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Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 症候群

骨盤うっ血症候群

Pelvic congestion syndrome

別名
PCS
臓器系
生殖・産婦人科循環器
科目
Obstetrics and Gynecology (Gynecology)Cardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
婦人科 32:骨盤痛循環器内科 B-18:静脈疾患に対する血管内治療
鑑別疾患
過敏性腸症候群間質性膀胱炎骨盤内炎症性疾患子宮内膜症・子宮腺筋症
関連疾患
May-Thurner症候群
治療薬
メドロキシプロゲステロン酢酸エステルゴセレリンダナゾール
症状
慢性骨盤痛性交痛月経困難症

🧠 全体像:は、・骨盤静脈の逆流によってを来す病態である。核心は2つ——①「立つと悪化し、横になると楽になる」というが唯一の臨床的なであること、②画像で骨盤静脈が拡張していても、それだけでは診断にならないことである。無症候の女性にも骨盤静脈の拡張は珍しくなく、「静脈が太い=痛みの原因」と短絡すると、本当の原因を見落としたまま塞栓術に進むことになる。

用語:歴史的な症候群名から骨盤静脈疾患へ

⚠️ この主題は用語が動いている最中である。 米国静脈リンパ学会が招集した国際多分野パネルは、を「骨盤の静脈(・とその分枝・)とその主要な流出路(・・骨盤の)に由来する症状・徴候の総体」と定義し、そこにはMay–Thurner症候群・・として歴史的に呼ばれてきた症状が含まれるとした。そのうえで「これらの歴史的用語は不正確で相互に重複するため今後は用いるべきでない」と明記している1。

置き換えとして提案されたのがで、症状(S)・静脈瘤(V)・病態生理(P:解剖・血行動態・)の3領域で患者を記述する。・・May–Thurner症候群は、それぞれ別個の疾患ではなく同じ骨盤静脈系の異なる部位・異なる血行動態の表現として同じ枠組みに収まる1。本ノートでは学習上の便宜から従来の疾患名で記述するが、「この3つは別々の病気だ」という理解のまま止まらないことが重要である。

⭐ 2026年のSIR実務指針は、用語をさらに一歩進めた。 「(VO-CPP)が、を伴うを指す用語としてに優先する推奨用語である」と明記している。VO-CPPは静脈逆流または流出路閉塞によるに由来し、多くの例で子宮周囲・卵巣周囲の静脈瘤として画像に現れる。その疑いは病歴・・画像を合わせた包括的な臨床評価で確認するとされ、には公表された合意診断画像基準が無いことも同じ文書が述べている2。国試や成書はまだ「」で書かれているが、現行の実務指針を引くときはVO-CPPで探す。

病態:逆流と圧迫の2系統

flowchart TD
    A["骨盤静脈のうっ滞"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venodilation'>静脈拡張</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pain-inducing mediator'>疼痛誘発物質</span>の放出"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic pelvic pain'>慢性骨盤痛</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vulva'>外陰部</span>や大腿の静脈瘤"]
    D["一次性:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovarian vein valve'>卵巣静脈弁</span>の欠損・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='valvular insufficiency'>弁不全</span>"] --> A
    E["妊娠による骨盤静脈容量の約50%増加"] --> D
    F["二次性:外的圧迫による流出路閉塞"] --> A
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left renal vein'>左腎静脈</span>の圧迫<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nutcracker phenomenon (nutcracker syndrome)'>ナットクラッカー現象</span>)"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left common iliac vein'>左総腸骨静脈</span>の圧迫<br>(May–Thurner症候群)"]
    I["エストロゲンの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venodilation'>静脈拡張</span>作用"] --> A

一次性はの問題である。の先天的欠損は右6%・左13〜15%に、は右35〜46%・左41〜43%に見られる。妊娠中に骨盤静脈容量が約50%増加し、この変化は産後6か月まで残存する——が危険因子になる理由がここにある3。

二次性は外的圧迫による流出路閉塞で、(が大動脈とに挟まれる)と(がを圧迫する)が代表である3。

💡 がへ注ぐという解剖が、ナットクラッカーとの接続点そのものである。 圧が上がれば、そこへ流入するは逆流に転じる。男性で同じ経路がを作るのと相同の現象が、女性ではに起こる。

疫学

は世界的に6〜27%と報告され、の最大30%を占める。閉経後の女性での発症報告は無い。典型例は30〜40歳代ので、妊娠のたびに症状が進行するという経過をとる34。

