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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

後脛骨筋腱機能不全

Posterior tibial tendon dysfunction

臓器系
運動器
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
解剖学 6.5:下肢:足関節と足解剖学 6.4:下肢:下腿
鑑別疾患
足根管症候群足根骨癒合症
合併症
変形性足関節症
続発疾患
足根洞症候群
症状
四肢痛圧痛腫脹

🧠 全体像:はを持ち上げる主要な動的支持機構である。⭐ この腱が伸びると内側アーチが落ち、後足部はし、は外転する——これが後天性の最多の原因にあたる1。診察の核は2つしかない。⚠️ 後ろから見て患側のが多く見える「too many toes 徴候」と、ができないこと。 治療は病期で分かれる。⚠️ 変形が可動性のうち(II期)はとで足を作り直せるが、変形が固定した(III期以降)なら関節固定になる1。⚠️ 呼び名は2020年に改まった。 国際的な合意グループは、本病態をProgressive Collapsing Foot Deformity(PCFD)と改名することを全会一致で可決している2。

後脛骨筋腱がしている仕事

は主として内側アーチの動的支持として働き、足をさせ、のを助ける1。

💡 「動的」という一語がこの疾患のすべてを決めている。 や骨形態が担うのは静的な支持で、伸びても短くならない。動的支持は筋腱ユニットなので、伸びれば張力が落ち、落ちればアーチが下がり、下がればさらに伸ばされる——一方向に進む悪循環になる。だから「」で止まらず、放置すれば変形へ進む。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior tibial tendon'>後脛骨筋腱</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tenosynovitis'>腱鞘炎</span>・変性"] --> B["腱が延長し長軸方向の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rupture (tear)'>断裂</span>が生じる"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medial longitudinal arch'>内側縦アーチ</span>を持ち上げる張力が低下"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medial longitudinal arch'>内側縦アーチ</span>の破綻"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcaneus'>踵骨</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eversion'>外反</span>する(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hindfoot valgus'>後足部外反</span>)"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='forefoot'>前足部</span>が外転し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='talonavicular joint'>距舟関節</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subluxation'>亜脱臼</span>する"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subfibular impingement'>腓骨下インピンジメント</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ankle joint'>足関節</span>外側にも疼痛"]
    E --> H["外側の足根洞が圧迫される"]
    F --> I["変形が固定し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='talus'>距骨</span>下・距舟・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcaneocuboid joint'>踵立方関節</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='degenerative change'>変性変化</span>"]
    I --> J["三角靱帯が破綻し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ankle joint'>足関節</span>そのものが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eversion'>外反</span>する"]

⭐ 痛みの場所が内側から外側へ移る。 初期は腱そのものの痛みなので内側だが、後足部がすると外側が挟まれる。⚠️ 「内側が痛かった患者が外側を痛がり出したら、良くなったのではなく進んだ」——による外側の疼痛は、一部の患者で最終的に生じる1。も、による外側として本症から生じうる。

臨床像と診察

  • 早期は足の内側と後方の疼痛・腫脹。長時間の立位と活動で増悪し、腱に沿う圧痛を伴う1。
  • 進行すると内側アーチが破綻し、を伴う変形になる。当初は可動性だが、には固定しを伴う1。

⭐ 診察の2本柱

所見 やり方と意味
too many toes 徴候 後ろから両足を見る。 とが組み合わさると、患側のが外側から余分に見える1
患側だけで踵を挙げさせる。⭐ 健常な腱では挙上時に後足部がする。 これが起こらない、あるいは挙上そのものができないことが腱の機能低下を示す1

💡 で後足部がする理由。 が働くと踵が内側へ返り、がロックして足が硬い梃子に変わる。この「ロック」が起きなければ踵は挙がらない。⚠️ 両脚での踵挙上では代償が効いてしまうので、必ず片脚で行う。

これらの徴候は1986年にFunkらがの記載をした際に明らかになったもので、とという古典的な外観と合わせて本症の入口になっている1。

Johnson-Strom の病期分類

1989年、JohnsonとStromは腱の状態・後足部の位置・変形の可動性に基づく3段階の分類を作った1。原著は、機能不全が一連の病期を経て進行し、各病期で疼痛症状・臨床徴候・X線学的変化が特徴的であること、この病期分けが予想されるとの個別化を可能にすることを述べている3。

