呼吸器学

呼吸器学 · 30

肺癌の診断と病期分類

Lung cancer: diagnostics and staging

前提:病態
癌のグレード分類と病期分類腫瘍の浸潤と転移
症状
Horner症候群反回神経麻痺
検査値
低ナトリウム血症

ポッドキャスト

🧠 全体像:肺癌の診断は、症状またはスクリーニング異常から、造影CT・でと転移範囲を評価し、最も安全で病期も同時に決められる部位から十分な組織を採取する。組織型・を確定し、第9版でT・N・Mを統合してを決める。

症状

局所症状

  • 新規または変化する咳、喀痰、喀血
  • 閉塞・胸水による呼吸困難
  • 胸膜・胸壁浸潤による胸痛
  • による嗄声、
  • :顔面・頸部・上肢浮腫、静脈怒張、呼吸困難
  • :肩〜上肢痛、障害、(、、、)

全身・転移症状

  • 食欲低下、体重減少、倦怠感
  • :疼痛、
  • 脳転移:頭痛、混乱、痙攣、麻痺・局在神経症状
  • :、
  • 副腎転移は無症候のことが多い

腫瘍随伴症候群

症候群 関連
SCLCに多い、低Na血症
SCLC、
PTHrP産生 扁平上皮癌に多い、
SCLC、・自律神経症状

SVCSで気道・脳浮腫症状がある場合、重症高Ca血症、脊髄圧迫、症候性脳転移は腫瘍学的緊急事態として安定化と診断を並行する。

肺尖部上溝腫瘍

は、からの構造へ局所浸潤する肺癌であり、特定の組織型の名称ではない。腫瘤そのものより、浸潤した構造に応じた症状が手掛かりとなる。

浸潤部位 主な症状・所見
、第1・第2肋骨、胸壁 持続する肩・肩甲部痛、胸壁痛
、C8〜T1神経根 上肢から第4・5指への、の筋力低下・萎縮、感覚障害
、 同側の
上肢浮腫、静脈怒張、虚血症状
椎体・ 、脊髄・

根T1/T2またはへの浸潤はT3、根・・・などへの浸潤はT4となる。1

上大静脈症候群

左右のは合流してとなり、頭頸部、上肢、上胸郭からの静脈血を右心房へ戻す。やリンパ節、関連血栓などでが狭窄・閉塞すると、その上流の静脈圧が上昇し、顔面・頸部・上肢浮腫、、胸壁の発達、、呼吸困難、咳、嗄声を生じる。

flowchart TD
  A["頭頸部・上肢・上胸郭の静脈血"] --> B["左<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right arm, RA'>右腕</span>頭静脈"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superior vena cava (SVC)'>上大静脈</span>の狭窄・閉塞"]
  E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mediastinal tumor'>縦隔腫瘍</span>・リンパ節・血栓"] --> C
  C --> G["上流静脈圧上昇"]
  C -. "右心房への還流低下" .-> D["右心房"]
  G --> H["顔面・頸部・上肢浮腫"]
  G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='azygos system'>奇静脈系</span>・内胸静脈系・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vertebral venous plexus (Batson plexus)'>椎骨静脈叢</span>などの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collateral pathway'>側副路</span>"]
  I --> D

悪性腫瘍による閉塞は数週〜数か月かけて進み、などのが発達するため徐々に症状が出ることが多い。一方、急性ではが未発達で、短期間に強い症状を生じうる。による喘鳴、脳浮腫による意識障害、失神・低血圧は直ちに安定化を要するである。

造影CTで閉塞部位、、原因を評価する。安定例では治療前に可能な限り組織診断を得る。重症または急速な症状緩和が必要な例では、迅速な症状緩和が期待できる血管内を検討する。2 原因に応じて抗腫瘍治療やを組み合わせる。は血栓の有無と出血リスクで決め、ステロイドや利尿薬を全例へ定型投与しない。