臨床像

疼痛はで周期性を持たず、長時間の立位・歩行で悪化し、1日の終わりに最も強く、臥位で軽快する4。

所見 位置づけ
立位・歩行での増悪、臥位での軽快 下肢の静脈疾患と同じ。が最大の手掛かり
遷延する 性交中の痛みより、性交後に長く残るが特徴的
の圧痛 での
・会陰・大腿上部の静脈瘤 骨盤のを経た体表への逆流
・深部 高頻度だが全般に共通し鑑別力に乏しい

⭐ 遷延する・の圧痛・立位での増悪の3つは、静脈原性のを他の原因から見分けるうえで感度・特異度ともに70%超と報告されている4。の病歴との組み合わせは、57例の検討で特異度77%・感度ほぼ94%であった3。

鑑別

疾患 見分けるポイント
・ に連動する疼痛、。骨盤うっ血の痛みは周期性を持たない
で増悪し排尿で軽快する。立位との関連は乏しい
発熱・・と炎症反応。急性〜亜急性の経過
排便との関連、便性状の変化

診断

⚠️ には合意された診断画像基準が存在しない4。の文書自身も「大多数のには一貫して広く受け入れられたが存在しない」ことを限界として挙げている1。以下の数値は目安であって、確立したではない。

  • 経腹・経腟が妥当な初回検査である。として径6 mm以上・3 cm/s未満・が用いられ、6 mmのは83.3%と報告される3。
  • の逆流が最も感度・特異度の高い画像所見である4。
  • ・はの評価と他の原因の除外に有用だが、仰臥位撮像のためには向かない4。
  • がであり、圧測定と・傾斜などの負荷が可能で、そのまま塞栓術へ移行できる43。

画像所見だけで診断しない

⚠️ 径6 mm以上という所見だけでは診断根拠として不十分である。拡張していても弁が機能している静脈があり、逆に細い静脈でも逆流しうる4。女性の約10%に孤立性のが存在し、そのうちに該当するのは約60%にとどまる——残りの約4割は「静脈瘤はあるがではない」という意味であって、無症候だという意味ではない。を伴う拡張したは、無症候の女性にもよく見られる3。が無症候の患者もあえて分類に含めているのは、「所見がある」と「症状の原因である」を切り分けるためである1。診断は症状・診察所見・画像を突き合わせて初めて成立する。

治療

保存的・薬物治療が第一段階で、最大70%は保存的治療で十分に管理できる3。薬物として、、、、、が用いられる。との併用は最大73%に有効であり、は疼痛制御でより優れるが、であるため1年を超えて継続できない3。

⭐ 保存的治療で不十分ならが中心的治療となる。 19研究1,426例の系統的レビューで率は96〜100%、79.8%・77.3%・46.7%で改善が得られている4。別の系統的レビュー473例でも82.1〜100%に症状改善が報告されている3。二次性での圧迫が主体なら、塞栓術ではなくが対象になる。

外科的なや+は、疼痛再発20%・33%と成績が劣り、塞栓術より優先されない3。

まとめ

  • は・骨盤静脈の逆流によるで、の最大30%を占める見逃されやすい原因である。
  • 一次性はの欠損・と妊娠による静脈容量増加、二次性は・May–Thurner症候群による流出路閉塞で生じる。
  • 立位・歩行での増悪と臥位での軽快、遷延する、の圧痛が手掛かりで、この3つは感度・特異度ともに70%超と報告される。
  • 診断は(径6 mm以上・)から入り、確定は。ただし合意された画像基準は存在しない。
  • 画像上のだけで診断しない。 孤立性を持つ女性のうちに当たるのは約6割であり、を伴うの拡張は無症候の女性にもよく見られる。
  • 治療は保存的治療から始め、不十分なら。は再発・が多く優先されない。
  • 用語はとへ移行し、SIRは(VO-CPP)をに優先する用語としている。ナットクラッカー・May–Thurnerと切り離して覚えない。