I期 II期 III期
疼痛 内側の軽度 内側の中等度 内側と外側の高度(足根洞にも及ぶ)
腫脹・圧痛 軽度 中等度 腫脹は目立たないが圧痛は著明
軽度の筋力低下 著明な筋力低下 疼痛を伴い著明な筋力低下
too many toes 徴候 なし あり あり
変形 なし あり(可動性) あり(固定)
腱の病理 腱長は正常。paratendinitis・ 延長し長軸方向の多発 高度に延長・
画像 変化なし 、の それに加え下・距舟・の
治療 保存治療(安静・・・)を3か月。無効なら・・の修復 などの関節固定

出典はこの3期の内容を上のように整理している1。

⭐ 分類のは「変形があるか」と「その変形が動くか」の2つだけである。 I期とII期を分けるのが変形の有無、II期とIII期を分けるのが変形の可動性で、⚠️ この2つ目が治療を・と関節固定に分ける。 可動性の変形はとで作り直せるが、固定した変形は動かない関節を無理に動かすことになるので、固定して痛みを取るほうへ回る。

IV期

⚠️ IV期は一般に「Myersonの追加」とされるが、原著でJohnsonとStrom自身が言及していた1。彼らは後足部の固定したがのmortiseでのをもたらす段階に触れ、を提案していた。Myersonは三角靱帯機能不全を伴うのとして記載し、時に外側の()を伴うとし、type A(可動性の変形。と)とtype B(固定した変形。)に細分した1。

💡 IV期で壊れているのは足ではなくである。 後足部がしたまま固定すると、の負荷が上へ抜けて三角靱帯が伸びる。ここまで来ると足だけを直してものは残るため、三角靱帯の再建かを含む固定が要る。

⚠️ 分類そのものの限界と、2020年の改名

  • ⚠️ Johnson-Strom分類のとは検討されていない1。病期分けには病歴・・X線が要り、同じ患者を複数の観察者が評価することが現実的でないうえ、病態が時間とともに変化するため観察者内の測定もできない。
  • ⚠️ に注目するあまり、他の構造を見落とす。 (spring)・三角靱帯・・はいずれも変形に関与することが示されているが、この分類には入っていない1。
  • ⚠️ 変形は直線的にも不可避的にも進行しない。 同じ病期の中にも重要な変異がある1。2007年のBlumanらの分類はI〜IV期という背骨を保ったまま分類を加え、とくにII期を拡張した1。

⭐ 2020年、国際的な合意グループが呼称そのものを変えた。 歴史的な呼び名——、、、、——が混乱を招いており、しかもこれらの変形の多くはのを伴うが、すべてではない2。

投票
本病態をProgressive Collapsing Foot Deformity(PCFD)——さまざまな程度の・・を伴う複雑な3次元的変形——へ改名する 賛成100%(9/9)。全会一致の最強の合意
現行の分類体系は不完全あるいは時代遅れである 賛成100%(9/9)
所見を新しい分類体系に含めるべきである 賛成33%(3/9)。弱い否定的合意
所見を新しい分類体系に含めるべきである 賛成56%(5/9)。弱い合意
⭐ 新しい分類体系を提案し、変形の臨床的な病期づけと治療の決定に用いるべきである 賛成89%(8/9、棄権1)。強い合意

出典はこの投票結果を上のように報告している2。⚠️ はLevel V(合意・)である。 ⭐ 「どの呼称・どの分類で語っているか」を明示する——PCFDは病期の連鎖ではなく、5つの独立した変形要素とその可動性で記述する立場に立っており、Johnson-Stromの段階論とは記述の枠組みが違う。

鑑別

鑑別 決め手
後方の痛みは共通するが、足底のとが主で夜間に強い。⚠️ そのものがの誘因にもなるので併存しうる
前下方の限局した圧痛。⚠️ 本症の外側として二次的に生じることがある
の圧痛と朝の第一歩の痛み。アーチの破綻やを伴わない
先天性・の 若年からの両側性で、疼痛を欠くことが多い。⭐ 「後天性」を言うには、以前は正常なアーチだったことの確認が要る
神経筋疾患・外傷・による いずれもの原因になりうる。⚠️ は最も多い原因であって、唯一の原因ではない1
若年発症、後足部の可動域制限。で骨性・線維性の連結

