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Disease Atlas · 循環器 · 症候群

May-Thurner症候群

May-Thurner syndrome

別名
Cockett症候群腸骨静脈圧迫症候群
臓器系
循環器
科目
Cardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
循環器内科 B-18:静脈疾患に対する血管内治療
続発疾患
深部静脈血栓症(DVT)
関連疾患
ナットクラッカー症候群骨盤うっ血症候群
治療薬
未分画ヘパリンリバロキサバンアルテプラーゼ
症状
腫脹浮腫四肢痛
画像所見
血管内イメージング(IVUS)

🧠 全体像:は、が脊椎前面でを圧迫し続けることで内膜spurとを生じ、()を起こしやすくする解剖学的素因である。⚠️ 左下肢に偏った、とくに他の明確な危険因子を持たない若い女性のを見たら疑う。診断は/でまず圧迫所見を確認し、の決め手となるのはIVUS()である。血栓を伴う症候例では血栓処理と+を組み合わせ、無症候の解剖学的圧迫だけでは治療しない。

解剖学的機序

はの前方を横切って走行し、(主にL5椎体)との間で静脈を挟み込む。動脈の拍動によるな圧迫が膜を傷害し、線維性のや癒着帯を形成する。この機序はのうちとの両方を満たし、が加わるとへ進展する1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right common iliac artery'>右総腸骨動脈</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left common iliac vein'>左総腸骨静脈</span>を<br>脊椎前面で圧迫"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic'>慢性的</span>な機械的刺激"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous'>静脈内</span>膜傷害・spur形成"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous stasis'>静脈うっ滞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stasis'>血流停滞</span>"]
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypercoagulability'>過凝固状態</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial damage'>血管内皮障害</span>が加わる"}
    E -->|"あり"| F["左<span class='jp-term jp-term-diagram' title='iliofemoral DVT'>腸骨大腿DVT</span>"]
    E -->|"なし"| G["無症候の解剖学的圧迫にとどまる"]
    F --> H["治療しない限り<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic venous insufficiency'>慢性静脈不全</span>へ進展しうる"]

多くの解剖学的圧迫は無症候にとどまり、症候化するのは一部にすぎない。この段階分け(無症候の圧迫→spur形成→)を意識すると、圧迫所見の有無だけでを決めない理由が理解しやすい1。

疫学・危険因子

症候性は全の2〜5%を占める。一方、左下肢を有する患者を対象とした画像研究に限ると、解剖学的な圧迫所見自体は22〜76%と高頻度にみられ、「圧迫があること」と「症候化すること」は同じではない1。

女性のは男性の約2倍で、左下肢の腫脹で発症しやすい1。好発年齢は報告により幅があり、概ね20〜50歳台(20〜40歳台とする報告2と30〜50歳台とする報告1がある)。危険因子には、経口避妊薬の服用、などの、外傷後変形、脱水、が挙げられる。男性で症候化した場合は下肢痛・浮腫が前面に出やすい傾向がある2。

⭐ 「若い女性で他に危険因子のない左下肢」がを疑う典型像である。 通常の危険因子(、悪性腫瘍、術後など)が乏しいのに左側に偏ったを見たときは、右側優位に多い一般的なの分布と逆であることも手掛かりになる。

臨床像

無症候の解剖学的圧迫が大半で、症候化した場合は片側性(多くは左)の下肢腫脹、疼痛、静脈瘤、、色素沈着を呈する。安静・挙上で軽快する様のを伴うこともある。が進展すると呼吸困難・胸痛などを示唆する症状を来しうる2。

診断

検査 特徴
最も広く使われる初期検査だがが高い。の所見が以遠の閉塞を示唆する
(CTV) 感度・特異度とも95%を超える。・リンパ節腫大など他の圧迫原因の除外にも有用。脱水例では静脈が虚脱し偽陽性になりうる
(MRV) CTVと同等の情報が得られ、造影剤・を避けたい妊婦などに適するが、圧迫所見がに変動しうる点や検査コストが限界となる
+IVUS 診断の。IVUSは感度98%を超え、内腔径・spurによる壁・血栓の慢性度を評価でき、(血栓溶解の適応、部位)の決定に直結する
flowchart TD
    A["左下肢<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep vein thrombosis'>DVT</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic venous insufficiency'>慢性静脈不全</span>所見"] --> B["他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep vein thrombosis'>DVT</span>危険因子・年齢・性別から圧迫を疑う"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Doppler ultrasonography'>ドプラ超音波</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MR venography'>MR静脈造影</span>"]
    C -->|"圧迫所見あり・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>が定まらない"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catheter venography'>カテーテル静脈造影</span>+IVUS"]
    D --> E["血栓の有無・慢性度・圧迫部位を確認"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]

