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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

弾発指

Trigger finger

別名
ばね指狭窄性屈筋腱鞘炎弾発母指
臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 21:手の軟部組織・腱損傷と手感染症解剖学 5.6:上肢:手関節と手
鑑別疾患
Dupuytren拘縮化膿性屈筋腱鞘炎
症状
疼痛圧痛拘縮腫脹

🧠 全体像:は「腱が太くなった病気」と説明されがちだが、という別名が示すとおり、事の中心は()というトンネルの側にある(ただし腫大した腱こそが主因とする立場もある)。が肥厚して狭くなり、その内側ののが変性して腱との摩擦が増える——そのな衝突の結果として腱に結節状の肥厚ができる1。⭐ この順序が分かると、なぜを切るだけで腱に触れずに治るのかが説明できる。臨床で最も紛らわしいのはだが、⭐ で伸ばせるかどうかという一手で大半は分かれる。

解剖——A1滑車がなぜ悪者になるのか

屈筋腱の滑らかな動きは、内側のと外側の()からなる安定化機構が支えている。は5本の(A1〜A5)と4本の(C1〜C4)からなる1。

  • ⭐ にあるが最も多く侵される。 A2より遠位のが侵されることはまれである1。⚠️ この総説はA2を、A3をのと記しているが、これは一般的な解剖と一致しない。 A2は上、A3は、A4は上、A5はに位置する。
  • 擦れと引っ掛かりの主体となるのは、のすぐ下を走るである。も関与しうる1。
  • 💡 母指に多い理由も力学で説明できる。 はへ入る角度が他指より大きく、この条件が同部位での狭窄性の頻度の高さに関係しうる1。
  • A1・A2の下の屈筋腱には血流に乏しいがあり、変性を来しやすい1。

病理

Drossosは患者から得た病的な104例との正常な55例を比較し、病的なではのが進行性に菲薄化・化し、に由来する血管網の過形成がこれに置き換わってのへ侵入していくことを観察した1。

⚠️ 「が本体か、腱が本体か」は完全には決着していない。 総説は、な衝突の結果として腱に結節ができるという順序を採る一方で、腫大した屈筋腱こそが主因と考える立場(とで20%以上の厚さの差を目安とする)も紹介している1。手術がの切開で成立するという事実は、少なくとも狭窄側が症状の律速であることを示している。

flowchart TD
    A["把持・強い屈曲・反復負荷"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='A1 pulley'>A1滑車</span>と屈筋腱の反復摩擦"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='A1 pulley'>A1滑車</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrocartilaginous gliding surface'>線維軟骨性滑走面</span>の変性<br>菲薄化・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fissure'>亀裂</span>化と血管過形成"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='A1 pulley'>A1滑車</span>の肥厚と狭小化"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic'>慢性的</span>な衝突による屈筋腱の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nodular thickening'>結節状肥厚</span>"]
    E --> F["狭くなったトンネルを結節が通過するときの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='snapping'>弾発</span>"]
    F --> G["指全体の低可動性"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metacarpophalangeal joint'>中手指節関節</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proximal interphalangeal joint'>近位指節間関節</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capsular contracture'>関節包の拘縮</span>"]

疫学と背景疾患

一般人口でのは約2%で、50〜60歳代の女性に最も多い。と母指に多いが、どの指にも起こりうる1。

⭐ 素因となるは糖尿病・関節リウマチ・・痛風・である1。

💡 とは背景疾患まで重なる。 糖尿病はの危険因子でもあり、⚠️ 同じ患者に両方が同時に存在しうる。「どちらか」ではなく「両方あるか」を診る。

臨床像と重症度

診断は主に病歴とによる1。

  • 部の疼痛やを訴え、把持や保持が障害される。
  • 手掌側を丁寧に触診すると結節状の肥厚が触れることがあり、の直接圧迫で疼痛が再現される1。
  • 屈曲でも伸展でも引っ掛かりを訴えうるが、⭐ 伸展のほうが通常より痛く、制限が強い1。
  • 重症例では指が屈曲位で固定し、伸展位へ戻すのに的で疼痛を伴う操作を要する1。

QuinnellがつくりGreenが改変したは、引っ掛かりを誰が解除できるかで段階を刻む1。

度 状態
1 疼痛・局所の浮腫・自動屈伸のわずかな障害が主体
2 屈曲の引っ掛かりが現れるが、患者自身が自動で解除できる
3 でしか解除できない
4 解除できず、指の固定したとなる

⚠️ 慢性期には二次的なが加わる。 指全体の低可動性に続発して、やにのが生じうる1。⭐ これが第4度で「でも伸びない」状態を作るので、との鑑別を「の可否」だけに頼れるのは第3度までである。

超音波

最も多い所見はのの肥厚で、の液体貯留・、屈筋腱のも一般的である。でをその場で確認できる1。

  • 厚の診断上のは0.62 mmで、感度・特異度とも85%、年齢・性・身長・に依存しなかったと報告されている1。
  • でののは、患者群の91%に対し対照群の0%であった。の所見は患者群の55%・対照群の0%1。

