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Disease Atlas · 皮膚 · 疾患

うっ滞性皮膚炎

Stasis dermatitis

別名
静脈うっ滞性皮膚炎Gravitational dermatitis
臓器系
皮膚循環器
科目
Dermatology
トピック
皮膚科 1-05:皮膚炎・湿疹群の臨床病型と治療皮膚科 3-24:下肢静脈疾患・血栓後症候群
鑑別疾患
丹毒・蜂窩織炎
合併症
接触皮膚炎
治療薬
トリアムシノロン
症状
瘙痒紅斑末梢浮腫
元疾患
慢性静脈不全

🧠 全体像は、によるが下腿の真皮に炎症を起こす、血管疾患が原因の皮膚炎である。両側性・慢性性・発熱を伴わないという特徴があるにもかかわらず、片側性の急性感染症である蜂窩織炎とされやすく、蜂窩織炎で入院した患者の約10〜30%が実は蜂窩織炎ではなく、その中で最も頻度が高い正しい診断がである。このは不要な入院・抗菌薬投与に直結する実務上の重大な落とし穴であり、治療の柱は抗菌薬ではなくである。

病態

により歩行時にも静脈圧が下がらないの状態が続くと、静脈還流の低下との低下がの炎症性を活性化する1。透過性が亢進した血管から赤血球がへ漏出し、マクロファージがこれを貪食してヘモグロビンを色素へ分解する過程で、真皮の慢性炎症と特徴的な褐色色素沈着が生じる1。この慢性炎症シグナルはの発現を誘導し、を介して・潰瘍へと進行しうる1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous valve incompetence'>静脈弁不全</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep venous obstruction'>深部静脈閉塞</span>"] --> B["歩行時<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous hypertension'>静脈高血圧</span>"]
    B --> C["毛細血管<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shear stress'>ずり応力</span>低下・炎症性シグナル活性化"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased vascular permeability'>血管透過性亢進</span>・赤血球の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravasation'>血管外漏出</span>"]
    D --> E["マクロファージがヘモグロビンを分解し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemosiderin'>ヘモジデリン</span>を産生"]
    E --> F["真皮の慢性炎症・褐色色素沈着"]
    F --> G["MMP<span class='jp-term jp-term-diagram' title='induction of gene expression'>発現誘導</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue remodeling'>組織リモデリング</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipodermatosclerosis'>脂肪皮膚硬化症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous ulcer'>静脈性潰瘍</span>へ進行しうる"]

💡 は独立した一次性皮膚疾患ではなく、という血管疾患が下腿の皮膚に及ぼす炎症性の帰結として理解する。同じCVIの進行経過(浮腫→)の一段階に位置づけられる。

臨床像

  • 下腿内側、特に周囲に好発し、紅斑・鱗屑・・滲出を呈する。
  • 両側性であることが多く、慢性の経過をたどる2
  • による黄褐色〜赤褐色の色素沈着、を伴う。
  • 進行すると(皮下硬化と下腿遠位の細まり)、さらにへ至りうる。

⚠️ 蜂窩織炎との誤診

⚠️ は蜂窩織炎とされやすく、これが臨床上最も重い落とし穴である。 蜂窩織炎として入院した患者の約10〜30%はであり、その中で最も頻度が高い正しい診断がである2

特徴 蜂窩織炎
分布 両側性であることが多い 通常は片側性
発熱・全身症状 伴わない 発熱・悪寒・頻脈を伴いうる
炎症反応(CRP・白血球) 正常のことが多い 上昇しうる
既往・背景 静脈瘤・の既往 外傷・皮膚バリア破綻の既往
皮膚所見 鱗屑・滲出・を伴う湿疹様変化 境界不明瞭な熱感を伴う紅斑・腫脹

⚠️ 両側性・発熱なし・炎症反応陰性という組み合わせを見たら、を積極的に疑い、不要な抗菌薬投与を避ける。このは不必要な入院・抗菌薬曝露に直結する2

治療

治療の柱はである。 によるは、静脈還流を改善し浮腫を抑制する目的で静脈疾患治療の中心に位置づけられる21

  • ・運動療法と組み合わせ、原因であるそのものに対処する。開始前には動脈血流の評価(脈拍触知・ABIなど)を行う。
  • などの中〜高力価製剤を、炎症・の緩和を目的としたとして用いる2。あくまで対症療法であり、原因であるそのものを治さない点に注意する。
  • 背景疾患の管理: は独立疾患ではないため、の評価・治療(での逆流・閉塞評価、必要に応じた)を並行する。

⚠️ 多くの患者が外用薬(特にラノリン・など)や圧迫材への感作からを続発しやすく、難治性の増悪をみたら新規外用薬・圧迫材へのの合併を疑う2

まとめ

  • によるが真皮に炎症を起こす状で、独立した一次性疾患ではない。
  • 病態は→炎症性シグナル活性化→赤血球→MMP誘導という経路をたどり、へ進行しうる。
  • 蜂窩織炎へのが最も重い実務上の落とし穴で、両側性・発熱なし・炎症反応陰性が鑑別の手がかりになる。
  • 治療の柱はであり、は炎症・を抑える補助的な位置づけにとどまる。
  • 難治例では外用薬・圧迫材へのの続発を疑う。

出典

  1. 1.Stasis Dermatitis: The Burden of Disease, Diagnosis, and Treatment(Dermatitis・2024)うっ滞性皮膚炎は下肢の炎症性皮膚疾患で慢性静脈不全(CVI)の皮膚症状であること。診断の課題節で、蜂窩織炎で入院した患者の約10〜30%が誤診されており、その中で最も多い正しい診断がうっ滞性皮膚炎であること、区別点として両側性であること・発熱を伴わないことなどを挙げていること。治療節で圧迫療法(弾性ストッキング・包帯)が静脈疾患治療の要(cornerstone)であること、中〜高力価の外用副腎皮質ステロイドとカルシニューリン阻害薬を炎症の軽減に用いること、多くの患者が外用薬・圧迫材への感作から接触皮膚炎を続発しやすいこと閲覧 2026-08-12
  2. 2.Stasis Dermatitis: Pathophysiology, Current Treatment Paradigms, and the Use of the Flavonoid Diosmin(Journal of Clinical and Aesthetic Dermatology・2024)病態生理節で、静脈圧上昇とずり応力の低下が炎症性シグナル伝達経路を活性化すること、静脈内皮の透過性亢進により赤血球が血管外漏出しマクロファージがヘモグロビンを分解してヘモジデリン色素を生じ色素沈着の原因になること、慢性的な炎症シグナルによりマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の発現が誘導され組織リモデリングが進むこと。治療節で圧迫療法など静脈還流の改善・浮腫抑制を目的とした治療が本症治療の中心(mainstay)であること、中〜高力価の外用副腎皮質ステロイドが疼痛・瘙痒の改善に有効なこと閲覧 2026-08-12