としては、骨盤悪性腫瘍、、、、、など、同様にを外部から圧迫しうる病態を除外する2。

治療

無症候の解剖学的圧迫だけでは治療しない。症候例のうち急性(発症2週未満)では、をで調節しながら抗凝固を開始する2。

⚠️ 単独では不十分である。 spurによる狭窄は弾性が乏しく圧迫解除だけではしやすいため、を併用する必要がある。と抗凝固の併用は、抗凝固単独より血栓後の転帰が優れる1。血栓を伴う症候例では、血栓処理(血栓溶解・)を先行させ、続いて圧迫部へのとを行うのが基本方針となる。の予防的留置はには不要で、大きな血栓や再発性肺塞栓症など限られた状況でのみ検討する2。・はが不成功・不適な例に限られる。

解剖学的な圧迫因子は後も存在し続けるため、抗凝固期間の判断は大きな一過性誘因のみで生じた通常のと同列には扱えない。個々の血栓量・開存性・出血リスクを踏まえて経過を追う。

関連する静脈圧迫症候群

は、・と同じ「が周囲の動脈・骨構造に外部から圧迫される」という機序の家族に属する。前者は系のうっ滞、後者はの圧迫という点で圧迫される静脈が異なるが、いずれも根本病態は路の外的閉塞である。

まとめ

  • がを脊椎前面で圧迫し、内膜spur形成とを経て左を起こしやすくする解剖学的素因である。
  • 症候性は全の2〜5%だが、圧迫所見自体は左下肢患者の22〜76%にみられ、圧迫の存在と症候化は同じでない。
  • 20〜40歳台の女性で、他に明確な危険因子のない左下肢を見たら疑う。
  • 診断は・CTV/MRVで圧迫を確認し、が定まらない例ではIVUSを併用したを行う。
  • 無症候の圧迫は治療せず、症候例では抗凝固に加え血栓処理と+を組み合わせる。単独は不十分。
  • ・と同じ「路の外的圧迫」という機序の家族に属する。

出典

  1. 1.May-Thurner Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)症候性May-Thurner症候群が全DVTの2〜5%を占めること、左下肢DVTを有する患者を対象とした画像研究では圧迫所見自体は22〜76%にみられること(別に、一般剖検430体の22%に管腔内線維性索状物がみられたという報告があるが集団が異なる)、女性の発生率は男性の2倍で30〜50歳台の左下肢腫脹として発症しやすい一方、男性では下肢痛・浮腫がより前面に出ること、無症候性圧迫→静脈spur形成→DVTの3段階で進行すること、CT静脈造影の感度・特異度が95%を超えること、血管内超音波(IVUS)の感度が98%を超えスパーの検出や血栓の慢性度評価に有用であること、血管形成術単独ではスパーによる不可逆的狭窄に対して不十分でステント留置を要すること、カテーテル指向性血栓溶解療法と抗凝固の併用が抗凝固単独より優れることを確認した閲覧 2026-09-01
  2. 2.A Systematic Review of Radiological Diagnosis and Management of May-Thurner Syndrome(Journal of Pharmacy & Bioallied Sciences・2024)症候例の危険因子として女性、20〜40歳台、多産、経口避妊薬服用、脊柱変形(側弯など)、外傷後変形、脱水、過凝固状態を挙げていること、慢性静脈不全(浮腫・疼痛・静脈瘤・静脈性潰瘍)を来したDVT例のうち肺血栓塞栓症を合併する割合が先行研究の統合で18〜49%とされること、鑑別診断として骨盤悪性腫瘍・後腹膜リンパ節腫大・妊娠・骨盤動脈瘤・骨変形・後腹膜線維症を挙げていること、無症候例は治療不要で急性DVT例は抗凝固(未分画ヘパリンをaPTTで調節して開始)から始めること、下大静脈フィルター留置は肺塞栓再発例など限られた場合に検討し日常的には不要とされること、Society of Interventional RadiologyとSociety of Vascular Surgeryがいずれも症候性急性腸骨大腿DVTに対する血栓除去とステント留置を推奨していることを確認した閲覧 2026-09-01