疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 循環器 · 疾患

慢性静脈不全

Chronic venous insufficiency

別名
CVI
臓器系
循環器
科目
DermatologyCardiology
トピック
皮膚科 3-24:下肢静脈疾患・血栓後症候群循環器内科 B-10:慢性静脈不全の症状・身体診察・画像診断と治療
鑑別疾患
末梢動脈疾患
合併症
うっ滞性皮膚炎
続発疾患
丹毒・蜂窩織炎
治療薬
ペントキシフィリンドベシル酸カルシウム
症状
毛細血管拡張しびれ圧痛末梢浮腫腫脹掻痒浮腫疼痛皮膚の滲出・湿潤びらん・潰瘍
原因となる疾患
深部静脈血栓症

🧠 全体像は、の逆流またはの閉塞により歩行時にも静脈圧が下がらなくなる病態である。を高め、浮腫→という一方向の進行をたどる。重症度はのC0〜C6で表し、後のはCVIの代表的な一亜型である。診断の軸は、治療の軸はであり、圧迫を始める前に必ず動脈血流を確認する。

病態

下肢から心臓への血液還流は、による逆流防止、下腿によるの開存という3つの機構に依存する。の一次性変性(原発性)、DVT後の・残存閉塞(続発性)、まれに先天性の弁欠損のいずれかにより弁が機能しなくなると、歩行時にも静脈圧が十分に下がらないの状態になる。

が持続すると、毛細血管から蛋白・赤血球・白血球がへ漏出し、を介して毛細血管基底膜が障害される。これによりが低下し、局所の低酸素・慢性炎症・組織萎縮が進み、最終的にへ至る。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous valve incompetence'>静脈弁不全</span><br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep venous obstruction'>深部静脈閉塞</span>"] --> B["歩行時<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous hypertension'>静脈高血圧</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superficial vein'>表在静脈</span>拡張 → 静脈瘤"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased capillary permeability'>毛細血管透過性亢進</span>"]
    D --> E["蛋白・赤血球・白血球の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravasation'>血管外漏出</span>"]
    E --> F["毛細血管基底膜障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free radicals'>フリーラジカル</span>産生"]
    F --> G["浮腫+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial oxygen supply'>酸素供給</span>低下"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemosiderin deposition'>ヘモジデリン沈着</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stasis dermatitis'>うっ滞性皮膚炎</span>"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipodermatosclerosis'>脂肪皮膚硬化症</span>"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous ulcer'>静脈性潰瘍</span>"]

危険因子には加齢、女性、長時間立位を伴う職業、肥満、喫煙、妊娠、下肢外傷歴、そしてDVTの既往がある。

💡 CVIは単一疾患ではなく、「型(逆流)」「閉塞型」「機能低下型」という異なる機序が同じ→皮膚障害→潰瘍)に収束する症候群として捉えるとよい。

血栓後症候群(PTS)

PTSは、DVT後に生じた損傷・残存を原因とするCVIであり、DVT後のおよそ20〜50%に発症しうる。痛み、重だるさ、立位で増悪する浮腫、、皮膚変化を来し、重症例では潰瘍に至る点は他の原因によるCVIと共通する。

⭐ PTSの評価にはを用いる。症状(痛み、けいれん、重だるさ、)と他覚所見(脛骨前浮腫、皮膚硬化、色素沈着、発赤、圧痛)をそれぞれ点数化し、合計点でPTSの有無・重症度を判定する。

⚠️ DVT後のは、PTS予防だけを目的として全例に一律処方するものではない。無症候のDVT後患者にルーチンで着用させてもPTS発症率は減らないというエビデンス(SOX試験など)があるためである。一方で、既に生じている腫脹・疼痛などの症状緩和や、確立したPTS・CVIの管理には、として適切に使用する。

臨床像とCEAP分類

症状としては下肢・腫脹、疼痛・不快感、下肢のけいれん(cramp)、感、を訴える。他覚所見としては、赤血球分解産物であるの真皮沈着による黄褐色〜赤褐色の色素沈着、、浮腫、下腿の慢性炎症と線維化である、そしてを認める。

重症度は・病因(Etiology)・解剖学的部位(Anatomy)・病態生理(Pathophysiology)の4要素からなるで評価する。

臨床 class 所見
C0 視認・な静脈疾患の所見なし
C1
C2 静脈瘤(通常径3 mm以上)
C3 浮腫
C4a 色素沈着または
C4b または
C4c
C5 治癒した
C6 活動性

