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Disease Atlas · 感染症 · 疾患

横隔膜下膿瘍

Subphrenic abscess

臓器系
感染症消化器
科目
Internal MedicineSurgery
トピック
内科学 I-12:腹腔内感染症:胆管炎・胆嚢炎・腹腔内膿瘍・憩室炎・腹膜炎外科学 S-23:腹膜炎と消化管穿孔外科学 A/10:腹膜炎の診断と治療
鑑別疾患
細菌性肝膿瘍肺膿瘍
合併症
胸水敗血症
治療薬
セフトリアキソンメトロニダゾールメロペネム
原因微生物
Escherichia coliBacteroides fragilis
症状
発熱吃逆肩痛腹痛呼吸困難
検査値
C反応性蛋白(CRP)
画像所見
気液面無気肺
元疾患
腹膜炎・消化管穿孔

🧠 全体像:は「症状が腹部に出ない」である。膿は横隔膜と肝・脾の間の腔に溜まるのに、患者が訴えるのは肩の痛み・・息苦しさであり、身体所見は乏しい。だから典型的な提示は「腹部手術のあと、創も腹部所見も落ち着いているのに熱が下がらない」という形になる。術後にしない、原因不明の発熱にと肩へのが伴う——この2つの入口を覚え、疑ったらを撮ることが診療のすべてである。

解剖:どこに溜まるのか

は横隔膜とその下の肝・脾などの臓器との間の腔で、がこの腔を部分的に区切るため、肝の上下に別々の区画ができる1。膿は臥位で背側かつ頭側の低い位置に溜まりやすく、右側が約55%、左側が45%を占める1。

原因

⭐ 胆道手術と胃の手術だけで、の感染の50%超を占める1。これに続くのが外傷、消化管穿孔、虫垂炎、である1。

flowchart TD
    A["胆道手術・胃の手術(過半数)"] --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subphrenic space'>横隔膜下腔</span>に膿が貯留"]
    B["消化管穿孔・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anastomotic leak'>縫合不全</span>・外傷"] --> D
    C["虫垂炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diverticulitis'>憩室炎</span>など<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intra-abdominal infection'>腹腔内感染</span>の限局化"] --> D
    D --> E["横隔膜への直接刺激"]
    D --> F["横隔膜を越えた炎症の波及"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hiccups'>吃逆</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phrenic nerve'>横隔神経</span>の刺激)"]
    E --> H["肩への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='referred pain'>関連痛</span>(C3〜C5)"]
    F --> I["胸水・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atelectasis'>無気肺</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='base'>基底部</span>の浸潤影"]
    D --> J["持続する発熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Systemic Inflammation'>全身性炎症</span>"]

💡 腹膜炎・穿孔の術後に「限局化した感染」として現れる。 がに限局してされたものがであり、腹膜炎の晩期・限局性合併症という位置づけで理解すると原因の並びが腑に落ちる。

臨床像:腹部より胸部と肩に出る

典型症状は発熱・・の圧痛・・腹痛・倦怠感で、呼吸困難・・咳といった呼吸器症状が前面に出ることがある1。

  • ⚠️ 横隔膜刺激による肩への(様の痛み)。 横隔膜は C3〜C5 由来のに支配され、その感覚は同じが担う肩甲上部の皮膚と中枢で混同される。だからの炎症は同側の肩の痛みとしてされる。で古典的に語られる Kehr 徴候と同じ機序である。
  • ⚠️ が持続するときは横隔膜刺激病変を探す。 のはを・の両方に持つため、横隔膜直下の炎症はを直接刺激する。48時間を超えて続くは背景疾患を探す症状であり、はその危険な原因の一つに数えられる。
  • 胸部側の随伴所見が診断の糸口になる。 同側の胸水(反応性)、、の浸潤影、を伴う1。で「原因のはっきりしない片側の胸水と」を見たら、その下を疑う。

⭐ 最も重要な提示は「腹部手術後にしない」である。 術後数日〜数週でせず、と()高値が遷延し、創部にも腹部所見にも説明がつかないとき、を能動的に探す。腹部の診察所見が乏しいことが、この膿瘍を見逃す最大の理由になる。

診断

  • ⭐ が診断の主軸である。 造影CTは壁のを伴うを描出し、膿瘍の位置・大きさ・隔壁の有無・穿刺経路を同時に評価できる1。はの存在または消化管との交通を示唆する。
  • は補助的で、・・胸水・浸潤影を認めうる1。これらは非特異的だが、術後の発熱にこれらが揃えばへ進む理由になる。
  • 超音波はベッドサイドで行えるが、肋骨と肺のガスに遮られて横隔膜直下は死角になりやすい。陰性であっても除外しない。
  • 抗菌薬を開始する前に血液培養を採取し、ドレナージで得た膿は好気・嫌気の両方で培養に出す。起因菌は腸内細菌科(大腸菌など)とBacteroides fragilisなどの嫌気性菌からなるであることが多い。

