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CRH刺激試験

CRH stimulation test

別名
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン負荷試験CRH負荷試験CRH試験
臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 L-32:Cushing症候群
関連疾患
クッシング症候群

🧠 全体像:CRH刺激試験は、「があるかどうか」を決める検査ではない。それを見るのはなどのスクリーニングの役目で、CRH刺激試験が担うのはその一段階先——ACTH依存性であることが確定した後に、下垂体性()かかを絞り込むである。原理は単純で、はCRH受容体とその反応性を保っているため刺激に反応してACTH・コルチゾールが上昇するが、異所性腫瘍の多くはこの受容体をほとんど発現せず反応が乏しい。⚠️ 主要な供給元が製造を停止したことで合成CRH()の入手が世界的に不安定になっており、CRHが使えない施設では試験で代替する運用が広がっている1

何を調べる検査か

視床下部のCRHはが持つCRH受容体1型を刺激し、ACTHの分泌を促す。の原因となるACTH産生は、してもこのCRH受容体と反応性の大部分を保っているため、外因性CRHの投与に反応してACTH・コルチゾールが上昇する。一方、など)はCRH受容体をほとんど発現しないため、多くは反応しない。

(HDDST)が「なお残っているフィードバック感受性」という抑制側の反応を見るのに対し、CRH刺激試験は「刺激にどれだけ応答するか」という促進側の反応を見る。見ている方向がちょうど逆の2つの検査であり、両者の結果がそろえば下垂体性という判断の確からしさが増し、食い違えばより侵襲的な検査に進む根拠になる2

いつ行うか

⚠️ 前提条件を外さない。 CRH刺激試験は次の2条件がそろって初めて意味を持つ。

  • が生化学的に確定していること(・24時間尿中遊離コルチゾールなどで複数回・複数法により過剰を確認済み)
  • ACTHが高値または不適切に正常で、ACTH依存性であることが確定していること

ACTH非依存性(副腎性)では行う意味がない。 ACTHに依存せずコルチゾールが産生されている以上、CRHへの反応の有無は病型の判別材料にならない。

HDDSTとCRH(または)刺激試験の結果がそろって下垂体性を支持すれば非侵襲的にと判断してよいが、両者が食い違えば(IPSS)に進む2に10 mm以上の明瞭な腺腫がありの結果と矛盾しなければIPSSは省略できる2

💡 もう一つの使いどころがIPSSの最中の投与である。中枢(下錐体静脈洞)/末梢のACTH比は無刺激の基礎値よりCRH刺激後の値の方が感度が高く、CRHが使える施設ではIPSSにCRHを併用するのが標準になっている1

ここまでとは別の適応として、中枢性(続発性・)副腎不全で下垂体性かかを推定する場面でも使われてきた。 CRHに対するACTH反応は、下垂体性(続発性)では乏しく、)では反応が増大するという違いを利用する1。ただしこの用途でのCRH刺激試験はなど他の動的試験と比べて感度・特異度が明らかに劣るとされ、下垂体疾患におけるの評価では(副腎皮質のという別のものをみる検査)が現行のガイドラインで第一選択に位置づけられている1の下垂体性・異所性鑑別とは適応も判定基準も別物である。

手技・プロトコル

ヒトCRHまたはヒツジCRHを静注し、投与前と投与後の複数時点でACTHとコルチゾールを連続採血する。

項目 ヒトCRH ヒツジCRH
投与量 100 µg 静注 1 µg/kg(上限の目安100 µg)静注
採血時点 投与前(基礎値)と投与後15・30・45・60・90・120分 同様の複数時点
反応の特徴 現行の多施設データの多くがこちらを使用 が長く代謝クリアランスが遅いためより大きく遷延した反応になるとする報告がある一方、両者で差がないとする報告もある3
現状の入手性 主要供給元の生産停止で世界的に不安定 ヒトCRH以上に供給がされやすい
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ACTH-dependent Cushing syndrome'>ACTH依存性クッシング症候群</span>が生化学的に確定"] --> B["CRHが入手できるか"]
    B -->|"はい"| C["ヒトCRH 100 µgまたはヒツジCRH 1 µg/kgを静注"]
    B -->|"いいえ"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='desmopressin'>デスモプレシン</span>試験へ切り替え"]
    C --> E["投与前と投与後15〜120分でACTH・コルチゾールを連続採血"]
    E --> F["基礎値からの上昇率を計算"]
    F --> G{"上昇率が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cut-off'>カットオフ</span>を超えるか"}
    G -->|"はい"| H["下垂体性(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Cushing disease'>クッシング病</span>)を支持"]
    G -->|"いいえ"| I["異所性を含め再評価。IPSSを検討"]

判定

判定指標 意味
30分後のACTH上昇率 基礎値から31%以上 下垂体性を支持。感度83%・特異度85%3
30分後のコルチゾール上昇率 基礎値から12%以上 下垂体性を支持。感度82%・特異度89%3

⚠️ は報告によって幅がある。 コルチゾール上昇率のだけでも過去の報告では12〜17%と一致しておらず、や測定法の違いが影響する3。ある報告の基準をそのまま別施設の結果へ当てはめず、自施設・自検査が採用している基準を確認する。同じ集団でCRH刺激試験とHDDSTを比較すると、感度はほぼ同等でもCRH刺激試験の方が特異度で上回るとされる3

