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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

腸腰筋膿瘍

Iliopsoas abscess

別名
大腰筋膿瘍Psoas abscess
臓器系
運動器感染症
科目
AnatomyPathologyInternal Medicine
トピック
解剖学 3.2:腹部:筋と筋膜(腹壁)病理学 C/92:骨髄炎/Paget病内科学 L-54:急性腹症と腹痛の鑑別診断
関連疾患
クローン病急性腎盂腎炎・腎膿瘍急性虫垂炎憩室症・憩室炎骨髄炎
治療薬
バンコマイシンピペラシリンタゾバクタムメトロニダゾールイソニアジドリファンピシンピラジナミドエタンブトール
原因微生物
Staphylococcus aureusEscherichia coliMycobacterium tuberculosis
症状
冷膿瘍発熱腰背部痛股関節屈曲拘縮
検査値
C反応性蛋白(CRP)
元疾患
結核性脊椎炎

🧠 全体像は、という筋の解剖がそのまま感染の広がり方を決める疾患である。は胸の椎体外側から始まり後腹膜を縦に走ってまで達するため、椎体の感染(結核性など)はこのに沿って・大腿まで下降し流注膿瘍を形成しうる。もう一つの軸は原発性(血行性、多くはブドウ球菌)と続発性(隣接臓器からの直接波及、多くは腸内細菌)の区別で、後者の方が頻度は高い。診断の核心は「発熱・腰の三徴が揃うのは3割程度にとどまる」ため診断が遅れやすいことにあり、造影CTでの+抗菌薬という治療の骨格、そして結核性(に伴う)を忘れないことが実務上の要点になる。

解剖と病態

(Th12〜L5の椎体・から起始)とが合流してできる筋で、後を縦走しの下を通ってに停止する。この筋を包む筋膜(鞘)は椎体から大腿部近位まで連続しているため、後腹膜の(特に結核性)から漏れ出た膿がこの鞘に沿って方向へ下降し、・大腿部に膿瘍として現れる——これが古典的に「流注膿瘍」と呼ばれる現象である。

flowchart TD
    A["椎体・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intervertebral disc'>椎間板</span>の感染<br>(結核性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spondylitis'>椎体炎</span>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Pott disease'>Pott病</span>など)"] --> B["感染が後腹膜の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iliopsoas'>腸腰筋</span>鞘へ波及"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcolemma'>筋鞘</span>に沿って<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gravity'>重力</span>方向へ膿が下降"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='groin'>鼠径部</span>・大腿近位に流注膿瘍として出現"]
    E["Crohn病・虫垂炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diverticulitis'>憩室炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Perinephric abscess'>腎周囲膿瘍</span>など<br>隣接臓器の感染"] --> F["直接波及(続発性)"]
    G["遠隔<span class='jp-term jp-term-diagram' title='locus of infection'>感染巣</span>からの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hematogenous Spread'>血行性播種</span><br>(続発性でない=原発性)"] --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iliopsoas'>腸腰筋</span>内で膿瘍を形成(原発性)"]
    F --> H
    D --> H

病因:原発性と続発性

は感染源の由来で2つに大別され、続発性のほうが多数派である1

分類 機序 主な起因菌 背景
原発性 遠隔部位からの血行性・播種 *Staphylococcus aureus*が最多(42.9%)1 若年、糖尿病、免疫不全、など
続発性 隣接臓器からの直接波及(など) 腸管由来では*Escherichia coli*が最多(42.1%)で感染も多い1 基礎にある消化管・尿路・脊椎の感染症

⚠️ 結核性を忘れない。 地域によっては*Mycobacterium tuberculosis*が原因菌として最多を占める報告もある(あるコホートでは47.8%)2。結核性)に伴う経過が緩徐で「」と呼ばれる——発赤・熱感に乏しい膿瘍として現れ、治療はによる長期化学療法が中心となる点で化膿性のとはまったく異なる。