治療の考え方

病期 方針
I期 保存治療(安静・・・)を3か月続ける。無効なら・・の修復1
II期(可動性) を続けるか、手術なら。を組み合わせて後足部のアライメントを直す1
III期(固定) 関節固定。など1
IV期 と、または1

⚠️ 病期に紐づいた術式は目安であって規則ではない。 保存治療の期間を3か月より長く取るもいれば、新しい固定法もあり、手術に適さない患者や手術を選ばない患者もいる。II〜IV期についても他に多数の有効な術式が提案されている1。

💡 時間が方針を決めるのではなく、可動性が決める。 「何年経ったか」ではなく「いま変形が的に矯正できるか」を毎回確かめる。可動性が残っているうちに介入できれば関節を残せる——この一点が、に価値がある理由である。

まとめ

  • はの主要な動的支持機構で、その機能不全は後天性の最多の原因である。ただし唯一の原因ではない。
  • 腱が伸びるとアーチが落ち、がしが外転する。痛みは内側から始まり、で外側へ広がる。を二次的に生じうる。
  • ⭐ 診察の核は too many toes 徴候(後ろから見て患側のが多く見える)と(健常な腱では挙上時に後足部がする)。両脚では代償されるので必ず片脚で行う。
  • Johnson-Strom分類は腱の状態・後足部の位置・変形の可動性で3期に分ける。I期は変形なし、II期は可動性の変形、III期は固定した変形。
  • ⚠️ 治療のはII期とIII期のあいだ。 II期まではと、III期以降は関節固定になる。
  • IV期は三角靱帯機能不全を伴うので、可動性なら+三関節固定、固定していれば汎固定。原著でも言及されていたが一般にはMyersonの追加とされる。
  • ⚠️ Johnson-Strom分類はもも検討されていない。 spring・三角靱帯・・を含んでおらず、変形は直線的に進行するとも限らない。
  • ⚠️ 2020年の国際合意で Progressive Collapsing Foot Deformity(PCFD)へ改名された(全会一致)。・・を伴う3次元的変形として記述する立場で、はLevel V。どの呼称・どの分類で語っているかを明示する。