⚠️ 偽陽性・偽陰性と注意点

  • など高分化なの一部はCRHに反応する。 ある検討ではの約3割でCRH刺激後にACTH・コルチゾールが上昇しており、下垂体性と誤認しうる3。高分化な腫瘍ほど下垂体様の受容体発現を残しやすいことが背景にあるとされる。
  • でも反応が乏しい例があり、「反応しなかったから異所性」と即断しない。
  • 、重いうつ病、重度肥満など)との鑑別には、抑制後にCRHを投与する複合試験が提案されているが、確立した標準法はない。
  • では、を外して施行すると基礎値・反応ともに解釈が成り立たなくなる。症状が強い時期に合わせて施行する。
  • CRH製剤の入手性そのものが最大の実務的なになっている。 主要な供給元が製備の不具合を理由に生産を停止しており、再開時期は明らかでない1。入手できない施設では、試験(コルチゾール上昇20%以上・ACTH上昇50%以上が目安)で代替するが、感度はCRH刺激試験に近い一方で特異度は劣り、異所性腫瘍の一部が陽性を示す点は同様の弱点として残る1

代替・関連する検査

検査 何がわかるか 使いどころ・限界
試験 下垂体性の一部でACTH・コルチゾールが上昇 CRHが入手できない施設での代替。感度は近いが特異度はやや劣る1
コルチゾールが50%前後抑制されれば下垂体性を支持 CRH刺激試験とは逆方向(抑制側)の反応を見る。結果がそろえば非侵襲的な判断材料になる2
を直接描出する 10 mm以上の明瞭な腺腫がありと矛盾しなければIPSSを省略できる根拠になる2
(IPSS) 中枢/末梢ACTH比を直接測定し局在を決める HDDSTとCRH刺激試験の結果が食い違う場合の最終手段。CRH(または代替の)を併用すると感度が上がる1

⚠️ CRH刺激試験は単独では下垂体性か異所性かを確定できない。HDDSTと結果がそろって初めて非侵襲的な判断材料になり、そろわなければIPSSに進む2

まとめ

  • CRH刺激試験はの有無を決める検査ではなく、ACTH依存性と確定した後に下垂体性か異所性かを絞り込むの検査である。
  • はCRH受容体と反応性を保つため刺激に反応するが、異所性腫瘍の多くはこの受容体をほとんど発現せず反応しにくい。HDDSTの抑制側の反応とは逆方向の情報を与える。
  • ヒトCRH(100 µg)またはヒツジCRH(1 µg/kg)を静注し、投与前後複数時点でACTH・コルチゾールを連続採血する。ヒツジCRHの方が反応が大きく遷延するとする報告があるが、同等とする報告もある。
  • (30分後のACTH31%以上・コルチゾール12%以上など)は報告により幅があり、感度・特異度はおおむね80%台だがHDDSTより特異度で上回るとされる。
  • など高分化な異所性腫瘍の一部が反応し偽陽性となる点が最大の弱点で、との鑑別にも注意する。
  • 主要な供給元の製造停止によりCRHの入手が世界的に不安定になっており、入手できない施設では試験やHDDSTの組合せで代替する運用が広がっている。

出典

  1. 1.Consensus on diagnosis and management of Cushing's disease: a guideline update(Pituitary Society・2021)単一の検査だけでは下垂体性と異所性を確定できないという合意、高用量デキサメタゾン抑制試験とCRH(またはデスモプレシン)刺激試験の結果が一致すればクッシング病を支持する非侵襲的な組み合わせになるが不一致ならIPSSが必要という位置づけ、下垂体MRIに10 mm以上の腺腫があり動的検査の結果と矛盾しなければIPSSは不要という記載を確認した。閲覧 2026-08-03
  2. 2.Outcome of CRH stimulation test and overnight 8 mg dexamethasone suppression test in 469 patients with ACTH-dependent Cushing's syndrome(Frontiers in Endocrinology・2022)ヒトCRH 100 µg静注、投与前後15〜120分の複数時点でACTH・コルチゾールを採血するプロトコル、30分後のACTH31%以上・コルチゾール12%以上上昇という至適カットオフ(感度83%・特異度85%、感度82%・特異度89%)、コルチゾールのカットオフが過去の報告では12〜17%と一致しないこと、HDDSTと比べ同等の感度でより高い特異度を示すこと、異所性ACTH症候群26例中8例(31%)でCRH刺激後にACTH・コルチゾールが上昇し偽陽性となったこと、ヒツジCRHの方が血中半減期が長く反応が遷延するとする報告がある一方で両者に差がないとする報告もあることを確認した。閲覧 2026-08-03
  3. 3.ESE Recommendation on CRH Shortage: scope of the problem and how to address it(European Society of Endocrinology・2024)主要供給元Ferringが製造設備の不具合によりCRHの生産を停止し供給再開の見通しが立っていないこと、CRH不足下の代替としてデスモプレシン試験(未希釈10 µgを静注しACTH・コルチゾールを連続採血、コルチゾール20%以上・ACTH50%以上上昇が下垂体性の目安で感度73〜100%・特異度40〜100%)やHDDSTとの併用(特異度91%まで上昇)を推奨していること、IPSSでもCRH不足下ではデスモプレシン(未希釈10 µg静注)で代替でき感度94〜97%・特異度98〜100%とCRH使用時(感度98%・特異度100%)に近い成績が報告されていることを確認した。あわせて、中枢性副腎不全の評価でもCRH刺激試験が使われてきたこと(続発性ではACTH反応が乏しく三次性では反応が増大するという反応パターンの違いを利用する)、ただしインスリン低血糖試験など他の動的試験と比べ感度・特異度が明らかに劣り、下垂体疾患患者の中枢性副腎不全評価では現行の各国ガイドラインでACTH刺激試験が第一選択に位置づけられていることも確認した。閲覧 2026-08-03