病態生理学

病態生理学 · P-2-29

尿検査の異常所見と基準値

Abnormal findings in urine tests

前提:病態
急性腎不全の原因と全身的影響慢性腎不全の原因と定義

🧠 全体像: 尿検査は、尿量・外観・沈渣・試験紙反応を組み合わせ、糸球体、尿細管、尿路、の異常を絞り込む。単一所見だけで診断せず、採尿条件や偽陰性にも注意する。⚠️ とくに試験紙はにすぎない点が落とし穴になる——はに反応するだけで血尿と同義ではなく(・でも陽性)、タンパク質は主にアルブミンに反応する(など非アルブミン蛋白は偽陰性になりうる)、塩が陰性でも尿路感染は否定できない。沈渣の赤血球形態・円柱の種類を必ず突き合わせる。

基準値と尿生成

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate, GFR'>糸球体濾過量</span>:120 mL/min<br>約180 L/日"] --> B["尿細管で約178 L/日を再吸収"]
    B --> C["最終尿量:約1〜1.5 L/日"]
項目 原資料に示された値・意味
1日尿量 1〜1.5 L/日
多尿 2 L/日超
乏尿 0.5 L/日未満
0.2 L/日未満
出現の目安 血糖値約9〜10 mmol/L()
尿pH 4〜8
1.001〜1.030
1.010。血漿と同程度で、濃縮も希釈もされていない状態

⚠️ 尿量区分やは、定義・測定条件・患者背景によって扱いが異なるため、ここでは原資料の目安として理解する。たとえば StatPearls の尿検査の章は、乏尿を500 mL/日未満、を100 mL/日未満、多尿を2,500〜3,000 mL/日超とし、の基準を1.002〜1.035(検査室ごとに異なる)、尿pHを4.5〜8、が出る血糖値を約180 mg/dL(約10 mmol/L)としている1。原資料の試験紙の基準表(下記)も尿pH 4.5〜8・比重1.001〜1.035で、上表とは値がずれている。

外観・臭気・混入物の異常

所見 考え方
アンモニア様臭 食事、感染、膿瘍などとの関連が挙げられる
Tamm–Horsfallタンパク質()などのタンパク質に由来する淡い物
明らかな 膿、血液、結晶などを含むの多い尿を示唆する
泡立つ尿 を示唆する
(EPI) ではなくを採取する。多量の場合は採尿時の汚染を示唆し、尿検査の解釈を妨げうる。細菌感染時にもみられうる
粘液 尿路刺激や細菌感染との関連が挙げられる

尿沈渣

した尿沈渣では、細胞や円柱の組み合わせから障害部位を絞り込む。個々の所見を単独で解釈せず、詳細は尿沈渣・も参照。

原資料には、1 µLあたりの個数で示した沈渣の基準表(の報告形式)が載っている。

沈渣成分 原資料の基準(/µL)
赤血球(RBC) 0〜10
白血球(WBC) 0〜12
結晶 0〜6
0〜6
0〜1.5
(EPI) 0〜5
非 0〜2
0〜2
細菌 0〜5(桿菌0〜3、球菌0)
粘液糸 1〜3
無晶性塩類 1〜5

⚠️ 沈渣のは測定法(鏡検で1視野あたりに数えるか、で1 µLあたりに数えるか)と施設で異なる。この表は原資料の装置の値であり、他の報告書の数値とそのまま比べない。

赤血球(RBC):糸球体性か尿路性か

⚠️ 「尿沈渣に赤血球あり」という所見だけでは出血源を決められない。 赤血球の形と随伴する円柱で、腎臓内科へ渡すか泌尿器科へ渡すかが変わる。

所見 示唆される出血源
均一な形の赤血球のみ 尿路性(結石、腫瘍、感染など下部尿路〜腎盂の出血)
・、 の血尿(など)

💡 赤血球は狭いを通過する際と尿細管内の浸透圧変化で変形する。はでTamm–Horsfallタンパク質を骨格に赤血球が取り込まれて形成されるため、の存在は出血が腎実質内で起きたことを示し、主に糸球体腎炎を強く示唆する所見である(ただし間質性腎炎や激しい運動の後でもみられることがある)。