鑑別

鑑別 分かれ目
膿瘍がの内側にあるか、横隔膜と肝の間にあるか。でとの関係を見る
・ 横隔膜の上か下か。の・で横隔膜の走行をたどると決まる
術後の・肺炎 発熱の時期が早く、でがない
・(他部位) 骨盤・腸間膜間・など他の好発部位にも膿瘍がないかを同じで確認する

治療

⚠️ 抗菌薬だけでは治らない。膿瘍は被膜に囲まれ、薬剤が届かない。 治療の本体はドレナージである。

  • ⭐ のがであり、と併用する1。のは、選ばれた患者では腹腔内・腹膜外の膿瘍に対するより低侵襲で安全かつ有効な戦略である2。
  • ⚠️ が失敗する主因は、膿瘍の大きさ・範囲・複雑さ・位置の見誤りである2。・隔壁の多い病変や、経皮的に安全な経路が取れない病変を無理に穿刺しない。
  • 経皮的・内視鏡的ドレナージが不成功に終わったときにへ移る1。・・など、膿瘍を生み続けている原因がある場合も外科的な処置が要る。
  • 経験的抗菌薬は腸内細菌科と嫌気性菌を覆う(セフトリアキソン+メトロニダゾール、あるいは重症例・耐性菌が想定される状況ではなどの)。が出たら狭域化する。
  • 十分なが得られたら抗菌薬は短くてよい。 ではの十分さに応じて期間を大幅に短縮すべきで、十分なが得られた例では4日間の固定期間投与が推奨される(高い質のエビデンス・強い推奨)2。
  • ⚠️ 抗菌薬開始から7日経っても感染徴候・全身症状が続くなら、期間を延ばすのではなく画像と臨床を評価し直す2。ドレーンの閉塞・位置不良、別の膿瘍、耐性菌、の発熱を順に疑う。
  • 早期の診断・蘇生・標的抗菌薬治療・有効なドレナージが揃うことで、死亡率は40〜60%からおよそ18〜30%へ低下したと報告されている1。

まとめ

  • は横隔膜と肝・脾の間の腔に膿が溜まる病態で、が腔を部分的に区切る。右側が約55%を占める。
  • 原因の過半数は胆道手術と胃の手術で、外傷・消化管穿孔・虫垂炎・が続く。腹膜炎の晩期・限局性合併症として理解する。
  • 提示のされ方は「腹部手術後にしない」「原因不明の発熱++肩への」で、腹部所見は乏しい。肩の痛みは(C3〜C5)を介した、は同じ神経を介したの刺激による。
  • 胸水・・という胸部側の所見を伴いやすく、が糸口になる。診断の主軸は造影CTで、壁が造影されるを描出する。
  • 治療はが第一選択で、と併用する。ドレナージ失敗の主因は病変の範囲・複雑さの見誤りであり、不成功例ではへ移る。
  • 十分なが得られれば抗菌薬は4日間の固定期間でよく、7日を過ぎても改善しないときは期間を延ばさず評価し直す。

出典

  1. 1.Subphrenic Abscess(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)横隔膜下膿瘍が横隔膜とその下の肝・脾などの臓器の間の腔に膿が貯留したものであり肝鎌状間膜がこの腔を部分的に区切ること、胆道手術と胃の手術が横隔膜下腔の感染の50%超を占め、他に外傷・消化管穿孔・虫垂炎・憩室炎が原因となること、右側が約55%・左側が45%であること、症状として発熱・悪寒戦慄・肋骨脊柱角の圧痛・肩痛・腹痛・倦怠感が典型で、呼吸困難・吃逆・咳といった呼吸器症状が前面に出ることがあること、CTが最良の画像診断法で壁の造影効果を伴う気液面を描出すること、胸部単純X線では横隔膜挙上・無気肺・胸水・浸潤影を認めうること、CTガイド下経皮的ドレナージが管理のgold standardとされ広域抗菌薬と併用されること、経皮的または内視鏡的ドレナージが不成功のときに手術が必要になること、早期診断・蘇生・標的治療・有効なドレナージによって死亡率が40〜60%からおよそ18〜30%へ低下したことを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Management of intra-abdominal infections: recommendations by the Italian council for the optimization of antimicrobial use(World Journal of Emergency Surgery・2024)腹腔内感染の管理の柱が早期診断・適切な感染源コントロール・適切な抗菌薬・重症例での早期の循環安定化であること、経皮的な超音波またはCTガイド下ドレナージが選ばれた患者において腹腔内・腹膜外膿瘍に対するより低侵襲で安全かつ有効な戦略になりうること、経皮的ドレナージが失敗する主因が膿瘍の大きさ・範囲・複雑さ・位置の見誤りであること、複雑性腹腔内感染では感染源コントロールの十分さに応じて抗菌薬の期間を大幅に短縮すべきであり十分な感染源コントロールが得られた例では4日間の固定期間投与が推奨されること(いずれも高い質のエビデンス・強い推奨)、抗菌薬7日後も感染徴候・全身症状が続く患者では新たな画像評価と臨床的再評価を行うべきこと、感染源コントロールが得られないことが死亡を含む転帰不良と関連する最も重要な因子の一つであることを確認した。閲覧 2026-09-03