提唱されている臨床基準は5項目中4つ以上(反復性・足根洞の疼痛と圧痛・後足部の緩み・診察での後足部不安定・での10°超または左右差5°超)だが、正確性は未検証である。
  • 保存治療は外側靱帯損傷と同様で、急性例6週間・慢性例12〜16週間。はは制限できるが回旋には効きにくい。
  • 手術は保存治療3〜6か月無効の場合に限る。合併例ではCFL再建が決定的で、孤立例では ITCL・CFL・CL のが非解剖学的より推奨される。

出典

  1. 1.Current Concepts on Subtalar Instability(Orthopaedic Journal of Sports Medicine・2021)距骨下不安定症が1962年にRubinによって初めて記載されながら今なお議論の的であり、近年になってようやく独立した臨床実体と見なされるようになったこと、足関節外側不安定症と受傷機転も症状も大きく重なるため誤診されやすく見落とすと保存治療・手術治療の失敗につながること、提唱されている原因が踵腓靱帯(CFL)・頸靱帯(CL)・骨間距踵靱帯(ITCL)の慢性断裂でありこれらの単独損傷はまれで他の靱帯損傷の併存が示唆されること、距骨下関節が距骨下面と踵骨背側の前・中・後関節面から成り足根管と足根洞が後関節面を前・中関節面から隔てること、ITCLが距骨下関節の中心的な回転軸に位置すること、CFLが足関節外側で距腿関節と距骨下関節の両方をまたぐ唯一の靱帯であること、CFLが足関節中間位および背屈位でほぼ排他的に内転を制動し底屈位ではATFLに助けられること、CFLがATFLに次いで損傷頻度の高い外側靱帯でありその破断荷重がATFLの2〜3.5倍であること、CFLの断裂が3平面すべてで有意な弛緩の増大をもたらすこと、距骨下不安定症の評価法について最良の方法の合意が存在しないこと、少数の研究者が5つの臨床基準(①反復性足関節捻挫、②足根洞の疼痛と圧痛、③後足部の緩みまたはgiving way、④身体診察での後足部不安定、⑤足関節およびBroden内反ストレス撮影での距骨下不安定=患側距骨下傾斜10°超または左右差5°超)のうち4つ以上を満たすことを診断基準として提唱しているがその正確性の検証はまだ必要であること、距骨下関節を評価する徒手検査はいくつかあるがいずれも距骨下不安定症を確実に診断することも足関節外側不安定症と区別することもできないこと、Thermannらが1997年に回旋ストレス試験を報告し距骨下不安定症では踵骨の内方移動5 mm超または距骨下角の開大5°超を認めたとしたこと、前外側引き出し試験が屍体研究で感度100%・特異度67%であったこと、いずれの画像モダリティも足関節外側不安定症と距骨下不安定症を確実に区別できないこと、Broden像を45°のCTと組み合わせると後距踵関節面が描出でき距踵と距脛の不安定をよりよく区別できること、踵骨と距骨の後関節面の離開が7 mmを超えると距骨下不安定を示すこと、ただしBroden像は距骨下関節の後方部分しか見ないため傾斜を過大に見せうること、Katoが後足部の前方ストレス撮影で距踵の前方移動4 mm以上を距骨下不安定の指標としたが病的な距骨下不安定との相関はなお不確実であること、MRIが距骨下靱帯の構造的完全性を評価でき前関節包靱帯が距骨下不安定症では足関節外側不安定症や健常対照より薄く狭いこと(厚さ2.1 mm以下で感度・特異度とも66.7%、幅7.9 mm以下で感度80%・特異度76.2%)、保存治療が足関節外側靱帯損傷と同様で回外を制限する装具・足底挿板・固有感覚訓練と腓骨筋を中心とする筋力訓練を急性例で6週間・慢性例で12〜16週間行うこと、半硬性装具が屍体モデルでCFL切離後の距骨下内反を5°制限し距骨下回旋を健常足で30%・CFL切離後で36%・CFLとCLとITCLの切離後で34%制限したこと、⚠️ただし内旋・外旋トルクに対しては制動できずCFL・CL・ITCLが損傷した重症例では回旋不安定への装具の効果が内反不安定への効果より小さいこと、手術は適切な保存治療を最低3〜6か月行って無効な場合にのみ考慮すべきであること、記載されている術式のいずれも足関節の本来の接触力学や後足部の運動様式を回復させないこと、合併不安定例ではCFLの再建が距骨下の弛緩を戻すのに決定的であること、解剖学的再建・修復(ITCL・CFL・CLの再建)が非解剖学的再建より優れるとされ孤立性の距骨下弛緩には解剖学的再建が推奨されること、非解剖学的再建にElmslie・Watson-Jones・Evans・Chrisman-Snook・Larsenといった腱固定術があることを、Anatomy of the Subtalar Joint・Biomechanics・The Role of the CFL and ITCL・Diagnosis of Subtalar