臨床像

⚠️ (発熱・腰)が揃うのは患者の30%程度にとどまる12。この非特異性のために診断が遅れやすいことが、の臨床上最大の問題である。

  • 発熱、鼡径部・大腿へのが主体だが、消化器症状や感のみで発症することもある。
  • (股関節を的に伸展させると疼痛が誘発される)が特徴的な診察所見である。は炎症を起こすと収縮位で疼痛が和らぐため、患者は股関節を屈曲位に保とうとし、股関節を来す。
  • 続発性では基礎疾患(消化器症状、尿路症状、の既往)の手がかりが診断の突破口になることがある。

診断

造影CTは広く用いられる画像診断法である。 内・筋膜下の低吸収域との造影増強、周囲脂肪織の濃度上昇として描出され、原因検索(椎体・消化管・尿路の評価)も同時に行える。CT・MRI・超音波はいずれも有用とされ、発症から6日以上経過すると感度がほぼ100%に達するとされる2。血液検査ではCRPなどの上昇がみられるが非特異的である。

治療

  1. +抗菌薬が第一選択である。画像下ドレナージは有効性・安全性に優れ、報告では成功率95%とされる2
  2. しない場合、腹腔内病変(穿孔性虫垂炎・など)に続発する場合、で複雑な膿瘍ではを選択する。
  3. 経験的抗菌薬は原発性・続発性で使い分ける。原発性では黄色ブドウ球菌を想定しバンコマイシンを中心に、続発性では腸内細菌・嫌気性菌を想定しメトロニダゾールを組み合わせるなど、想定病原体と重症度に応じて選択する。
  4. 原因の制御が不可欠である。続発性ではCrohn病・虫垂炎・など原疾患の治療なしに膿瘍だけを治療しても再発する。
  5. ⚠️ 結核性(に伴う)では治療がまったく異なる。 リファンピシンによる多剤化学療法を数か月にわたり継続するのが治療の中心で、ドレナージは神経症状・不安定性を伴う場合などに限られる。

まとめ

  • は胸からまで後腹膜を縦走する筋で、この解剖が感染の広がり(流注膿瘍)を決める。
  • 原発性(血行性、黄色ブドウ球菌が最多)と続発性(隣接臓器からの直接波及、腸内細菌が多い)に大別され、続発性のほうが多数派である。
  • (発熱・腰)が揃うのは3割程度にとどまり、診断が遅れやすい。と股関節が特徴的な所見。
  • 診断は造影CT・MRI等の画像検査を中心に行い、治療は+抗菌薬と原因疾患の制御が骨格である。
  • 結核性(に伴う)は経過が緩徐で、多剤化学療法という異なる治療を要するため見逃してはならない。

出典

  1. 1.A case report of iliopsoas abscess and literature review(Medicine (Baltimore)・2024)原発性腸腰筋膿瘍は遠隔部位からの血行性・リンパ行性播種で*Staphylococcus aureus*が最多(42.9%)であること、続発性は隣接臓器(Crohn病・憩室炎・虫垂炎・椎体炎など)からの直接波及で腸管由来菌では*Escherichia coli*が最多(42.1%)であること、続発性のほうが多数派であること(Introduction・Discussion節、Table 1・2)、古典的三徴(発熱・腰背部痛・跛行)が揃うのは患者の30%にとどまること(Introduction・Discussion節)、治療は経皮的ドレナージと抗菌薬が中心で標準化されたプロトコルは確立していないこと(Discussion節)を確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Clinical presentation, etiology, management, and outcomes of iliopsoas abscess from a tertiary care center in South India(Journal of Family Medicine and Primary Care・2017)43例のコホートで原因菌が同定された20例中、結核菌が47.8%と最多であったこと(Results節、Table 2)、古典的三徴(発熱・腰背部痛・跛行)が揃うのは30%未満にとどまること(Discussion節)、CT・MRIは発症6日後には感度100%に達すること(Results節)、経皮的ドレナージ(46.5%、成功率95%)が外科的ドレナージ(4%)より第一選択として選ばれていたこと(Results・Discussion節)を確認した。閲覧 2026-08-11