出典

  1. 1.Classifications in Brief: Johnson and Strom Classification of Adult-acquired Flatfoot Deformity(Clinical Orthopaedics and Related Research・2016)成人後天性扁平足変形を、足関節と後足部の後内側の支持軟部組織の破綻を伴う内側縦アーチの破綻と特徴づけ、扁平足は関節症性・発達性・神経筋性・外傷性の病態にも起因しうるが後脛骨筋腱機能不全が最も多い原因であり続けているとしていること。後脛骨筋腱は主として内側アーチの動的支持として働き、足を内がえしさせ足関節の底屈を助けること。機能不全は早期には足の内側と内果後方の疼痛と腫脹として現れ、疼痛は長時間の立位と活動で増悪し通常は腱に沿う圧痛を伴うこと。進行すると内側アーチが破綻して後足部外反を伴う扁平足変形となり、当初は可動性だが進行期には固定し前足部外転を伴うようになること。片脚踵挙上試験は腱の機能を評価でき、後足部が内反位をとることが健常な腱を示すこと。一部の患者では腓骨下インピンジメントの結果として最終的に足関節外側の疼痛が生じること。1936年にKulowskiが後脛骨筋腱炎を初めて記載し、1986年にFunkらが後脛骨筋腱断裂に伴う徴候と症状を記載して、後足部外反と前足部外転という古典的な外観、too many toes徴候、後脛骨筋腱機能不全の指標としての片脚踵挙上の重要性が明らかになったこと。1989年にJohnsonとStromが、腱の状態・後足部の位置・変形の可動性に基づく3段階の分類を作ったこと。I期は内側の軽度の疼痛、後脛骨筋腱に沿う軽度の腫脹と圧痛、片脚踵挙上での軽度の筋力低下、too many toes徴候なし、変形なし、腱長は正常でparatendinitisと滑膜増殖を認め、画像に変化なし。治療は安静・抗炎症薬・アーチサポート・装具などの保存治療を3か月続け、改善がなければ腱鞘切除やデブリドマン、腱断裂の修復を考慮すること。II期は中等度の内側の疼痛、より顕著な腫脹と圧痛、腱の延長と長軸方向の多発断裂、片脚踵挙上での著明な筋力低下、too many toes徴候陽性、可動性の変形、立位X線で後足部に対する前足部外転と距舟関節の亜脱臼を認め、手術を選ぶ場合は長趾屈筋腱移行を行うこと。III期は内側に加えて足根洞など外側にも及ぶ高度の疼痛、腫脹はかえって目立たないが腱に沿う著明な圧痛、腱の高度の延長と断裂、片脚踵挙上が疼痛を伴い著明な筋力低下を示すこと、後足部外反と前足部外転が固定していること、II期の所見に加え距骨下関節・距舟関節・踵立方関節の変性性変化を認め、距骨下関節固定術などを行うこと。IV期については、JohnsonとStromが原著で後足部の固定した外反変形が足関節のmortiseにおける距骨の外側傾斜をもたらす段階に言及し脛距踵固定術を提案していたこと(一般にはMyersonの追加とされる)、Myersonは三角靱帯機能不全を伴う足関節の外反変形として記載し、時に脛距関節外側の関節症を伴うとし、可動性の足関節変形で三角靱帯再建と三関節固定術が可能なtype Aと、固定した変形で汎距骨固定術を要するtype Bに細分したこと。⚠️ JohnsonとStrom分類の妥当性と信頼性は検討されていないこと。本分類の主な限界は扁平足変形の解剖学的側面をすべて含んでいないことで、後脛骨筋腱の役割に注目するあまり、底側踵舟靱帯(spring靱帯)・三角靱帯・舟状楔状関節・足根中足関節の重要性を見落としていること、また同じ病期の中に重要な変異があり変形が必ずしも直線的・不可避的に進行するわけではないこと。2007年のBlumanらの分類はI〜IV期という背骨を保ちながら下位分類を加え、とくにII期を拡張したものであること。⚠️ 「米国で約500万人が罹患すると推定される」という数値は本総説自身の測定ではなく参照文献14の引用である。PMC(PMC4709320)の全文で確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Classification and Nomenclature: Progressive Collapsing Foot Deformity(Foot & Ankle International・2020)成人後天性扁平足変形(AAFD)の歴史的な呼称が混乱しており、後脛骨筋腱機能不全(PTTD)、成人可動性扁平足変形、後脛骨筋腱断裂、距骨周囲不安定・距骨周囲亜脱臼、進行性外反尖足など複数の名で呼ばれてきたこと。これらの変形の多くは後脛骨筋腱の断裂を伴うがすべてではなく、一部は中足部または足関節に一次的あるいは二次的な変形を伴うこと。分類体系の使い方にも同様の不一致があり、1989年のJohnsonとStromに始まり1997年にMyersonが修正して以来、より包括的な分類体系を作る試みが多数なされてきたが、これら新しい分類体系はいずれも検証されていないこと。合意グループは「Progressive Collapsing Foot Deformity(PCFD)」という呼称と新しい分類体系の採用を提案していること。合意声明1として「本病態を、さまざまな程度の後足部外反・前足部外転・中足部内反を伴う複雑な3次元的変形であるProgressive Collapsing Foot Deformityへ改名する」が9名中9名(100%)の賛成で全会一致の最強の合意として可決されたこと。合意声明2「現行の分類体系は不完全あるいは時代遅れである」も100%(9/9)で可決されたこと。合意声明3「MRI所見を新しい分類体系に含めるべきである」は賛成33%(3/9)・反対67%(6/9)の弱い否定的合意、合意声明4「荷重位CT所見を新しい分類体系に含めるべきである」は賛成56%(5/9)・反対44%(4/9)の弱い合意にとどまったこと。合意声明5「新しい分類体系を提案し、変形の臨床的な病期づけと治療の決定に用いるべきである」が賛成89%(8/9)・棄権11%(1/9)の強い合意で可決されたこと。エビデンス水準はLevel V(合意・専門家意見)であること(抄録および投票結果の掲載部分を閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Tibialis posterior tendon dysfunction(Clinical Orthopaedics and Related Research・1989)後脛骨筋腱の機能不全が一連の病期を経て進行すること、それぞれの病期について疼痛症状・臨床徴候・X線学的変化が特徴的であること、この病期分類が機能不全の明確化と個別化、予想される病理学的変化、外科的治療を可能にすることを述べている原著。正常な後足部機能における後脛骨筋腱の重要性と損傷時の治療が適切に評価されるようになってきたとしていること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)。閲覧 2026-09-02