💡 の中でも赤血球(アカントサイト)は出血に特異的な形態とされる。血尿患者351例(健常者33例)をで検討した報告では、赤血球5%以上を出血の指標とした場合、生検確認済み糸球体腎炎での感度52%、非疾患での特異度98%であった2。

白血球(WBC)と膿尿

💡 逆方向の落とし穴がである。 培養が陽性でも症状が無ければ、妊婦と、を伴う内視鏡的泌尿器処置を予定する人を除き、健康な女性・機能障害のある高齢者や長期療養施設の入所者・糖尿病・留置者・例ではスクリーニングも治療も推奨しない。(培養陰性でも治療を検討)と(培養陽性でも治療しない)は逆方向の落とし穴であり、混同しない3。

円柱:種類が障害部位を教える

円柱は・集合管でTamm–Horsfallタンパク質を骨格に形成される。原資料は、円柱をと結びつけ、「濾過圧が下がって尿流が滞る → タンパク質がする → になる」という流れで説明している。尿のpH変化や、濃縮・が長く続くことが円柱形成を促す1。骨格に取り込まれる成分によって示す病態が変わるため、種類ごとに読み分ける。

円柱の種類 示唆される病態
非特異的。・発熱・運動・利尿薬でも出現しうる1
・円柱(泥状褐色) (など)
糸球体腎炎
腎盂腎炎、間質性腎炎
高度な慢性・

⚠️ は健常者でも出現しうる非特異的所見であり、単独では病的意義を持たない。円柱の種類と随伴する細胞・蛋白尿を合わせて解釈する。

試験紙による半定量検査

  • 生化学反応による色調変化を利用し、各物質の濃度を半定量的に示す。
  • (ビタミンC)も検出する。は一部の試験紙反応を妨げ、偽陰性の原因になりうる(・ブドウ糖・塩・白血球など1)。の欄が陽性なら、他の項目の陰性を割り引いて読む。
  • 主な検査項目は次のとおりである。
    • ビリルビン、:肝機能に関連
    • ケトン体
    • ブドウ糖:血糖バランスに関連
    • タンパク質
    • RBCまたはHb
    • pH
    • 塩
    • 白血球

原資料の試験紙の基準は次のとおりである。

項目 原資料の基準
ビリルビン・ケトン体・・・塩・白血球 陰性
0.1〜1 mg/dL
ブドウ糖 30 mg/dL未満
タンパク質 15 mg/dL未満
pH 4.5〜8
比重 1.001〜1.035
・色 透明・黄色

試験紙の主な偽陽性・偽陰性

試験紙の各反応はなので、尿の性状や薬剤で結果がずれる。代表的なものを項目ごとにまとめる1。

項目 偽陽性の原因 偽陰性の原因・限界
・、の混入、脱水、運動 ビタミンC、高比重、、蛋白尿、
タンパク質 、、 ・、主な蛋白がアルブミンでない場合(軽鎖など)
ブドウ糖 ケトン、 ビタミンC、高比重、尿酸
ケトン体 、高比重、、一部の薬剤代謝物 古い検体。試験紙はを検出せず、とだけを検出する
塩 検体の汚染、試験紙の空気曝露、 還元酵素をもたない菌、膀胱内貯留4時間未満、食事中の不足、ビタミンC、高比重、。陰性でも尿路感染は否定できない
白血球(エステラーゼ) 検体の汚染、強い着色尿、 高比重、、ケトン尿、蛋白尿、ビタミンC、一部の抗菌薬。リンパ球はエステラーゼをもたないので検出されない
ビリルビン など着色する薬剤 古い検体(光・室温で分解)

💡 ケトン体の欄は、の重症度とずれることがある。 で産生される主なケト酸はだが、のはを測り、を測らない。このために頼ると、経過の初期は重症度を過小評価し、にはがへ変わる分だけ過大評価しうる。成人のの国際コンセンサス(2024年)は、診断と治療反応の追跡に血中の直接測定を推奨している4。