スクリーニング

肺癌は無症状のまま進行しうる。高リスク者に対するは早期発見と肺癌死亡減少に有効だが、偽陽性による不要な検査・、過剰診断、などの不利益もある。米国の2021年勧告は、50〜80歳、20以上、現在喫煙または禁煙後15年以内の無症状成人に年1回のを推奨度Bで勧めている(2013年版の55歳・30から対象を広げたもの)。対象年齢・・禁煙後年数は国の制度で異なるため、最新の地域プログラムに従う。34

  • 胸部X線や喀痰細胞診はLDCTの代替スクリーニングではない
  • スクリーニングは診断ではなく、陽性結節は大きさ・増大・形態に沿って評価
  • 重い併存症でを受けられない患者では利益が小さい
  • 禁煙支援を必ず併行する

診断の流れ

flowchart TD
  A["症状またはLDCT異常"] --> B["造影胸部・上腹部<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='positron emission tomography–computed tomography'>PET-CT</span>で代謝性病変と遠隔転移を評価"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain MRI'>脳MRI</span>を病期・症状に応じ実施"]
  D --> E["最も安全で病期情報の多い部位を生検"]
  E --> F["病理・IHCで組織型を確定"]
  F --> G["NGS・融合検査・PD-L1"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor, node, metastasis'>TNM</span>第9版と全身状態で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>"]

画像による病期診断

  • 造影胸部〜上腹部:、胸壁・縦隔浸潤、・、肝・副腎
  • :リンパ節・遠隔転移の全身評価。炎症による偽陽性、低代謝腫瘍の偽陰性に注意
  • :脳転移評価は造影CTより感度が高い
  • :が利用できない、または症状・所見がある場合に検討

画像で疑うリンパ節・遠隔病変は、が変わるなら病理学的確認を目指す。

講義資料との違い:授業資料ではとを含むが示されている。現行では脳転移評価は造影MRIを優先し、全身 を行った場合にを全例へ重ねるとは限らない。

組織採取

病変 主な採取法
中枢気道病変 、・洗浄細胞診
縦隔・ 、必要時
末梢肺病変 、ナビゲーション気管支鏡
胸水・ 胸水細胞診、、
外科的診断 ビデオ補助手術、
遠隔転移 最も安全で病期を確定できるの生検

細胞診だけでなく、IHC、、PD-L1に十分な検体を確保する。病理医・呼吸器医・放射線科医・腫瘍医で採取計画を共有する。

TNM第9版

第9版ではT記述子に第8版からの変更がなく、細分化されたのはN2とM1cだけである。で変わったのも4点だけで、T1N2aがIIBへ、T1N1がIIBからIIAへ格下げ、T2N2bがIIIBへ、T3N2aがIIIAへ移った。1

講義資料との違い:授業資料の図表は第8版である。このノートは現行の第9版を用いるため、N2a/N2bとM1c1/M1c2の細分化を含めて覚える。

T:原発腫瘍

T 大きさ・進展
T1a 最大径≤1 cm
T1b >1〜≤2 cm
T1c >2〜≤3 cm
T2a >3〜≤4 cm、またはT2記述子(浸潤、浸潤、に及ぶ・、隣接への)
T2b >4〜≤5 cm
T3 >5〜≤7 cm、・胸壁への浸潤、心膜・・への浸潤、根T1/T2・への浸潤、同一内の別結節
T4 >7 cm、縦隔・胸腺・気管・・・迷走神経・食道・横隔膜への浸潤、心臓・大血管(大動脈、・下大静脈、心膜内の肺動脈・)・の分枝・への浸潤、・椎体・・・根・への浸潤、同側別の別結節

では、根T1/T2またはへの浸潤はT3、根・・・・への浸潤はT4となる。

💡 心膜・・は縦隔内にあるのにT3である。 マニュアルはこの3つに注を付け、これらを侵すのに必要な縦隔への進達の程度はT4には数えない、と明記している。一方、同じ縦隔内でも胸腺・迷走神経・への浸潤はT4になる。「縦隔にあるかどうか」ではなく、名指しされている構造で決まる。1