C分類に加えて、病因(Ep:原発性、Es:続発性〈DVT後など〉、Ec:先天性)、解剖(As:、Ad:、Ap:〈perforator〉)、病態生理(Pr:逆流、Po:閉塞、Pr,o:逆流と閉塞の合併)を組み合わせて記載する。たとえば「C6, Es, Ad, Pr,o」は、活動性潰瘍を伴う続発性(DVT後)の逆流・閉塞の合併を表す。

💡 C分類は重症度の指標にすぎず、実際の(どの静脈をどう処置するか)はで同定した逆流・閉塞の部位、潰瘍の有無、全身状態から個別に決定する。

皮膚所見のまとめ

所見 内容
下腿の紅斑、鱗屑、、滲出。を合併しやすい
周囲から下腿にかけての褐色色素沈着
に囲まれた白色瘢痕様局面。有痛性潰瘍の前後にみられる
皮下硬化と下腿遠位の細まりによるの外観
周囲・gaiter area(下腿遠位内側)に多い、浅くの潰瘍

下腿潰瘍の鑑別

の中で最も頻度が高いが、との鑑別、あるいはの評価がを左右する。

特徴
好発部位 周囲、下腿遠位 趾端、、踵など遠位 足底の
外観 浅く・滲出が多い 打ち抜き状、壊死、乾燥 に囲まれ深くなる
疼痛 挙上で軽くなることがある 挙上で悪化、下垂で軽減 で痛みが乏しいことがある
皮膚・脈 浮腫、色素沈着、静脈瘤、脈は通常触知可 、蒼白、毛・爪変化、脈拍低下 、足変形、脈は背景疾患による
治療の軸 、運動、創傷管理、静脈治療 評価。強い圧迫は禁忌となりうる 、感染管理、血糖・血流評価

⚠️ を開始する前には、脈拍触知やで動脈血流を必ず評価する。重度のを見落として強い圧迫を行うと、虚血を悪化させうる。糖尿病やではABIがとなることがあり、その場合はなどを追加する。

診断

では、仰臥位で下肢を挙上して(主に)を空にした後、大腿近位をで圧迫し、そのまま立位にしての充満様式を観察する。

結果 解釈
正常 立位でもが急速には充満しない
I型陽性 を巻いたまま立位にすると急速に充満=不全
II型陽性 を解除した瞬間に急速に充満=

が逆流・閉塞を評価する第一選択の検査であり、介入前の血管マッピングにも用いる。複雑例やで判定が不確定な例では、(MRV)で静脈解剖・逆流・閉塞をより詳細に描出する。は赤外線を用いてを非侵襲的に測定する補助的検査である。

flowchart TD
    A["下肢腫脹・皮膚変化・潰瘍でCVIを疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medical interview (history-taking)'>問診</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inspection'>視診</span>で危険因子とCEAP C分類を評価"]
    B --> C["脈拍・ABIで動脈血流を確認"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='color-flow duplex US'>デュプレックス超音波</span>で逆流・閉塞部位を同定"]
    D --> E["判定が不確定・複雑な解剖"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MR venography'>MR静脈造影</span>で追加評価"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>の決定へ"]

治療

保存療法が基本であり、などの、下腿を働かせる運動、減量、、長時間の立位や膝を深く曲げた座位の回避を組み合わせる。潰瘍がある場合は、湿潤環境の維持、適切な、滲出液管理、疼痛・栄養管理を並行して行う。感染の臨床徴候がない潰瘍へ一律に培養や抗菌薬を行うことはしない。

⚠️ 利尿薬はCVIそのものに一律に用いる治療ではない。心不全などを併存する場合に限って検討する。

薬物療法としては、が、特ににおいての補助として用いられることがある。

の逆流・閉塞が病態の主体である例や、保存療法に反応しない例、進行した静脈瘤・例では、で同定した逆流源に対する追加治療を検討する。

治療法 内容
レーザーまたはによる。低侵襲で外来対応が可能
(液体または)のにより静脈を閉塞させる
逆流のある本幹を外科的にする。が適さない例などで選択

まとめ

  • CVIはまたはによる歩行時が本態であり、浮腫→皮膚硬化→という進行をたどる。
  • 重症度は(C0〜C6、病因・解剖・病態生理を付記)で評価するが、実際の所見と全身状態から個別に決める。
  • はDVT後20〜50%に生じるCVIの代表的な一亜型で、で評価する。DVT後のはPTS予防目的の一律処方ではなく、症状緩和・既存PTSの管理に用いる。
  • を部位・外観・疼痛パターン・脈拍で鑑別し、の前に必ず動脈血流(ABIなど)を確認する。
  • 治療は・運動・創傷管理を基本とし、を潰瘍治療の補助に、逆流源が明確な例にはを組み合わせる。