💡 塩は「特異度が高く感度が低い」検査である。 尿中のを塩へ還元する酵素(還元酵素)をもつ菌(大腸菌・プロテウス・クレブシエラなど)による感染で陽性になり、この酵素をもたない菌では陰性のままである。還元には時間がかかるので、膀胱内に尿がとどまる時間が4時間未満でも陰性になりうる。陽性なら尿路感染症を強く示唆するが、陰性だけで除外せず、症状・白血球・尿培養と合わせて判断する1。

⚠️ 潜血陽性=血尿ではない

試験紙のはのを検出するであり、赤血球そのものでなくても、やでも陽性になる。

試験紙の 尿沈渣の赤血球 考えるべきこと
陽性 あり 真の血尿
陽性 なし・少数 (溶血)または()

⚠️ 鏡検で赤血球が見えないのにだけ陽性なら、血尿ではなく(・)を疑う。 血漿の色(では血漿も赤〜褐色になるが、では血漿は透明に近い)、、、で切り分ける。を血尿として泌尿器科的に精査すると、背景にあるからのへの対応が遅れる。

⚠️ タンパク質は主にアルブミンに反応する

試験紙のタンパク質反応はアルブミンへの感度が高い一方、免疫グロブリンの軽鎖などの非アルブミン蛋白にはほとんど反応しない(主な蛋白がアルブミンでない尿は偽陰性の原因に挙げられる1)。(尿中)は試験紙ではほとんど検出されず、偽陰性になりうる。 を疑う場合は試験紙陰性を理由に除外せず、・や血清で評価する。

⚠️ 標準的な試験紙のタンパク質反応は、の範囲を確実には拾えない。 尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)を基準としたでは、試験紙の検出能はACR 30 mg/g以上全体で感度82%・特異度88%だったのに対し、域(ACR 30〜300 mg/g)に限ると感度72%・特異度82%に低下した。糖尿病・の早期スクリーニングでは試験紙陰性だけで安心せず、ACRでの定量評価を行う5。

まとめ

項目 要点
尿量(原資料) 1日1〜1.5 L。多尿2 L/日超、乏尿0.5 L/日未満、0.2 L/日未満(定義は資料によって異なる)
性状(原資料) 尿pH 4〜8、比重1.001〜1.030、比重1.010は。は血糖約9〜10 mmol/Lで出現
外観 明らかなは(膿・血液・結晶)、泡立ちは、多量のは採尿時の汚染(で採る)
赤血球 ・赤血球・は、均一な赤血球のみは尿路性の出血を示唆
白血球 は尿路感染を示唆。培養陰性の()と、症状のない培養陽性()は逆方向の落とし穴
円柱 は非特異的。顆粒・上皮円柱は、は糸球体腎炎、は腎盂腎炎・間質性腎炎、は高度な慢性障害
試験紙の に反応するので、沈渣に赤血球がなければ・を疑う
試験紙のタンパク質 主にアルブミンに反応。は偽陰性になりうる。域は取りこぼしやすく、ACRで定量する
試験紙のその他 ビタミンCは複数項目を偽陰性にする。ケトン体の欄はを測らない。塩陰性でも尿路感染は否定できない