出典

  1. 1.The Symptoms-Varices-Pathophysiology classification of pelvic venous disorders: A report of the American Vein & Lymphatic Society International Working Group on Pelvic Venous Disorders(Phlebology・2021)Definitions節で骨盤静脈疾患を「骨盤の静脈(性腺静脈・内腸骨静脈とその分枝・骨盤静脈叢)とその主要な流出路(左腎静脈・腸骨静脈・骨盤の逃避点)に由来する症状・徴候の総体」と定義し、そこにはMay–Thurner症候群・ナットクラッカー症候群・骨盤うっ血症候群として歴史的に呼ばれてきた症状が含まれるとしたうえで、「これらの歴史的用語は不正確で相互に重複するため今後は用いるべきでない」と明記していること、慢性骨盤痛を「骨盤の臓器・構造に由来すると知覚される、通常6か月を超えて続く疼痛」と定義していること、SVP分類が症状(S)・静脈瘤(V)・病態生理(P:解剖A・血行動態H・成因E)の3領域からなりSVP A,H,E の形で記載すること、無症候の骨盤静脈疾患患者も分類に含めること、および骨盤うっ血症候群・ナットクラッカー症候群・May–Thurner症候群のSVP表記の対応例が示されていること、限界として「大多数の骨盤静脈疾患には一貫して広く受け入れられた診断基準が存在しない」と述べていることを確認した閲覧 2026-08-20
  2. 2.The Society of Interventional Radiology Practice Guidance Document on Venous-Origin Chronic Pelvic Pain in Women(Society of Interventional Radiology・2026)Key Guidance Statementsで「静脈原性慢性骨盤痛(VO-CPP)が、慢性骨盤痛を伴う骨盤静脈疾患を指す用語として骨盤うっ血症候群に優先する推奨用語である」と明記していること、VO-CPPが静脈逆流または流出路閉塞による骨盤静脈高血圧に由来し多くの例で子宮周囲・卵巣周囲の静脈瘤として現れること、VO-CPPの疑いは病歴・身体診察・画像を含む包括的な臨床評価によって確認すべきこと、骨盤静脈疾患について公表された合意診断画像基準が現時点で存在しないこと、塞栓術が片側または両側の卵巣静脈・内腸骨静脈および骨盤静脈リザーバーへの液体/フォーム塞栓・硬化療法を含みうることを確認した(購読制のため取得できたのは抄録とKey Guidance Statementsまで)閲覧 2026-08-20
  3. 3.Pelvic Congestion Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)Etiology節で女性の約10%に孤立性の卵巣静脈瘤が存在しそのうち約60%が骨盤うっ血症候群であること、卵巣静脈弁の先天的欠損が右6%・左13〜15%、弁不全が右35〜46%・左41〜43%に見られること、妊娠による骨盤静脈容量の約50%増加が産後6か月まで残存すること、二次性の骨盤静脈弁不全が外的圧迫(ナットクラッカー現象・May–Thurner症候群)による流出路閉塞で生じること、Epidemiology節で有病率が世界的に6〜27%、慢性骨盤痛の最大30%を占め、閉経後女性での発症報告が無いこと、History and Physical節で性交後痛の病歴と付属器の圧痛の組み合わせが57例の検討で特異度77%・感度ほぼ94%であったこと、Evaluation節で経腟超音波の診断基準が卵巣静脈径6 mm以上・血流速度3 cm/s未満・逆行性血流であり6 mmの陽性的中率が83.3%であること、弁不全を伴う拡張した卵巣静脈が無症候の女性にもよく見られると述べていること、カテーテル静脈造影がゴールドスタンダードであること、Treatment節で最大70%が保存的治療で管理可能でありメドロキシプロゲステロン酢酸エステルと心理療法の併用が最大73%に有効、ゴセレリンはメドロキシプロゲステロン酢酸エステルより疼痛制御に優れるがGnRHアゴニストのため1年を超えて継続できないこと、塞栓術の系統的レビュー473例で82.1〜100%に症状改善が得られた一方、外科的治療では疼痛再発20%・遺残痛33%と報告されていることを確認した閲覧 2026-08-20
  4. 4.Pelvic Venous Disorders: An Update in Terminology, Diagnosis, and Treatment(Seminars in Interventional Radiology・2023)Clinical Presentation and Indications for Intervention節で、疼痛が拍動性で周期性を持たず長時間の立位・歩行で悪化し1日の終わりに強く臥位で軽快すること、遷延する性交後痛・卵巣点の圧痛・立位での増悪の3つが静脈原性の慢性骨盤痛を他の原因から見分けるうえで感度・特異度ともに70%超と報告されていること、月経困難症と深部性交痛は多くの慢性骨盤痛に共通するため鑑別力に乏しいこと、典型的な患者が30〜40歳代の多産婦で妊娠のたびに症状が進行すること、Imaging節で骨盤静脈疾患には合意された診断画像基準が存在せずカテーテル静脈造影がゴールドスタンダードであり経腹・経腟ドプラ超音波が妥当な初回検査であること、卵巣静脈の逆流が最も感度・特異度の高い画像所見である一方で「卵巣静脈径6 mm以上という所見だけでは骨盤静脈疾患の診断根拠として不十分であり、拡張していても弁が機能している静脈があり、より細い静脈でも逆流しうる」と明記していること、SVPコンセンサス文書が骨盤静脈瘤を子宮・卵巣周囲の径5 mm以上の蛇行拡張した多数の静脈と定義していること、Treatment節で19研究1,426例の系統的レビューにおいて技術的成功率が96〜100%であり性交痛79.8%・排尿痛77.3%・月経困難症46.7%で改善が得られたことを確認した閲覧 2026-08-20