Dupuytren拘縮との鑑別

⭐ 見分けの核は「引っ掛かりが外れれば伸びるか」である。

病変の場 ()と屈筋腱 (腱は正常)
触れるもの 部の結節。腱とともに動く 指へ向かう索。に固定されている
伸展の妨げ 引っ掛かりが外れれば伸びる(第3度まで) 索そのものが短縮しておりでも伸びない
引っ掛かり・・疼痛 手が平らに置けない
好発指 ・母指 ・小指
経過 段階的に引っ掛かりが解除しにくくなる 索が固まり進行性にする

⚠️ 第4度のはでも伸びない。 このときは「があるからDupuytren」とは言えず、手掌に索があるか(Dupuytren)、部に腱とともに動く結節があるか()で分ける。

治療

段階的に上げていく。

1. 保存的治療

第一選択は、把持・強い屈曲・反復負荷を伴うの調整である。屈筋腱を柔らかくするマッサージ、、屈筋腱とのがリハビリテーションの基本原則になる1。・・のいずれかを固定するも併用され、屈筋腱の動きとその上を通るとの反復衝突を減らす1。

2. 腱鞘内ステロイド注射

Cochraneレビューでは、4週時点の治療成功がステロイド+で単独より有効であった(3.15、95%信頼区間1.34〜7.40、3)。有害事象・副作用の報告は無かった2。

⚠️ 根拠は見た目ほど強くない。 組み入れられたのは参加者63名の2件のみで、著者ら自身が方法論的質の低い小規模試験であると明記し、根拠の強さを高くないと格付けしている。効果の持続は、1件で4か月までであった2。

3. A1腱鞘切開

保存的治療で改善しなければ、経皮的またはにを切開する。14件・患者996名のでは、が直後・短期・中期のいずれのQuick-DASHでも有意に良好で(直後の24.94、95%信頼区間11.82〜38.06)、復職までの期間が平均12.82日短く、術後の使用期間が平均4.66日短かった3。

⭐ 著者らのは「どちらも有効」である。 はと同等の安全性を保ちながら機能回復が速く、日常生活への復帰が早く、の使用が少ない3。⚠️ 「経皮のほうが優れているから観血は不要」という読み方はしない。

まとめ

  • ()の本体はの肥厚と狭小化で、その内側のが変性する。腱のはな衝突の結果として生じる(ただし腱を主因とする立場もある)。
  • ⭐ のが最も多く侵される。 擦れの主体は。は約2%で50〜60歳代の女性に最も多く、と母指に多い。
  • 素因となるは糖尿病・関節リウマチ・・痛風・。
  • 重症度は引っ掛かりを誰が解除できるかで刻む(自動で解除→でのみ解除→解除できず固定した)。
  • ⭐ との分かれ目はの可否——は引っ掛かりが外れれば伸びる。⚠️ ただしこれが使えるのは第3度までで、二次的なを伴う第4度ではでも伸びない。そのときはか、腱とともに動く結節()かで分ける。
  • 治療は段階的に、①の調整・腱運動・、②(4週時点の治療成功で3.15、3。ただし根拠の強さは高くないと格付けされている)、③経皮的または。
  • とはいずれも有効で、は同等の安全性のもとで回復が速い。