尿色調異常の詳しい原因は、次のトピック(II-30)で扱う。

出典

  1. 1.Urinalysis(StatPearls Publishing(Queremel Milani DA, Jialal I)・2023)章の最終更新は2023年5月1日(Wayback の2026年6月の保存版で本文を取得)。試験紙の各項目の偽陽性・偽陰性として、潜血は脱水・運動・ヘモグロビン尿・月経血・ミオグロビン尿で偽陽性、カプトプリル・高比重・酸性尿・蛋白尿・ビタミンCで偽陰性、蛋白はアルカリ尿・濃縮尿・フェナゾピリジン・第四級アンモニウム化合物で偽陽性、酸性尿・希釈尿・主な蛋白がアルブミンでない場合に偽陰性、ブドウ糖はケトン・レボドパで偽陽性、高比重・尿酸・ビタミンCで偽陰性、ビリルビンはフェナゾピリジンなどの着色する薬剤で偽陽性、古い検体で偽陰性、ケトンは酸性尿・高比重・メスナ・一部の薬剤代謝物で偽陽性、古い検体で偽陰性で、試験紙がβヒドロキシ酪酸を検出せずアセト酢酸とアセトンのみを検出すること、亜硝酸塩は硝酸還元酵素陽性菌による尿路感染で陽性となり、汚染・試験紙の空気曝露・フェナゾピリジンで偽陽性、特異度は高いが感度が低く、硝酸還元酵素陰性菌・膀胱内貯留4時間未満・食事性硝酸塩の欠如・ビタミンC・高比重・酸性尿などで偽陰性となり陰性でも尿路感染を否定できないこと、白血球エステラーゼはリンパ球以外の白血球の酵素で、汚染・強い着色尿・トリコモナスで偽陽性、高比重・尿糖・ケトン尿・蛋白尿・一部の薬剤・ビタミンCで偽陰性となることを確認した。円柱は遠位尿細管・集合管の内腔でpHの変化や長時間の濃縮・尿流停滞のもとで形成され、硝子円柱は濃縮尿・発熱・運動・利尿薬でもみられるとしている。尿量は乏尿が500 mL/日未満、無尿が100 mL/日未満、多尿が2,500〜3,000 mL/日超、比重の基準は1.002〜1.035(検査室依存)、pHは4.5〜8、尿糖が出る血糖値は約180 mg/dLとしている。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Acanthocyturia--a characteristic marker for glomerular bleeding(Kidney International・1991)血尿患者351例と健常者33例の尿を位相差顕微鏡で検討し、棘状赤血球(アカントサイト)5%以上を糸球体性出血の指標とした場合、生検で確認された糸球体腎炎143例中75例で陽性(感度52%)、非糸球体性疾患187例中4例のみ陽性(特異度98%)であった。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Clinical Practice Guideline for the Management of Asymptomatic Bacteriuria: 2019 Update by the Infectious Diseases Society of America(Clinical Infectious Diseases / Infectious Diseases Society of America・2019)2026-09-24 にIDSAの公式ページの本文で2019年版の推奨を確認した(抄録が挙げる対象の一覧は2005年版の要約)。妊婦と、粘膜損傷を伴う内視鏡的泌尿器処置を受ける人では無症候性細菌尿のスクリーニングと治療を推奨し(いずれも強い推奨、中等度)、小児、健康な閉経前の非妊娠女性・閉経後女性、機能障害のある地域在住高齢者と長期療養施設の高齢者、糖尿病、術後1か月を超えた腎移植、脊髄損傷、短期・長期の尿道カテーテル留置、泌尿器以外の待機手術ではスクリーニングも治療もしないよう推奨していること。抄録は、無症候性細菌尿の抗菌薬治療が不適切な抗菌薬使用の重要な一因として耐性化を促すとしていること。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Hyperglycaemic crises in adults with diabetes: a consensus report(ADA / EASD / JBDS / AACE / DTS・2024)PMC11343900 の全文で確認。尿または血清のニトロプルシド反応はアセト酢酸を測りβヒドロキシ酪酸(糖尿病性ケトアシドーシスで産生される主なケト酸)を測らないこと、尿ケトン検査に頼るとアセト酢酸の生成の遅れにより経過初期はケトン血症の重症度を過小評価し、βヒドロキシ酪酸がアセト酢酸へ変換される経過後半には過大評価しうること、診断と治療反応のモニタリングには静脈血または毛細血管血のβヒドロキシ酪酸の直接測定を推奨することを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 5.Diagnostic accuracy of urine dipstick testing for albumin-to-creatinine ratio and albuminuria: A systematic review and meta-analysis(Heliyon・2021)尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)を基準としたメタ解析で、標準的な試験紙のアルブミン尿検出能はACR 30 mg/g以上全体では感度82%・特異度88%(13研究)だったが、微量アルブミン尿域にあたるACR 30〜300 mg/gに限ると感度72%・特異度82%(7研究)に低下し、ACR 300 mg/g超では感度84%・特異度97%(7研究)であった。エビデンスの確実性は全体的に低いとした。閲覧 2026-08-26