N:所属リンパ節

N 範囲
N0 なし
N1 同側、同側、肺節
N2a 同側縦隔・の単一
N2b 同側縦隔・の複数
N3 対側縦隔・、または同側/対側の・リンパ節

M:遠隔転移

M 範囲
M0 遠隔転移なし
M1a の別結節、胸膜・心膜結節、・
M1b 1の単発胸郭外転移
M1c1 1の多発胸郭外転移
M1c2 複数の多発胸郭外転移

はN分類であり、M1bは1の単発胸郭外転移を表す。非所属リンパ節1か所だけの転移もM1bに数える。 M1c1とM1c2を分けるのはの数ではなくの数で、骨格は全体で1つのとして数えるため多発はM1c1、多発もM1c1、肝と骨の両方に転移があればM1c2となる。1

TNM第9版の病期群

T/M N0 N1 N2a N2b N3
T1a IA1 IIA IIB IIIA IIIB
T1b IA2 IIA IIB IIIA IIIB
T1c IA3 IIA IIB IIIA IIIB
T2a IB IIB IIIA IIIB IIIB
T2b IIA IIB IIIA IIIB IIIB
T3 IIB IIIA IIIA IIIB IIIC
T4 IIIA IIIA IIIB IIIB IIIC
M1aまたはM1b IVA IVA IVA IVA IVA
M1c1またはM1c2 IVB IVB IVB IVB IVB

はT・N・Mを統合した解剖学的病期であり、は、、重要、などを含む多職種評価で決める。

小細胞肺癌の病期

SCLCにもを用いるが、治療上は放射線照射野へ安全に収まると、それを超えるのも併用する。

まとめ

  • 肺癌は画像だけで確定せず、を最も効率よく決める部位から組織を採取する。
  • は全身病期、は脳転移、はのに重要である。
  • 分子検査・PD-L1に十分な検体を確保する。
  • 第9版ではTが第8版から変わらず、N2がN2a/N2b、M1cがM1c1/M1c2へ細分化された。の変更はT1N2a・T1N1・T2N2b・T3N2aの4点だけである。
  • SVCS、脊髄圧迫、症候性脳転移、重症高Ca血症は緊急対応を要する。

出典

  1. 1.IASLC Staging Manual in Thoracic Oncology, 3rd Edition(International Association for the Study of Lung Cancer・2024)IASLC病期分類マニュアル第3版(2024年、194頁のPDF本体)で、肺癌TNM第9版のT・N・M記述子の表と病期群の表を確認した。Tは第8版から変更なし、N2はN2a(単一N2ステーション)とN2b(複数N2ステーション)へ、M1cはM1c1(単一臓器系の多発胸郭外転移)とM1c2(複数臓器系)へ細分化され、病期群の変更はT1N2a→IIB・T1N1→IIA・T2N2b→IIIB・T3N2a→IIIAの4点だと明記されている。なお本書は第9版の発効年を述べておらず、UICCとAJCCの承認を2025年に見込むと書くにとどまる。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Endovascular Stenting in Superior Vena Cava Syndrome: A Systematic Review and Meta-analysis(Cardiovascular and Interventional Radiology・2022)上大静脈症候群に対する血管内ステントが迅速な症状緩和を得やすい治療選択肢であることを確認した。閲覧 2026-09-08
  3. 3.Final Recommendation Statement: Lung Cancer: Screening(U.S. Preventive Services Task Force・2021)高リスク無症状者に対する低線量CTスクリーニングと禁煙支援閲覧 2026-08-02
  4. 4.Screening for Lung Cancer With Low-Dose Computed Tomography: Updated Evidence Report and Systematic Review for the US Preventive Services Task Force(U.S. Preventive Services Task Force・2021)高リスク者への低線量CTは肺癌死亡を減らす一方、偽陽性による不要な検査・侵襲的処置、過剰診断、偶発所見などの不利益があることを確認した。閲覧 2026-08-09