Instability・Clinical Evaluation・Imaging Evaluation・Nonsurgical Treatment・Surgical Treatment の各節で確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Role of the intrinsic subtalar ligaments in subtalar instability and consequences for clinical practice(Frontiers in Bioengineering and Biotechnology・2023)距骨下不安定症が急性外側足関節捻挫後の障害を残す合併症であり、内在性距骨下靱帯の安定性への相対的寄与がなお議論の的であること、距腿関節不安定症と臨床所見が重なることと信頼できる診断の基準検査が存在しないことから診断が難しく誤診と不適切な治療を招くこと、頸靱帯と骨間距踵靱帯が距骨下関節の正常な運動と安定性に重要な機能を果たし踵腓靱帯とともに距骨下不安定症の病態力学に重要な役割をもつと考えられること、診断は疑いを高めるための段階的な手順(病歴・臨床所見、MRIでの距骨下靱帯の異常、術中評価)で行うべきであること、病歴では不安定の自覚・反復する足関節捻挫・giving wayが最も多い症状で急性足関節捻挫の既往があり不整地の歩行やスポーツで症状が悪化すること、身体所見では足根洞の圧痛が内在性距骨下靱帯の関与を示唆する典型的所見であること、Thermannらの試験では踵骨の内方移動5 mm超と距踵角の開大5°超が陽性所見であること、系統的レビューがBrodenストレス撮影を用いる根拠を不十分としたこと、前方引き出し・回外撮影のほうが信頼性は高いが2次元評価であることと実施の難しさが限界であること、MRIが有望で骨と靱帯を3次元的に評価でき合併損傷も評価できること、CFLは標準断面での評価が難しいため慢性足関節不安定症のMRIプロトコルに斜冠状断を含めるべきであること、下伸筋支帯・頸靱帯・骨間距踵靱帯の評価には冠状断と斜冠状断が最も有用であること、術中評価が距骨下病変の同定に有用で後関節面の開大を回外運動時に評価する方法が意思決定に有用であったこと、保存治療は距腿関節不安定症と同様でよいという合意が既にあること、手術ではCFL再建の閾値を低くしたうえで複雑例では距骨下靱帯の再建も考慮すべきであることを、Abstract・Introduction・Consequences for clinical practice の各節で確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Does subtalar instability really exist? A systematic review(Foot and Ankle Surgery・2020)距骨下不安定症の臨床実体としての一貫性と診断法の信頼性を評価した系統的レビューで、25研究(慢性距骨下不安定16・距骨下靱帯の急性損傷5・足根洞症候群4)を同定し、距骨下不安定を評価した12研究が距骨下関節の異常に増大した可動性(7研究)または距骨下靱帯の異常(6研究)に関連する不安定の訴えをもつ一群の存在を示したこと、ストレス撮影による距骨下傾斜の計測を支持する根拠は不十分でありストレス撮影は慎重に解釈すべきで基準検査の地位を与えるべきでないこと、MRIが靱帯の異常を評価でき stress-MRI が異常に増大した可動性を検出したこと、臨床診断はMRIを含む複数の要素に依拠すべきであると結論していること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-03
  4. 4.An anatomic study of subtalar instability(Foot & Ankle・1990)距骨下不安定を生じるのに要する靱帯損傷を決め、それを描出する撮影法を定めるための屍体研究で、新鮮成人足関節10体を解剖し踵腓靱帯・関節包・距骨下関節の骨間靱帯を選択的に切離したこと、距骨下関節の開大(opening)を側面像とBroden像で記録したこと、踵腓靱帯単独の切離で距骨下関節に5 mmの開大が生じ、骨間靱帯の切離を加えると7 mmの開大が生じたこと、これが足部への底屈・回外負荷でも再現されたこと、足関節(距腿関節)の不安定=距骨傾斜は前距腓靱帯の追加断裂を伴う負荷でのみ生じたこと、距骨下不安定を考慮する場合には外側足関節不安定の手術に踵腓靱帯の修復または再建を含めるべきだと結論したことを抄録で確認した(全文は未取得)。⚠️ 7 mmは「開大(opening)=離開」の値であって、前方移動(anterior translation)の値ではない。閲覧 2026-09-04