出典

  1. 1.From diagnosis to rehabilitation of trigger finger: a narrative review(BMC Musculoskeletal Disorders・2024)弾発指の評価と非手術治療をまとめた総説(PMC11664832で全文を取得)。本総説の記述として、弾発指が狭窄性屈筋腱鞘炎とも呼ばれ、引っ掛かり現象・触知可能な結節の形成・屈筋腱またはその腱鞘に限局した肥厚を特徴とすること、屈曲でも伸展でも引っ掛かりを訴えうるが伸展のほうが通常より痛く制限されること。屈筋腱の滑らかな動きは内側の滑膜層と外側の支帯層(滑車系)からなる安定化機構によって保たれ、滑車系は5本の輪状滑車(A1〜A5)と4本の十字滑車(C1〜C4)からなること。環指と母指に多いがどの指にも起こりうること、中手指節関節にあるA1滑車が最も多く侵され、近位指節間関節のA2滑車と遠位指節間関節のA3滑車が侵されることはまれであること(本総説はA2を近位指節間関節・A3を遠位指節間関節の滑車と記すが、これは一般的な滑車解剖と一致しない)。一般人口での有病率は約2%で50〜60歳代の女性に最も多いこと。素因となる全身疾患は糖尿病・関節リウマチ・アミロイドーシス・痛風・甲状腺疾患であること。A1滑車の肥厚と狭小化は、その内側の線維軟骨性の滑走面の進行性の変性と、その下を走る腱との過剰な摩擦を伴うこと、この部位での慢性的な衝突が屈筋腱の結節状肥厚をもたらしうること、擦れと引っ掛かりの主体となる腱はA1滑車のすぐ下にある浅指屈筋腱だが深指屈筋腱も関与しうること。母指では長母指屈筋腱がA1滑車へ入る角度が他指より大きく、この力学的条件が同部位での狭窄性腱鞘炎の頻度の高さに関係しうること。HuestonとWilsonが腱と滑車の反復摩擦が腱の結節状肥厚をもたらしうることを示したこと(本総説が引用する報告)、A1・A2滑車の下の屈筋腱には血流に乏しい分水嶺領域があり変性を来しやすいこと。Drossosは弾発指患者から得た病的なA1滑車104例と屍体の正常なA1滑車55例を比較し、病的な滑車では無血管の線維軟骨性滑走面が進行性に菲薄化・亀裂化し、外層に由来する血管網の過形成がこれに置き換わって腱鞘の滑膜腔へ侵入していくことを観察したこと(本総説が引用する報告)。診断は主に病歴と臨床所見によること、中手指節関節部の疼痛やクリック感を訴え把持や保持が障害されること、手掌側の丁寧な触診で結節状の肥厚が触れることがありA1滑車の直接圧迫で疼痛が再現されること、重症例では指が屈曲位で固定し伸展位へ戻すのに他動的で疼痛を伴う操作を要すること、慢性期には指全体の低可動性に続発して中手指節関節や近位指節間関節に関節包の拘縮が生じうること。QuinnellがつくりGreenが改変した重症度分類は日常診療で広く使われ、初発時(第1度)は疼痛・局所の浮腫・指の自動屈伸のわずかな障害が主体で、次いで屈曲の引っ掛かりが現れて患者自身が自動で解除できる段階(第2度)と他動でしか解除できない段階(第3度)に進み、慢性期には解除できなくなって指の固定した屈曲拘縮となる(第4度)こと。超音波では低エコーのA1滑車の肥厚が最も多い所見で、腱鞘の液体貯留・滑膜肥厚、屈筋腱の結節状肥厚も一般的であること、動的走査で腱と滑車のあいだの弾発現象をその場で確認できること。Spirigらは2016年に滑車厚0.62 mmを弾発指と健常指を分ける診断上のカットオフと定め、感度・特異度とも85%で年齢・性・身長・BMIに依存しなかったこと(本総説が引用する報告)。Gueriniらは2008年に弾発指33例と健常者20例を比較し、パワードプラでのA1滑車の血流増加が患者群の91%・対照群の0%であったこと、腱鞘炎の所見は患者群の55%・対照群の0%であったこと(本総説が引用する報告)。Serafiniらは腫大した屈筋腱こそが弾発指の主因であると考え、健側と病側で20%以上の厚さの差を目安として示していること(本総説が引用する報告)。第一選択の保存的治療は把持・強い屈曲・反復負荷を伴う日常動作の調整であり、屈筋腱を柔らかくするマッサージ、腱の滑走運動、屈筋腱と関節包の他動的伸張がリハビリテーションの基本原則であること。装具は中手指節関節・近位指節間関節・遠位指節間関節のいずれかを単独で固定でき、力学的には屈筋腱の運動とその上を通る滑車との反復衝突を減らすこと。なお本総説は観血的および内視鏡的な手術治療を検討の対象としていないこと閲覧 2026-09-02
  2. 2.Corticosteroid injection for trigger finger in adults(Cochrane Database of Systematic Reviews・2009)成人の弾発指に対する腱鞘内ステロイド注射の有効性と安全性を、治療成功・引っ掛かりの頻度・患指の機能・疼痛の強さを評価項目として検討したCochraneレビュー。組み入れられたのは参加者63名の無作為化比較試験2件のみで、34名がステロイド+リドカイン、29名がリドカイン単独に割り付けられたこと。4週時点の治療成功はステロイド+リドカインがリドカイン単独より有効であったこと(相対危険度3.15、95%信頼区間1.34〜7.40)、治療必要数は3であったこと。有害事象・副作用の報告は無かったこと。ただし著者らは、有効性が方法論的質の低い小規模な無作為化比較試験2件でしか検討されていないと明記し、1件では効果が4か月まで持続したこと、根拠の強さをsilver levelと格付けしていること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  3. 3.Comparative effectiveness of open versus percutaneous release for trigger fingers: A systematic review and meta-analysis(Journal of Orthopaedic Science・2026)2025年8月11日までに発表された無作為化比較試験を対象に、弾発指に対する経皮的A1腱鞘切開と観血的手術を比較した系統的レビューとメタ解析。14件の無作為化比較試験・患者996名が組み入れられたこと。経皮的切開は直後(1週)のQuick-DASHで平均差24.94(95%信頼区間11.82〜38.06)、短期で平均差15.08(同10.25〜19.92)、中期で平均差7.27(同2.36〜12.19)と有意に良好であり、復職までの期間が平均12.82日短く(同10.00〜15.63)、術後鎮痛薬の使用期間が平均4.66日短かったこと(同1.77〜7.55)。著者らは、経皮的切開と観血的手術はいずれも弾発指の有効な治療であり、経皮的切開は観血的手術と同等の安全性を保ちながら機能回復が速く日常生活への復帰が早く鎮痛薬の使用が少ないと結論していること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02