組織病理学

組織病理学 · H2-071B

成熟奇形腫(HE染色)

Teratoma adultum (HE)

描出疾患
精巣腫瘍

🧠 全体像:は、をもつ生殖細胞から外胚葉・中胚葉・内胚葉系の成熟組織が形成された腫瘍である。「成熟」という組織像と「良性」という臨床挙動は同義ではなく、特に精巣では思春期前型と思春期後型を分けて考える。

組織構成

胚葉 認めうる成熟組織
外胚葉 、、神経組織
中胚葉 成熟軟骨、平滑筋、、脂肪組織
内胚葉 結腸様上皮、気管支上皮、漿液腺・粘液腺

すべてが必須なのではなく、正常とは異なる配列で複数種類の成熟体細胞組織が混在することが診断の軸となる。単一の組織型だけからと判断しない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='multipotent'>多分化能</span>をもつ生殖細胞"] --> B["体細胞系への分化"]
    B --> C["外胚葉系組織"]
    B --> D["中胚葉系組織"]
    B --> E["内胚葉系組織"]
    C --> F["成熟組織の混在"]
    D --> F
    E --> F
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mature teratoma'>成熟奇形腫</span>"]

精巣奇形腫の二つの経路

特徴 思春期前型 思春期後型
通常伴わない しばしば伴う
12p異常 通常認めない 典型的に認めうる1
細胞異型・壊死 通常目立たない 成熟組織のみでも悪性挙動をとりうる
臨床的な扱い 完全切除で良好なことが多い 悪性として病期評価する

思春期後型では、成熟した軟骨・腺・上皮だけから構成されていてもを否定できない。逆に小児の思春期前型は、や12p異常を背景としない別経路の腫瘍である2。

💡 12p増加は「あれば」だが「無ければ違う」とは言えない。 12p増加は男性のの約73%に存在し、と他の・肉腫を分ける感度77.2%・特異度97.3%である1。特異度が高い一方で感度は8割に届かないので、12p増加が検出されなかったことだけを根拠に思春期前型と決めない。

⚠️ 「思春期後」は患者の年齢ではなく腫瘍の型を指す。 2016分類は年齢ではなく発生機序で分けており、思春期後の精巣にもまれに良性の思春期前型が存在すると明記している。年齢だけを根拠に「思春期後に見つかったはすべて悪性」と読み替えない2。

体細胞型悪性腫瘍

内に肉腫、腺癌、扁平上皮癌などの明確な悪性体細胞成分が生じることがある。単なる成熟組織の多様性とは区別し、悪性成分の組織型と広がりを別に記載する。の未熟性そのものは予後的意義が示されておらず記載は必須とされないのに対し、体細胞型悪性腫瘍の過増殖はより侵襲的な挙動を示すため報告すべきとされる——両者の重みは同じではない2。

💡 体細胞型悪性腫瘍は数%だが、見つかると予後が変わる。 のうち体細胞型悪性腫瘍を伴うのは約2.7〜8.6%で、121例の内訳は肉腫59例・癌31例・肉腫様17例だった。の診断時点で判明したのは32例だけで、遅れて判明した例では診断からのが33か月(癌では108か月)に及ぶ。5年癌特異的は64%と通常のより不良で、で確立した予後因子(病期・リスク分類・組織型)は予測力を失う3。

鑑別 判断の手掛かり
など胎児性・胚性組織を含む
、、、などを併存
体細胞型悪性腫瘍を伴う 癌・肉腫として明確な悪性成分が内に発生
その臓器に本来ある成熟組織が配列異常を示す

読み方

  1. 上皮性・間葉性の構成組織を系統的に列挙する。
  2. 各成分が成熟しているか、未熟成分がないかを確認する。
  3. 他の成分と体細胞型悪性腫瘍を検索する。
  4. 年齢、発生部位、、病期と統合する。

小児精巣の背景では、未成熟なが主体に見える。これは年齢相応の背景組織であり、それ自体を成分や悪性所見とみなさない。

としての診断・病期・治療は、成熟組織の詳しい見分け方はで復習する。

まとめ

  • は、複数の成熟体細胞組織が異所性に混在する生殖細胞腫瘍である。
  • 組織学的成熟と臨床的良性を同一視しない。
  • 思春期前型と思春期後型では、・12p異常・臨床挙動が異なる。
  • 他の成分と体細胞型悪性腫瘍の有無を必ず評価する。

出典

  1. 1.Assessment of isochromosome 12p and 12p abnormalities in germ cell tumors using fluorescence in situ hybridization, single-nucleotide polymorphism arrays, and next-generation sequencing/mate-pair sequencing(Human Pathology・2021)12p増加は男性胚細胞腫瘍の約73%・女性胚細胞腫瘍の約32%に存在すると推定されること、TCGAの精巣胚細胞腫瘍149例を肉腫・大腸癌・前立腺癌・尿路上皮癌1,754例と比較すると12p増加の胚細胞腫瘍に対する感度は77.2%・特異度は97.3%であること、臨床検体536件のFISHでは12番染色体のポリソミーが単独3%・i(12p)併存35%にみられたこと、FISHはi(12p)とポリソミーを区別でき少数細胞でも判定できる一方、プローブ設計上セグメント単位の増加を捉えられず偽陰性が生じうることを確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.The World Health Organization 2016 classification of testicular germ cell tumours: a review and update from the International Society of Urological Pathology Testis Consultation Panel(Histopathology(Williamson SR, Delahunt B, Magi-Galluzzi C, et al., ISUP Testicular Tumour Panel)・2017)WHO 2016分類が精巣胚細胞腫瘍を発生機序で組み替え、前駆病変をgerm cell neoplasia in situ(GCNIS)と名づけたうえでGCNIS由来の思春期後型(postpubertal-type)腫瘍とGCNIS非由来の思春期前型(prepubertal-type)腫瘍を区別したこと、思春期後の精巣にもまれに良性の思春期前型奇形腫が存在することを認めたこと、奇形腫の未熟性の記載は予後的意義が示されていないため必須とされない一方、奇形腫成分から発生した体細胞型悪性腫瘍(somatic-type malignancy)の過増殖はより侵襲的な挙動を示すため報告すべきであることを確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.Management of germ cell tumors with somatic type malignancy: pathological features, prognostic factors and survival outcomes(The Journal of Urology・2014)体細胞型悪性腫瘍を伴う胚細胞腫瘍は胚細胞腫瘍全体の約2.7〜8.6%に生じるまれな病態であること、単一施設121例の組織型内訳は肉腫59例・癌31例・肉腫様卵黄嚢腫瘍17例で、胚細胞腫瘍診断時に体細胞型悪性腫瘍が判明したのは32例にとどまり、遅れて判明した例では胚細胞腫瘍診断からの期間中央値が33か月(癌では108か月)であったこと、追跡中央値71か月での5年癌特異的生存率は64%と通常の胚細胞腫瘍より不良で、胚細胞腫瘍で確立した予後因子が予測力を失うこと、肉腫・肉腫様卵黄嚢腫瘍では組織学的グレードが重要な予後因子であることを確認した閲覧 2026-08-24